2017年11月6日(月)

不動産から負動産へ:人口減少時代の土地問題


所有者の居所や生死が直ちに判明しない、いわゆる「所有者不明」の土地が拡大している。
地方から人が減り、地価の下落が続いているためだ。その結果、災害復旧や耕作放棄地の解消、空き家対策など、
地域社会の公益上の支障となる事態が各地で報告されている。2017年10月26日には、増田寛也元総務相らによる
「所有者不明土地問題研究会」が、このままではこうした所有者が不明な土地は40年までに約720万ヘクタールまで拡大し、
経済的損失は累計で約6兆円に上るとの試算を発表した。

○地方で問題は深刻化していた
昨今、社会的な関心が高まってきた土地の「所有者不明化」問題だが、地域レベルで見ると実は必ずしも新しい現象ではない。
1990年代初頭には、森林所有者に占める不在地主の割合は2割を超え、
林業関係者の間では、過疎化や相続人の増加に伴い所有者の把握が難しくなる恐れのあることが懸念されていた。
農業では、登記簿上の名義人が死亡者のままの、いわゆる相続未登記の農地が、
集約化や耕作放棄地対策の支障となる事例が各地で慢性的に発生してきた。
自治体の公共事業の用地取得においても、同様の問題は起きていた。
しかしながら、こうした問題の多くは、関係者の間で認識されつつも、あくまで農林業あるいは用地取得における
実務上の課題という位置付けにとどまってきた。
それが、近年、震災復興や空き家対策においてこの問題が取り沙汰されるようになり、
同時に都市部でも問題視されるようになったことで、広く政策課題として認識されるようになってきたのだ。

○土地情報基盤の未整備
そもそも、日本では、土地の所有・利用実態を把握する情報基盤が不十分である。
不動産登記簿、固定資産課税台帳、農地台帳など、目的別に各種台帳は作成されている。
だが、その内容や精度はさまざまで、一元的に情報を把握できる仕組みはない。
国土管理の土台となる地籍調査(土地の一区画ごとの面積、境界、所有者などの確定)は、
1951年の調査開始以来、進捗(しんちょく)率はいまだ52%にとどまる。一方で、個人の所有権は諸外国に比べて極めて強い。
各種台帳のうち、不動産登記簿が実質的に主要な所有者情報源となっているものの、権利の登記は任意である。
登記後に所有者が転居した場合も住所変更の通知義務はない。
そもそも不動産登記制度とは、権利の保全と取引の安全を確保するための仕組みであり、
行政が土地所有者情報を把握するためのものではない。
司法書士の間からは、「農地・山林はもらっても負担になるばかりで、相続人間で押し付け合いの状況」
「最近、相談者から、『宅地だけ登記したい、山林は要らないので登記しなくていい』と言われるケースが出てきた」
といった声も聞かれる。
土地を国土というレベルで見たとき、政策の基盤となる情報が、こうした個人の任意の上に成り立っているのは、
大きな問題だろう。そして、このことがほとんど議論されないまま、現在に至っている。

 


○フランスでも「所有者不明化」は起こっているのか
日本の民法と不動産登記法は、明治期以来、フランスおよびドイツの法制度を参考に形作られてきた。
特に権利の登記は、第三者への「対抗要件」という考え方をとっており、フランス法の考え方を採用したものだ。
具体的には、「不動産の売買などによる権利の変動は、当事者間の契約によって成立する。
ただし、第三者に権利を主張するためには登記を必要とする」という考え方である。
登記をしないと権利の変動そのものが成立しないというドイツ法の「成立要件」の考え方とは異なる。
では、日本と同じく登記を対抗要件としているフランスでは、相続登記が行われないことによる土地の「所有者不明化」問題は
起きているのだろうか。答えは、否である。
かつてはフランスでも、相続による物件変動があってもそれが必ず登記されているとは限らないことが、
フランス法の抱える不都合として認識されていた。そこで、登記法の大改正(1955年)などを通じて、
ノテールと呼ばれる公証人の関与を強化し、この問題を大幅に是正したのである。
相続処理の過程で公証人が相続人に相続登記を行うべきことを伝える仕組みが構築されており、
これが、「相続が発生しても登記がされない」という問題の発生を防いでいる。
一見するところ、日本と似ている制度を採用しているフランスだが、その制度の担い手という点で重要な違いがあり、
専門家の関与による相続登記の実現がなされているのである(※1)。

