2018年8月19日(日)
2018年8月18日(土)日本経済新聞
新株予約権での増資急増 公募より容易/希薄化進みにくく 資金調達、株安招く懸念も
(記事)
「四半期財務諸表の中の四半期損益計算書に記載される法人税の金額は、あくまで企業会計上の擬似的・仮想的な法人税の金額
に過ぎないのだから、法人税法との整合性を鑑みれば、会社制度から見ても証券制度から見ても、
法人税法を改正し法人は3ヶ月毎に(四半期毎に)確定申告を行えるようにするべきである。」、
という提案(法人税の「四半期申告・納付制度」、法人による「四半期納税制度」)を行った昨日のコメント↓
2018年8月18日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201808/20180818.html
【コメント】
2018年8月15日(水)〜2018年8月18日(土)のコメントに一言だけ追記をします。
2018年8月16日(木)に紹介しました事例の対象会社であるD.A.コンソーシアムホールディングス株式会社の
「2018年3月期
有価証券報告書」を見てみますと、
【新株予約権等の状況】が、26/214ページから57/214ページに渡って詳細に開示されているわけですが、
有価証券報告書に開示する【新株予約権等の状況】は証券制度上どの程度詳細でなければならないか、
という点について考えてみました。
開示項目を順番に見ていきますと、まず【ストックオプション制度の内容】が有価証券報告書に記載されているわけですが、
その中に「付与対象者の区分及び人数」という開示があります。
そこには、「当社取締役xxx名」、「当社使用人xxx名」、「当社執行役員xxx名」、「当社従業員xxx名」、
「当社子会社取締役xxx名」、「当社子会社執行役員xxx名」、といった具合に、付与対象者の区分と人数が記載されています。
ただ、付与対象者(新株予約権者)の氏名等は記載されていません。
発行者はストックオプション制度を導入しているのだが、
具体的に誰が付与対象者(新株予約権者)なのかは開示されていない、という状態であるわけです。
次に、【ライツプランの内容】が有価証券報告書に記載されているわけですが、
D.A.コンソーシアムホールディングス株式会社の場合は”該当事項はありません。”と記載されています。
D.A.コンソーシアムホールディングス株式会社はライツプランを実施したことはないということが分かります。
最後に、【その他の新株予約権等の状況】が有価証券報告書に記載されているわけですが、
D.A.コンソーシアムホールディングス株式会社の場合は”該当事項はありません。”と記載されています。
以上の記載・開示をまとめますと、D.A.コンソーシアムホールディングス株式会社は
ストックオプション制度以外で新株予約権を発行したことはない、ということが分かります。
より正確に言えば、D.A.コンソーシアムホールディングス株式会社は過去、
ライツプランを実施したりその他の新株予約権を発行したことがあったかもしれないのですが、
少なくともそれらに関連する未行使の新株予約権は有価証券報告書の決算日(期末日)時点では存在しない、ということが分かります。
今日紹介しています2018年8月18日(土)付けの日本経済新聞の記事にありますような
「証券会社を引受先とした新株予約権発行による増資」は、【その他の新株予約権等の状況】に分類されると思います。
ライツプランは、ライツ・オファリングあるいはライツ・イシューとも呼ばれる増資手法なのですが、
既存株主に新株予約権を無償で割り当て、それら既存株主に割り当てた新株予約権を行使してもらうことで
新株式発行による資金調達を行う、という増資手法です。
ストックオプションの導入にせよ、ライツプランの実施にせよ、証券会社に新株予約権を割り当てる場合にせよ、
行使価額修正条項付新株予約権付社債券等を発行する場合にせよ、その他何らかの目的を持った新株予約権の発行にせよ、
有価証券報告書上は(証券制度上は)新株予約権者の氏名は明らかにならない(開示はされない)、ということだと思います。
しかし、対象会社を完全子会社化するという場面を想定すると分かりますように、
買収者は新株予約権者の氏名を知る手段が欲しいと思うわけです。
特に潜在株式数が議決権割合の相当数以上になる大新株予約権者に関しては、その氏名を開示してもらいたいと思うでしょう。
そうでないと、買収者は、買収の手続きを開始する前に、事前に大新株予約権者と交渉を行うことができないからです。
発行済みの株式に関しては、コントロール・プレミアムやマイノリティ・ディスカウントという概念がありますが、
新株予約権の場合も全く同様に、「その新株予約権を譲渡してもらえば支配権を握れる。」という場面が現にあるわけです。
そのような場面では、新株予約権の権利行使価額以上に、潜在株式数(新株予約権の目的となっている株式の数)が、
その新株予約権の価値(実務上の譲渡価額等)を左右するわけです。
そしてさらに言えば、買収者の立場からすると、大新株予約権者の潜在株式数は買収の成否そのものをも左右するわけです。
証券制度上は大株主は開示しなければならないように、証券制度上は大新株予約権者も開示しなければならない、と思いました。
「あの人が支配株主になるのなら株式を売却する(証券制度上株式売却の機会を提供するべきだ)。」、ということと同様に、
「あの人が大新株予約権者であるのなら株式を売却する(もしくは株式の購入を控えることにする)。」、
と考える投資家がいても何らおかしくないわけです。
新株予約権者は、法律上は債権者なのですが、証券制度上は潜在的ではあるものの株主なのです。
一般に、新株予約権者は将来に権利行使をしようと思って新株予約権を引き受けるわけです。
一般に、発行者は将来に権利行使をされると思って新株予約権を発行するわけです。
「権利行使されることなく期限が到来し失効する。」、ということは新株約権者も発行者も実務上は想定しないわけです。
一般の投資家の立場からすると、「発行者が発行している新株予約権は権利行使可能期間に行使されるだろう。」
という予想を投資判断の際には持つわけです。
新株予約権は、将来に権利行使されるかもしれませんし権利行使されないかもしれませんが、
一般に、権利行使される見込み・蓋然性の方がはるかに高いと言えます(少なくとも市場の投資家はそう投資判断する)。
一般の投資家の立場からすると、「新株予約権者は将来に株主になるだろう。」、と予想をするわけです。
そうしますと、大株主の開示と同様に、大新株予約権者の開示が証券制度上求められるわけです。
新株予約権者は法律上は債権者かもしれませんが、株式市場では株主なのですから。
新株予約権は市場の投資家にとって少なくとも将来の予想(株式の本源的価値の算定)を左右する要因なのです。
有価証券報告書では、財務諸表と同様に、【新株予約権等の状況】については新株予約権者の氏名等も含め
できる限り詳細に開示を行う、ということが証券制度上は求められると思います。
特に、以前も少し指摘したことですが、実務上は「新株予約権を引き受けることができた。」というだけで、
その新株予約権者と発行者とは一般以上の関係にある、と言えるわけです。
一般の債権者であれば発行者は詳細に開示をする必要はありません(せいぜいメインバンクを開示すれば十分でしょう)が、
新株予約権者は全く一債権者ではない(発行者と一定以上の深い関係を持った債権者)わけです。
新株予約権者とは、大なり小なり有利な条件で新株式を引き受けることが発行者から認められた債権者であるわけです。
発行者との関連性・密接性を鑑みれば、新株予約権者の氏名等は非常に厳しい基準で開示されるべきであるわけです。
新株予約権者の潜在株式数(新株予約権の目的となっている株式の数)もさることながら、
発行者とのその関連性・密接性も市場の投資家からは気になるところ(なぜ引き受けることができたのか?、と)であるわけです。
新株予約権者の氏名等の開示は、非常に数多くの観点から株式市場において求められていることなのだと思います。