2017年10月20日(金)



関連するプレスリリースを1つ紹介し、昨日のコメントの続きになりますが、「合併」に関するコメントに一言だけ追記をします。

2017年10月19日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201710/20171019.html

2017年10月20日
京浜急行バス株式会社
子会社における吸収合併に関するお知らせ
ttp://www.keikyu.co.jp/file.jsp?assets/pdf/company/news/2017/20171020HP_17138KK.pdf

(ウェブサイト上と同じPDFファイル)

昨日のコメントの最後に説明不足の点があると書きましたが、それは煎じ詰めれば実は次の記述に集約されることです。

>「合併時点の両社の株式の価値」を算定・勘案することはしない、という考え方が、法人格の同一化ということを鑑みた場合は、
>結局のところは一番理論的だ、と今日気付きました(概念的には、合併ではまさに「存続会社株主=消滅会社株主」だから)。
>やや乱暴に言えば、存続会社の株式と消滅会社の株式の価値は同じだ(価値に違いはない)、と合併では考えるわけです。

昨日私が書きましたコメントを読んで、「何かおかしいな。」と気付いた人もいるのではないかと思うのですが、
昨日の合併方法では、株式1株当たりの価値・価額の違いを完全に度外視しているわけです。
例えば、トヨタと中小企業が合併するという場合でも、株式分割により「発行済株式総数を両社の『最小公倍数』に合わせる。」、
という手続きを行い、そして「1株対1株」という合併比率で合併を行う、と考えるわけですが、しかしこの合併方法ですと、
1株当たりの価値に極めて大きな違いがありますので、トヨタ株主に圧倒的に不利、中小企業株主に圧倒的に有利になるわけです。
この点についてどのような説明が付けられるのかと言えば、結局のところは、理論的には(理論上の前提としては)、
「合併というのは、事業規模や収益性が同じ会社同士でするものである。」、という説明付けになると思います。
ここでのキーワードは、"counterpart"という言葉・概念になります。
"counterpart"の基本的意味合いは、「対の一方」という意味であるのですが、そこから派生して、
"counterpart"は、(形・機能などが)よく似た者(物)、相対物、対照物、同等物、相当する物、という意味になります。
「合併は"counterpart"とするものである。」、元来の「合併」とは一言で言ってしまえはそういうことだったのだと思います。
「事業規模や収益性に違いがあっても、『合併比率』で調整すればよいのではないか。」、という考え方もありますが、
それはやはり合併の拡張版であって、元来の合併は対等なもの同士で合併する、であったわけです。
事業規模や収益性の違いが無視できるほどに小さい場合のみに、会社は合併をするものだったのだと思います。


Originally, in a merger, the other company concerned always used to be a counterpart of one company concerned.
To use a metaphor, Romeo and Juliet never marry even in the corporate management world.
 
元々は、合併においては、合併の相手方というのは合併をする会社と形・機能などがよく似た会社であるのが常だったのです。
比喩を用いて言うならば、ロミオとジュリエットは企業経営の世界でも決して結婚はしない、ということです。

 



神鋼副社長、データ改ざんでも「粉飾ない」

 神戸製鋼所の梅原尚人副社長は20日夜、「一連のデータ改ざんでも、財務諸表の会計数値に間違いないと断言できるのか」
との質問に対し「粉飾はない」と明言した。
 その上で「様々な手続きを経て財務諸表はできている。そういうところにおいてガバナンスが欠如していることはない」
との見方を示した。〔日経QUICKニュース(NQN)〕
(日本経済新聞 2017/10/20 20:19)
ttps://www.nikkei.com/article/DGXLASFL20HQS_Q7A021C1000000/

 


神戸鋼副社長、データ改ざん「業績への影響ある」

 神戸製鋼所(5406)の梅原尚人副社長は20日夜、品質データ改ざん問題が業績に与える影響について
「現時点でどの程度なのかは分からないが部分的にビジネスの影響はある」と述べた。
具体的には「(今回の不正発覚によって)顧客数社から、色々なコストが発生することについて(支払いを)求められている」ほか
「不適切な取引が売上高の4%を占めている。神戸鋼の材料は使わず、他社に変えられてしまうと言うのもあるだろう」と語った。
〔日経QUICKニュース(NQN)〕
(日本経済新聞 2017/10/20 19:48)
ttps://www.nikkei.com/article/DGXLASFL20HQI_Q7A021C1000000/

