2018年2月7日(木)



今日もいくつか記事を紹介しながら、一言ずつコメントを書いていきたいと思います。

 

2018年12月18日(火)のコメントで、ソフトバンク株式会社の上場に関する記事を計26本紹介し、
「有価証券の上場には4つのパターンがある。」という資料を作成し、以降、集中的に証券制度について考察を行っているのだが、
2018年12月18日(火)から昨日までの各コメントの要約付きのリンクをまとめたページ(昨日現在、合計51日間のコメント)。↓

各コメントの要約付きの過去のリンク(2018年12月18日(火)〜)
http://citizen.nobody.jp/html/201902/PastLinksWithASummaryOfEachComment.html

 

 


デサント、伊藤忠TOBに反対「全く合理的でない」

スポーツ用品大手のデサントは7日、
同社に対して筆頭株主の伊藤忠商事が実施しているTOB(株式公開買い付け)への反対意見を表明した。
資本の論理による圧力で経営陣の刷新などを求める伊藤忠に反発した形で、
日本では異例の大企業同士による敵対的TOBに発展する。
デサントの辻本謙一取締役常務執行役員は7日、大阪市内で報道陣の取材に応じた。
伊藤忠が実施しているTOB(株式公開買い付け)への反対を表明したことに
「事実と異なる点が多々ある。まったく合理的なものではない。ただ、建設的な話し合いを強く望む」と述べた。
伊藤忠がデサントの事業基盤について、韓国事業に過度に依存していると指摘している点は
「過去からグローバル化を進めている。韓国が最大の成長ドライバーであることは事実だが、具体的には日本の収益力改善、
中国事業拡大で3本の柱戦略を進めている。韓国一本足は不適切な表現」と反論した。
伊藤忠との関係は「大株主でありビジネスパートナーで、長い歴史で密接な関係を築いてきた。
一方で取引先を伊藤忠経由に変更するよう強いられる要請もあった」と説明した。
伊藤忠が情報漏洩などコーポレートガバナンスを問題視していることについては
「漏洩はコーポレートガバナンスと関係なく、臆測だ。コーポレート体制は社外を過半数とするガバナンスを提案する予定だ。
独立した社外を4人、執行取締役は1人提案する」と述べた。
また、取締役の構成については「我々は以前から数を引き下げたいとの提案は以前からしていたものの、
伊藤忠からの合意は得られなかった。社外を過半数にするということも以前から考えていた」と述べた。
伊藤忠の買い付け価格は2800円と直前の水準より5割と、高いプレミアムを乗せた。
「非常に高いプレミアムだが、(抽選になるため)売られる方は一部になるだろう。ただ我々としては自由なパートナー探しが
できなくなる可能性がある。そのリスクを(株主の)皆さんがかぶることになることを危惧している」と語った。
デサントは7日の臨時取締役会で対応を決めた。10人いる取締役のうち伊藤忠出身は2人で、1人は欠席、1人は意見を留保した。
伊藤忠は同日、デサントの表明に対し「TOBを粛々と進めていく」とコメントした。
伊藤忠はTOBで最大約200億円を投じて、デサント株の保有比率を3割から総会で重要事項への拒否権がある4割に引き上げる計画だ。
買い付け期間は3月14日まで。TOBが成立した場合、両社の協議の行方が焦点となる。伊藤忠は協議が不調に終われば、
デサントの株主総会で株主提案を出す意向も示しており、委任状争奪戦まで発展する可能性もある。
(日本経済新聞 2019/2/7 15:58)
ttps://www.nikkei.com/article/DGXMZO41018070X00C19A2000000/

 

 



2018年2月5日(火)日本経済新聞
デサント、反対表明へ 伊藤忠 敵対的TOBに発展
(記事)




2018年2月6日(水)日本経済新聞
「敵対的TOB」続く攻防 引かぬ伊藤忠 デサント、議論続行
(記事)


 

H31.02.07 16:40
株式会社デサント
意見表明報告書  
(EDINET上と同じPDFファイル)
 

 

2019年2月7日
株式会社デサント
BSインベストメント株式会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ
ttp://www.descente.co.jp/jp/ir/19020701_JP.pdf

(ウェブサイト上と同じPDFファイル)



2019年2月7日
株式会社デサント
「BSインベストメント株式会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」補足資料
ttp://www.descente.co.jp/jp/ir/19020702_JP.pdf

(ウェブサイト上と同じPDFファイル)

 

 


