2019年2月23日(土)
東栄リーファーライン MBO失敗の原因を考える
(M&A online
2018-01-29)
ttps://maonline.jp/articles/toeireefer
1月12日、マグロ運搬船の運行を展開する株式会社東栄リーファーライン<9133>(以下、東栄)が、
11月9日より開始した公開買付の応募総数が下限に達しなかったため、公開買付を中止することを発表した。
今回の公開買付の買付者は、現在の東栄の役員5名が創設した株式会社オーシャン(以下、オーシャン)であり、
所謂MBO(マネジメント・バイアウト)に該当するものである。
MBOの不成立といえば、2007年の不動産会社のテーオーシー(TOC)<8841>や2008年の女性下着販売のシャルレ<9885>など
がある。今回なぜ東栄はMBOを実現することができなかったのだろうか。MBOに失敗した理由とその背景について迫ってみたい。
MBOは、買付者が買収対象企業の経営者であるというだけで、その手続や結果についてはTOB(公開買付)と何ら変わらない。
つまり、買付者が3分の1超の株式を市場から取得する際に、株式を譲渡してくれる既存株主を応募形式で募り、
下限取得株式数を下回ればその公開買付はなかったことになるし、
成立すれば買付者は買付対象会社をほぼ完全に支配することが可能になる。
一般的にTOBを実施する際は、開始時の株価に10〜20%程度のプレミアムがつく。現状の株価より一定程度高い水準でないと
既存株主が応募してくれない可能性が高まるし、会社を支配するということは現在の株式価値よりも高い価値を享受できる、
つまりコントロールプレミアムが上乗せされると考えられるからである。
そのため、TOBやMBOが発表された株式は、翌日に株価が急騰することが一般的である。現在より高い株価で買い取ってくれる
ことが保証されているのなら、安いうちに買っておきたいと思う株主が多く存在するからだ。
しかし、このMBOのアナウンスによって株価が公募価格よりも高くなってしまったらどうなるだろう?
市場で売却する方が手続面でも圧倒的に楽な上に、応募したときよりも利益が高くなるのであれば、
わざわざ公募に応えてくれる株主はほとんどいなくなる。そのため、MBOが成功するためには、
既存株主の多くが現状の会社のままだとこれ以上成長することが難しいと考えていることが必要なのである。
もし買収対象会社が現状の環境下では成長が難しいと思われていれば、
MBOの発表によりほぼ人為的に株価が吊り上ったとしても、
すぐに売られて元の株価に戻る。高値になっても持ち続けたいと思う、つまりその会社にまだ期待感があるからこそ、
株価が公募価格を上回った状態が続き、募集下限に満たないままMBOが失敗に終わるようになっているのである。
上記を踏まえたうえで、東栄がMBOを成功させられなかった理由を考えてみたい。
買付予定数 5,535,242株
買付予定数の下限 3,689,400株
募集期間 平成29年11月9日〜平成30年1月11日まで(40営業日)
募集価格 600円
また、同日に発表されている「MBOの実施及び応募の推奨に関するお知らせ」によると、このTOBが成立した後は、
オーシャンが100%支配株主になるように、株式併合を実施した上で単元未満株式を買い取る旨が書かれている。
つまり、MBOの一般的な目的である上場廃止を目論んでいるということだ。
このアナウンスで、翌日の11月9日の東栄株価は、前日終値518円から596円まで急騰した(前日比+15%)。
この時点で既に募集価格に近付いているため、
あとは「既存株主が、東栄のMBO自体に賛成するかどうか」がMBOの成否を隔てることは釈然としていた。
ここで、この段階でのMBOが正しかったのかを判断するために、東栄の財務諸表を見てみる。
直近年度末である17年3月期の有価証券報告書を見てみると、
収益は減少しているものの、営業利益や経常利益は比較的安定している。
東栄の連結財務諸表(17年3月期の有価証券報告書)
また、貸付金の貸付先は少し気になるものの、総資産と比較して多額の現預金も保有しており、もっと設備投資に
先述した「MBOの実施及び応募の推奨に関するお知らせ」には、現経営陣がなぜMBOの実効に踏み切ったのかが書かれている。
それをまとめてみると以下のようになる。
○テクノロジーが発展した昨今の市況の変化速度は、かつてないほどに高速化している
○漁獲規制、燃料価格、為替レート等のコントロール不可能な外部要因が多く存在する
○乗組員の高齢化及び新規参入者の減少により、主たる事業である海運事業の衰退が見込まれる
○そのような中では新規事業に積極的に取り組む必要があるが、
それをやってしまうと多くの在庫や固定資産が減損リスクに晒されることになる
確かにそのとおりだと言えるようなことが書かれている。しかし、現状はまだ業績自体は悪化方向に走っているようには
見受けられないし、なぜこのタイミングでMBOをしなければならないのか?