 


【コメント】
神戸製鋼所の件がここ2週間ほどさかんに報道されているわけですが、「粉飾はない」という副社長の主張は興味深いと思いました。
神戸製鋼所の件は財務諸表の虚偽表示に該当しないのでしょうか。
この点について少し考えてみましょう。
神戸製鋼所が「顧客に引き渡した」と主張している製品は、実際には引き渡していないわけです。
逆から言えば、顧客に「あなたは神戸製鋼所からこの製品の引渡しを受けましたか?」、と尋ねると、
顧客は「いいえ、私はその製品の引渡しは受けていません。」と答えるわけです。
簡単に言えば、顧客は注文した製品とは異なる製品を神戸製鋼所から受け取ったわけです。
確かに、検品をしなかった顧客にも一定度の非があるとは言えますが、
第一義的には神戸製鋼所に注文通りの製品を納品する義務があるわけです。
神戸製鋼所は、顧客が注文した製品とは異なる製品を納入したことを知っていたわけですから、
言わば引渡しの事象を作り上げたと言っていいわけであり、したがって、売上高の虚偽表示の一類型であると言えるでしょう。
顧客は、引渡しを受けた製品や製品代金の支払いに納得をしており、また、過去に現に製品代金を支払ったのだと思いますので、
売上債権の発生や売上代金の回収という観点(収益を認識するに足る会計上の要件は満たしているか否か)から見れば、
確かに会計上の収益の金額に粉飾はない(会計上の収益認識方法に間違っている点はない)とも言えるわけですが、
そもそもの話として、売上債権の発生原因に瑕疵があるわけです。
この場合の売上債権の発生原因は、顧客が勘違いをしたことであるわけです。
民法の文言で言えば、この場合の売上債権の発生原因は、「錯誤」であるわけです。
「納品をしていただきありがとうございました。契約通り製品代金を○月×日にお支払いいたします。」
と顧客が神戸製鋼所に言ったのは、「『錯誤』による意思表示」であるわけです。
「製品代金をお支払いいたします。」という顧客の意思表示は、顧客の「真意」(注文通りの製品を受け取り代金を支払いたい)
に対応しておらず、自身の「真意」に対応していないことを表意者(「顧客」)が意識していない、という状況であるわけです。
みずからした意思表示がその「真意」に対応していないことを表意者が意識していない場合(状況)のことを、
民法では、「錯誤による意思表示」と言います。
「真の納得」のない意思表示の一類型であると言っていいわけです。
一言で言えば、「製品代金をお支払いいたします。」という顧客の意思表示は、「錯誤の主張」であるわけです。
したがって、売上債権の発生自体が取り消されるべき(実務上は、製品代金の返金の必要も出てくる)、
という考え方になりますので、神戸製鋼所が過去計上した売上高の金額は虚偽であった、ということになるわけです。
結論を言えば、「神戸製鋼所の過年度の財務諸表の会計数値には間違いがある。」、ということになります。

 


