2014年7月3日(木)



2014年7月1日(火)日本経済新聞
■サカイ引越しセンター 公募増資など21億円調達
■象印 今期末配1円増の5円
(記事)


 


2014年6月30日
株式会社サカイ引越センター
新株式発行及び自己株式の処分並びに株式の売出しに関するお知らせ
ttp://www.hikkoshi-sakai.co.jp/company/pdf/H260630.pdf

 

2014年5月9日
株式会社サカイ引越センター
剰余金の配当に関するお知らせ
ttp://www.hikkoshi-sakai.co.jp/company/pdf/H2603jyouyo.pdf

 


【コメント】
2014年5月9日に、期末配当―それも特別配当とやらまで含む配当―を支払うことを取締役会で決議しておきながら、
わずか2ヶ月後の2014年6月30日には、増資をすることを取締役会で決議したようです。
増資予定額は約21億円なのですが、2014年6月23日に支払った2014年3月期の期末配当は総額3億8900万円でした。
会社に事業運営のための現金が十分にないから増資をする、という流れがあるわけです。
配当を支払いその直後に増資を行うなど、財務的には矛盾と言っていいと思います。
もし配当を1円も支払っていなければ、増資額は約17億円だけで済んだということであり、
それはイコールその分発行する株式数は少なくて済んだということです。
株式はただではありません。
紙切れを発行すれば投資家からお金がもらえると思ったら大間違いです。
その紙切れは、株主にとって最も重要な権利を表象するものそのものです。
株式を発行するということは、既存株主にとってはその分新たな株主に権利の一部を譲渡する、ということを意味します。
会社法でいう株式分割とは異なりますが、新株式を発行している時点で、既存株主から新株主へ権利が分割されているわけです。
ものを理解している株主であれば、新たに株式を発行するくらいなら、配当金は1円も支払わないでくれ、と言いたいことでしょう。

 

 



2014年6月30日
象印マホービン株式会社
平成26年11月期 期末配当予想の修正に関するお知らせ
ttp://www.zojirushi.co.jp/corp/news/2014/pdf/20140630.pdf

 


2014年6月23日
象印マホービン株式会社
業績予想の修正ならびに固定資産の譲渡および特別損失の計上に関するお知らせ
ttp://www.zojirushi.co.jp/corp/news/2014/pdf/20140623.pdf

2. 固定資産の譲渡及び特別損失の計上について
(4) 譲渡の日程
(5) 今後の見通し
(2/2ページ)

 



【コメント】
象印マホービン株式会社が、今後の固定資産の譲渡に伴い、固定資産減損損失を計上することにしたようです。
この、今後の固定資産の譲渡に伴い固定資産減損損失を計上する、という会計処理方法はどのように考えるべきでしょうか。
今後予定されている売却により、その固定資産は十分な回収ができなくなったことが見込まれます。
ですから、回収可能価額(=売却予定価額)まで帳簿価額を減額することは正しいと言え、
会計処理上、固定資産の減損の要件を満たしていると言えます。
私は今まで、
今後固定資産を帳簿価額未満の価額で売却する場合は、減損損失ではなく売却損失引当金を計上すべきだ、
と書いてきました。


2013年8月28日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201308/20130828.html


2014年1月24日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201401/20140124.html


基本的には、売却損失引当金は「引当金の計上要件」満たしていると思います。
ただ同時に、引当金というのはそもそも、やはり「将来の現金支出に備えて計上するもの」という考え方があろうかと思います。
売却損に対して引当金を計上するというのは、考えてみると何か違うなという思いもあるわけです。
減損損失も何か違う気がするし引当金計上も何か違う気がする、という思いもあるわけです。

 



この点について、どのように説明すれば自分も他人も納得するだろうかと考えているのですが、
2013年8月28日(水) のコメントの一番最初が理解のヒントになりそうだと思いました。
私は固定資産の帳簿価額と譲渡価額が異なることに関して、

>当該土地及び建物のまさに「公正な価額」は16,600百万円であるわけです。
>当該価格での譲渡を相手方と約束しており契約締結も行っております。
>ある意味これほど公正な価額というのはないでしょう。