【コメント】
伊藤忠商事によるデサントに対する公開買付については、2019年2月1日(金)の朝刊が紙の新聞記事としては第一報であったわけですが、
株式会社デサントは「意見表明報告書」を公開買付開始後も提出していませんでした。
対象会社が「意見表明報告書」を提出しなかったからといって公開買付手続きが無効になるというわけではないのですが、
金融商品取引法上は対象会社は「意見表明報告書」を提出しなければならない、と定められています。
伊藤忠商事によるデサントに対する公開買付についてのデサント側の意見表明については、
公開買付開始後も新聞報道がいくつかなされていたわけですが、
本日2019年2月7日(木)に株式会社デサントは「意見表明報告書」を提出しました。
デサント側は徹底抗戦の構えですが、「意見表明報告書」から目に止まった部分をキャプチャーしてみたいと思います。

3【当該公開買付けに関する意見の内容、根拠及び理由】
(3) 本公開買付けに関する意見の理由
@本公開買付けは強圧的な手法により一般株主に対して正当な保障なく
伊藤忠商事による当社の経営のリスクを負わせるものであること
「3/11ページ」

確かに、伊藤忠商事が設定した買付価格は直近の市場価格に対して多額のプレミアムを付した金額となっていますが、
設定された上限を超える数の買付けは行われず、あん分比例の方式により決済が行われますので、
投資家の利益保護が十分ではない(応募株式全ての売却が保証されているわけではない)、という主張がデサント側からなされています。
その論点も投資家保護の観点から言えば証券制度上重要な論点だと個人的には思うのですが、
「意見表明報告書」を読んで今日ふと思いましたのは、公開買付の結果(公開買付の成立後)、
伊藤忠商事は実質的にデサントの支配権を取得するのかどうか、という点です。
公開買付の結果、伊藤忠商事の所有議決権割合は「9.56%」だけ増加して40.00%になる見通しであるわけですが、
このことは逆から言えば、一般株主の所有議決権割合は「9.56%」だけ減少する、ということを意味するわけです。
そうしますと、「デサントの株主総会における議決権行使比率」はどのように変動するだろうか、と思いました。
話を簡略化して言えば、2018年6月開催の定時株主総会における議決権行使比率は、「87.35%」であったわけですが、
定時株主総会で議決権を行使した株主(一般株主)が公開買付に応募するのだとすれば、単純計算になりますが、
2019年6月開催の定時株主総会における議決権行使比率は同じく「87.35%」になります(つまり、議決権行使比率は変動しない)。
逆に、定時株主総会で議決権は行使しない株主(一般株主)が公開買付に応募するのだとすれば、単純計算になりますが、
2019年6月開催の定時株主総会における議決権行使比率は「96.91%」になります(つまり、議決権行使比率は増加する)。
前者の想定では、伊藤忠商事の実質的所有議決権割合は「45.79%」(=40.00%÷87.35%×100)にまで到達する一方、
後者の想定では、伊藤忠商事の実質的所有議決権割合は「41.28%」(=40.00%÷96.91%×100)に留まるわけです。
いずれの想定であっても、伊藤忠商事は実質的にデサントの支配権を取得することはない、と言えます。
ただ、会社に特定の大株主が誕生したのであれば次回からは定時株主総会で議決権を行使するのやめる、
という一般株主が今後表れないとも限りません。
なぜならば、一般株主からすると、自分がどのように議決権を行使しようとも、採決の結果は始めから分かっているからです。
その場合は、上記の実質的所有議決権割合の計算式の分母は小さくなります。
そして、分母が「80.00%未満」となった時、伊藤忠商事は実質的にデサントの支配権を取得することになります。
投票の結果は、投票用紙で決まるべきであって株主の名前で決まってはならないのです。

 



それから、「意見表明報告書」について、金融商品取引法の教科書から説明をスキャンして紹介したいと思います。


「ゼミナール 金融商品取引法」 大崎貞和 宍戸善一 著 (日本経済新聞出版社)
第7章 株式公開買付け(TOB)をめぐる規制
1. 株式公開買付規制
(3) 公開買付けの手続き
意見表明報告書と対質問回答報告書
「198〜199ページ」



そして、議論の題材として、記事を計4本紹介したいと思います。

 

2018年2月7日(木)日本経済新聞
ソフトバンクG 逆風下の最高益 4〜12月純利益1.5兆円 投資ファンドけん引
(記事)


2018年2月7日(木)日本経済新聞
「ユニコーン投資継続」 ソフトバンクG 孫社長が意欲
(記事)


2018年2月7日(木)日本経済新聞
国内ファンド、買収攻勢 新規枠6000億円、カネ余り象徴 競り合いで価格高騰も
(記事)


2018年2月6日(水)日本経済新聞
サンバイオ、株価1/5 売買代金は東証首位
(記事)


 