上記の民法上の議論について補足をしますと、「製品代金をお支払いいたします。」という顧客の意思表示は、
「錯誤による意思表示」ではなく、「詐欺による意思表示」なのではないか、という考え方もあると思います。
この判別についてですが、「納入された製品の検査をどの程度顧客は行う義務があるか?」、という点が論点になると思います。
製鉄会社から鉄鋼製品の引渡しを受けた際、顧客は、数量や寸法だけではなく、
問題となっている品質面についても自社で検査を行う義務があるのではないでしょうか。
なぜなら、顧客は、今度は、その鉄鋼製品を使用して自社製品を生産し(多くの場合消費者に)販売を行っていくからです。
顧客の消費者に対し、「弊社がお客様に販売いたしました製品ですが、鉄鋼部分の部品については品質に問題がありましたが、
それは弊社が神戸製鋼所から仕入れた材料になりますので、弊社には責任はありません。
問題のあった鉄鋼部分の部品については神戸製鋼所様へお尋ねになってはいかがでしょうか。」、
と弁解をするかもしれませんが、消費者から見ると、そういった部分も含めて納品された材料を検査した上で、
製品を生産し販売を行う義務があるはずだ、と言いたくなるわけです。
消費者から見ると、注文した製品とは異なる製品の引渡しを受けた、ということになるわけです。
「鉄鋼会社が悪いのです。」、と言われても、消費者は当然納得できないわけです。
消費者は鉄鋼会社と取引を行っているわけではないのですから。
つまり、神戸製鋼所の顧客は、その後の生産工程や製品販売のプロセス(アフターケア等も含む)を鑑みれば、
「神戸製鋼所から引渡しを受けた鉄鋼製品の検査を自社で十分に行う義務を負っているもの」、という考え方になるわけです。
ですので、上記の議論では、「顧客は引渡しを受けた鉄鋼製品の検査を自社で十分に行っている」、
という前提で、「真の納得」のない意思表示の類型について考えました。
顧客としては、引渡しを受けた鉄鋼製品の検査を自社で行ったつもりだった(これで注文通りなのだろうと納得をした)のだが、
実は不十分な点があった(品質を十分に検査し切れていなかった)、という状態であるわけです。
実は引渡しを受けた製品には品質に問題があったのだが、検査は行ったもののその問題点を意識することなく、
間違った納得に基づき、「製品代金をお支払いいたします。」という意思表示を顧客は神戸製鋼所に行ったわけです。
ですので、この場合の顧客の意思表示は、「詐欺による意思表示」ではなく、「錯誤による意思表示」であると考えました。
一言で言えば、「本人の帰責性」は非常に大きい、とここでは考えたわけです。

 



ただ、話が複雑になりますが、神戸製鋼所は顧客に引き渡した製品の品質に問題があることを知っていたわけです。
神戸製鋼所は、意図的に顧客に品質に問題がある製品を引き渡したわけです。
その点に重きを置くならば、この場合の顧客の意思表示は、「詐欺による意思表示」との見方になると思います。
だた、さらに話が複雑になりますが、仮に神戸製鋼所が意図的に顧客に品質に問題がある製品を引き渡したのだとしても、
顧客が引渡しを受けた製品について十分な品質検査を行いさえすれば、
「製品代金をお支払いいたします。」という意思表示を行うことを避けられたわけです。
逆から言えば、神戸製鋼所にとっては、売上債権が発生することを避けられた(収益を認識することはできなかった)わけです。
つまり、神戸製鋼所が間違った売上高を計上するに至った原因は、顧客にもある、ということになるわけです。
結局のところ、錯誤か詐欺かは、「表意者が目的物に関して瑕疵があることをどの程度知ることができたのか?」、
という推定で決まる部分が大きいと思います。
錯誤か詐欺かの判別は、実は極めて"fuzzy"(〈もの・考え方などが)ぼやけた、あいまいな)な部分があると思います。
錯誤か詐欺かの判別というのは、結局のところ、
「顧客はどの程度検査できたものと考えるか。」、という"assumption"(こうだと決めること)の世界だと思うわけです。
「顧客には引渡しを受けた鉄鋼製品の品質検査までは現実には不可能なことだ。」、と考える(言わば「そう決める」)ならば、
この場合の顧客の意思表示は、(本人に帰責生はないので)明らかに「詐欺による意思表示」との見方になるわけです。
神戸製鋼所から顧客への製品の引渡しは、そのどちらであると考えるにせよ、一般的な言葉で言う「詐欺」であるわけですが、
「顧客の立場」から見ると、品質検査が現実にできる場合は「錯誤」、品質検査が現実にはできない場合は「詐欺」、
という違いが民法上の解釈として生じるのだと思います。
結局、表意者(「顧客」)の心持ちと言いますか、
表意者がどういう気持ち・考えで「製品代金をお支払いいたします。」と意思表示をしたのかで、詐欺か錯誤かが決まるわけです。
神戸製鋼所に着目すれば、神戸製鋼所の行為は詐欺行為の一言であるわけですが、
表意者(「顧客」)に着目すれば、現実的な品質検査実施の可能性("feasibility"の問題)をどう考えるか次第で、
表意者の意思表示は「錯誤による意思表示」なのか「詐欺による意思表示」なのかが決まってくるわけです。
「現実的な品質検査実施の可能性」("feasibility")は、民法上は「本人の帰責生」と言い換えることができると思います。
民法上、錯誤や詐欺について規定を置いているというのは、極めて現実的なことを考慮に入れてのことであるわけです。
法理上の話をすれば、そもそも取引には錯誤も詐欺もないわけですから。
つまり、法理上は、人は思い違いをすることもありませんし詐欺を行うこともないわけです(それが法理上の前提)。
しかし、現実的なことを考慮に入れて、民法では錯誤や詐欺について規定を置いているわけです。
いずれにせよ、神戸製鋼所にとっては、件の売上高は「真の納得」に基づく売上高ではない、ということになり、
当然のことながら、今後、財務諸表の修正を余儀なくされると思います。
「真の納得」がなかった以上、売上債権発生の効力が否定されるのです。
過年度の引渡し分となりますと、既に売上高の計上は終わっていますし、売上債権の回収すらも既に終わっているわけですが、
すなわち、過年度の財務諸表の修正というのは概念的にできない(仮想上の遡及修正だけならできますが)わけなのですが、
当期末の貸借対照表(特に利「益剰余金」)だけは正確な会計数値となるように、
当期中に過年度の修正損益を計上するようにするしかないと思います。
会計理論上は、「『真の納得』に基づく売上」のみを真の収益と呼ぶわけです。
財務諸表には、「『真の納得』に基づく売上」のみが計上されているのです。
取引について「真の納得」がなかった以上、財務諸表の会計数値には間違いがあった、という結論になる、
と言わざるを得ないのです。

