2017年5月19日(金)


昨日2017年5月18日(木)のコメントに一言だけ追記をします。

2017年5月18日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201705/20170518.html

昨日2017年5月18日(木)のコメントでは、主に日本法における仲裁について書きました。
今日改めて「国際仲裁裁判所」というキーワードで検索してみましたら、興味深い記事がいくつかヒットしましたので紹介します。
まず、日本経済新聞と毎日新聞の解説記事を紹介します。

 

国際仲裁裁判所とは

 ▼国際仲裁裁判所 日本を含む約130カ国が参加する国際商業会議所(ICC、本部パリ)の下部組織で、
複数の国にまたがるビジネス上の紛争を解決している。
同裁判所の判断に一方の当事者が従わない場合、もう一方の側は強制執行することができる。
仲裁の新規申し立ては年800〜1千件にのぼる。
仲裁人3人の案件は審理手続き終了から3カ月、1人の場合は2カ月を目安に仲裁人が判断の案をICCに提出する。
 日本企業では、スズキが独フォルクスワーゲン(VW)との資本・業務提携解消とスズキ株の返還を求め、
和解まで4年以上かかった例がある。
(日本経済新聞 2017/5/15 11:01)
ttp://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ15H6Y_V10C17A5MM0000/

 

国際仲裁裁判所

 日本など約130カ国が加盟する国際機関「国際商業会議所」(本部・パリ)の下部組織で、
国境をまたぐビジネス上の紛争を解決する役割を担う。
第三国から選ばれた仲裁人が最終的な「仲裁判断」を下すため、特定の国の裁判所の判断に比べて公平性が担保される。
仲裁判断には訴訟の判決同様の拘束力がある。
日本企業では、自動車メーカーのスズキが
独フォルクスワーゲン(VW)との資本・業務提携解消とスズキ株の返還を求め、認められた例がある。
(毎日新聞西部朝刊 2017年5月16日)
ttps://mainichi.jp/articles/20170516/ddp/001/020/006000c

 



次に、10ヶ月ほど前の記事になりますが、産経新聞の解説記事を紹介します。

 

仲裁裁判所どんな組織? 相手方が拒んでも手続き可能 海洋紛争に限らず立ち上げ

 南シナ海問題をめぐり、フィリピンが申し立てていた仲裁手続きで、オランダ・ハーグの仲裁裁判所に注目が集まった。
仲裁裁判所とはどのような組織なのか。Q&Aでまとめた。

 Q 仲裁裁判所とは?
 A 「海の憲法」と呼ばれる国連海洋法条約は、第287条で「条約の解釈又は適用に関する紛争」を解決する手段として、
4つの選択肢を指定している。仲裁裁判所は国際海洋法裁判所、国際司法裁判所などと並ぶ手段の1つに挙げられており、
フィリピンが今回、選択した。
 Q なぜ仲裁裁判所を選んだのか?
 A 国際海洋法裁判所や国際司法裁判所と違い、相手方の当事国が拒んでも手続きを進められるからだ。
今回も中国が不参加のままだった。領有権や海洋境界の画定に関しては、条約の規定などにより判断はできないが、
フィリピンとしては、南シナ海のほぼ全域が管轄下にあるとしている中国の主張を法的に切り崩す戦術をとった形だ。
 Q 常設仲裁裁判所との違いは?
 A ハーグに所在する常設仲裁裁判所は1899年、国際紛争を平和的に解決するための国家間組織として設立された。
裁判では通常、裁判所の裁判官が判決を下すが、法律上の仲裁は本来、当事者が第三者を仲裁人に選ぶ仕組みだ。
このため海洋紛争に限らず、仲裁裁判所は申し立てのたびに立ち上げられ、常設裁判所は仲裁人候補の名簿を用意しておくなど、
その事務局機能を担う。今回の仲裁裁判所はハーグに置かれたが、別の場所になることもある。
 Q これまでの仲裁の代表的な事例は?
 A エチオピアと同国から独立したエリトリアの国境紛争で、仲裁裁判所の国境画定委員会が2002年に国境線を画定した。
09年にはスーダンと同国から独立した南スーダンの間の係争地をめぐる問題を仲裁した。海洋法条約をめぐっては昨年3月、
インド洋の英領チャゴス諸島における英国の海洋保護区設定を条約違反としたモーリシャスの訴えを認めた事例がある。
(産経新聞 2016.7.12 23:50)
ttp://www.sankei.com/world/news/160712/wor1607120070-n1.html


 


