2013年11月16日(土)



2013年11月15日(金)日本経済新聞
■雪国まいたけ 過年度の有証報告書訂正
(記事)



 

2013年11月6日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201311/20131106.html

 

2013年11月5日
株式会社雪国まいたけ
社内調査委員会の調査報告書の受領及び当社の対応について
ttp://www.maitake.co.jp/company/pdf/20131105_1.pdf


 


【コメント】
事業用資産の減損処理について問題となっているようです。
簡単に言えば、事業用資産の減損処理を行っていなかったことが不適切な会計処理であった、ということになるわけです。
減損処理を行っていれば配当可能な利益剰余金はなかったはずであり、
それなのに配当を行っていたことが違法だった、と指摘しているわけです。
2013年11月6日(水) にコメントした通り、配当可能な限度額を1円でも超えて配当を行った場合は、
結局その全額が違法配当となるわけですが、実はここに減損処理に関する大きな問題点がありまして、
それは「具体的にどれだけの金額減損処理を行えばいいのかは実際には誰にも分からない」という点なのです。
言い換えれば、資産の減損処理額には明確な客観的な基準はないのです。


(1) 不適切な会計処理の概要
A 一部事業用資産の減損について
(2/26ページ)



一部事業用資産の減損の必要性を検討し、各不動産の当時の利用状況、その後の利用目的などを総合的に検討した結果、
減損処理をする必要があった、と判断されたようです。
実際には減損処理はしなかったわけですが、本来は平成24年3月期に合計470百万円の「固定資産の減損損失」を計上する必要があった、
と判断されたようです。
仮に正しく470百万円の「固定資産の減損損失」を計上していれば、平成24年3月期に配当は実際の支払額よりも少ない額しか行えなかった、
ということになり、これが違法配当に該当するとのことです。

 



実際には事業用資産の減損処理以外にも不適切な会計処理はあったわけですが、
ここでは話の簡単のために、不適切な会計処理はこの「固定資産の減損損失」470百万円の未計上のみであったとしましょう。
すると、仮に正しく470百万円の「固定資産の減損損失」を計上していれば、
平成24年3月期に配当は実際の支払額よりも少ない額しか行えなかったということは、他の言い方をすれば、
仮に平成24年3月期末の利益剰余金を470百万円減少させると、配当可能な限度額が実際の支払額を下回る状態であったわけです。
つまり、平成24年3月期末の利益剰余金の減少額が470百万円未満のある一定額だけであれば、
平成24年3月期の配当は全額適法であったわけです。
要するに、実際の配当の支払額から見て、配当可能な限度額を上回ってしまうしきい値が470百万円未満のどこかにあったことになるわけです。
例えば、平成24年3月期の実際の配当の支払額は1億3300万円だったわけですが、
この1億3300万円は配当可能な限度額を実は100百万円だけ上回ってしまっていたとしましょう。
すると、本来行わなければならない「固定資産の減損損失」の計上額が370百万円のみであったとすると、
平成24年3月期の実際の配当の支払額1億3300万円は結果として全額適法だった、ということになるわけです。
本来行わなければならない「固定資産の減損損失」の計上額が470百万円であったら全額違法配当であり、
本来行わなければならない「固定資産の減損損失」の計上額が370百万円のみあったら全額適法配当であった、ということになるわけです。
そこで問題となるのは、一番最初に書きました問題点、
「具体的にどれだけの金額減損処理を行えばいいのかは実際には誰にも分からない」という点なのです。
報告書には、470百万円の「固定資産の減損損失」を計上する必要があったと書かれています。
もちろんこの470百万円は、各不動産の当時の利用状況、その後の利用目的などを総合的に検討して算出した十分に根拠のある数字でしょう。
とは言え、固定資産の帳簿価額を全額減損処理したという場面でもない限り、
「固定資産の減損損失」の計上額470百万円は一意に決まる数字ではないわけです。
神のみが知っている真の正しい「固定資産の減損損失」の計上額は、
500百万円かもしれませんし、450百万円かもしれませんし、400百万円かもしれませんし、350百万円かもしれないわけです。
そこに絶対的な答えはないでしょう。
仮に、470百万円という数字はあまりに保守的に見積もり過ぎた数字であり、
神のみが知っている真の正しい「固定資産の減損損失」の計上額は、実は350百万円だったのだとすると、
平成24年3月期の配当の支払額1億3300万円は全額適法だった、ということになるわけです。