○今後必要な対策
では、日本では今後、どのような対策が必要だろうか。大きく次の3つに整理できる。
@相続登記の在り方
土地の「所有者不明化」問題の発生・拡大を防ぐために、
今後、最も重要かつ喫緊な課題が相続登記であることは、多くの関係者が指摘するところだ。
中期的には相続登記の在り方の見直しを進めつつ、まずは現行の任意の相続登記を前提として、
手続きの簡便化や専門家による手続き支援など、登記促進策を打ち出すことが急務である。
また、登記記録が古いままの土地が地域の土地利用の支障にならないよう、
こうした土地の利用を可能にするための法整備も必要だ。
A「受け皿」づくりの必要
「所有者不明化」問題の対策として、第二に重要なのは土地の「受け皿」づくりである。
人口が減少する中、使われない土地が増加しているからだ。
筆者らが行った自治体アンケート調査では、自治体が住民からの土地の寄付を受け取るのは、
道路用地など公的利用が見込める場合にほぼ限定されていることが分かった。
利用見込みのない土地が放置され、物理的な荒廃や、相続未登記による権利関係の複雑化が進まないよう、
土地の保全や地域の公益の観点から、非営利組織などによる新たな「受け皿」を作っていくことが必要だ。

 


B土地情報基盤のあり方
「所有者不明化」問題の対策として、第三の論点が土地情報基盤の在り方である。
相続登記の申請が任意である以上、現在の不動産登記制度だけで土地の所有者情報を把握することは困難だ。
この根本的な課題を乗り越えるため、既存の各種台帳を最大限に活用し、
基礎情報を効率的に把握できる仕組みを構築する必要がある。
台帳間の基本項目(住所、氏名、生年月日など)の標準化、互換性の確保、そして利用ルールの統一を図り、
情報連携を進めることが急務である。
現在の日本の土地制度は、明治の近代国家成立時に確立し、戦後、右肩上がりの経済成長期に修正・補完されてきたものだ。
地価高騰や乱開発など「過剰利用」への対応が中心であり、過疎化や人口減少に伴う諸課題を想定した制度にはなっていない。
土地の「所有者不明化」問題とは、こうした現行制度と社会の変化の狭間(はざま)で広がってきた構造的な課題である。
問題を一度に解決できる万能薬はない。
2017年6月に閣議決定された政府の「骨太の方針2017」では、所有者不明土地の有効活用について、
「法案の次期通常国会提出を目指す」ことが明記された。
地価の下落傾向が続き、「土地は資産」との前提が崩れていく中、土地を次世代へ引き継いでいくために、
どのような仕組みを作っていくべきなのか。
国、自治体、地域、そして私たち一人ひとりが「自分のこと」として考え、地道に制度見直しを重ねていくことが必要である。

(※1)^ フランスの制度については、小柳春一郎「フランス法における不動産の法的管理不全への対策―コルシカにおける
相続登記未了と2017年地籍正常化法―」『土地総合研究』2017年春号が詳しい。
(nippon.com 2017.11.06)
ttp://www.nippon.com/ja/currents/d00353/

 

「フランス法における不動産の法的管理不全への対策―コルシカにおける相続登記未了と2017年地籍正常化法―」
ttp://www.lij.jp/html/jli/jli_2017/2017spring_p069.pdf

「上記PDFファイル」




多言語発信サイト「nippon.com」について
ttp://www.nippon.com/ja/about-nippon-com/

 



