2017年10月18日(水)


2017年9月12日(火)日本経済新聞
郵政株、公募売却1.3兆円 売り出し価格 25日にも 株価不振 市場、成長戦略を注視
(記事)


2017年9月13日(水)日本経済新聞
日本郵政きょう自社株買い実施 1000億円
(記事)


2017年9月16日(土)日本経済新聞
郵政株、熱狂には遠く 高配当でも見えぬ成長
(記事)

 


2017年9月26日(火)日本経済新聞
郵政株 1株1322円に 財務省 2次売却、総額1.4兆円
(記事)


2017年9月26日(火)日本経済新聞 公告
売出価格等の決定に関するお知らせ
日本郵政株式会社
(記事)

2017年9月28日(木)日本経済新聞 公告
追加売出しの各売出数等の決定に関するお知らせ
日本郵政株式会社
(記事)

2017年9月30日(土)日本経済新聞
郵政株2次売却完了 下落回避に秘策 自社株買いや「調整枠」駆使
(記事)


2017年10月2日(月)日本経済新聞
郵政、成長へ原点回帰 民営化10年 縮む郵便、買収も失敗 地域密着型で稼ぐ
2次売却価格 上場時下回る 成長への評価定まらず
(記事)



日本郵政に関する記事を紹介した過去のコメント

2017年8月22日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201708/20170822.html

 



【コメント】
約2ヶ月ほど前の2017年8月22日(火) に日本郵政に関する記事を紹介したわけですが、
その後の一連のコメントで「のれん」と「減損」について考察を行い、
特に合併の際の個別上ののれん(会計上の従来の勘定科目名は「営業権」)というのは、理論的には計上されないものだ、
という結論に行き着きました(合併では消滅会社の全ての勘定科目をそっくりそのまま承継するだけなのではないか、と)。
また、同時に行った一連の考察の中で、連結上ののれん(会計上の従来の勘定科目名は「連結調整勘定」)というのは、
理論的には償却はしないものだ、という結論に行き着きました(連結貸借対照表に貸借の差額の発生時のまま計上し続ける、と)。
「営業権とは何か?」や「のれんの償却や減損はどうあるべきか?」といった議論はなんと不毛なことか、とその時思いました。
それで、今日は、日本郵政を題材にというわけでもありませんが、
いわゆる民営化と呼ばれる手続きについて、実務上の観点から、特に会計の観点から、少しだけ考えてみたいと思います。
民営化の経緯については、ウィキペディアの記事を参考にしました。

日本郵政公社(ウィキペディア)
ttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E9%83%B5%E6%94%BF%E5%85%AC%E7%A4%BE

現在のいわゆる日本郵政の正式名称は「日本郵政株式会社」であり、社名にあります通り「株式会社」であるわけです。
その「日本郵政株式会社」の前身が「日本郵政公社」であるわけですが、「日本郵政公社」は国営の特殊法人であったわけです。
「日本郵政公社」は、政府によって運営されてきた国営としての郵政事業を国から承継する形で発足したわけです。
ウィキペディアには、次のように書かれています。

>2003年(平成15年)4月1日に日本郵政公社法に基づき、政府の全額出資により発足された。

現在の「日本郵政株式会社」は法人であるわけですが、2003年に発足した「日本郵政公社」も法人であるわけです。
何が言いたいのかと言えば、2003年3月31日までは、日本における郵便事業というのは、
全て政府によって運営されてきた(完全な国営であった)わけなのですが、
2003年4月1日からは法人が運営することになった、ということで、
2003年4月1日から「郵便事業の運営主体が政府(国)から法人になった」という点が今日の議論では重要ですので、
郵便事業の運営主体が法人であるかどうかについてまず整理をしているわけです。

 


ウィキペディアの「公社」の解説記事には次のように書かれています。

公社(ウィキペディア)
ttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AC%E7%A4%BE

>公社(こうしゃ)とは、明確な定義は定まっていないが、次のような法人をいう。
>1.日本の実定法上、公共企業体等労働関係法に定められた公共企業体(いわゆる「三公社」)のこと。
>2.イギリスのpublic corporation[要検証 - ノート]や、それと同種の形態をとる公共体公企業の日本語訳。
>「公共企業体」と同義(公企業を参照)。
>3.その名称に「公社」の文字が用いられている法人。
>この場合、財団法人の日本交通公社など、いわゆる「公共企業体」とは性質の異なる法人も含む。
>4.(公社)と括弧書きされた場合は、法人格名称「公益社団法人」の略称。

