2018年6月30日(土)


「理論上は、実は上場企業は『同一日に』株主総会を開催しなければならない。」という点について書いた昨日のコメント↓

2018年6月29日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201806/20180629.html

 

 


【コメント】
昨日のコメントでは、「理論上は、実は上場企業は『同一日に』株主総会を開催しなければならない。」と書きました。
「上場企業は定時株主総会の決議の結果を記載した有価証券報告書を『同一日に』金融庁へ提出しなければならない。」、
という証券制度上の要請がその理由です。
証券制度上のその要請の理由をさらに書けば、「上場企業は決算の内容(財務諸表)を『同一日に』開示しなければならない。」、
という「銘柄間の比較可能性の担保」(投資家の投資判断に資するため)がその理由になります。
それで、上場企業の株主総会の開催日は理論上の同一日である必要があることと関連がありますが、昨日は次のように書きました。

>大昔の証券取引法では実際に上場企業は3月期決算でなければならないという規定になっていた、と以前聞いた記憶があります。

この点について少しだけ補足をしたいのですが、大昔の法人税法では法人は3月期決算でなければならないという規定になっていた、
ということであると思います(また、以前その旨話を聞いた記憶があります)。
これは法人税法の規定であるため、上場企業・非上場企業問わず、全法人が3月期決算でなければならないという規定に
大昔の法人税法ではなっていた、ということであるわけです。
その当時の商法と証券取引法が決算期や株主総会の開催日についてどのような規定になっていたのかは分かりませんが、
理詰めで考えれば、論理の流れから(規定の関連性を鑑みれば)、
商法と証券取引法では企業は3月期決算であることを前提とすることになりますから、
証券取引法では決算期についての規定は置かず、株主総会の開催日についてのみ規定を置くことになると思います。
大昔は、上場企業では株主は株主総会に出席はしない(書面による議決権行使のみを行う)ことが法制度上の前提であった、
ということになると思います(同一日に全ての上場企業が株主総会を開催することが法制度上の前提だから)。
法律上は有価証券報告書の提出日のみを統一すれば十分であり株主総会の開催日については発行者に任せる(開催日自体は任意)、
という考え方もありますが、「その規定でも必要十分だな。」と思いつつこの点についてあれこれ今考えているところですが、
株主総会に出席する投資家(=既存株主)と株主総会に出席できない投資家(=まだ株式は所有していない投資家)と間に
情報格差が生じる(既存株主は株主総会の会場で経営陣と接触する機会がある)ことを鑑みれば、
徹底的に理詰めで考えれば、「上場企業では、株主が出席する株主総会は開催しない。」
という結論に理論上はならないだろうかと今思っているところです。
「上場企業では、株主総会を一切開催しないとまでは言わないものの、株主による議決権の行使は書面による行使のみが認められる。」、
という結論が理論上は考えられると思いました。
現在のように、経営陣と対話をするというようなことは一切しない(選挙の際、有権者が投票所に行って投票箱に票を入れる
というだけの状態と同じ)、ということであれば、上場企業で株主が出席する株主総会を開催しても問題はないのでしょうが。
また、証券取引法により有価証券報告書の提出日を統一するとなりますと、
実務上は結局のところ株主総会の開催日が重複する事態が当然に考えられます。
実務上の株主総会の開催可能日は60日程度しかないわけです。
上場している発行者の数が60社を超えた時点で、必然的に株主総会の開催日が重複します。
「銘柄間の比較可能性の担保」だなどと言うのなら、株主は発行者Aと発行者Bの株主総会の両方に出席できなければならない、
ということになりますが、開催日が重複している場合はどちらか一方にしか出席できないというのは
「銘柄間の比較可能性の担保」に反するとも言えるでしょう(株主は両方の株主総会を比較できなければならないはずです)。
ですので、「上場企業では、株主が株主総会に出席するなどということはない。」と考える方が問題が生じないと思うわけです。
株主総会では株主は議決権を行使するのみ(特段、経営陣と対話をするなどはない)、という点から考えますと、
実務上は上場企業では議決権の行使は書面による行使のみに統一する方が情報格差が生じなくてよいのではないかと思いました。

 



細かいことを言えば、株主総会招集通知には当該期の財務諸表を添付することになりますから、
株式市場の全投資家のうち、既存株主だけは発行者の財務諸表を他の投資家よりも早期に入手・閲覧が可能になります。
既存株主だけは発行者の直近の財務諸表を知っており他の投資家はまだ発行者の直近の財務諸表を知らない、
という状態では株式市場の投資家の間で明らかな情報格差が生じていることになりますから、
発行者が当該期の有価証券報告書を金融庁に提出するまでは発行者の株式を取引することはできない、
という証券規制が求められます。
発行者が当該期の有価証券報告書を金融庁に提出するまでは、株式市場が閉鎖されなければならないわけです。
これも一種のサーキット・ブレーカーと言ってよいでしょう。
理詰めで考えれば、「発行者が株主総会招集通知を発送する日から発行者が当該期の有価証券報告書を金融庁に提出する日まで」
の間は、発行者の株式を取引することは一切できない、という結論になります。
実務上のことを考えれば、発行者の株式を株式市場で取引することができない期間は最短でも「2週間強」ということになります。
現実的なことを考え、発行者が株主総会招集通知を数日だけ余裕をもって発送したり
発行者が株主総会の開催日の次の日に当該期の有価証券報告書を金融庁に提出することを鑑みると、
実務上は発行者の株式を株式市場で取引することができない期間は実際には最短でも「3週間弱」ということになります。
現在の論調では、主に機関投資家が議案を吟味する時間を十分に確保する目的から、
株主総会招集通知をできる限り早期に発送することが要請されているわけですが、
理論上は、発行者が株主総会招集通知を早期に発送すれば早期に発送するほど、
結果、発行者の株式を株式市場で取引することができない期間は長くなります。
既存株主と市場の他の投資家とは、常に「同じ情報」に基づいて株式の取引を行わなければならないのです。

