2013年1月23日(水)



昨日と一昨日のコメントを読み直していて、ふと思ったのですが。

 

2013年1月21日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201301/20130121.html
 


2013年1月22日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201301/20130122.html

 

昨日、サッポロホールディングスが「ポッカサッポロを処分予定先とする自己株式処分」を行うということに関して、
この自己株式処分とは、

>親会社(サッポロホールディングス)から子会社(ポッカサッポロフード&ビバレッジ)への増資(子会社が親会社株式を引き受ける)です。
>何のために子会社(ポッカサッポロフード&ビバレッジ)が親会社(サッポロホールディングス)株式を保有するのかと言えば、
>現ポッカ少数株主に対し、ポッカサッポロフード&ビバレッジがポッカ株式取得の対価として渡すためです。

と書きました。

 

 



ポッカサッポロフード&ビバレッジの仕訳

(現金預金) 411,358,500 円            / (借入金) 411,358,500 円
(サッポロホールディング株式) 411,358,500 円   (現金預金) 411,358,500 円


サッポロホールディングスの仕訳

(貸付金) 411,358,500 円  / (現金預金) 411,358,500 円
(現金預金) 411,358,500 円   (資本金)  411,358,500 円

 

これらは借方・貸方の現金預金勘定を相殺消去すればこうなります↓。

 

ポッカサッポロフード&ビバレッジの仕訳

(サッポロホールディング株式) 411,358,500 円 / (借入金) 411,358,500 円


サッポロホールディングスの仕訳

(貸付金) 411,358,500 円  / (資本金) 411,358,500 円

 

 


ここで、ポッカサッポロフード&ビバレッジの借入金及びサッポロホールディングスの貸付金は完全親子会社間の借入金・貸付金なわけです。
増資の前に同じ額だけ増資を引き受ける相手に貸し付けているわけですから、トータルでは、
サッポロホールディングスは実際には現金は貸し付けてもいませんし
増資によりポッカサッポロフード&ビバレッジから現金は受け取っているわけでもないのです。
また、ポッカサッポロフード&ビバレッジも実際には現金を借り入れていませんし、
サッポロホールディングス株式引き受けの際に現金を払い込んだわけでもありません。
要するに、この自己株式処分では現金は実際には1円も動いていないわけで、
子会社の借入金勘定や親会社の貸付金勘定もサッポロホールディングス株式を渡すためだけの本当に便宜上のものであるわけです。
子会社が資金繰りに窮していたから親会社が子会社に現金を貸し付けた、という状況・勘定科目とは完全に異なるわけです。

そうだとすると、サッポロホールディングスの貸付金勘定やポッカサッポロフード&ビバレッジの借入金勘定は
単体べースで見ても実態を正確に表したものではないと言えます(連結ベースではこれらは内部取引ですから当然全て消去されるわけですが)。
であるならば、これは完全親子会社間での貸付・借入でもありますので、
デットエクイティスワップ(DES)を行って、貸付金勘定と借入金勘定の整理を行えばよいのではないかと思いました。

 

 


DES(Debt Equity Swap)の仕訳はそれぞれ次のようになります。

 

ポッカサッポロフード&ビバレッジのDESの仕訳

(借入金) 411,358,500 円 / (資本金) 411,358,500 円


サッポロホールディングスのDESの仕訳

(ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式) 411,358,500 円  / (貸付金) 411,358,500 円

 

これで両社の貸付金勘定と借入金勘定は単体上からも消去され、
サッポロホールディングスの完全子会社への投資勘定が増加(ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式の金額が増加)、
ポッカサッポロフード&ビバレッジは資本金(単体上です、当たり前ですが)が増加、ということになります。

 

サッポロホールディングスは既にこのデットエクイティスワップ(DES)を行っているかもしれません。
このサッポロホールディングスの貸付金勘定やポッカサッポロフード&ビバレッジの借入金勘定は、
財務上はもちろん経営管理上も無意味ですので。
財務上というのは、実際には貸し付けたり借り入れたりしていませんし、受取利息も支配利息もない、という意味です。
貸借対照表が無意味にかさ上げされてしまいますし、損益計算書にも影響を与えない形だけの勘定科目だから無意味だ、という意味です。
経営管理上というのは、子会社が資金繰りに窮していたから親会社が子会社に現金を貸し付けた、
という状況が実際に起こったわけではないのだから、子会社の今後の実際の資金繰りの状況を見誤る恐れがある、
したがって、これら貸付金勘定と借入金勘定は経営上の意思決定を行う上で判断を誤らせる要因となりかねないノイズでしかない、
という意味です。

 

 


と同時に、ここでさらにあることに気付きます。
「それなら貸付だ借入だと言わずに、はじめからお互いがお互いの株式を持つようなことをすればよかったのでは?」
と。
つまり、お互いがお互いに自社株式を相手に現物出資することをはじめから行えばよかったのではないか、と思います。
仕訳で言えば、はじめから次の仕訳を両社で切ればよかったのではないか、と思います。