 



固定資産の実態は何も変わっていないのに、「固定資産の減損損失」の計上額がある金額であれば配当可能な利益剰余金がないことになり、
「固定資産の減損損失」の計上額が別のある小さな金額であれば配当可能な利益剰余金があることになるわけです。
そしてその「固定資産の減損損失」の計上額には明確な客観的な基準はないわけです。
あるとすれば全額減損処理の場合のみでしょう。
「具体的にどれだけの金額減損処理を行えばいいのかは実際には誰にも分からない」という問題点は、
企業が固定資産の減損処理を行うに際して常につきまとう問題点なのです。

例えば上場株式であれば、株価が取得価額の半分未満になったら株価まで減損処理する、というのであれば一定の客観性はあると思います。
また、持分法適用関連会社株式や連結子会社株式の個別上の評価額に関しては、
取得価額と各関係会社の株主資本額とを直接比較して、取得価額が株主資本額未満になれば株主資本額まで減損処理する、
というのであればこれもまた一定の客観性はあると思います。
しかし、自社ビルや工場や業務センターといった事業用資産の場合は、一定の客観性を持った減損基準がどうしてもないのです。
あるとすれば、一定の理由によりそれらの帳簿価額を全額減損処理する場合のみでしょう。
これは株主からすると、
「そこまで大きな金額減損損失を計上していなければもっと大きな利益剰余金があったわけだから
もっと多額の配当が支払えたではないか。減損損失額が大き過ぎるのではないか。」
と言いたくなる場面が出てくるということです。

 



さらに問題なのは、2013年10月9日(水) に示しましたように、
固定資産の減損処理を行っても、減価償却期間全体で見れば、損金算入総額も結局同じなるし支払う法人税額も結局同じになる、
という側面が現にあり、多額の配当が欲しい株主からすると、早急な損失計上はできる限り避けて欲しい、
という思惑はやはりあると思います。

2013年10月9日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201310/20131009.html

2013年10月9日(水) のコメントでは、「会計基準単位で見れば固定資産の減損処理にはやはり意味がある」という趣旨で書いたわけですが、
固定資産の減価償却費は今後は損金算入できる状況にはないのなら、それは企業経営上極めて深刻な状況ということになり、
今後継続して損金が益金を上回り続けるということであればそれは法人としては倒産することを意味するわけです。
すると企業経営を踏まえると、実際には減価償却費は今後も損金算入できる状況にあることがある意味企業経営上の前提ということになりますから、
結果として、トータルでは「やはり減損処理を行っても損益面でも現金面でも影響はない」となってしまうわけです。
減価償却期間全体で見ればトータルでは「減損処理を行っても損益面でも現金面でも影響はない」のだから、
「減損損失を計上しないことによる配当支払いは何ら債権者の利益を害さない」という結論になってしまうわけです。
まあそれでも私としましては、適時開示の重要性に鑑み、「やはり固定資産の減損損失は適切に行っていくべきである」、と思っていますが。

 



では次に、企業会計基準に従い(もしくは「保守主義の原則」に従い)損益計算書上適切に減損損失を計上するとして、
分配限度額(配当可能限度額)の計算過程において、その「減損損失額」を分配限度額(配当可能限度額)に足し戻す、
という考え方はどうでしょうか。
減価償却期間全体で見ればトータルでは「減損処理を行っても損益面でも現金面でも影響はない」、
つまり、「減損損失を計上しないことによる配当支払いは何ら債権者の利益を害さない」以上、
減損損失を計上した上でその「減損損失額」を分配限度額(配当可能限度額)に足し戻しても、
何ら債権者の利益を害さないのではないか、という考え方はあると思います。
しかし、その考え方は本末転倒の部分があるわけでして、
少なくとも単一事業内・単一資産単独で見ればその固定資産の帳簿価額は今後回収不能だから、減損損失を計上する必要があるわけです。
減損損失を計上することやその金額自体に意味があるわけです。
つまり、減損損失計上により利益剰余金が減少してしまうことに意味があるわけです。
これは適時開示や注意喚起、そして減損処理を余儀なくされたことに対する株主への一種のペナルティ(株主・経営責任)でもあるでしょう。
それなのに、その「減損損失額」を分配限度額(配当可能限度額)に足し戻すとなりますと、
一体何のための減損損失か、という話になるわけです。
その減損損失分がその後損金算入されるのは他の資産・事業で稼いだ益金がたまたまあるからなのです。
会社全体で見ればトータルでは損金算入されるから、というのは全く理由になっていないわけです。
したがって、「減損損失額」を分配限度額(配当可能限度額)に足し戻すという考え方は認められないわけです。
これは債権者の利益保護が目的というより、やはり株主責任を問う意味合いが大きいと思います。


