2017年7月16日(日)



2017年7月13日(木)日本経済新聞
万達、資産売却先に融資 5000億円 不透明取引、懸念広がる
(記事)




過去の関連コメント

2017年7月12日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201707/20170712.html

 



【コメント】
まず、記事の中から重要な部分を引用します。


>中国の不動産大手、大連万達集団(ワンダ・グループ)がホテルなどの大半を売却する取引を巡り、
>万達自らが買収先に融資することが分かった。
>融資額は296億元(約5千億円)と、売却総額の半分に上る。

>万達は10日に76のホテルと13のテーマパークを同業の融創中国(天津市)に631億元で売却すると発表。
>融創は当初、全額を自己資金でまかなうとしていた。
>だが融創が11日に開示した資料によると、このうち296億元については、借入金を充当すると表明。
>借入先は万達となっており、万達がまず銀行から借りた後、融創に貸し出し、
>融創はそれを再び万達に支払う契約になっているもようだ。


この記事を読んで、私はずぐに「会社分割」のことが頭に浮かびました。
単に万達から融創へ営業を承継させるというだけではなく、承継させる営業に付随する負債も同時に承継させる、
という取引が頭に浮かんだのです。
中国の会社法のことは分かりませんし、日本の会社法の会社分割に関する規定も極めて詳細ですので、
法律論ではなく概念論について書きたいと思いますので、
ということで、今日はできる限り話を簡略化して議論を進めたいと思います。
会社分割については、2017年7月12日(水)にコメントを書いていますので、
2017年7月12日(水)にコメントも参考にして下さい。
今日は、「万達から融創へ営業を承継させるに際し、積極的財産(資産)はそのまま承継させるのだが、
消極的財産(負債)をどのように承継させるか?」、という点について考えたいと思います。
話の簡単のため、万達は営業を全て(資産と負債の全て)を融創に承継させるとします。
また、営業の譲受けの前は、融創には何らの資産も負債もない(何らの営業も営んでいない状態だ)とします。
この時、営業の承継後、
@記事に書かれているような取引を行う場合とA会社分割を行う場合とで、ある明確な相違点があることに気付きます。
それは、「融創」の債権者(資金の供給元)です。
@記事に書かれているような取引を行う場合は、万達が融創の債権者(貸付人)になります。
一方、A会社分割を行う場合は、
銀行が融創の債権者(貸付人)になります(従来から万達に資金を融資していた銀行がそのまま融創の債権者(貸付人になる))。
他の言い方をすると、@記事に書かれているような取引を行う場合は、融創は万達に借入金を返済するのに対し、
A会社分割を行う場合は、融創は銀行(従来から万達に資金を融資していた銀行)に借入金を返済することになります。
以上の議論を図に描いてみましたので参考にして下さい。

「この事例と会社分割とでは、営業の譲受人の債権者が異なる。」

 


なぜ「『融創』の債権者」が重要なのかと言えば、会社分割では債権者保護手続きが重要だからです。
@記事に書かれているような取引を行う場合は、万達は銀行の同意を得る必要は全くありません。
なぜならば、銀行へは自社が借入金を返済するからです。
他の言い方をすると、「債権債務関係」という観点から言えば、
このたびの営業の譲渡は、実は銀行にとっても万達にとっても全く関係がないからです。
一方、A会社分割を行う場合は、万達は銀行の同意を得る必要があります。
なぜならば、会社分割後は、銀行へは自社ではなく融創が借入金を返済するからです。
他の言い方をすると、「債権債務関係」という観点から言えば、
会社分割の結果、銀行にとっても万達にとっても、「債権債務関係」そのものが根本的に変動するからです。
簡単に言えば、現在万達に融資を行っている銀行は、会社分割後は、
「私は債務者ではありません。」と万達から言われることになるわけです。
債権者にとって、「債務者が変動する」というのは通常は容認しがたい事態なのです。
なぜなら、債権者にとっては、債務者の弁済能力のみが自分の債権の弁済可能性を決定するからです。
したがって、現行の日本の会社法の規定ではそうなっていませんが、
分割会社は債権者から債務の承継について個別の同意を得なければならない、と考えなければならないと思います。
もちろん、実務上の話をすれば、@記事に書かれているような取引を行う場合でも、
営業の譲渡の結果、万達が借入金をその後返済できなくなる可能性は生じます。
そのような場合、「借入金が譲渡した営業と紐付いている方が返済可能性は高かったはずなのに。」
と銀行が言いたくなる場面は生じ得ます。
すなわち、資産を負債を有機的・一体的に承継させる会社分割が行われていた場合の方が
実は借入金の返済可能性は高かったはずだ、という場面は生じ得ます。
簡単に言えば、会社分割の方が債権者にとって有利な場合もあり得るということです。
抵当権が設定されている場合は別ですが、積極的財産(資産)単体のの譲渡については債権者の同意は不要であるわけです。
積極的財産(資産)に抵当権の設定がなされていない場合でも債権者の同意が必要となる会社分割の方が、
債権者にとって有利、という状況は実務上は考えられると言えば考えられるわけです。
しかし、ここでは理論上の話をしますと、ある取引が既存の「債権債務関係」に変動を生じさせるようなことは避けるべきだ、
という基本的考え方があるわけです。
「債権債務関係」というのは、一度生じたならば、債務の履行によってのみ消滅する、と考えるべきなのです。
債権者は、自分の債権の債務者が発生後変動することは全く前提とはしていないのです。
債権者は、債務の履行可能性を十分に鑑みた上で、当初の債務者が債務を弁済することのみを前提としているのです。
端的に結論を言えば、「債権債務関係は変動させてはならない。」と理解しなければならないのです。

 

In this case, from a standpoint of an acquirer of a business, after all,
a series of transactions are virtually similar to a company split.

この事例では、営業の取得者の立場から言えば、結局のところ、
一連の取引は会社分割と実質的に同じなのです。