ソフトバンクの記事には、自社の時価総額が投資先企業の時価総額の合計を下回る「コングロマリット・ディスカウト」について
説明がなされており、ソフトバンクグループ株式の株価は安過ぎるとソフトバンク自身は考えている、と書かれています。
簡単に言えば、ソフトバンクグループは株式の時価総額同士を比較しているわけです。
しかし、株式の時価総額というのは、簡単に言えば「株価×発行済株式総数」であるわけです。
株式の時価総額は、株式そのものの価値を表しているとは決して言えないわけです。
株価というのは、その時々の取引の結果決まるだけなのです。
株価というのは、同じ時・同じ株式であっても、売り手と買い手が異なれば株価というのは異なるのです。
同じ日時・同じ株式であれば、株価というのは一定だ・株価はある1つの値に決まる、というわけでは決してないのです。
株価というのは、需給関係によって決まるのです。
他の言い方をすれば、株価というのは、売り手と買い手の(直接会って話したりはしませんが)価格交渉の結果変動するのです。
さらに言えば、株価というのは、「売り手の層の厚さ「と「買い手の層の厚さ」によって変動具合も変動するのです。
それで、サンバイオの記事についてなのですが、サンバイオ株式は4営業日連続でストップ安になった、と書かれています。
日本の株式市場では、株価について「制限値幅」が付いています。
「制限値幅」の下限をストップ安と呼び、「制限値幅」の上限をストップ高と呼ぶわけです。
「制限値幅」がある理由は、簡単に言えば、投資家の混乱を避けるためなのだと思います。
ここで私はふとあることが思い浮かびました。
「価格の変動に制限があるのなら、出来高にも制限を課するべきではないだろうか?」、と。
簡単に言えば、1日当たりの取引成立株式数に一定の制限を課する、という考え方があったりしないだろうかと思ったわけです。
スーパーやコンビニの店頭在庫に制限があるように、株式市場で売買できる株式の数に制限を設けるわけです。
投資家の混乱やパニック売りを避けるために、1日当たりの取引成立株式数に一定の制限を課する、
という考え方は投資家保護に資するのではないだろかと思ったわけです。
1日当たりの取引成立株式数に一定の制限を課する場合、株価の変動(幅)は通常小さくなると考えられます。
ソフトバンクグループではありませんが、株式の価値が株式の時価総額に近くなるのではないだろうかと思いました。
また、発行者に特定の大株主はおらず発行者の株主は皆少数割合しか株式を所有していないという状態では、
たとえ1日当たりの取引成立株式数に一定の制限を課しても、投資家間の市場における取引が大きく阻害されることはありません。
誰か一人の株主が大量の売り注文を出すということはないからです。
そして、誰か一人の投資家が大量の買い注文を出すということもないからです(また、1人で大量に保有するということもできません)。
平たく言うと、1日当たりの取引成立株式数に一定の制限を課すると、市場が安定するような気がします。
簡単に言うと、短期間に通常以上の株式の売買を行おうとする投資家(市場混乱要因)がいなくなるように思います。
私個人の発案になりますが、「制限出来高」という証券規制は、市場の安定化に資するように思いました。
投資家の混乱やパニック売りを避けるためには、「制限値幅」ではなく、「制限出来高」が有効であるように思います。
概念的には、(日常的に作用する)「サーキット・ブレーカー」に近い証券規制と言えると思います。

 



また、私が提唱している「制限出来高」には、実務上の個々の投資家の投資行動のことも考慮していると言えると思います。
現実には、投資家は24時間365日投資行動を取っているわけではありません。
機関投資家の業務執行者として専属で証券投資に携わっている人物でもない限り、
通常は、平日の昼間でさえ投資家は(特に一般の個人投資家は)投資行動は行っていないものです。
1日に多額の出来高が生じることは、実務上の観点から言っても望ましくはないことです。
改めて考えてみますと、機関投資家というのは株式市場にはいない存在だ、という言い方すらできるかもしれません。
極端なことを言えば、休日の方がかえって投資家は(特に一般の個人投資家は)投資行動を取りやすい、
という言い方すらできるかもしれません。
投資家は営業日に投資行動を取るのではありません。
投資家は、現実には休日に投資行動を取るのです。
「生身の人間の現実の行動」を鑑みるのも、実際の証券制度というものだと思います。
理論上は、情報が発信されると同時にその情報は株価に織り込まれます。
しかし、現実には、情報というのは、人間が読み込み分析をする時間というものが必要なのです。
かつて発行者は取引時間が終了した後に情報を開示しなければならなかったのは、それが理由であるわけです。
極端なことを言えば、多くの投資家は、平日の営業時間帯に、
株式市場で買い注文を出したり売り注文を出したり証券会社の窓口で公開買付に応募したりはしません。
極端なことを言えば、「専属で証券投資を行っている投資家は株式市場に1人もいない。」と言わねばならないと思います。
その意味では、常日頃から株式の取引が平準的に行われる必要があるように私は思うわけです。
常日頃から株式の取引が平準的に行われれば、証券会社への委託を通じて、
実生活上投資家は所有株式を安定的に売却することができ株式を安定的に購入することができる、
ということになるのではないかと思いました。

 


Generally speaking, investors who have exercised their voting rights so far
will sell their shares at this opportunity.

