2017年7月2日(日)
2017年6月29日(木)日本経済新聞
アナリスト 受難の時代 下
細る役割 独自分析磨く
(記事)
関連コメント
2017年6月30日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201706/20170630.html
【コメント】
2017年6月30日(金)のコメントでは、株主総会の場において経営陣が業績や経営戦略を語ることですら、
市場の投資家から見れば不公平な情報開示である、と書きました。
その理由として、「株主を除く市場の投資家は株主総会に出席しないからである。」と書きました。
定時株主総会の様子や株主と経営陣との問答等については、テレビや新聞等を通じて大量に報道されていますから、
一見するとそこでは極めてフェアな情報開示や対話が行われているかのように感じてしまいますが、
実は株主総会に出席できるのは、市場の投資家の中でも株主だけなのです。
端的に結論を言いますと、株主総会の場のみで経営陣が業績や経営戦略について語るのは、
フェア・ディスクロージャー・ルールに完全に反している、という考え方になるわけです。
最近では、IT関連企業の中には、定時株主総会の模様をインターネットで生中継する(インターネットで配信する)、
という企業もあるのですが、それこそそうでもしない限り、定時株主総会の場で経営陣が語った内容を見聞できるのは、
極一部の投資家のみ(すなわち株主のみ)である、ということになってしまうわけです。
定時株主総会の模様を、総会終了後数時間もしくは数日経ってから、インターネットで配信するという企業もあると思いますが、
実はそれでは明らかにフェア・ディスクロージャー・ルールに反しているのです。
昨今話題のフェア・ディスクロージャー・ルールでは、企業が証券会社などの証券アナリスト等のみを対象に行った業績説明会や
経営説明会で語った内容や配布したりした説明資料については、同一の内容の開示を終了後速やかに自社ホームページ等で行う旨、
求めているわけなのですが、実はそれでは既に情報開示としては明らかに遅いわけです。
一般に、情報格差と言いますと、情報の質と量に格差があることを指しているわけですが、
実はそこにはさらに「時間」という名の格差も存在するのです。
市場の投資家は皆、同一の内容の開示を「同時に」受けなければならないのです。
たとえ開示内容は同一であっても、後になって(例えば証券アナリストが業務上顧客に情報を伝達しその顧客が株式を買った後で)
市場の投資家に開示しても意味は全くないわけです。
ただ単に開示内容が同一であればよいということでは決してなく、開示のタイミングも「同時」でなければ開示の意味がないのです。
ですので、仮に企業が業績説明会や経営説明会を開催するのであれば、物理的な出席者は証券アナリスト等や業界関係者等のみ
であってもよいので、説明会の模様をインターネットで生中継する(インターネットで同時に配信する)、
ということが現実には求められるわけです(終了後に同一内容を配信しても意味がない)。
ですので、証券アナリストの存在意義について考えてみますと、企業を訪問し経営陣と面談するであったり
面談内容に基づいて業績予想をする、ということを行うのではなく、
純粋に「市場に開示された情報のみ」に基づいて経営分析や財務分析を行う(そしてレポート等を作成する)、
ということが求められるのだと思います。
他の言い方をすれば、市場の投資家と同じ目線に立った経営分析や財務分析を行っていくことが求められると思います。
さらに他の言い方をすれば、「判断材料は市場の投資家と全く同じ」という状態で分析を行っていくことが求められるわけです。
「あなたは何を根拠にこのような分析を行ったのですか?」と問われても、証券アナリストはその分析の根拠として、
決算短信や有価証券報告書や企業の自社ホームページや競合他社のホームページや
図書館のリファレンスや資格試験のテキストや法律書や経営者の自叙伝や雑誌や新聞や業界専門誌や官報や政府統計等を挙げる、
という状態でなければならないわけです。
記事には、証券アナリストの今後の生き残り策として、「独自の分析」という言葉が記載されていますが、
まさにこの世の誰もが自由に入手できる情報に基づいて分析を行っていくことが、証券アナリストには求められているわけです。
欧州では、証券会社の調査部門と売買執行部門を分離させるという新しい規制が導入されようとしているようですが、
そもそもの話として、証券アナリストが企業に赴き調査を行う(そして企業はその調査に応じる)、
ということ自体が始めからフェア・ディスクロージャー・ルールに反していた、と考えなければならないと思います。
Even though the same document is seen, one investor notices an important fact
and another doesn't.
同じ文書を見ても、重要な事実に気付く投資家もいれば気付かない投資家もいる。