それから、これは企業法務のポータルサイト上の解説記事になるのですが、
「国際仲裁」についてはこの解説記事が一番よくまとまっていると思いましたので紹介します。


国際商事仲裁とはどのような制度か
(BUSINESS LAWYERS - 企業法務の実務ポータル 実務Q&A)
ttps://business.bengo4.com/category10/practice122


「国際仲裁」の概要については、上記解説記事だけ読めば十分なくらい詳しく書かれていると思います。
昨日は主に日本法における仲裁について書いたわけなのですが、
「国際仲裁」について理解する時も、まずは日本法における仲裁を理解することが大切だ、と思いました。
日本法における仲裁の枠組みを理解できないと、国際的な仲裁の枠組みは理解できないと思いました。
昨日は、「債務名義」という文書・概念が実務上は極めて重要である、と書きました。
なぜならば、「債務名義」が「強制執行の要件」になるからです。
実務上は、「債務名義」を勝ち取るために裁判・仲裁・調停を行うと言ってよいくらいだ、と思います。
「債務名義」に関しては、昨日は、

>確かに、法理的には、債務名義を作成することができるのは公務員(裁判官や公証人)のみ、という考え方もあるとは思います。
>なぜなら、強制執行では国家権力を使って権利の実現をするからです(国家権力の行使を根拠付け正当化しなければならないから)。

と書きました。
法理的・概念的には、債務名義を作成することができるのはやはり公務員のみ、という結論になると思います。
その意味において、仲裁判断を根拠に強制執行をするのは間違いだ(仲裁判断も究極的には私文書に過ぎないから)と思います。
しかし、国家権力の使用というものをもっと柔軟に捉え、公正な手続きを踏まえさえすれば、
私人間の合意を根拠に国家権力の助けを借りることができる、という考え方も現実には有効なのではないかと思います。
それが現在の仲裁法に基づく仲裁なのではないかと思います。

 


仲裁について、昨日とは別のある教科書の解説をスキャンして紹介します。

「仲裁」


仲裁は裁判外紛争解決手段(斡旋・調停・仲裁)のなかで最も強制力のあるものだ、と書かれています。
仲裁と調停の違いについては昨日も簡単に書いたわけですが、
強制力という点ではやはり調停よりも仲裁の方が強いと言わねばらないでしょう。
なぜなら、仲裁では当事者双方は仲裁人の判断に従わなければならない一方、
調停では仲裁とは異なり調停案に拘束力がない(調停案に従わなければならないわけではない)からです。
つまり、調停では当事者が調停人が提示した調停案を受け入れなければ不調(調停不成立)となってしまうからです。
この点、昨日も書きましたように、「調停調書」自体には確定判決と同一の効力が与えられますので、
一方が調停条項を履行しない時はただちに強制執行をすることが可能になります。
すなわち、「調停調書」は債務名義となるわけです。
ところが、「調停調書」が債務名義となるためには、調停案に当事者双方が合意をする必要があるわけです。
調停案に当事者双方が合意をしない場合は、「調停調書」が「調停調書」(債務名義)にならないのです。
現実には、調停案に合意をしたのに債務者が調停条項を履行しないということはあり得ないと言っていいわけです。
債務者は、調停条項を履行したくない場合は、始めから調停案に合意をしなければよいだけなのです。
したがって、その意味において、調停には拘束力がない(当事者は調停人の提案に従わなければならないわけではない)、
ということになるのです。
調停は、簡易裁判所において調停委員が仲介をする形で紛争解決を図る制度なのですが、
個人的には実務上はあまり有用ではないように思います。
他の言い方をすると、「調停調書」が債務名義となることには実務上はほとんど意味がない、と言えると思います。
調停は、調停案には拘束力がないが当事者が合意をした「調停調書」には従わなければならない、
という実務上はほとんど意味がない手続きとなっているように思います。
当事者双方が合意をするか否かに関わらず、仲裁人が判断した事項(仲裁判断)に当事者双方は従わなければならない、
ということでなければ実務上は意味がないわけです。
その意味において、「仲裁判断」(文書)が債務名義となることには実務上極めて大きな意味があると思います。
また、実務上は、裁判であれ仲裁であれ調停であれ、
その後債務名義をもって債権者が債務者に対し強制執行を行えるということに意味があると思います。
国際仲裁では、その強制執行が理論的にも実務的にも難しい部分があるのではないかと思うのですが、
仲裁に意味を持たせるためには、実務上は強制執行の制度が必要不可欠であると思います。
国際仲裁においても、何らかの仕組みを用いて、
仲裁の判断と債務者国における強制執行手続きとを接続する必要がある、と思いました。
そして、自国法と他国法とを接続することは、国際的な協定や条約により不可能なことというわけではないのだろう、と思いました。