と書きました。
自分でいうのも何ですが、この部分は固定資産の譲渡についての考え方の根源部分の一つではないかと思います。
固定資産の公正な価額とは、その「帳簿価額」なのか、それとも、その「譲渡価額」なのか、という問いです。
2013年8月28日(水) のコメントでは、

>その土地及び建物の公正な価額はその帳簿価額ではなく、譲渡価額の方であるからです。

と書きましたが。
事業継続を前提とした場合の固定資産の公正な価額は、やはり規則的な減価償却手続きを行った後の「帳簿価額」であると思います。
しかし、譲渡することが決定している場合の固定資産の公正な価額も、同様に規則的な減価償却手続きを行った後の「帳簿価額」なのでしょうか?
明確な「譲渡価額」というものが確定しているにも関わらず、それでも「帳簿価額」の方が公正な価額であると見なすべきか否か、
という問いは、おそらく、「そもそも固定資産の取得価額や減価償却手続きとは何か?」という問いにまでさかのぼる議論だと思います。

 



象印マホービン株式会社が意思決定の当日に固定資産の売却を実施したとしましょう。
その場合の仕訳は次のようになります。
(以下、簡単のため、諸経費を勘案して譲渡損は597百万円だとします。)

(現金預金) 287百万円 / (固定資産) 884百万円
(譲渡損) 597百万円

しかし実際の譲渡日は当期末日以降となりますので、ここでは保守主義の原則の観点から譲渡損を当期中に計上しようとしているわけです。
象印マホービン株式会社は以下のように減損損失を当期中に計上すると言っているわけです。

(固定資産減損損失) 597百万円 / (固定資産) 597百万円

この場合、固定資産の貸借対照表価額は譲渡価額である287百万円となっています。
また、減損損失を計上した分だけ、利益剰余金は減少しています(保守主義の原則に適う)。
貸借対照表価額は資産の公正な価額を表すという基本的な考え方はあろうかと思います。
この場合、ある意味譲渡価額が固定資産の公正な価額と考えていることになるのかもしれません。
そういったことを考えていきますと、固定資産減損損失を計上する方が正しいようにも思えます。
売却損失引当金を計上する場合はどうなるのかと言うと、次の仕訳になります。

(固定資産売却損失引当金繰入) 597百万円 / (固定資産売却損失引当金) 597百万円

この場合、固定資産の貸借対照表価額は引き続き帳簿価額である884百万円のままとなっています。
ただ、売却損失引当金を計上した分だけ、利益剰余金は減少しています(保守主義の原則に適う)。
利益剰余金の減少額は減損損失を計上した場合と同じです。
固定資産の貸借対照表価額は変わらない以上、この場合、あくまで帳簿価額が固定資産の公正な価額と考えていることになるのかもしれません。
また、この場合、貸借対照表そして損益計算書に今後固定資産を売却する旨売却損額と共に明示していることにもなると思います。
ただ、固定資産売却に際し、当然現金支出は伴いません。
将来現金支出がないにも関わらず引当金を計上するというのは少し何か違うようにも思えます。
両者を比較すると、引当金を計上するより減損損失を計上する方に分があるようにも思えます。

 



固定資産の公正な価額に関するもう一つ別の見方として、
事業継続や譲渡に関わらず、そもそも固定資産の公正な価額は常に帳簿価額である、
という見方もあると思います。
帳簿価額よりも低い価額で譲渡した場合は、公正な価額よりもわざわざ低い価額で譲渡したわけですから、差額は言わば寄附金になる、
と考えるわけです。
企業行動により固定資産の公正な価額は動かない、と考えるわけです。
以下、この考え方に基づいて考えてみましょう。

