2017年7月6日(木)



2017年7月6日(木)日本経済新聞
親子上場、10年連続減 昨年度末、11社減の270社 経営関与強める狙いも
(記事)





2017年6月28日
株式会社野村総合研究所
2017年3月期有価証券報告書
ttps://www.nri.com/jp/ir/financial/pdf/1703yuuhou.pdf

(ウェブサイト上と同じPDFファイル)


沿革(合併前)
(7/155ページ)

沿革(合併後)
(8/155ページ)


大株主の状況(平成29年3月31日現在)
(52/155ページ)



上場企業と議決権の関係に関するコメント

2017年7月4日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201707/20170704.html

 


【コメント】
親会社と子会社がともに株式市場に上場する「親子上場」の数が、2006年以降は毎年減少し続けている、という内容の記事です。
2017年7月4日(火)のコメントでは、証券市場における理論上の1つの結論として、「上場企業と議決権は矛盾する。」と書きました。
今日は、議論の都合上、どちらかというと会社(株式)に議決権があることは前提としてコメントを書きたいのですが、
まず上場云々の議論以前に、そもそもの話として、
「議決権と呼ばれる『株式の所有者(出資者)と会社との関係(概念的な一種の債権債務関係)』があるからこそ、
『子会社』と呼ばれる会社関係が成り立つ。」
という点を理解しておかなければならないでしょう。
簡単に言えば、議決権という権利がなければ子会社もないのです。
議決権こそが子会社という実在・概念を成り立たせている根本なのです。
"No voting right, no subsidiary."(議決権なくんば子会社なし。議決権がなければ子会社もない。)
という関係に議決権と子会社の概念はあるのです。
議決権がなければ子会社という概念は成り立たないのです。
子会社とは意思決定機関を支配している会社のことを言うわけですが、
出資先企業の意思決定機関を支配しているとは、議決権の過半数を所有している、という意味です。
連結会計の全ての教科書の最初には、「ある会社が子会社に該当するか否か」の判定方法が載っていますが、
それは決して偶然ではありません。
「ある会社が子会社に該当するか否か」は、そもそもの話として保有議決権割合で判断するものなのです。
子会社という概念がいかに議決権に依拠しているか、連結会計の教科書を見ても分かるというものです。
株式に議決権がない状態を想定してみますと、会社の意思決定機関の支配という状態を観念することができないわけですから、
出資者は会社の経営については完全に業務執行者に委任をしている(会社への経営関与は一切ない)、という状態になるわけです。
株式を過半数保有しているから子会社なのではありません。
議決権を過半数保有しているから子会社なのです。
たとえ株式を100%保有していても、制度上株式に議決権がないならば、その会社は子会社でも何でもないのです。
以上の議論を踏まえつつ、次に、親子上場に関して考えてみたいのですが、親子上場の問題点としては、記事にも書かれていますが、
子会社の少数株主(子会社における親会社以外の株主)の利益保護が問題になるわけです。
子会社(の業務執行者)が少数株主の利益を犠牲にして親会社の利益を優先した経営を行う恐れがあるわけです。
この点については以前、「フィデューシャリー・デューティー」の観点から、受託者責任を遂行する義務を鑑みれば、
子会社の取締役(受託者)が全株主の利益を最大化させる経営を行うようにすれば問題はない、と理論上の結論を書きました。
特定の株主(例えば親会社)の利益を優先するような経営(株主総会議案の作成等)を受託者(子会社の取締役)が行うことは、
そもそもの話として「フィデューシャリー・デューティー」に反しているわけです。
しかし同時に、議決権を根拠とする意思決定機関の支配ということを考えてみますと、
親会社は当然のことながら自分の利益を最大化させる経営を行うことを被支配者(子会社の取締役)に求めるわけです。
仮に、子会社の取締役が自社の意向に沿わないならば、それはそもそも意思決定機関を支配しているとは言わないでしょう。
むしろ、子会社の取締役が自社の意向に沿うからこそ、親会社は意思決定機関を支配していると言えるわけです。

 


