2017年7月15日(土)



2017年7月13日(木)日本経済新聞
ADワークス、最大85億円 新株予約権で増資 ライツ・イシュー
(記事)




2017年6月29日
株式会社ADワークス
ノンコミットメント型ライツ・オファリングの実施及び感謝配当の実施方針の定時株主総会における承認に関するお知らせ
ttp://contents.xj-storage.jp/xcontents/32500/5bb5a47b/3aba/4e4f/9903/843d4c9bfd26/140120170629420352.pdf

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過去の関連コメント

2017年7月14日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201707/20170714.html

 


【コメント】
証券制度(特に英国型の証券制度)から見た結論を言いますと、
株主ではない市場の投資家から見ると、なぜ株主だけが新株予約権を受け取ることができるのか、というふうに見えると思います。
ただ、毎年会社から株主に支払われる配当金を制度上所与のこととすると、ライツ・オファリングもあり、
ということになるでしょう。
ライツ・オファリングは理論的に是か非かについては、証券制度による、としか言えないと思います。
それで、以上の一言でこの記事やライツ・オファリングについてのコメントは終わろうと思っていたのですが、
記事を読んでいてあることに気付きました。
昨日のコメントでは、公開買付も「募集」も「売出し」も、実は市場外の取引だ、と書きました。
その上で、「募集」と市場取引とを対比させて、問題提起の意味も込めて次のように書きました。

>発行者は、理論的には、公募(金融商品取引法上厳密に言えば「募集」)を行わず市場内で新株式を売り進めていく、
>ということができるはずですし、適正な株価形成ということを考えれば、そのような増資方法が実は一番望ましいと思います。

現在、実務上は、上場企業は「募集」という手段により新株式を売り進めることになっています。
私はこの点を批判したけですが、実は金融商品取引法上は、まさにディスクロージャーの観点から、
上場企業が「募集」を行わず市場内で新株式を売り進めていくということはできない、という解釈になると思います。
概念論としては、発行者自身が自社株式の売主となって市場で売り注文を出し、
また、市場の投資家が買主となって希望する価格で市場で買い注文を出し、
価格が一致すれば、取引が成立する
(買い注文と売り注文の成立を受けて、買主は会社に代金(資本)払い込み、発行者は新株式を買主に発行する。)、
ということができるように思ってしまいます。
実務上も、以上のような取引は全く不可能なことではないと思います。
ところが、やはり、ディスクロージャーの観点から、発行者が市場取引により新株式を売り進めていくことは認められないわけです。
新株式を発行するたびに、会社の財務体質(手許現金量や自己資本比率等)は変動するわけです。
まさにディスクロージャーの観点から言えば、
市場の投資家は、何を根拠に(投資判断の材料として)株式投資を行っているのか分からない、という状態が生じてしまうのです。
昨日書きましたように、売り注文と買い注文(需給関係)に基づく「市場における適正な株価形成」という観点のみから言えば、
発行者は市場内で新株式を売り進めていくという方法(まさに市場取引)で増資を行うのが一番望ましいと言えるのですが、
実はディスクロージャーの観点から言えば、市場取引による増資(新株式発行)は間違っているのです。

 



