2017年5月12日(金)
大林組は10日、大林道路にTOB(株式公開買い付け)を実施し、完全子会社化すると発表した。
大林組は大林道株を自己株式を除く発行済み株式総数の41.67%保有しており、TOBによって残りの全株式の取得を目指す。
買い付け期間は11日から6月21日まで。TOB価格は10日終値(694円)を35%上回る1株あたり940円で、取得総額は約246億円。
予定通りTOBが実施された場合、大林道は上場廃止となる見通しだ。
親子上場を解消し、意思決定の迅速化やノウハウの共有などを進める。〔日経QUICKニュース(NQN)〕
(日本経済新聞 2017/5/10
15:47)
ttp://www.nikkei.com/article/DGXLASFL10HGQ_Q7A510C1000000/
2017年5月11日(木)日本経済新聞
▼大林道路へのTOB
買い手=大林組、
株数=予定数2624万3052株、価格=普通株式940円、総額246億6846万8880円、
期間=5月11日〜6月21日
(記事)
2017年5月11日(木)日本経済新聞 公告
公開買付開始公告についてのお知らせ
株式会社大林組
(記事)
2017年5月10日
株式会社大林組
大林道路株式会社株券等(証券コード:1896)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ
ttp://www.obayashi.co.jp/uploads/File/20170510news.pdf
H29.05.11 09:43
株式会社大林組
公開買付届出書
(EDINET上と同じPDFファイル)
2017年5月11日
大林道路株式会社
意見表明報告書
ttps://www.obayashi-road.co.jp/wp-content/uploads/2017/05/etc17_04.pdf
(EDINET上そして対象会社ウェブサイト上と同じPDFファイル)
2017年5月10日
大林道路株式会社
支配株主である株式会社大林組による当社株式に対する公開買付けに関する賛同及び応募推奨のお知らせ
ttps://www.obayashi-road.co.jp/wp-content/uploads/2017/05/etc17_02.pdf
May 10, 2017
Obayashi Road Corporation
Notice regarding Support
for and Recommendation of Application for Tender Offer for the Company’s
Shares
by Its Controlling Shareholder Obayashi
Corporation
ttps://www.obayashi-road.co.jp/wp-content/uploads/2017/05/etc17_03.pdf
公開買付説明書
ttp://www.nomura.co.jp/retail/stock/tob/pcod29000000278d-att/pcod29000000279q.pdf
(野村證券株式会社のウェブサイト上と同じPDFファイル)
【コメント】
株式会社大林組が大林道路株式会社株式に対して公開買付を実施する、という事例です。
株式会社大林組発表のプレスリリースには、
株式会社大林組は、自社及び対象者から独立したファイナンシャル・アドバイザー及び第三者算定機関として
野村證券株式会社を選任した、
と書かれています。
しかし同時に、株式会社大林組は野村證券株式会社を公開買付代理人としても指定しています。
公開買付代理人は公開買付者からの極めて高い独立性が要求されると思うのですが、
ファイナンシャル・アドバイザーが公開買付代理人を務めてよいのでしょうか。
「フィデューシャリー・デューティー」(受託者責任)という言葉がありますが、
そもそも「フィデューシャリー・デューティー」(受託者責任)とは、
「委任者の利益が最大化されるよう最大限の努力を行うこと(義務)」を意味しているのだと思います。
「フィデューシャリー・デューティー」(受託者責任)とは、
受任者が委任者から独立していることを要求するものでは決してないないわけです。
委任者から選任・指定された受任者は委任者から独立している、と考えることにはどだい無理があるわけです。
買付価格が妥当であるか否かはそもそも投資家が判断することであるわけです。
公開買付者が「この買付価格は妥当です。」などと主張して何の意味があるのでしょうか。
「この買付価格は妥当ではありません。」と主張して公開買付を開始する公開買付者はいないわけです。
買付価格が妥当か否かを判断するのは投資家です。
公開買付者や対象会社ではないのです。
公開買付代理人は、有価証券報告書記載の独立監査人同様、概念的に言えば、理論的にはやはり市場が指定するべきだと思います。
市場といっても実際には市場は指定できませんので、より具体的には金融監督当局が公開買付代理人を指定するしかありません。
より現実的には、実務上全投資家にとってできる限り平等になるように、
必ず全都道府県に支店がある大手証券会社が公開買付代理人を務めるようにするべきでしょう。
このことは、現実には地場証券会社など準大手以下の証券会社ははじめから公開買付代理人になれない、
と言っていることに等しいわけですが、投資機会(応募機会)を全投資家間で平等にするためには現実には致し方ないと思います。
口座を開設するだけであれば無料ですので、特定の証券会社が公開買付代理人を務めると制度上決めるべきなのだと思います。
その際、公開買付の決済に関しては公開買付代理人は売買手数料を受け取ってはならない、と定める必要もあると思います。
さらに、証券会社において、ファイナンシャル・アドバイザリー部門と公開買付の応募受付部門との間には、
情報の隔壁(一種のチャイニーズ・ウォール)を設けなければならないでしょう。
もしくは、公開買付に関連する場面では、公開買付者は公開買付代理人(証券会社)を
ファイナンシャル・アドバイザーに選任することはできない、といった具合に規定を設ける方がさらに実効性はあると思います。
いずれにせよ、このたびの株式会社大林組の公開買付の事例では、
公開買付者のファイナンシャル・アドバイザーと公開買付代理人とが同一証券会社になっているというのは、
明らかにおかしいと思いました。
株式会社大林組発表のプレスリリースによると、このたびの株式会社大林組の公開買付の事例では、
「公開買付者は対象会社の支配株主である。」という点を特に鑑み、
買付価格の公正性を担保するための措置及び利益相反を回避するための措置等本公開買付けの公正性を担保するための措置を
対象会社からの協力も得ながら講じていった、と書かれています。
「大林道路株式会社株券等(証券コード:1896)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」