そうしますと、「フィデューシャリー・デューティー」と議決権(特に過半数の議決権)も互いに矛盾する、
と言わねばならないと思います。
受託者が真に「フィデューシャリー・デューティー」を果たすためには、委任者に議決権があってはならないのです。
特に、意思決定機関の支配(過半数の議決権)が、他の委任者との関係を鑑みると、
「フィデューシャリー・デューティー」と矛盾をしていると思います。
「意思決定機関を支配している」とは、議決権の過半数の保有者は受託者を自身の意思に沿わせることができる、
という概念だと思います。
委任者が皆、少数の議決権しか持たないのならば、受託者は特段誰からの意向を受けることもなく
「フィデューシャリー・デューティー」を果たせると言えると思いますが、
過半数の議決権を保有する委任者が現れると途端に話がおかしくなるわけです。
過半数の議決権を保有する委任者が現れると、受託者は途端にその1人の委任者の被支配者になるわけです。
過半数の議決権を保有する委任者が現れると、
途端に受託者は「フィデューシャリー・デューティー」を果たせない状態に陥ってしまうのです。
委任者が皆少数の議決権しか持たないのか過半数の議決権を持つ委任者がいるのかでは、
極端なまでに話が異なってしまうわけです。
この点において、理論上の考え方として、受託者が「フィデューシャリー・デューティー」を果たすためには、
少なくとも委任者に過半数の議決権があってはならない、という理論上の1つの結論を導き出せるように思います。
それから、証券市場という観点から親子上場の問題点について考えてみますと、株式の取引という点において矛盾が見えてきます。
その矛盾とは、一般の投資家は株式売却益を得るために市場で株式の取引を行う一方、
親会社は必ずしも株式売却益を得るために市場で株式の取引を行うわけではない、という証券市場上の矛盾です。
この理由は、親会社が子会社を上場させる目的にある、と言えると思います。
親会社が子会社を上場させる目的として、記事には、

>知名度向上や資金調達を目的に子会社を上場させる

と書かれていますが、まさに記事のこの記述の通りだと思います。
確かに、資金調達という意味では、親会社は株式売却益を得るために市場で株式の取引を行う(子会社を上場させる)、
と言えるわけですが、親子上場というくらいですから、そもそも親会社は子会社株式の全てを売却する気は全くないわけです。
むしろ、親会社は、例えば過半数の子会社株式はその後も保有することを前提に、
市場で株式の取引を行う(子会社を上場させる)わけです。
さらに言えば、親会社は、子会社を上場させた後、経営上の理由により再び子会社を完全子会社化することもあるわけです。
このことは、「親会社は株式売却益を得ることは全く前提とはせずに子会社株式をできり限り低い価格で買うことのみを目的に
市場で株式の取引を行っている」、と表現できるわけです。
他の言い方をすれば、親会社は常に子会社の株価が下がってくれること望んでいる状態だ、と言えるわけです。
この状態は、「市場の全参加者は最大限の株式売却益を得ることを目的に株式の取引を行う。」
という証券市場の前提に反していると思います。
これが証券市場におけるこの矛盾の根源なのです。

 