という気持ちも同時に湧き上がってくることは否めない。
アクティビストファンドが、企業価値を高める余地があると考えてMBO発表後に大量に買い占めているように、
もう少し現状の株主構成で頑張ってみてはどうかと考えている株主が結果的に多かったのではないだろうか。
募集価格の算定が甘かったとは決して思わない。むしろ募集価格が650円や700円となっていたらどんなバリュエーションが
行われてその算定結果となったのかと疑問に思うであろうし、
仮にこの募集価格が650円程度であったとしても、結果は同じであった可能性もある。
結局、旧村上系ファンドが介入してきたことも然り、株価が非常に割安な状態であり、かつ、
まだ将来的な成長が十分に見込めると多くの株主が思っている段階でのMBOとなってしまったことが、
今回のMBO失敗の最大の要因であると言えよう。
旧村上ファンド、冷凍マグロ運搬船会社へTOB仕掛け大誤算→一転して勝利
(Business
Journal 2018.02.04)
ttps://biz-journal.jp/2018/02/post_22187_2.html
冷凍マグロ運搬船を運航する東栄リーファーラインは1月12日、現社長らによるMBO(経営陣による買収)が不成立になった
と発表した。議決権の3分の2にあたる368万株以上の取得を目指していたが、集まったのは252万株にとどまった。
MBOにノーを突きつけたのは、かつて「物言う株主」として一世を風靡した
「村上ファンド」(M&Aコンサルティング、MACアセットマネジメントなどの総称)の流れを汲む投資ファンドだ。
東栄リーファは、1959年に東栄物産の商号で設立して貿易業を始め、海運業に進出するため74年に現社名に商号変更。
90年に日本証券業協会に店頭登録、2004年にジャスダック市場に株式を上場した。
現在、冷凍さしみマグロを市場に供給する事業を柱としている。世界的なマグロ人気を背景に海外勢が乱獲し始めたことも
影響して、漁獲量が安定せず業績は悪化していた。18年3月期の売り上げは前期比3.9%増の82億円だが、
営業利益は3.0%減の6億円、純利益は11.9%減の4億円の見込みだ。
より高い収益を生み出す新規事業として、養殖用飼料の買い付け、低燃費の小型FRP漁船によるマグロ延縄事業などへの
参画を計画した。「新規事業を拡大することと株価の継続的な上昇、配当の増額を求める投資家の期待に応え続けることを
両立させるのは困難だ」として、MBOによる上場廃止に踏み切ることにした。
東栄リーファは17年11月8日、河合弘文社長らが出資するオーシャンによるMBOを行うと発表した。
オーシャンは河合社長のほか東栄リーファの取締役4人が役員を兼任している。
オーシャンは1株600円で東栄リーファ株のTOB(株式公開買い付け)を行った。
同社株式の8.55%を保有する筆頭株主の東栄開発などとTOB応募契約を結んだ。用意万端整えてTOBに臨んだわけだ。
そこへ、旧村上ファンド系の投資ファンドのオフィスサポートとレノがTOBに参戦してきた。
17年11月末、オフィスサポートが7.4%の株式を握る大株主になったことが大量保有報告書で判明。
その後、買い増しを続け、レノとの共同保有比率は9.07%、11.68%、14.9%と高まってきた。
オフィスサポートの池田龍哉社長は旧村上ファンドの総務部長。一方、レノの福島啓修社長は、
村上世彰氏の側近で旧村上ファンドの企画課長だった三浦恵美氏の後任として同職に就いた。
レノは存在感を増し「村上ファンドの復活」と話題を呼んだ。
【続報】
東栄リーファーラインは2月7日、MBOを再び実施すると発表した。株式の買い付け価格を前回から200円引き上げ800円とした。
前回、MBOが不成立となった後、村上世彰氏と話し合った結果、MBOに賛同を得たという。
村上氏は東栄リーファーの第1位の株主であるオフィスサポート(レノとの共同で保有)と第2位の株主のレノの親会社の
大株主という立場だ。旧村上ファンド勢はMBO株価の引き上げを狙って、株式を買い増し、経営陣の揺さぶりをかけた末に
勝利したことになる。東栄リーファーの河合弘文社長らが出資するオーシャンが、議決権の3分の2以上にあたる368万株を下限に、
TOB(株式公開買い付け)で株式を取得する。買い付け期間は3月23日まで。MBO成立後、東栄リーファーは上場廃止となる。
2018/05/25
株式会社東京証券取引所
東証
上場廃止等の決定:(株)東栄リーファーライン
ttps://www.jpx.co.jp/news/1021/20180525-13.html
1.上場廃止及び整理銘柄指定
(1)銘柄
株式会社東栄リーファーライン 株式
(コード:9133、市場区分:JASDAQスタンダード)
(2)整理銘柄指定期間
2018年5月25日(金)から2018年6月21日(木)まで
(3)上場廃止日
2018年6月22日(金)
(注)速やかに上場廃止すべき事情が発生した場合は、上記整理銘柄指定期間及び上場廃止日を変更することがあります。
(4)条文
有価証券上場規程第604条の2第1項第3号
(関連規則は同規程第601条第1項第20号)
(その他、当取引所が株式の上場廃止を適当と認めた場合に該当するため)
(5)理由
本日開催された株式会社東栄リーファーライン(以下「同社」という。)の株主総会において、
株式会社オーシャン(非上場)を除く同社株主の所有する同社株式の数が1株に満たない端数となる割合で行う
