2017年6月16日(金)



2017年6月15日(木)日本経済新聞 社説
「迷子の土地」生かす法制度の整備急げ
(記事)





昨日のコメント

2017年6月15日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201706/20170615.html

 



【コメント】
土地の所有者が不明である場合についての記事になりますが、関連があることですので昨日のコメントに一言だけ追記をします。
記事には、次のように書かれています。

>一般に土地を取得したり、相続したりする場合は新たに登記するが、義務ではない。
>このため、管理する手間や費用負担を避けるために登記をしなかったり、相続放棄する人が増えている。

記事には、不動産登記は義務ではない、と書かれていますが、
それは民法や不動産登記法に登記をすることは義務であるとは書かれていないという意味であって、
実務上は率直に言えば義務であることと同じです。
不動産の所有権を有していることを表象するものが登記であるわけです。
逆から言えば、登記をしていない場合は不動産の所有権を有しているとは見なされないわけです。
他の言い方をすれば、登記をしていない場合は、その不動産を所有していないことと同じです。
率直に言えば、登記をしない場合は不動産に関する所有権が発生しない、と言えるわけです。
これは、第三者に対する対抗要件云々の話ではなく、「登記をしなければそもそも所有権が発生しない。」という
不動産の所有に関する本質(所有権発生の根源)の話なのです。
動産とは異なり、不動産は登記でもって所有権を発生させることにしているのです。
物権変動の当事者間(簡単に言えば不動産の売り手と買い手との間)において権利を主張する場合は登記を必要としない、
とこの点については一般に説明されます。
一般的に言えば、物権変動は当事者が合意をしただけでその効力が発生する、と考えます。
例えば、甲(売り手)と乙(買い手)との間で不動産の譲渡について合意を行いさえすれば、
不動産の所有権は合意を行った時に甲から乙に移転する、と教科書などでは説明されます。
この説明の意味するところは、物権変動の登記を行わない場合は、登記簿上は所有権者は甲のままなのであるが、
甲は乙に不動産を譲渡することに合意をし当事者間で実際に譲渡を行ったのだから、
現在その不動産の所有権は乙にあると考える、ということだと思います。
確かに、実務上のことだけを言えば、登記簿上の所有権者は甲であろうとも、その不動産の所有権は乙にあることについて、
甲が異議を唱えることはありませんし乙が異議を唱えることもない(合意を行って譲渡をしたのだから)、と言えるでしょう。
しかし、私が指摘したいのは、「所有権発生の根源」の部分のことなのです。
不動産は、登記でもって所有権を発生させることにしているわけです。
当事者間だけのことであれば問題はない、などという話をしているのではないわけです。
法律上の正式な所有権者と当事者達が主張している所有権者との間に齟齬・乖離が生じていること自体が問題だ、
と言いたいわけです。
法理的なことを言えば、合意に基づき取引を行う限り、当事者間で主張に食い違いが生じることはそもそもあり得ないわけです。
しかし、売り手と買い手以外の人物が不動産の所有権を主張する恐れがあることから
(不動産の取引に関連して第三者が権利を主張しないことはあり得ないと考える)、
登記簿で所有権者を一元管理することにしている(そうでないと不動産の所有権者が私的に・公的に明確にならない)わけです。
売り手と買い手との合意だけで不動産の所有権が移転すると考えるのは、登記そのものを否定していることになるわけです。
不動産登記は義務ではないと考えるのは間違いです。
動産とは異なり、売り手と買い手との合意だけでは不動産の所有権は実は移転しないのです。

 



次に、被相続人が死亡した後、相続人らが相続登記を行わない場合の取り扱いについてです。
結論を端的に言えば、相続人が不動産を相続し取得したことを明確にしたい場合は、登記を行うしかありませんし、
また逆に、登記を行わなければ相続人は不動産を取得したことになりません。
では相続人は一体いつまでに相続登記を行わなければならないのかと言いますと、
どの法律にも直接の規定はないのかもしれませんが、
私の解釈では、被相続人が死亡した日の翌日から10ヶ月以内に相続登記を行わなければならない、となります。
この解釈の根拠は相続税法です。
相続税法の規定では、相続税の納付期限は、相続開始を知った日(被相続人の死亡した日)の翌日から10ヶ月以内となっています。
この規定が根拠になると思います。
徴税のみの観点から言えば、納付期限までに相続税を納めなかったときは利息にあたる延滞税がかかる、と考えるわけですが、
大きな視点から言えば、期限を守れなった場合は延滞税を支払えばよいなどと考えるのではなく、
「納付期限までに相続税を納めなければならない。」という規定になっていると考えるべきでしょう。
相続の登記と相続税の申告・納付は関係がないと考えるのではなく、むしろその正反対に
両者は互いに整合していると考えなければならないのです。
私のこの解釈から言えば、法理的には、被相続人が死亡した日の翌日から10ヶ月以内に相続登記を行わない場合は、
相続人はその不動産を放棄したものと考えることになります。
簡単に言えば、その不動産を相続する者はいなかったと考えるということであり、
その不動産を取得した者はいなかったと考えるということです。
この場合、不動産の所有権者がそもそもいないという状況が生じるわけですから、
その不動産は国が接収する形になります(不動産が国庫に入る。土地は国有地になる)。
相続の登記が期限までに行われなかった場合はその不動産は国が没収するというのは、
相続税の申告期限を過ぎたことに関する納税者に対するペナルティでは決してなく、
純粋に「その不動産の所有権者はいない」という事実・権利関係に由来するのです。
どちらかと言うと、「いくらなんでも被相続人が死亡した日の翌日から10ヶ月以内に不動産の相続人(取得者)は決まるはずだ。」
という観念・発想の原点から、相続税法もその日数を相続税の納付期限と定めているだけなのです。
国による没収は、懲罰が目的なのでは決してなく、所有権者が現にいないことのみが原因なのです。
現行の規定では、被相続人が死亡した後、遺産分割協議を経て相続内容が確定するまでは、
遺産は一時的に相続人らの共有財産という形になるようなのですが、
法理的には、被相続人は死亡しているものの、遺産分割協議を経て相続内容が確定するまでは、
遺産は短期間の間は依然として被相続人の財産のまま(遺産の所有権者は被相続人1人のまま)であると考えるべきだと思います。
不動産の所有権は登記によって発生すると考えますと、相続の登記を行わない場合は、
被相続人は死亡している(所有権者はいない)以上、所有権者が被相続人から国へ移転する、と考えるべきだと思います。