以上の議論については、実務上の1つの反例になるのですが、株式会社野村総合研究所の事例を挙げておきます。
ウィキペディアによりますと、

>1965年(昭和40年)、野村證券株式会社 調査部が分離独立し、株式会社野村総合研究所が発足した。

と書かれていますので、株式会社野村総合研究所は設立当初は野村證券株式会社の100%子会社であったわけです。
また、1988年(昭和63年)1月に旧・株式会社野村総合研究所が野村コンピュータシステム株式会社と合併した際も、
野村コンピュータシステム株式会社は野村證券株式会社の100%子会社であったわけですから、
野村コンピュータシステム株式会社との合併後も、現・株式会社野村総合研究所は野村證券株式会社の100%子会社であったわけです。
株式会社野村総合研究所は、2001年12月に東京証券取引所(市場第一部)に上場したのですが、上場と同時に、また、その後も、
100%親会社であった野村證券株式会社は、保有する株式会社野村総合研究所株式の売出しを進めていったわけです。
有価証券報告書によりますと、平成29年3月31日現在、野村證券株式会社(現・野村ホールディングス株式会社)の
保有議決権割合は26.30%にまで低下しています。
結論だけを言いますと、株式会社野村総合研究所の場合は、野村ホールディングス株式会社が所有株式の全てを売却する、
ということは経営上あり得ると言える(この場合はグループ企業という位置付けには相対的にないと言える)と思います。
つまり、野村ホールディングス株式会社は、最大限の株式売却益を得ることを目的に市場で株式の取引を行う、
と言えるわけです。
上場親会社は全ての事例において上場子会社の株式をできる限り低い価格で買うことのみを目的にしているとは言えないわけです。
しかし、一般的には、上場親会社が所有する上場子会社の株式を全て売却するということはめったにないと言っていいと思います。
最後に、親子上場については、「ディスクロージャー」の観点から言っても問題があります。
これは先ほど書きました「意思決定機関の支配」と関連がある問題点なのですが、
親会社は、グループ経営を鑑みれば分かりますように、当然のことながら、
子会社の経営の状況について子会社があたかも自社であるかのように把握をしておかなければならないわけですが、
それは市場の投資家とは異なり親会社のみが発行者(子会社)の情報を知っている、という状態を必然的に生み出します。
インサイダー取引の観点から言えば、たとえ親会社のみが発行者(子会社)の情報を知っていても、
親会社が子会社株式を取引しなければ問題はないと言えるわけなのですが、
しかしそうすると今度は、グループ経営上、「親会社は必然的に子会社株式の取引を常に行えない。」という状態が生じます。
インサイダー取引の観点から言えば、親会社は常に子会社の経営を行っている以上、
親会社が子会社株式の取引を行うことができる時(タイミング。取引可能時期)は理論上も実務上も決してこないのです。
この問題は、「フェア・ディスクロージャー・ルール」でも解決は極めて難しいと思います。
親会社が子会社株式の取引を行うに際し、子会社がいくら投資家の投資判断に資する情報を市場に対し詳細に開示しようとも、
親会社が保有する子会社の情報量には到底及ばないわけです。
市場の投資家が知っている発行者(子会社)の情報と親会社が知っている発行者(子会社)の情報を同じ(フェア)にすることなど、
現実には絶対に不可能なのです。
「フェア・ディスクロージャー・ルール」は、「意思決定機関の支配者」(その会社をあたかも自社と同じであるかのように
扱える当事者(親会社等))以外の者(証券アナリスト等。言わば完全な社外の者)が未公表の重要事実を知った場合にのみ有効な
情報格差解決策である、と言わねばならないと思います。
この点において、証券市場の参加者(現に株式の取引を行う者)の間に情報格差がない(フェアな)状態を作り出すためには、
インサイダーー取引規制が主・相対的に有効であり、「フェア・ディスクロージャー・ルール」は副次的である、と言えるでしょう。

 


To begin with, the existence of a voting right enables the concept "subsidiary" to stand up.
If it were not for a voting right in the company system, the concept "subsidiary" could never stand up.

まず第一に、議決権が存在するので「子会社」という概念が成り立つのです。
仮に会社制度に議決権がないとするならば、「子会社」という概念は決して成り立たないのです。

 


The ultimate object of general investors is to sell their shares,
whereas that of a parent company is to buy all yet-to-be-owned shares of its subsidiary.

一般投資家の究極の目的は所有株式を売却することですが、親会社の究極の目的は未所有の子会社株式を全て買うことなのです。

 


In theory, investors can know the information on an issuer only by means of "disclosure" by the issuer,
whereas, in practice, a parent company can know the information on an issuer also by means of management of the issuer.
In theory, investors and securiries analysts can't visit a company,
whereas, in practice, some directors and employees in charge of a parant company naturally visit its subsidiary.

理論的には、投資家は発行者による「ディスクロージャー」によってのみ発行者に関する情報を知ることができるのですが、
実務上は、親会社は発行者の経営によっても発行者に関する情報を知ることができるのです。
理論的には、投資家や証券アナリストは会社を訪問することはできないのですが、
実務上は、親会社の担当の取締役や従業員は当然に子会社を訪問するのです。

 


Actually, a parant company seldom sells all of the shares of its listed subsidiary.
For, from a standpoint of a parent company, the purpose of the listing of its subsidiary is
only to enhance how widely its group name is known.

実際のところ、親会社が上場子会社の株式を全て売却することはめったにないのです。
というのは、親会社の立場から言えば、子会社を上場させる目的は、グループ名の知名度を高めることのみだからです。