2013年12月31日(火)



2013年12月25日(水)日本経済新聞
■ふくおかフィナンシャルグループ ケイマンのSPC解散
(記事)



 

2013年12月24日
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
優先出資証券の償還、子会社の解散及び特定子会社の異動に関するお知らせ
ttp://www.fukuoka-fg.com/news_pdf/20131224_syokan.pdf






2006年7月28日
株式会社福岡銀行
優先出資証券発行に係わる子会社の設立について
ttp://www.fukuokabank.co.jp/news/h2006/h07-28/060728.pdf

(キャプチャー)




2006年8月10日
株式会社福岡銀行
優先出資証券発行に係わる条件決定について
ttp://www.fukuokabank.co.jp/news/h2006/h08-10/0608102.pdf

(キャプチャー)




2006年8月10日
株式会社福岡銀行
特定子会社の異動に関するお知らせ
ttp://www.fukuokabank.co.jp/news/h2006/h08-10/0608101.pdf

(キャプチャー)


 



【コメント】
記事の見出しの”ケイマンのSPC解散”の文言やプレスリリースのタイトル”優先出資証券の償還”を見ただけで怪しいな、と感じる事例です。

上記3つが、2006年8月の「Fukuoka Preferred Capital Cayman Limited」設立についてのプレスリリースになるのですが、
何とその約6ヵ月後には「Fukuoka Preferred Capital 2 Cayman Limited」を設立しています↓。


2007年2月26日
株式会社福岡銀行
優先出資証券発行に係わる子会社の設立について
ttp://www.fukuokabank.co.jp/news/h2007/h02-26/070226.pdf

(キャプチャー)




一般に酒と女は二号までですが、酒蔵の倅じゃあるまいに、海外特別目的子会社とやらは何号まででも設立可能なようです。

 


で、私としては、池田勇人君のことは脇に置いておいて、ここでちょっと早めに御屠蘇でも、という感じなんですが、
この二号を見て「あれ?ちょっと待てよ。」と、ふと気付きました。
このドラ息子が発行する「円建配当金非累積型永久優先出資証券」とやらを株式会社福岡銀行自身が引き受けたら一体どうなるのだろうか、と。
「円建配当金非累積型永久優先出資証券」は誰が引き受けるのかと言えば、

>発行形態
>私募(野村證券株式会社が本優先出資証券を発行価額において全額引受け買取り、適格機関投資家に対して投資勧誘を行います)

と書かれています。
しかし、引き受けるのが適格機関投資家(や野村證券株式会社)ではく、株式会社福岡銀行自身だとしたら?
これはもう御屠蘇飲んでる場合ではないわけです。

 



これは2013年12月28日(土)に紹介したTACとZ会の「株式の持ち合い」と全く同じ問題点になるのですが、
これはいくらでも架空増資が可能なのではないかと思いました。


2013年12月28日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201312/20131228.html


と言っても、すぐには意味が分かりづらいかもしれません。
順を追って考えていきましょう。

プレスリリースを参考に、一連の流れを仕訳で書きますと次のようになります。

 



2006年8月18日の仕訳

 

株式会社福岡銀行の仕訳

(Fukuoka Preferred Capital Cayman Limited 普通株式) 7億円 / (現金) 7億円   注・・・一号設立時の払い込み資本


Fukuoka Preferred Capital Cayman Limited の仕訳

(現金) 7億円    / (資本金) 7億円     注・・・普通株式発行による増加資本金(法人設立時の資本金)(出資者は福岡銀行)
(現金) 300億円 / (資本金) 300億円    注・・・円建配当金非累積型永久優先出資証券発行による増加資本金(出資者は適格機関投資家)


野村證券株式会社の仕訳

(Fukuoka Preferred Capital Cayman Limited 発行円建配当金非累積型永久優先出資証券) 300億円 / (現金) 300億円