所有者不明土地/歯止めかける総合的対策を

 日本の、そして地域社会の将来に計り知れない「損失」を与えかねない問題である。
 持ち主が分からなくなっている土地が、増加していることだ。所有者が亡くなった後に資産価値が低く、
売買の機会が少ない土地を中心に、相続登記が長年更新されてこなかったからである。
 増田寛也元総務相ら民間有識者でつくる研究会は先頃、推計を発表。
所有者不明土地が2040年に今の1.8倍の約720万ヘクタール(北海道の約9割の広さ)に増える可能性があり、
その間の経済的損失は計約6兆円に上るという。
 税収や街づくりをはじめ、影響は幅広い分野に及ぶ。持ち主が判然としない宅地、農地、林地などがこれ以上増えないよう、
総合的な対策を早期に講じなければならない。
 具体的に、どんなマイナスの影響があるのか。
 まずは固定資産税の徴収がままならなくなる。関係者の同意が必要な公共事業では、所有者を特定する調査に
多くの費用と手間・時間がかかる上、事業そのものの遅れや変更を余儀なくされかねない。
 そうした事例は、東日本大震災の復旧・復興事業で続出した。津波被災地の高台移転事業における
移転先の変更や事業の遅滞といったケースであり、この問題を顕在化させる契機になった。
 悪影響は、それだけにとどまらない。所有者が不明ということは、土地の管理が行われていないということだ。
 街の中の宅地であれば、景観や治安の悪化につながる恐れがある。
農地や林地なら耕作もされず荒廃し、洪水や土砂災害を防ぐ機能が低下。災害を甚大化させかねない。
 今後、持ち主不明地が一層拡大すると予想されるのは「人口減の加速化で、
宅地を含めて土地を利用する目的がなくなる」(増田氏)からだ。
 特に地方で深刻化する。相続人である地方出身の都市住民にとって田舎の土地は利用の見込みがない。
買い手もつかず、手放そうにも行き場がない。そんな土地が増える。早急に手を打つ必要がある。
 政府もやっと対策づくりに乗り出した。所有者不明地に利用権を設定し、公共性の高い事業に活用する仕組みを検討する。
相続登記の促進に力を入れるのは当然のことだ。
 登記は権利の保全が目的。義務ではなく任意であり、名義書き換えの手続きが面倒で税負担もあって
費用がかさむことも敬遠される要因だ。義務化を含めて、制度を見直す必要がある。手続きの簡素化や税の軽減にも努めたい。
 同時に重要なのは、人口減に伴い増加が想定される、利用見込みがない土地の対策。その受け皿づくりである。
 放置されれば、物理的な荒廃と共に、相続未登記による権利関係の複雑化がさらに進む。
そうした土地について利活用を含め、いかに管理するか。公有化も選択肢に、受け皿整備に知恵を絞りたい。
(河北新報 2017年11月06日月曜日)
ttp://www.kahoku.co.jp/editorial/20171106_01.html

 

 



【コメント】
「nippon.com」という時事に関する論説文を掲載しているサイトを見かけましたので紹介します。
「nippon.com」というサイトは、「多言語発信サイト」と自らのことを表現しており、日本語に加え、
英語、中国語(簡体字、繁体字)、フランス語、スペイン語、アラビア語、ロシア語で論説文がアップロードされています。
非常にたくさんの論説文が日々アップロードされているわけですが、
やや長文になりましたが、「所有者不明の土地」についての論説文を引用し紹介しました。
「所有者不明の土地」に関しては、最近では2017年10月29日(日) にコメントを書いていますので参考にして下さい。

2017年10月29日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201710/20171029.html

以下、「nippon.com」の記事を題材に、「所有者不明の土地」に関して一言だけコメントを書きたいと思います。
2017年10月29日(日) にも書きましたように、日本においても登記を行うことは不動産登記法上の義務であるわけですが、
記事では、登記の位置付けについて、フランスとドイツの法制度を比較して次のように書かれています。

>日本の民法と不動産登記法は、明治期以来、フランスおよびドイツの法制度を参考に形作られてきた。
>特に権利の登記は、第三者への「対抗要件」という考え方をとっており、フランス法の考え方を採用したものだ。
>具体的には、「不動産の売買などによる権利の変動は、当事者間の契約によって成立する。
>ただし、第三者に権利を主張するためには登記を必要とする」という考え方である。
>登記をしないと権利の変動そのものが成立しないというドイツ法の「成立要件」の考え方とは異なる。