 


それから、昨日は、ドイツとフランスでは土地と建物を分離して譲渡することはできない、という点について書きました。
この点については、法理面そして経済合理性の面から説明を行ったわけですが、
ある資格試験の教科書を読んでいると、日本の区分所有法に参考となる規定・考え方があるようだと今日気付きました。
区分所有法では、「共用部分の専有部分との分離処分の禁止」が明確に定められているようです。
例えば、規約に「分離処分できる」という定めをすることはできないとのことです。
教科書の記述を引用します。

>民法上は、共有持分を譲渡(=処分)するのは自由です。
>しかし、マンションの場合に、共用部分を使う権利を伴わない専有部分の所有権というのは適当ではありません。
>したがって、専有部分の所有者が、共用部分の持分だけを独立して第三者に譲渡することはできず、
>区分所有権とセットで譲渡しなければならない、とされています。

私はこの区分所有法の規定が、ドイツやフランスにおける不動産の捉え方と類似しているなと感じました。
つまり、ドイツやフランスでは、「建物の土地との分離処分の禁止」が法令上定められまたは慣習上行われているといえる、
と私は思いました。
上記の教科書の記述をドイツやフランスにおける不動産の捉え方になぞらえて書くならば、次のようになると思います。

概念的には、建物を譲渡(=処分)するのは自由です。
しかし、土地と建物との関係を鑑みると、土地部分を使う権利を伴わない建物部分の所有権というのは適当ではありません。
したがって、土地部分の所有者が、建物部分の持分だけを独立して第三者に譲渡することはできず、
建物の所有権は土地の所有権とセットで譲渡しなければならない、とドイツとフランスでは考えられています。

端的に言えば、「建物部分の所有権では土地部分を使う権利を必ず伴う。」という考え方が理論の根底にあるのだと思います。
他の言い方をすると、「土地を使う権利なしに建物を使うことはできない。」という考え方を
ドイツやフランスではしているのだと思います。
「建物部分の所有権では土地部分を使う権利を必ず伴う。」、だから、
「建物部分の所有権には土地部分の所有権が必要だ。」、すなわち、「建物と土地を分離譲渡することはできない。」、
という論理の流れがあるのだと思います。
ドイツやフランスでは、売買契約に「土地と分離して建物部分だけの譲渡を行う。」と定めをすることはできないのです。
土地と建物を分離譲渡することが当たり前の日本とは正反対に、
ドイツやフランスでは、「一体どうやって土地と建物を分離して譲渡するのだろうか?」と思われているわけです。
ドイツやフランスでは、「土地と建物を分離して譲渡することに合意をした。」と当事者らが主張をしても、
その主張は法律上は認めらないわけです。
ドイツやフランスでは、登記簿上の土地の所有権者がその上に建っている建物の所有権者、と整理されるだけなのです。
A(売り手)とB(買い手)が建物部分のみの譲渡に合意をして取引を行ったとしても、
ドイツやフランスでは建物部分のみの登記というのは行いようがない(建物の登記簿自体がない)わけですから、
法律上は、取引後も建物の所有権者は依然としてA(売り手)のままである、という解釈になるのです。
法律上は、B(買い手)に建物部分についての所有権を発生させようがない、という考え方になるわけです。
日本でもドイツでもフランスでも、不動産に関しては、その「所有権の発生の根源」を鑑みると、
当事者間で合意をしただけでは物権変動の効力は発生しない、と考えなければならないのです。

 



"I understand that quite a few grown-ups get lost in their lives as soon as they graduate from university every year.
Some of them actually came to near my home shortly after they consulted a lawyer.
But, even if they could have met me at that time, they would not get found in their lives.
For all of the lost grown-ups really know the right thing from the beginning."

「毎年、かなり大勢の人達が大学を卒業すると同時に人生の迷子になると聞いています。
その中の何人かは、弁護士に相談をした後程なくして、私の家の近くまで実際にやってきたそうです。
しかし、たとえ彼女らがその時私に会うことができたとしても、彼女らは人生を見出すことはしなかったでしょう。
なぜなら、人生の迷子になった人達は皆、正しいことを本当は最初から知っているからです。」