2019年3月28日(木)


2019年3月25日(月)日本経済新聞
MBOに潜む利益相反 経産省、株主保護へ指針議論 第三者委強化が焦点
透明性向上 欧米が先行
(記事)



2018年12月18日(火)のコメントで、ソフトバンク株式会社の上場に関する記事を計26本紹介し、
「有価証券の上場には4つのパターンがある。」という資料を作成し、以降、集中的に証券制度について考察を行っているのだが、
2018年12月18日(火)から昨日までの各コメントの要約付きのリンクをまとめたページ(昨日現在、合計100日間のコメント)。↓

各コメントの要約付きの過去のリンク(2018年12月18日(火)〜)
http://citizen.nobody.jp/html/201902/PastLinksWithASummaryOfEachComment.html

 

 



【コメント】
「マネジメント・バイアウト」の問題点について説明がなされています。
「マネジメント・バイアウト」には利益相反が潜んでいる、と言ってしまえばそれまでのことかと思います。
最も高い価格を提示した買収者に株式を売却することを株主に推奨する義務を負っている人その人が実は株式の買い手である、
という状態では、始めから正しい答え自体がないと言わねばなりません。
「経営陣は株主の利益を代表している存在である。」と考えると、概念的には言わば「売り手=買い手」の状態となっています。
これでは経営陣は「フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)」の果たしようがありません。
もう少し論点を整理してみましょう。
「マネジメント・バイアウト」の問題点は、大きく分けると次の2点になると思います。

@経営陣(買い手)と投資家(売り手)との間の情報の非対称性(経営陣の方が圧倒的に発行者の情報を詳しく知っている)。
A経営陣は株主が所有している株式をできるだけ高い価格で売却できるよう最善を尽くす義務があると同時に、
 経営陣自身は株式をできるだけ低い価格で購入したいというインセンティブがある(利益相反の問題)。

紹介している記事では、上記の「A」の問題点(利益相反の問題点)についてのみ解説がなされており、
上記の「@」の問題点については一切言及がない、と言ってよいかと思います。
仮に、経営陣(買い手)と投資家(売り手)との間の情報の非対称性が一切ないならば(両者の間に情報格差は一切ないならば)、
すなわち、投資家(売り手)は経営陣(買い手)と全く同じだけ発行者の情報を詳しく知っているならば、
上記の「A」の問題点(利益相反の問題点)は実は全く問題になりません。
なぜならば、その場合は株式の譲渡価額(公開買付における買付価格等)が高いが低いかを投資家自身が十分に判断できるからです。
その場合は、経営陣による応募の推奨や賛同の意見そのものが、全く意味をなさない、ということになります。
利益相反とは言っても、マネジメント・バイアウトとは局地的には会社財産そのものの譲渡や取得ではありません。
株式の譲渡は株主自身が自分の意思で決められることです。
つまり、株主が所有している財産を取締役が売却するわけではないわけです。
「取締役と会社との取引」には利益相反の可能性があります(そしてそれは株主の意思が届かないところにあります)が、
「投資家と買収者との取引」というのは、たとえ買収者が取締役である場合であっても、
株式売却の是非は究極的には投資家自身が決めることであるわけです。
取締役が株式売却を決定するわけでは全くないわけです(この点が「取締役と会社との取引」とは決定的に異なるわけです)。
取締役がどんなに応募を推奨しようがどんなに賛同の意見を表明しようが、
株式の売却を意思決定するのは投資家自身なのです。
したがって、法制度がしなければならないことは、煎じ詰めれば、
株式の譲渡価額(公開買付における買付価格等)が高いが低いかを投資家自身が十分に判断できるようにすることなのです。
そのための原則的手段というのは、やはり「ディスクロージャー」ということになるのではないかと思います。
とは言うものの、投資家(売り手)と経営陣(買い手)との間の情報の非対称性は現実には著しいものがあるわけですが。
記事には、米国の運用方針として次のように書かれています。

>委員会の議論、マーケットチェックの内容、取引の理由、交渉プロセスなどに関する詳細を公表

この記事の趣旨もそうなのですが、現実には情報の非対称性があることを前提に法制度を整備することになるわけです。
ただ、純粋な理論上の話になりますが、投資家(売り手)と経営陣(買い手)との間の情報の非対称性が一切ないならば、
この記事で説明されている利益相反の問題は実は全く生じないのです。
すなわち、この記事で説明されている利益相反の問題の本質的原因は、情報の非対称性なのです。