結論を先に言えば、日本でもフランスでも、登記を行うことは権利の「成立要件」であるわけです。
なぜならば、権利が「成立」しているからこそ、第三者に「対抗」できるからです。
権利は「成立」していないが第三者に「対抗」できる、などという考え方はないわけです。
簡単に言えば、権利者は「私の権利は成立しています。」と言って第三者に自分の権利を主張するのではないでしょうか。
土地の取引について、甲(売り手)と乙(買い手)と丙(第三者)の3人がいるとして、
乙が土地を甲から取得したのに丙が「その土地は私の土地だ。」と言って来たとします。
この時、乙はどうやって丙に対して「あなたの言っていることは間違いです。この土地は私の土地です。」
と主張するのかと言えば、まさに不動産登記簿を丙に見せるわけです。
乙は丙に対し、「この土地の所有者の欄に私の氏名と住所が記載されていますよね。だからこの土地は私の土地なのです。」、
と言って自分の権利を主張するわけです。
不動産は、登記簿に所有者として記載されている人物に所有権がありますから、丙は自分の非を認めるしかないわけです。
極めて簡単に言えば、第三者への対抗要件とは権利そのものの成立要件のことである、と言っていいわけです。

 


また、そもそも登記というのは、「外形」を整える(真の権利者と登記内容とを一致させる)ことでもあるわけです。
真の権利者と登記内容が食い違っていること自体が登記の概念に反するわけです。
不動産の売り手と買い手との間でトラブルが起きさえしなければよい、というわけでは全くないわけです。
「権利者は誰か?」を表示することが登記のそもそもの目的なのですから、「登記は義務か任意か?」以前の話であるわけです。
売買では目的物を引き渡すように(目的物を引き渡さない売買などはない)、不動産の譲渡の際は登記を行うものなのです。
「登記は義務か任意か?」という質問は、「売買の際、目的物を相手方に引き渡すことは義務ですか?」という問いと同じです。
売買の際に、目的物を相手方に引き渡すことは義務でも何でもないわけです。
「そもそもあなた(当事者)はそれ(目的物の引渡し)をしたいということではありませんか?」、というだけであるわけです。
目的物を相手方に引き渡すことは、義務も何も、まさに当事者が行いたいことそのものではないでしょうか。
実務上は「登記は法的義務である。」という言い方をしてもよいわけです(不動産登記法にも明文の規定がある)が、
「当事者はそもそも登記を行いたいと考えている。」、という捉え方・概念整理を不動産取引ではしなければならないのです。

 


A registration is exactly what both intersted parties want to do.

登記というのは、まさに両当事者が行いたいことなのです。

 

A change of a registration is not a legal obligation,
just as a delivery of an object is not a legal obligation.
In other words, regarding real estate, a registration is a deal itself.
When you are asked a question "Is a rgistration a legal obligation?",
all you have to do is answer, "No, a registration is exactly what you want to do in your transactions in real estate."
A registration is what you want to do on the basis of the "principle of the freedom of contract."

登記事項の変更は法的義務ではありません。
ちょうど目的物の引渡しは法的義務ではないように、です。
他の言い方をすれば、不動産の場合は、登記は取引そのものなのです。
「登記は法的な義務ですか?」と尋ねられた時は、
「いいえ、登記は不動産の売買においてまさにあなたが行いたいことです。」と答えさえすればよいのです。
登記は、「契約自由の原則」に基づいてあなたが行いたいことなのです。

 

Obama is a "change", Trump is a "deal", whereas failed Schwarzenegger should say to uninterested you,
"You are not unwilling to register. It is a registration that you want to do." in the famous SF movie in 1990.
And, the registry officers. too, should say to you, "We Can Register It for You Wholeheartedly."

オバマは「チェンジ」であり、トランプは「ディール」ですが、
大統領になり損ねたシュワルツェネッガーは気の進まないあなたに1990年のあの有名なSF映画の中でこういうはずです。
「君は登記をしたくないんじゃない。君は登記をしたいんだ。」と。
また、登記官はあたなにこういうはずです。
「誠心誠意あなたのために登記を行います。」と。

 


And besides, Ivanka should say, "I can't speak English." (very fluently at that)

それから、イヴァンカは「私は英語が話せません。」と言うことでしょう(それも非常に流暢に)。