 

ポッカサッポロフード&ビバレッジの仕訳

(サッポロホールディング株式) 411,358,500 円 / (資本金) 411,358,500 円


サッポロホールディングスの仕訳

(ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式) 411,358,500 円  / (資本金) 411,358,500 円

 

一種の株式の持ち合い、相互出資、と言えばいいでしょうか。
ただ、通常の株式の持ち合いとは異なり、これは親子会社間の相互出資になってしまいます。
親会社は子会社の意思決定を支配していますから、親子会社間で相互に出資をしようと思えば無限にできてしまいます。
親会社からすると子会社を利用することでいくらでも資本金を大きく見せることができるわけです(一種の架空増資と言えるでしょう)。
子会社が親会社株式を原則として保有してはならない理由はここにあるわけです。
しかしこの場合は、あくまで組織再編の対価の支払い手段としてほんの短期間のみ子会社が親会社株式を最低限保有するだけですので
親子会社間の相互出資も認められます。
サッポロホールディングスははじめからこの仕訳を両社で切ればよかったのではないか、と思います。

 

 


それと、上のお互いがお互いに自社株式を相手に現物出資する仕訳を見ていてさらに気付いたのですが。
「株式を持ち合うこと」が目的である場合は、このような自社株式の現物出資は親子会社間でなくても行えることになるなと思いました。
現物出資という手続きを採ると出資する現物の価値・価額の公正な算定が面倒ということあれば、
サッポロホールディングスとポッカサッポロフード&ビバレッジが行ったように、
見かけ上貸し付けて増資を引き受けてもらって、その上でデットエクイティスワップ(DES)を行えばいい、ということになります。
(もしくは単純に一方が先に増資を引き受けてその増資で調達した現金で他方の増資を引き受ける、というだけでも同じですが。)
現物出資には厳格な手続きが定められていますが、これはその抜け穴として使えそうですね。
よい子のみんなは決してマネしないようにね。

 

 



さて、買収防衛や業務提携のために株式を持ち合うということがあるかとは思いますが、
それはやはり見かけ上ではなく実際に現金を支出する形で相手の株式を取得することが大切だと思います。
非上場企業の場合は買収の脅威は事実上ありませんが、他社と株式を持ち合うということはあるかもしれません。
また、上場企業であれば買収防衛や資本・業務提携を兼ねて株式を持ち合うということがあると思います。
その場合は、既存株主から現金を支出して株式を取得するということが経営上大切だと思います。
上場企業であれば株式市場で相手方株式を(当然現金で)取得することが経営上大切だと思います。
先ほど書いたように、お互いがお互いに第三者割当増資を相互に行って、
現金をトータルでは支出しない形の株式の取得は行うべきではありません。


その理由は、「株式の持ち合いは自分の現金を相手方株式に固定したことを示す」ことに意味があるからです。
「気は心」という言葉があります。
やや精神論かもしれませんが、自腹を切って相手方の株式を取得したのか、それとも、お互い形だけの議決権保有で済ますのかでは、
お互いの気持ちの込められ方が全く異なると思うのです。
法律上は同じ例えば5%の議決権でも、自腹を切った5%と現金を支出せず取得した5%では、効果や意味合いがまるで違うと思います。
その後の業務提携の成功度や敵対的買収者への威圧感が全く違ったものになると思います。
野球でも、気合の入った投球と気合の入っていない投球とでは球の”重さ”が違うと言います。
同じ140キロの投球でも、気合の入った球は打っても重くて飛ばない、気合の入っていない球は軽くよく飛ぶ、と言います。
物理学的に球の重い軽いは解明できないかもしれませんが、実際にそういうことはあるのだと思います。
株式の持ち合いでも同じではないでしょうか。

「Cash is king.」という言葉があります。
経営で最後の最後に拠り所となるのは究極的には現金だったりします。
会社が倒産する原因というのは要するところ現金です。
売り上げの低迷その他が倒産原因として挙げられる時がありますが、それも煎じ詰めれば結局は現金に行き着くのです。
しかしそんな「Cash is king.」であるからこそ、株式の持ち合いの際は現金を支出して相手の株式を取得してほしいのです。
「Cash is king.」だからこそ、その現金を相手方株式に固定することに意味があるのです。
経営で一番大切な現金を相手方株式のために支出することは気持ちの表れ、と言ってもいいと思います。
現金を相手方株式のために支出するからこそ信頼を得られるということもあると思います。
お金で相手の信頼を得るというと何か汚い感じがするという考えもあるとは思いますが、
お互い円滑な経営を行っていくための手段だと考えてみてはどうでしょうか。