市場取引により新株式を発行しますと、理論的には株式1単元の取引毎に会社の財務内容は変動する、
ということになってしまうわけです。
ですので、発行者が新株式を発行する時には、「スナップ・ショット」が必要なのです。
「この財務諸表の発行者がこれからこれだけの新株式を発行する。」という
「スナップ・ショット」(発行時時点の財務体質)が必要なのです。
「スナップ・ショット」に基づき(を株式投資の判断材料に)、投資家は株式を購入するかどうかを決めなければならないのです。
したがって、発行者が「スナップ・ショット」に基づき株式を発行するためには、
実は引受人(証券会社)による「買取引受」という方法しかない、という結論にならざるを得ないのです。
私は以前、「『買取引受』はけしからん。『買取引受』という証券取引方法は行うべきではない。」
と何回も書いてしまったわけですが、
実は今日書きました議論に基づきますと、逆に、引受人(証券会社)による「買取引受」という新株式の発行方法を行わないと、
「スナップ・ショット」に基づく株式発行にならない、ということに気付きました。
私が以前「買取引受」を何度も批判したのには、自分なりの考えや理由があってのことではあったのですが、
その時とは180度逆の結論になってしまいますが、
金融商品取引法にいう「募集」に関しては、引受人(証券会社)による「買取引受」によるべきである、という結論になります。
その理由は、発行者が順次株式の発行を進めていくことがディスクロージャーの観点から言って間違っているからです。
概念的に書けば、「スナップ・ショット」=「引受人(証券会社)による『買取引受』」という関係になります。
発行者による新株式の発行は、「1度に、瞬時に、ある1時点で」、でなければならないのです。
また、金融商品取引法にいう「売出し」に関しては、発行者が新株式の発行を行うわけではないことから、
「募集」とは異なり、既存株主が市場取引で所有株式を売り進めていくことは全く問題はない、という結論になります。
それどころか、売り注文と買い注文(需給関係)に基づく「市場における適正な株価形成」という観点から言えば、
既存株主は市場内で所有株式を売り進めていくという方法(まさに市場取引)を行うのがやはり一番望ましいと言えるわけです。
既存株主が所有株式を売るのに、「スナップ・ショット」である必要は全くないのです。
既存株主が、「1度に、瞬時に、ある1時点で」、所有株式を売らなければならない理論的根拠は証券市場には何もないのです。
既存株主は、順次、1取引毎に市場内で所有株式を売り進めていけばそれでよい(そして理論的に最も正しい)のです。
ですので、金融商品取引法にいう「売出し」に関しては、やはり、
引受人(証券会社)による「買取引受」という取引方法は行わべきではない、という結論になります。
金融商品取引法にいう「募集」と「売出し」は類似した取引であるかのように整理・分類されており、
金融商品取引法の教科書でも、「募集」と「売出し」は同種の概念のものと解説され、
「募集」と「売出し」はどちらも「発行開示制度」に基づく(発行市場における)有価証券の取引であると解説されていますが、
実は「発行者は有価証券を新たに発行するのか否か?」という点において、
金融商品取引法にいう「募集」と「売出し」は根本的に異なる取引である、とも言えるのです。
金融商品取引法にいう「売出し」は「流通開示制度」に基づく流通行市場における)有価証券の取引である、と解釈するべきなのです。
「売出し」は、取引される有価証券の量を鑑み、「スナップ・ショット」での取引を企図したものと捉えることはできます
(そしてそのために発行者にも「スナップ・ショット」での開示を要請している)。
しかし、1売出人が大量に所有有価証券を売り出そうが市場の投資家が上場有価証券を市場で購入しようが、
そこで保護されるべき利益(要請されるべき情報開示)に違いがあってはならないはずです。
ですので、「募集」という手続きは証券制度上必要ですしそのための引受人(証券会社)による「買取引受」も必要なのですが、
「売出し」という手続きは理論的には証券制度上は必要ない、という結論になると思います。

 


それで、株式会社ADワークスのライツ・オファリングの記事とプレスリリースに戻ります。
最初は、(特に英国型の)証券市場から見れば、株主と株主以外の投資家との間で不公平があるといえるのではないか、
という点について書こうと思ったのですが、別の問題点について主に書いているところです。
そこで、改めて考えてみますと、ライツ・オファリングというのはまさに「市場取引による新株式の発行」である、
ということに気付きました。
すなわち、発行者は、何らの情報開示も行うことなく(発行開示も流通開示も行うことなく)、新株式を発行しているのです。
これはディスクロージャーの観点から問題があると言えるでしょう。
そしてこの論点は、新株予約権全般に当てはまる論点であると言えるでしょう。
また、昨日も書いたことですが、第三者割当増資(第三者割り当てによる新株式の発行)であれば、
すなわち、新株式の発行形態が「私募」の場合は、たとえ上場企業であろうとも、
制度的なディスクロージャーを義務付ける必要はない、という考え方になっています。
ですので、同じライツ・オファリングでも、新株予約権が非上場型であれば、
ディスクロージャーの観点からは問題がない、という結論になります。
逆に、まさにこのたびの株式会社ADワークスの事例のように、上場型のライツ・オファリングの場合は、
発行者は、何らの情報開示も行うことなく(発行開示も流通開示も行うことなく)、
市場の投資家を相手に新株式を発行している(発行者は発行開示義務を果たしていない)、ということになります。
これはディスクロージャーの観点から問題があると言えるでしょう。
ですので、新株予約権単体にせよライツ・オファリング(もしくは参考までに言うと例えば転換社債型新株予約権付社債等)にせよ、
新株予約権(証券)は非上場型(市場で取引することはできない)でなければならない、という結論になります。

 


Investors except shareholders in the market probably want to say, "Why only shareholders?"

市場にいる株主以外の投資家は、「なぜ株主だけなのか?」と言いたいかもしれません。

 

Conceptually speaking, the distance between a compnay and shareholders on the British securities system
is much greater than that on the Japanese one.
One of the reasons for it is that the British company system defines
a relationship between a company and the market from the beginning
but that the Japanese company system primarily defines a relationship between a company and shareholders.

概念的に言えば、英国の証券制度における会社と株主との間の距離は、
日本の証券制度における会社の株主との間の距離よりもはるかに長いのです。
その理由の1つは、英国の会社制度は始めから会社と市場との関係を定義しているのに対し、
日本の会社制度は最初は会社と株主との関係を定義しているからなのです。