株式の併合に係る議案が承認されました。
東栄リーファーライン : 日経会社情報DIGITAL : 日経電子版 -
日本経済新聞
ttps://www.nikkei.com/nkd/company/?nik_code=0008232
2017/11/13
株式会社東栄リーファーライン
四半期報告書−第59期第2四半期(平成29年7月1日−平成29年9月30日)
(ウェブサイト上と同じPDFファイル)
2018/2/13
株式会社東栄リーファーライン
四半期報告書−第59期第3四半期(平成29年10月1日−平成29年12月31日)
(ウェブサイト上と同じPDFファイル)
9133 東栄リーファーライン ≪ 海運業 / JASDAQ
≫
(株主プロ)
ttp://www.kabupro.jp/yuho/9133.htm
株式会社東栄リーファーライン
平成30年3月期 第59期 決算公告
(ウェブサイト上と同じPDFファイル)
>決算公告(貸借対照表・損益計算書)
>「会社法第440条」の定めに基づき、貸借対照表および損益計算書を開示致しております。
2018年12月18日(火)のコメントで、ソフトバンク株式会社の上場に関する記事を計26本紹介し、
「有価証券の上場には4つのパターンがある。」という資料を作成し、以降、集中的に証券制度について考察を行っているのだが、
2018年12月18日(火)から昨日までの各コメントの要約付きのリンクをまとめたページ(昨日現在、合計67日間のコメント)。↓
各コメントの要約付きの過去のリンク(2018年12月18日(火)〜)
http://citizen.nobody.jp/html/201902/PastLinksWithASummaryOfEachComment.html
【コメント】
昨日書きました株式会社東栄リーファーラインの事例に一言だけ追記をします。
昨日のコメントでは、MBOの実現可能性について、次のように書きました。
>MBOに関する公開買付が成功するのか不成立に終わるのか(そして、買付価格を引き上げた公開買付の再実施が行われるのか否か)は、
>「会社の経営陣はどれくらい会社の非公開化を望んでいるのか?」という願望度にも依存します。
>「そこまで言うのなら、弊社は今後も上場したまま経営を行っていきたいと思います(それが市場の投資家の意思でしょう)。」、
>と会社の経営陣が言う可能性は十分にある(すなわち、買付価格を引き上げた公開買付の再実施は行われない)のです。
今日紹介しているM&A
onlineの記事には、記事のタイトル通り、
東栄リーファーラインのMBO(第1回目の公開買付)が失敗に終わった原因について考察がなされています。
その考察の中で、東栄リーファーラインのMBO(第1回目の公開買付)が失敗に終わった原因について、
端的に次のように表現されています。
>漠然としたMBOの動機
株式会社東栄リーファーラインの経営陣が果たしてどれだけの強い思いをもってMBOを成し遂げたいと思っていたのかは
実は漠然としていた、という趣旨のことがM&A
onlineの記事には書かれています。
当時、株式会社東栄リーファーラインは「MBOの実施及び応募の推奨に関するお知らせ」というプレスリリースを発表したのですが、
そのプレスリリースの中でMBOの動機について記載されていたわけですが、M&A
onlineの記事には、
「株式会社東栄リーファーラインの経営陣はなぜMBOの実効に踏み切ったのか?」について、次のように書かれています。
> 確かにそのとおりだと言えるようなことが書かれている。
>しかし、現状はまだ業績自体は悪化方向に走っているようには見受けられないし、
>なぜこのタイミングでMBOをしなければならないのか?という気持ちも同時に湧き上がってくることは否めない。
>アクティビストファンドが、企業価値を高める余地があると考えてMBO発表後に大量に買い占めているように、
>もう少し現状の株主構成で頑張ってみてはどうかと考えている株主が結果的に多かったのではないだろうか。
M&A
onlineの記事のこれらの記述を読みますと、確かに、
昨日私が書いたコメントと非常に深く関連すること・非常に類似した事柄が書かれてあるなと自分でも思うわけですが、
もちろん私はM&A
onlineとも株式会社ストライクとも関係はありません。
経営や会計や法律やM&Aについてわずかでも学んだことがある人であれば、同じような結論に達するというだけなのだと思います。
それから、昨日のコメントでは次のように書きました。
>ちなみに、日本では、上場株式を市場内で短期間に3分の1超買い集めても、金融商品取引法上は何らの問題もありません。
仮に、会社の経営陣が明確な目的と強い熱意を持ってMBOを実施しようとしている場合は、
多少割高であってもMBOを成し遂げるために3分の1超を所有している株主から株式を買い取るということが現実にあり得ます。
14年前のちょうど今頃に、極めて類似した事例があったと思います。
14年前のちょうど今頃、村上ファンドと関係がある某会社が某株式の過半数を某会社の子会社に売り渡した、という事例がありました。
ある会社について「完全子会社化を絶対に成し遂げたい。」と将来のある完全親会社が切望している場合、
一定以上の株式を先に買い集めることができれば、完全親会社が相対的に高い価格で株式を買う、ということが現実にあるのです。