注・・・主幹事証券会社としての買取引受の仕訳です。
    この後、野村證券株式会社はこの円建配当金非累積型永久優先出資証券を適格機関投資家に販売していきます。

 

一応、以上の各社の仕訳により、円建配当金非累積型永久優先出資証券は、
株式会社福岡銀行の自己資本比率規制における基本的項目に算入されることになったわけです。
上記の仕訳を見ても、なぜこれで株式会社福岡銀行の自己資本比率が増加したことになるのかは私にはさっぱり分かりませんが、
一応これで銀行業における自己資本比率規制上の株式会社福岡銀行の自己資本比率は増加したことになるようです。
私にはただ単に、7億円現金が社外流出しただけであり、株式会社福岡銀行は実際には1円も資本増強されていないとしか思えませんが。

 



ただ、これだけ見ても、私が一番最初に書きました、
「引き受けるのが適格機関投資家(や野村證券株式会社)ではく、株式会社福岡銀行自身だとしたら?」
という疑問の意味は分からづらいと思います。
私は二号を見て何に気付いたかと言えば、極めて基本的な話なのですが、次の仕訳が頭に浮かんだのです。

 

2006年8月18日の仕訳


株式会社福岡銀行の仕訳

(Fukuoka Preferred Capital Cayman Limited 普通株式) 7億円    / (現金) 7億円       注・・・一号設立時の払い込み資本
(Fukuoka Preferred Capital Cayman Limited 普通株式) 300億円  / (現金) 300億円      注・・・一号へ現金で追加出資
(現金) 307億円                                / (資本金) 307億円    注・・・一号へ第三者割当増資


Fukuoka Preferred Capital Cayman Limited の仕訳

(現金) 7億円            / (資本金) 7億円     注・・・会社設立時の仕訳
(現金) 300億円          / (資本金) 300億円   注・・・株式会社福岡銀行から追加出資を受けた
(福岡銀行株式) 307億円  / (現金) 307億円     注・・・株式会社福岡銀行の第三者割当増資を引き受けた

 



これを見ると、誰もが「言われてみればそうだな。」と思うでしょう。
極めて端的に言えば、会社は資本金をいくらでも増やせるのではないか、ということなのです。
自分で会社を設立し、相互に第三者割当増資を行えば、現金は1円も使わずいくらでも資本金は増やせるのです。
当然、ケイマン諸島の特別目的子会社は何らかの事業を行っているわけではありませんから(従業員数ははじめから0名)、
絶対に倒産することはありません。
つまり、特別目的子会社株式を減損処理する必要に迫られる事態にはならないわけです。

 


しかし同時に、「それもそれでおかしいな。」と直感的に誰もが思うわけです。
債権者のために留保されるべき資本金をいくらでも増やせるというのは債権者の利益保護の観点から見て明らかにおかしいでしょう。
どこが理論上おかしいのでしょうか。


端的に言えば、「株式の持ち合い自体がおかしい」ということになるのだと思います。
もう一歩踏み込んで言えば、実は、「会社が株式を保有していること自体がおかしい」ということになるのだと思います。
私は先ほど、「特別目的子会社株式を減損処理する必要に迫られる事態にはならない」と書きました。
この理由は、ケイマン諸島の特別目的子会社は絶対に倒産することはないからそう書いたわけですが、
実はここが間違っていたのでしょう。
「ケイマン諸島の特別目的子会社は絶対に倒産することはない」が間違っていたのではなく、
「特別目的子会社株式を減損処理する必要に迫られる事態にはならない」が間違っていたのです。
ケイマン諸島の特別目的子会社が絶対に倒産しないことは確かです。
しかし、「特別目的子会社株式を減損処理しなくてよい」という点が間違っていたのです。
実は、特別目的子会社株式は減損処理しなくはならなかったのです。
なぜか?
特別目的子会社株式は未来永劫回収不可能だからです。
特別目的子会社株式からのキャッシュフローや収益の金額はゼロです。
だから、特別目的子会社株式は減損処理しなくはならなかったのです。
これは特別目的子会社株式だけに当てはまる論点ではありません。
全子会社株式、いえ、保有している全株式について当てはまる論点なのです。