象印マホービン株式会社が意思決定の当日に固定資産の売却を実施したとしましょう。
その場合の仕訳は次のようになります。

(現金預金) 287百万円 / (固定資産) 884百万円
(寄附金) 597百万円

しかし実際の譲渡日は当期末日以降となりますので、ここでは保守主義の原則の観点から、
譲渡に関連する損失額を当期中に計上しようとしているわけです。
しかし、この考え方に基づく場合、減損損失を計上しようがない(計上できない)のではないでしょうか。
なぜなら、通常の減損処理とは異なり、この場合は譲渡することが決まっているからこその寄附金(差額)発生だからです。
減損処理をしてしまうと寄附金にならないと言いますか、固定資産の公正な価額は常に帳簿価額であると決まっている以上、
少なくとも譲渡時の仕訳の貸方は必ず、「(固定資産) 884百万円」でなければならないのではないかと思うわけです。
先に固定資産の価額を減額させるのは、「譲渡」ということを考えた場合には間違いではないかと思うわけです。
譲渡が決まっているか決まっていないかの差がここでは極めて大きいように思うわけです。
譲渡が決まっていないなら減損損失でも構わないが、譲渡が決まっている場合は減損損失ではない、と言えばいいでしょうか。

 



減損損失を計上するのはあくまで債権者保護に重点を置いた保守的な会計処理というに過ぎず、
固定資産の公正な価額とは関係がない、と言うと言い過ぎでしょうか。
事業を継続しようが譲渡しようが減損損失を計上しようが、固定資産の公正な価額は常に減価償却手続き後の帳簿価額である、
と考えると、減損損失額ではなく寄附金の金額を明示せねばならないのではないか、と思えてくるのです。
現金支出こそないものの、固定資産の譲渡を通じて寄附を行ったのだ(これから寄附を行うのだ)、と考えると、
減損処理ではないように感じられるわけです。
寄附なのになぜ減損なんだ、と。
仮に、将来の寄附金(将来の特定の費用・損失)に関して当期中に費用計上を行おうと考えた場合の会計処理は、
引当金計上でも間違いではないように思えます。
固定資産譲渡に関する契約締結時の、考えられる仕訳は次のようになるでしょうか。

(寄附金引当金繰入) 597百万円 / (寄附金引当金) 597百万円

実際の固定資産譲渡時の仕訳は次のようになるでしょうか。

(現金預金) 287百万円    / (固定資産) 884百万円
(寄附金引当金) 597百万円

この考え方に基づくと、(概念上は売却損ですが)会計上は固定資産に売却損などない、という考え方になると思います。
売却損ではなく寄附金だ、と。
だから売却損失引当金ではなく寄附金引当金、という考え方(勘定科目名)になるわけです。

 


場合によっては、減損損失を計上した固定資産を譲渡する(譲渡決定前に減損損失を計上していた)、ということもあると思います。
その場合、企業会計上は、固定資産の帳簿価額を減損損失計上前に戻すということはもちろん認められないでしょう。
譲渡時の固定資産の価額はやはり減損損失後の価額になるでしょう。
減損損失計上後の固定資産の価額と譲渡価額との差額が企業会計上の譲渡に関する損益、ということになると思います。
ただ、その企業会計上の損益と減損処理前の帳簿価額から見たトータルの損益とは別です。
この点について簡単な設例を書けばこうなると思います↓。

「企業会計上の譲渡に関する損益と減損処理前の帳簿価額から見たトータルの譲渡に関する損益の2種類の損益がある。」



2013年8月28日(水) と2014年1月24日(金) に書きました内容を今読み返しても、間違っているとは言い切れないようにも思えます。
確かに、減損損失を計上した上で注記をするというのがやはり一番自然だろうか、とは思います。
しかし同時に、低い価額で固定資産を譲渡することを決定したというのは、
「寄附をすることを決定した」と言っているようなものだとも見なせるわけです。
自分で寄附をすることを決定しておきながら、固定資産の価額の回収は不可能だなどと言うのはおかしな気がします。
減損損失計上か、売却損失引当金計上か、それとも寄附金引当金計上か、
どの視点から固定資産の価額というものを見るのかで話が変わってきそうな気もします。
固定資産における譲渡価額とは何か、固定資産の貸借対照表価額とは何か、そして固定資産の公正な価額とは何か、
考えれば考えるほど、実は非常に深い議論になるのではないかと思います。
この点についてはもう一度考えを整理し、改めて書きたいと思います。