一般的なことを言えば、これまで議決権を行使してきた投資家はこの機会に所有株式を売却するでしょう。

 

The result of voting must be decided not on the basis of a shareholder but exclusively on the basis of each vote itself.
In other words, the result of voting must be decided not by a shareholder's name but only by a voting paper.

採決の結果は、専ら個々の票そのものに基づいて決まるべきであって、株主に基づいて決まってはならないのです。
他の言い方をすると、採決の結果は、投票用紙によって決まるべきであって、株主の名前で決まってはならないのです。

 

Itochu Corporation has declared clearly to Descente LTD.,
"We won't desert businesses of Descente. We intend to desert directors of Descente.
They will meet with their just deserts. But, we just want businesses of Descente.
Cash flows are generated not by directors but by businesses themselves."

伊藤忠商事株式会社は株式会社デサントに対し、はっきりとこう言明しています。
「我々はデサントの事業を決して見捨てたりはしない。我々はデサントの取締役を見捨てるつもりだ。
デサントの取締役は相応の処遇を受けるだろう。しかし、我々はデサントの事業が欲しいだけなのだ。
キャッシュフローは、取締役によってではなく、事業そのものによって生れるのだ。」と。

 


In theory, an issuer must not express its opinions on the intrinsic value of its share.
In other words, in theory, an issuer must not participate in an investment judgement of an ivestor.
An issuer's submitting its "position statement" is "groundless" in a sense
rather than contributes to an investment judgement of an investor.
The reason why an issuer must not express its opinions on the intrinsic value of its share is
that it knows the intrinsic value of its share more than invevestors in the market.
It is true that those expressions of the opinions can be said to be very helpful in a sense,
but those opinions are expressed by a party who knows the issuer much better than investors in the market.
To put it simply,
grounds for an investment judgement of an issuer are fundamentally different from those of investors in the market.
At least from a standpoint of the securities system, those opinions are no more than a noise.
Strange as it may sound, investors in the market can't understand the grounds for opinions expressed by an issuer at all
nor how an issuer has calclated the intrincisic value of its share at all, actually.
For investors in the market know disclosed information only but an issuer know itself a lot.
An issuer has calclated the intrincisic value of its share
on the basis of a lot of information which investors in the market never know.
Conceptually speaking, in the stock market, concerning every valuation of a share,
the intrinsic value of the share must be calculated only on the basis of information disclosed by an issuer.
A person, especially including an issuer itself, who knows information on an issuer better than the disclosed information
must never calculate the intrinsic value of the share nor express any opinions on the share in the market.

理論上は、発行者は自社株式の本源的価値について意見を表明してはならないのです。
他の言い方をすれば、理論上は、発行者は投資家の投資判断に関与してはならないのです。
発行者が「意見表明報告書」を提出することは、投資家の投資判断に資するというよりもむしろ
ある意味「根拠がない」ことなのです。
発行者は自社株式の本源的価値について意見を表明してはならない理由は、
発行者は市場の投資家よりも自社株式の本源的価値について知っているからです。
確かに、それらの意見表明はある意味非常に役立つとい言い方もできるのですが、
それらの意見は市場の投資家よりもはるかに発行者のことを知っている当事者から表明されたものなのです。
簡単に言えば、発行者の投資判断の根拠は市場の投資家の投資判断の根拠とは根源的に異なるのです。
少なくとも証券制度の立場から言えば、それらの意見は雑音に過ぎないのです。
奇妙に聞こえるかもしれませんが、市場の投資家は、実は、発行者が表明する意見の根拠が全く分かりませんし、
発行者がどのようにして自社株式の本源的価値を算定したのかが全く分からないのです。
というのは、市場の投資家は開示情報しか知らないのに対し、発行者は発行者自身について多くのことを知っているからです。
発行者は、市場の投資家が決して知ることのない多くの情報に基づいて自社株式の本源的価値を算定しているのです。
概念的な言い方になりますが、株式市場では、ある株式のあらゆる評価額に関して、
その株式の本源的価値は発行者から開示された情報のみに基づき算定されなければならないのです。
開示情報よりも発行者について多くの情報を知っている人―特に発行者自身も含めてですが―は、
株式市場で株式の本源的価値を算定してはなりませんしさらに株式について意見を表明してはならないのです。