 


と、ここまで書きますとあることを思い出すわけです。

将来損金算入されることを前提に配当を支払う?
将来損金算入されることを前提にそのために利益剰余金を確保する?
将来損金算入されることを前提にそのために利益計上する?

そうです、繰延税金資産です。
繰延税金資産というのは、将来損金算入されることを前提に利益計上を行うことなのです。
それがいかにおかしいかは、上記の説明で十分かと思います。
固定資産の減損にせよ他の企業会計上の費用にせよ、
それらを計上するに至ったのにはその事象なりその取引なりの理由があってのことであるわけです。
結果としてそれらが損金算入されることもあれば損金算入されないこともあるでしょう。
しかしそれは税務当局が決める(税法の定めに従うだけの)ことであって、企業の処理とはある意味関係がないでしょう。
率直に言えば、損益計算書(そして当然貸借対照表も)に税務処理を持ち込むべきではないと私は思うわけです。
損益計算書に持ち込んでよい税務処理は確定した「法人税等」のみであるべきではないか、と私は思うわけです。
究極的なことを言えば、企業会計と税務会計は完全に別である、というのが理論上の正しい考え方ではないでしょうか。
それなのに、将来の損金算入を想定して何か法人税額を調整するかのような処理を損益計算書上で行うというのは、
企業会計上根本的におかしいのではないでしょうか。
確定した利益額とは何か、という議論に結び付く話ではなかろうかと思います。
減損損失というのは、確かに客観的に減損処理額を算出することは難しい面はありますが、
それはそれで確定した損失額であると私は思います。
損失額は確定してる、だから株主資本額も確定するわけです。
そしてその確定した株主資本額に基づき配当は支払われるべきであると思います。

 


ところが、税効果会計の場合は、
将来損金算入されるとしたらトータルではその利益剰余金の金額になる(そのための利益計上をしている)と言っているわけですが、
それはまさに将来そうなった時にそのような利益剰余金の金額になればよい(その利益剰余金の金額を計上すればよい)だけのことであって、
何も今、将来の利益剰余金の金額にする話では全くないわけです。
仮に今後益金が発生しなければ会社は倒産してしまいますから、確かに今後その会社には益金が発生するのだとは思います。
それはそれでもちろん税務上も経営上も望ましいことですが、
益金の発生はまだ確定しておらず、そして損金算入も現時点では確定していないわけです。
損金算入が確定した時点でそれに応じた利益剰余金の金額になるべきであって、
損金算入が確定する前から損金算入が実現したらこの利益剰余金の金額になると計算して利益計上することは根本的に間違いであるわけです。
企業会計上の利益も利益剰余金も、企業会計上の確定した金額であるべきなのです。
税務上もその損金算入は全く確定していません。
法人税額がそうなると確定しているわけでもないのに、将来の法人税額はこうなる、と決めてかかるのは、
税務会計上も問題があることではないでしょうか。
「お前将来の法人税額を勝手に決めるなよ」と税務当局から怒られるのではないでしょうか。
企業会計の点から見ても税務会計の点から見ても、損益計算書に持ち込んでよいのは確定した「法人税等」のみであるべきではないか、
という結論になるわけです。
企業会計上の利益額と費用額も確定した利益額と費用額、税務会計上の法人税額も確定した税額、
これにより、企業には確定した当期純利益が計上され、そして確定した利益剰余金が計上されるわけです。
そしてそれにより株主資本額が確定し、それが株式の価値となるわけです。
全てが確定しないことには、株式の価値が確定しないわけです。
そして全てが確定しないことには、配当も支払えないわけです。
企業の今現在の利益剰余金は全て確定したものなければならない以上、将来の利益や費用や税額を計上することは根本的に間違いなのです。
この議論の行き着く先はただ一つです。
「税効果会計は全面的に廃止すること」です。
税効果会計は全て将来の話をしているわけです。
たとえそれ(損金算入)がどんなに確実性が高いものあっても、とにかくまだ確定していない以上は、
将来の税額を計上していること自体が企業会計や税務会計の趣旨に完全に反するのです。
これは損金算入の将来の確実性の問題ではなく、本質的に企業会計や税務会計の問題です。
たとえ将来の損金算入の確実性(回収可能性)が本当に100%であっても、繰延税金資産の計上は間違いである、となるわけです。