 


さらに、上記の論点と関連する情報開示に関する問題点があります。
昨今話題の「フェア・ディスクロージャー・ルール」では、上場規則に基づく決算短信が上場企業の株主総会の開催日の前に
既に市場に開示されている(すなわち、市場の投資家は全員発行者の財務諸表を既に知っている)ということがその理由なのでしょうが、
理論的には、「既存株主と既存株主以外の投資家との間の情報格差」(すなわち、直近の財務諸表の入手の差異こと)が
完全に度外視されている(直近の財務諸表は市場の全投資家にフェアに開示されていると見なされてしまっている)わけです。
上場規則に基づく決算短信がこの問題点を見えづらくしているだけなのです。
灯台下暗しと言いますか、盲点とはまさにこのことではないかと言いたくなるわけですが、
@「株主総会招集通知記載の財務諸表=有価証券報告書記載の財務諸表=監査済みの財務諸表」であり、
A「決算短信記載の財務諸表=未監査の財務諸表」であるわけですが、
確かにAの財務諸表は株主総会招集通知の発送前に既存株主を含む市場の全投資家に開示はされますが、
「会計監査」の有無という1点において、@の財務諸表とAの財務諸表とでは投資家の投資判断の材料として堪えられるか否かが
根本的に異なると言わねばならないわけです。
また、現在では、実務上会社法監査と金融商品取引法監査の2つがある(両者では準拠する規則が異なる)と言われていますが、
理論上は「発行者は株主総会招集通知に記載した財務諸表を有価証券報告書に記載する。」という考え方になります。
既存株主は株主総会招集通知に記載された財務諸表を根拠に株主総会で議決権の行使を行ったのだが、
既存株主や他の投資家は株式投資の際にはまた異なる財務諸表に基づいて投資判断を行う、
というのではそれぞれが利用する財務諸表に整合性がない(投資判断の根拠が2つあることになってしまう)わけです。
既存株主と他の投資家はそれぞれ異なる財務諸表を閲覧する(=「フェア・ディスクロージャー・ルール」に反する)、
という状態が生じてしまうわけです。
会社法上の財務諸表よりも金融商品取引法の財務諸表の方が投資家保護の観点からより詳細な情報開示を要請しているのならば、
「発行者は有価証券報告書に記載する財務諸表を株主総会招集通知に記載する。」ということをしなければならないわけです。
そうでなければ、既存株主と既存株主以外の投資家との間で財務諸表に関する情報格差が生じてしまうのです。
株主総会招集通知記載の財務諸表と有価証券報告書記載の財務諸表とは、理論上は必ず同じでなければならないのです。
非上場企業では「委任の結果報告」という目的・観点から株主総会招集通知(財務諸表を含む)を作成・発送すればよいのですが、
上場企業では、「株式の譲渡」(上場制度)を前提とした株主総会招集通知(財務諸表を含む)を作成・発送しなければならない、
ということになるわけです。
他の言い方をすれば、上場企業に関しては、会社法上の諸規則が金融商品取引法の規定の影響を受ける・に服する形になるわけです。
株主総会招集通知の作成・発送自体は会社法に従えばよいのですが、
特に財務諸表やその後の情報開示(上場制度)に関連する部分に関しては、
発行者は会社法ではなく始めから金融商品取引法に従うようにしなければ、情報格差が生じる原因になってしまうのです。
例えば財務諸表の作成で言えば、会社計算規則は「株式の譲渡」(上場制度)に堪えられないのです。
財務諸表等規則や企業会計基準のみが「株式の譲渡」(上場制度)に堪えられるのです。
すなわち、上場企業が会社計算規則に従った財務諸表を作成することは証券制度上の間違いなのです。
上場企業は、会社計算規則ではなく始めから財務諸表等規則や企業会計基準に従った財務諸表を作成し、
株主総会招集通知に記載するようにしなければならないのです(会社計算規則に従った財務諸表は招集通知に記載してはならない)。
なぜならば、市場の投資家は、財務諸表等規則や企業会計基準に従った財務諸表を閲覧するからです。
当たり前過ぎて灯台下暗し・盲点ですが、これが言わば財務諸表に関する「フェア・ディスクロージャー・ルール」なのです。
金融商品取引法上の有価証券報告書と会社法上の事業報告との差異や整理・統合(それぞれの制度上の位置付け)についてですが、
上場企業に関しては、既存株主だけが事業報告を入手・閲覧できるというのは開示情報という点でフェアではありませんので、
上記の「株主総会招集通知記載の財務諸表」の議論同様、情報開示を前提とした諸報告書を作成する必要が証券制度上あるわけです。
抜本的な解決策は、「上場企業は会社法上の事業報告を作成できない。」です(少なくとも証券制度から見ればその結論になります)。