ウィキペディアでは、「公社」というのは当然に法人であることを前提に解説がなされています。
「公社」とは「公の会社」という意味合いであり、「会社」というのは現代では法人を意味することが一般的だと思います。
現代でも、「法人ではない会社」というのは観念できなくはないとは思います。
個人事業主が商行為を営む上での商号を用いて、その商行為に関連する事柄のことを会社と呼ぶことは間違いではないと思います。
ただ、現代では、会社=法人という捉え方をするべきなのだと思います。
旧商法では、商人全般に関して規定がなされていましたので、法人ではない商人が当然に予定されていたわけですが、
現行の会社法は、法人のみに関しての規定しかない、と言っていいと思います。
以前、商事制定法(商法典)としての「商法」は2006年5月に全面的に「会社法」に移行になったので、
「商法」は現在使われていない(法的効力はもはやない)のではないか、と書いてしまったのですが、
正しくは、商法総則の部分はまだ法的効力を持っており商人全般(法人・個人両方)に適用される、と考えるべきなのでしょう。
ただ、実務上は、特に法人の場合は、会社法や他の関連する特別法を参照することがほとんどだと言っていいと思います。
商法総則の規定と会社法や他の関連する特別法の規定との間に整合性がない部分も細かく見ていけばあるのではないかと思いますが、
その場合は、会社法や他の関連する特別法の規定の方が優先されるのだと思います。
「会社法」は、商事制定法の中でも、法人に特化しているという意味において、商事特別法と表現してもよいのだと思います。
商法典としての「商法」が商事制定法の一般法(商事一般法)である、という捉え方を今でもするべきなのだと思います。
いずれせによ、現代では、会社=法人と考えてよいわけなのです。
辞書的な意味としても、「会社」とは「営利事業を共同の目的として作った社団法人」であると定義・説明されます。
英語の「company」は必ずしも法人を意味するわけではないのですが、一般的には会社は法人であると考えてよいわけです。
日本には、他にも「公社」がある(地方住宅供給公社、地方道路公社、土地開発公社など)わけですが、全て法人のようです。
参考までに、三省堂の「新明解国語辞典 第五版」(1997年)には、「公社」について次のように書かれています。

>こうしゃ【公社】
>もと、国家の全額出資によって作られた特殊法人。日本国有鉄道・日本専売公社・日本電信電話公社の三公社があった。
>現在はすべて民営化。

「日本国有鉄道」にはなぜか「公社」という文字が入っていませんが、列記とした「公社」(特殊法人)です。

 



それで、「事業の運営主体が政府(国)から法人になる」と何が問題になるのかと言えば、
会計の観点からは、端的に言えば、「資産の譲渡価額」が問題になるわけです。
ある事業を民営化するに際しては、その前段階として、国の直轄運営(公務員が直接に公務として事業の運営に従事する)から
「公社」による事業運営へと移行するわけです。
その際、国が全額出資をして事業を承継する法人(公社)を設立するわけなのですが、
事業を開始するに当たりその法人は国から事業用資産を取得することになるわけです。
この時の「事業用資産の取得価額」(国から見れば「事業用資産の譲渡価額」)が問題になるわけです。
「問題になる」と言っても、官民の癒着や不透明な取引といった意味では全くなく、
「その事業用資産の公正な価額というのがそもそも不明だ。」(公正な価額に答えがない。)、という意味です。
簡単に言えば、「事業用資産をいくらで譲渡すれば公正なのかが誰にも分からない。」、ということになるわけです。
極端に言えば、国は事業用資産を公社へ無償で譲渡することもできるわけです。
公社としては、取得価額は低ければ低いほど費用負担は減るわけですから、無償で取得できるに越したことはないわけです。
無償譲渡が極端であるならば、公社への譲渡とは言え事業の承継であるのだから、
帳簿価額で譲渡することにすればよいのではないか、という考えもあるかとは思いますが、
しかし、国有資産に帳簿価額という概念があるでしょうか。
例えば、国が、130年前、国有の土地の上に郵便局を建てたとします。
国はその土地と郵便局を公社に譲渡するわけですが、その土地と郵便局の帳簿価額とはいくらでしょうか。
郵便局(建物部分)であれば、民間企業(建築業者)へ支払った建設費用が建物の取得価額という見方もできますが、
土地は本質的に国が有史以来無償で有していた土地なのですから、そこに帳簿価額や取得価額という概念は全くないわけです。
国は土地を、無償で譲渡すべきなのか、それとも、路線価か何かで譲渡すべきなのか、答えはないのではないでしょうか。
帳簿価額を承継するとは、その帳簿価額に至った経緯までも承継するということです。
国はその土地を無償で保有しており事業運営上稼働をさせていた、という経緯があり、その事業用資産を承継させるのですから、
公社もその土地を無償で保有して事業運営上稼働をさせる、ということでないと、帳簿価額の承継にならないわけです。
承継とは、全く同一の目的を持って(目的を保持したまま)譲渡する(譲り受ける)、という意味ではないでしょうか。
全く同一の目的を持っている(目的を保持したままである)からこそ、帳簿価額が引き継がれるのではないでしょうか。
この問題点というのは、土地だけに当てはまることではなく、結局のところは、事業用資産全般に当てはまるのです。
国が郵便局の建物を公社へ譲渡する際、公社では取得後建物について減価償却手続きを行う関係上、
あたかも国が取得以来建物について減価償却手続きを行ってきたかのように想定し、建物の帳簿価額を決めることになるわけですが、
それは極めて仮想的・偽装的であるわけです。
そもそも国は、減価償却手続きを行うことを考えて郵便局を建設したわけではないわけですから。
例えば国は、郵便局を建設した際、費用と収益の対応を取ろうと考えたでしょうか。
郵便局の建設費用は収益によって一定期間に渡り規則的に回収していくことなど、国は全く考えてはいなかったわけです。
しかるに、公社は、郵便局の建設費用は収益によって一定期間に渡り規則的に回収していくことを考えているわけです。
つまり、国による郵便局の稼働目的と公社による郵便局の稼働目的とは異なる、という言い方ができるわけです。
これで帳簿価額を承継するというのは、会計の観点から見れば矛盾であると思います。