 



以上の議論をまとめれば、「会社は株式を保有してはならない」という結論に行き着きます。
「会社は株式を保有してはならない」とだけ聞くと、何を言っているのか、と思われるかもしれません。
連結子会社だ持分法適用関連会社だ持株会社だ資本提携だ株式の持合だ、という時代です。
「会社は株式を保有してはならない」となりますと、グループ経営や他社との強い絆を持った経営ができないではないか、と思われるでしょう。
しかし、「会社は株式を保有してはならない」のです。
なぜなら、その保有株式の回収可能性が常に問題となるからです。
その保有株式からのキャッシュフローや収益の金額はいくらでしょうか。
ここで論点となるのは、「その保有株式の簿価と比べて」という部分です。
保有株式の簿価は回収可能な価額まで切り下げねばなりません。
全保有資産(流動資産、固定資産、金銭債権、全部です)に適用される「減損処理」とはそういう意味でしょう。
どの種類の株式であろうとも、保有株式からのキャッシュフローや収益の金額は簿価と比べて著しく小さいでしょう。
株式というのは全て、取得すると同時に減損処理を強いられるものなのです。
この点、債券であれば、額面(≒簿価)で償還されますから回収可能な価額は問題にならないわけです。
つまり、会社は債券は保有してよいが、株式は保有してはならないのです。

 



会社は一体いつから「株式を保有してはならない」ということになったのかと言えば、
何のことはありません、明治三十二年(1899年)から言われていました。
100年以上前、旧商法が出来た一番最初の時から「会社は株式を保有してはならない」とされていたのです。
「会社は株式を保有してはならない」ということの根拠条文は「第34条」(旧商法)です。
もちろん、即時減損処理することを覚悟で株式を取得するというのなら話は別ですが。
「即時減損処理をしてまでとなると・・・」という思いは誰にもあり、全株主や経営者は二の足を踏むことでしょう。
極端に言えば、「会社が株式を保有することに何の意味があるのか」というところまで行き着く気がします。
明治期の人々の英語力については分かりませんが、
Even the most powerful management would think twice before acquiring any sort of stock.
(株式というものを取得することにはどんなに経営が達者でも二の足を踏むことだろう。)
といったところでしょうか。
旧商法の第34条(100年以上前のまま)の引用と参謀訳はこちらです↓。

2013年3月3日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201303/20130303.html




明治期の人々はきっと分かっていたのでしょう、
全保有資産を減損処理をする定めにしなければ、今日の議論のように、
会社自身が別に会社を作って相互に増資をし合い、実際には会社には財産の拠出がないまま資本金を増加させてしまう恐れがあることを。
一般に、「株式の持ち合いは資本の空洞化につながる」といったことが言われますが、
「資本の空洞化につながる」のは持ち合いだけではありません。
(減損処理をしないなら)通常の全株式の保有自体が「資本の空洞化につながる」のです。
大昔から言われ続けていて余りにも当たり前過ぎて今や誰も口にしない結論ですが、企業経営とは現金を稼ぐことです。
このことは会計の観点から言えば、株式会社では、資産が現金として回収可能か否かという観点が極めて重要だ、ということだ思います。
また、債権者には会社財産しか弁済の引き当てがありません。
その観点から言っても、資産(会社財産)が「その帳簿価額で」現金として回収可能か否かという点が極めて重要なのだと思います。
明治期の人々は100年以上前から、経営と会計の全てを、何もかもをお見通しだったのでしょう。
タイムマシンに乗って、明治期の人々に「なぜ会社は株式を取得・保有してはならないのか?」と聞いてみたいものです。
明治期の人々は「減損の発生」に関し極めて簡潔に、きっとこう答えることでしょう。

「予測スルコトハ極メテ容易ナリ」

と。