2011年8月9日(火)



2011年8月9日(火)日本経済新聞
全日空 伊東社長に聞く LCC「コスト半分以下に」
エアアジア・ジャパン近く設立 レジャー需要に照準 値下げ圧力強まる可能性
(記事) 


 

 


2011年8月9日(火)日本経済新聞
格安航空のエアアジア マレーシア航空を支援 株式20%取得、きょうにも発表 国営下支え 存在感増す
(記事)

 

 

 

 



参考書籍

 

「航空事業論」 井上泰日子著 (日本評論社)

 

第1部 航空事業の現状と将来


第3章 低コスト航空会社


41ページ


42〜43ページ


44〜45ページ


46〜47ページ


48〜49ページ


50〜51ページ

 

 



52〜53ページ


54〜55ページ


56〜57ページ


58〜59ページ


60〜61ページ


62〜63ページ


64〜65ページ 「事例研究 LCCモデルを創造したサウスウエスト航空の挑戦」


66〜67ページ


68〜69ページ


70〜71ページ


 

 



この本の「序文」にこう書いてあります。


>米国東部ノースカロライナ州キティホークの砂丘で、ライト兄弟が人類初の動力飛行に成功したのは1903年、
>英国コメット機による世界初のジェット旅客機の定期運航が開始されたのは1952年である。
>ジェット旅客機の就航以来、航空事業は一気に拡大したが、その歴史は初期の幼児産業(infant industry)の
>時期を脱してから半世紀を経過したばかりであって、航空事業は比較的新しい産業である。


近年参入した航空会社を除くと、日本航空や全日空が思い浮かびますが、航空会社というのは大企業であるというイメージがあり、
航空産業は何か歴史が長い産業なのかなと何となく思ってしまうわけですが、
実はここに書いてありますように、産業全体で見るとまだまだ50年足らずの産業に過ぎないわけです。


そして今、「Low Cost Carrier」と呼ばれる低コスト航空会社が注目を浴びています。
LCCの先駆けと言えば米国のサウスウエスト航空が有名ですが、ではアジアや日本ではLCCは成功するのでしょうか。
マレーシアのエアアジアは大成功を収めていますが、日本ではどうでしょうか。
日本でLCCが成功するか否かは、2011年7月21日(木)と2011年7月22日(金)に書きました。


2011年7月21日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201107/20110721.html


2011年7月22日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201107/20110722.html


今でも私の結論は同じです。一言で言えばこうです。
「LCCは短距離短時間でないといけない。日本から外国へは地理的に遠いから日本から外国へのLCC国際線は成功しない。」

 


 


「LCCは短距離短時間でないといけない」という点については、この本にもはっきりと書かれています(64ページ)。
LCCは短距離短時間でないといけない理由は私が書いた内容と同じですが、
ここには長距離LCCに参入したが実際に経営破綻した事例も書かれています。

 


飛行時間の壁 (64ページ)


長距離線LCCやビジネスクラス専用のLCCも新たに登場してきているが、成功しないだろう。なぜなら、

>短距離路線のLCCとは違って、長距離やビジネス専用のLCCでは食事や機内エンターテイメントなどが、より重要な要素となり、
>ビジネスモデルをLC(Legacy Carrier、既存大手航空会社)に近づけざるをえないと考えられるからである。

全席ビジネスクラスLCCの先駆者であった米国のマックスジェットは、
2007年12月に就航後たったの2年しかたっていないのに経営破綻し連邦破産法の適用申請に追い込まれた。

 


飛行が長距離長時間になった時点で旅行客は快適さを求め始めます。
それに対応しようと思ったら、従来からある高価格高サービスの路線を運航せねばなりません。
しかしこれでは既存大手航空会社が有利に決まっています。
LCCは短距離短時間の場合のみ成功します。

日本から外国へは地理的に離れていますから、どうしても長距離長時間になってしまいます。
これではLCCは成功しません。日本から外国へのLCCは必ず失敗します。
これはLCCがそのコンセプト誕生時から抱える本質的な問題点です。
LCCは長距離長時間を飛ぶようには作られていないのです。

 

 


サウスウエスト航空が成功したのも、煎じ詰めれば結局「短距離短時間」に特化したからです。
LCCが成功するために守らねばならないKFS(Key Factors for Success)は、「短距離短時間の原則」です。
サウスウエスト航空はこの原則をしっかりと守っているのです。

この本にもサウスウエスト航空が成功した要因についてまとめてあります。
サウスウエスト航空が成功している9つの成功要因を書いてみます。

 

サウスウエスト航空の生き残り戦略 (67〜69ページ)


@低運賃航空会社
Aシェアにこだわらない
B短距離、多頻度運航に徹する
Cハブ・アンド・スポーク型ネットワークを採用しない
D混雑空港の回避
E単純化によるコスト削減
Fピークとオフピーク価格
G10分間ターン
H型破りな宣伝

 

確かに、これらの成功要因を忠実に踏まえれば日本でもLCCは成功するでしょう。
例えばスカイマークはこれらの要因を深く理解し経営に生かしているからこそ成功しているのでしょう。
しかしそれは国内路線だからこそできることです。
外国まで地理的に遠い日本ではこれらの原則を守りたくても守れないのです。
東南アジアでは外国までの距離は非常に短いのです。だから国際線であろうともLCCが成功しているのです。
日本では、国際線LCCは始めから成功しない運命にあるのです。

 


 


LCCの文句ばかり書きましたが、

成功するとしたらこういった要因が考えられる、
失敗するとしたらこういった要因が考えられる、
そして失敗する要因があるとしたらその要因が解決可能か、

という風に成功失敗の要因分析を前もって行っておくことは新しく事業を行う上で大切なことだと思いましたので書きました。
決して他意はありません。

スカイマークを見れば分かりますように、国内線であればLCCは成功します。
しかし日本では国際線はどうしても長距離長時間になってしまうため、国際線のLCCは成功しません。
国際線を就航するのなら、日本航空や全日空が従来から手がけている高価格高サービスの路線の方がはるかに成功します。

 


最後にこの本の著者紹介をスキャンして終わります。
著者の井上泰日子氏は日本航空の社員です。
本に記載されているプロフィールでは分からなかったのですが、ネットで検索しますと井上泰日子氏は理系出身のようです。
「理系も文系も関係ない」が私の信条ですが、井上泰日子氏のプロフィールを知らずにこの本を読んでいて、
「図や表が非常によくまとまっているな」という印象を強く受けました。
先ほど井上泰日子氏が理系出身であると知ってなぜか妙に「なるほど、何かそうかもしれないな」と思ってしまいました。
もちろん今でも「理系も文系も関係ない」と思っていますが、
文系理系は何らかの違いはひょっとしたらあるのかもしれないなと少し思いました。

日本航空は現在も更生中ですが、井上泰日子氏はこの点についてどう思っているのでしょうか。
機会があれば、今後日本航空が立派に再生した後、日本航空の会社更生手続きについて聞いてみたいと思います。



著者紹介
井上泰日子