 



さらに言えば、国家政策的な見方になりますが、そもそも国は、営利目的で国営事業を行ってきたわけではないわけです。
営利目的ではない事業用資産をある時からは営利目的に使用するというのは、承継でも何でもないわけです。
事業の従事者についても同じことが言え、国営の時は公務員は当然営利目的で公務を行っていたわけではないのですが、
公社が事業主体となりますと、途端に「公社の利益(営利)のために」事業に従事することになります。
これは公社の構成員(従業者)としては当然のことであるわけです。
事業の従事者の従事目的すら根本的に変わってしまうわけです。
これは人の意識改革云々というよりも、事業目的そのものが変わってしまったことによる矛盾だと言っていいわけです。
資産についても従事者についても、そこには明らかに断絶があるわけです。
公社で事業を営むということは、必然的に営利を目的にする、という意味です。
資産も人も、連続性はないのではないでしょうか。
連続性はないということは、会計や法律の観点から言えば、承継という概念ではない、ということだと思います。
国から公社への資産の譲渡、そして、国から公社への従事者の異動に関しては、事業目的の本質的相違・根本的変更を鑑みれば、
承継という概念が全く当てはまらないように思うわけです。
資産の譲渡価額は帳簿価額に基づくべきかどうかについてでさえ、答えは全く明らかではないのです。
例えば、法律の観点から言えば、承継に関しては、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)」
という法律がありますが、労働契約の承継というのは、
分割される事業の目的が分割前後で全く同じであるからこそ観念し得る概念ではないでしょうか。
会社分割では「分割会社の権利義務が承継会社等に包括的に承継される」とは、
会社分割の前後で分割される事業の目的は全く同じだ、という意味ではないでしょうか。
国から公社への従事者の異動について、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)」が
観念している承継の概念が当てはまるでしょうか。
昨日までは公の利益のための公務を行っていたのに今日からは同じ内容の業務に営利目的で従事せよ、
というのは明らかに承継という概念に反しており、矛盾だとすら言っていいと思います。
国から公社へは、人も資産も本来の意味での承継はできないのです。
ウィキペディアによりますと、郵政事業の従事者に関しては次のように書かれています。

>公社の役職員は、法律で特に国家公務員の身分が与えられ、役員は国家公務員法にいう特別職国家公務員、
>職員は一般職国家公務員とされた。

12年前、2005年9月の衆議院議員総選挙では、郵政民営化に反対するある候補者が、街頭演説で、
郵便局が民営化されても日本郵政公社では税金は1円も使われていないから税金の無駄使い(国民負担)が減るわけではない、
といった内容のことを言っていましたが、ウィキペディアの記述が正しいとすると、その演説は間違っていたことになります。
ただ、国営の特殊法人だからと言われればそれまでですが、公社と言えども会社(法人)に公務員が勤務をする(公務を行う)、
というのは理論的には間違いであるわけです。
法人というのは本質的に営利を目的としているからです(理論的には、利益がなければ法人は存続できないのです)。
公益法人という言葉もありますが、理論的には矛盾と言っていい概念のものだと思います。
したがって、理論的には、公社の役職員(事業の従事者)が公務員であることは間違いなのです。
理論上も実務上も、公務員が行う業務というのは、全て公務になるはずだからです(つまり、営利目的と矛盾する)。
理論的には、事業目的という意味では、公社と株式会社との間に相違は全くなく、国営と法人との間に相違があるのです。
つまり、公社・株式会社・法人は営利目的であり、国営は営利目的ではない、という断絶とも言える目的の相違がそこにはあるのです。