 



そして、繰延税金資産の計上が企業会計上間違っていることを他の観点から説明します。
将来損金算入されるとしたらトータルではその利益剰余金の金額になる、だからそのために今利益計上をしている、という会計処理は、
「減損損失額」を分配限度額(配当可能限度額)に足し戻すことと全く同じことである、ということです。
非常に大まかに言えば、利益剰余金が配当の原資です。
繰延税金資産を計上し当期純利益を計上しそして配当の原資を増やすことは、将来の損金算入を前提にしているという点で、
「減損損失額」を分配限度額(配当可能限度額)に足し戻すことと全く同じなのです。
より具体的に言えば、「固定資産の減損損失」を計上し、その減損損失に対して税効果会計を適用することは、
(税効果会計を適用せずに)その「減損損失額」を分配限度額(配当可能限度額)に足し戻すことと全く同じ、ということです。
税効果会計を適用しない場合は、表面上の(貸借対照表上の)利益剰余金は増加しません。
しかし、その「減損損失額」を分配限度額(配当可能限度額)に足し戻すということはおかしいように、
「固定資産の減損損失」を計上し、その減損損失に対して税効果会計を適用することはおかしいわけです。
これは利益剰余金(配当の原資)を損益計算書上で直接増額させるのか、
損益計算書外(概念的には利益処分計算書、剰余金計算書など)で間接的に増額させるのか、の違いに過ぎないわけです。
どちらにしても、配当の原資を将来の損金算入や将来の税額を根拠に増加させているということには変わりないわけです。
「減損損失額」を分配限度額(配当可能限度額)に足し戻すことはすぐに直感的におかしいと分かると思います。
実はそれと全く同じ様に、「固定資産の減損損失」を計上しその減損損失に対して税効果会計を適用することもおかしいのです。

 


以上長くなりましたが、今日の議論を簡単にまとめますと以下のようになります。

まず、将来の損金算入は確実であるとします。
ぞして、ある固定資産に関して減損処理の必要があると判断されたとします。
また、減損損失を計上すると分配限度額(配当可能限度額)はゼロになるとします。
この場合、減損損失を計上せずに配当を支払っても、トータルでは何ら債権者の利益を害さない、となります。
なぜなら、減価償却期間全体で見ればトータルでは「減損処理を行っても損益面でも現金面でも影響はない」からです。
トータルの配当額が同じなら、配当支払いによる現金流出額と利益剰余金の減少額そしてそれらの残高はトータルでは同じになります。
ただ、減損損失を計上していたら当期は配当を支払えなかった、という点だけはやはり短期的には債権者の利益を害していることになります。
減損損失を計上せずに配当を支払うことは、債権者の利益には反してはいませんが、
適時開示の観点から、そして株主の経営責任を問う意味も込めて、やはり減損損失は適切に計上すべきです。

そして今日の重要な論点は、
「たとえ将来の損金算入は確実であり何ら債権者の利益を害さないとしても、税効果会計を適用することは、
まだ確定していない将来の税額を根拠にしているという点で、企業会計上も税務会計上も根本的に間違いである。
税効果会計を適用することは『減損損失額』を分配限度額(配当可能限度額)に足し戻すことと全く同じである。」
となります。

今日は債権者の利益保護の観点からではなく、純粋に企業会計の観点から減損会計及び税効果会計について論じてみました。