 



以上のコメントを書き終わって、改めて日本経済新聞のサイトを見てみますと、次の記事が新しくアップデートされていました。


神戸製鋼所、梅原副社長「不正発覚免れる行為あった」

 神戸製鋼所は20日、アルミ・銅事業の不正を調べる自主点検で、不正の隠蔽行為があったと発表した。
記者会見した梅原尚人副社長は「安全性の検証中に不正の発覚を免れる行為が起こったことは誠に申し訳ない」と謝罪。
日本工業規格(JIS)違反も判明した。
 ――出荷した不正品の安全性はどこまで担保されているのか。
 「一概に何%(担保されている)とは答えられない。顧客製品にどのような影響を与えるのかを含め、
顧客側で安全性を判断してもらう。現時点ですぐに問題があるという事例はない」
 ――神鋼の製品を顧客側で確認はしないのか。
 「顧客は不適合品を加工する。加工中に品質問題が発現すれば気付く。
顧客側で検査することもあるが、検査しなければ気づかない場合もある」
 ――米司法省から書類提出を求められている。
 「情報開示を要請されている。具体的な開示内容は決まってない。誠意をもって対応する」
 ――不正の隠蔽を具体的に説明してほしい。
 「アルミ・銅事業の自主点検中、長府製造所(山口県下関市)で管理職を含むグループ従業員の妨害があった。
点検過程で不適合品のデータを報告せず隠していた。19日、社内の相談窓口に情報提供があり判明した」
 ――JIS法違反も見つかった。
 「これまでデータ書き換えは認識していたが、違反ではないと考えていた。
認証機関は(品質が)JIS規格を満たしても品質の保証体制が十分ではないと判断した」
 ――ビジネスへの影響は。
 「影響はある。現時点で顧客からの賠償請求など訴訟はない。顧客側で発生するコストの負担を数社から求められ、協議中だ。
信頼を失い、他社へ発注を切り替える動きもあるだろう」
(日本経済新聞 2017/10/20 22:35)
ttps://www.nikkei.com/article/DGXMZO22535210Q7A021C1TJ2000/


出荷した不正品の安全性に対する顧客側の対応(品質検査等)ついては、次のように書かれてありまして、
「現実的な品質検査実施の可能性」("feasibility")に関しては、顧客の検査体制次第、という部分が現実にはあるようです。
つまり、「錯誤による意思表示」を行ったと主張する顧客もいれば、「詐欺による意思表示」を行ったと主張する顧客もいる、
ということに現実にはなるのだと思います。
つまり、全ての顧客が「詐欺による意思表示」を行ったと主張できるわけではない、ということです。
検査を行っている顧客の方がかえって「詐欺による意思表示」を行ったとは主張できない、ということに民法上はなります。

> ――神鋼の製品を顧客側で確認はしないのか。
> 「顧客は不適合品を加工する。加工中に品質問題が発現すれば気付く。
>顧客側で検査することもあるが、検査しなければ気づかない場合もある」