1.買付け等の目的等
(3)本公開買付価格の公正性を担保するための措置
及び利益相反を回避するための措置等本公開買付けの公正性を担保するための措置
(5/21ページ)
”独立した”という文言が何度も出てきます。
公開買付者が対象会社の支配株主である場合は、当然のことながら対象会社は公開買付者から独立しているとは言えません。
むしろ、対象会社の意思決定機関を支配しているからこそ支配株主です。
その意味では、対象会社は全ての株主から独立していなければ投資家にとって平等であるとは言えませんので、
端的に言えば、理論的にはそもそも上場企業には支配株主が存在してはならない、という結論になると思います。
ただ、今日私が指摘しましたことは、たとえ公開買付者が対象会社の支配株主でなくても生じ得る問題点です。
「公開買付代理人は公開買付者から独立していなければならない。」という点が重要であるわけです。
理論的には、公開買付代理人は金融監督当局が指定する、という考え方になると思います。
公開買付者が公開買付代理人を指定したということは、公開買付者と公開買付代理人は当然に利害関係を有するという意味です。
また、端的に言えば、財務面や法務面のいわゆるアドバイザー(証券会社や監査法人や法律事務所)は、
会社から独立していなくよいわけです。
むしろ、アドバイザー(受託者)は委託された業務内容に関して委託者の利益が最大化されるよう最善の努力を行うことが
最も重要なことであるわけです(むしろ委託者と受託者はその点において利害関係がなければならないわけです)。
さらに言えば、「公開買付けの公正性」自体は金融商品取引法により始めから担保されている、と考えるべきでしょう。
そうでなければ、金融商品取引法に規定のある公開買付手続きとは何か、というところまで議論が遡ることになるでしょう。
投資家は、自分の投資方針と投資判断に基づき、ただ「買付価格の公正性」についてのみ判断をすればよいのです。
The fact that a tender offerer appoints a securities company to a tender
offer agent
means that the securities company is never indepndent of the
tender offerer.
公開買付者がある証券会社を公開買付代理人に指定するということは、
その証券会社は公開買付者からは決して独立していない、ということです。
2017年5月2日(火)
http://citizen.nobody.jp/html/201705/20170502.html
2017年5月2日(火)には、これは完全子会社化の手続き(二段階買収)における「C株式併合を行う」の問題点というより、
一般に、会社が自己株式を保有している時に株式併合を行なう場合に生じる問題点(矛盾)、ということでコメントを書きました。
最近(2013年くらいから)、「二段階買収」の手法として「株式併合」を行う事例が極めて多いように思います。
株式会社大林組も「二段階買収」の手法として「株式併合」を行うことを予定しているのですが、
この問題点(矛盾)について今日は一言追記をします。
(4)本公開買付け後の組織再編等の方針(いわゆる二段階買収に関する事項)
A 株式併合
(6/21ページ)
会社法には、完全子会社化の手続きとして「株式に全部取得条項を付する」という手法が用意(規定)されています。
以前は(2006年から2013年くらいまで)、「株式に全部取得条項を付する」という手法が頻繁に用いられていました。
この「株式に全部取得条項を付する」という手法と「株式併合」は同じではないか、と思われるかもしれません。
つまり、株式併合の規定は既にあるのだから、会社法に「株式に全部取得条項を付する」という手法を新たに用意する
必要はなかったのではないか、と思われるかもしれません。
ところが、これら2つの手法は本質的に全く異なります。
株式併合は発行済株式総数を機械的に減少させる手続きである(結果的に発行済みの全株式が併合される)のに対し、
他方の手法は社外の株式を会社が強制的に取得するための手法なのです。
端的に言えば、他方の手法では、会社が所有している自己株式には全部取得条項を付さない、ということができるのです。
他方の手法では、少なくとも「会社が端株となった自己株式を買い取る」という矛盾だけは生じないわけです。
「会社が端株を買い取る」という部分だけを見ると、両手法は極めて類似している(株式併合がその代替手法となり得る)のですが、
「会社が端株を買い取る」に至るまでの道のり(買取事由、取得根拠)が実は両手法では根本的に異なるのです。
端的に言えば、「会社が端株を買い取る」のであれば、「株式に全部取得条項を付する」という手法の方が理に適っています。
ただ、私としましては、完全子会社化を行う時は現金を対価とする株式交換を実施するべきだ、と思いますが。
The well-known share consolidation makes "all" of the shares issued
consolidated,
whereas that newly-introduced method can make only "specific"
shares consolidated.
It means that the both methods appear to be very similar
to each other,
but that they are fundamentally different from each other,
actually.
In the concrete, the latter doesn't make treasury shares which a
wholly-owned subsidiary owns consolidated.
かの株式分割では、発行済みの株式の「全て」が併合されますが、
新規に導入されたあの手法では、「ある特定の」株式のみを併合することができるのです。
つまり、両手法は非常に類似しているように思えるかもしれませんが、実際には両手法は本質的に異なるものである、
ということなのです。
具体的に言えば、後者の手法では、完全子会社が所有している自己株式は併合されないのです。
最後に、公開買付手続きの際の「法定開示書類」について一言コメントします。
今回の「株式会社大林組による大林道路株式会社株式に対する公開買付」の事例で初めて紹介するのですが、
公開買付代理人(野村證券株式会社)のウェブサイトから「公開買付説明書」を紹介しています。
「公開買付説明書」は、公開買付者が作成するものです。
「公開買付説明書」は、公開買付者が作成した上で、公開買付代理人を通じて応募株主に交付されるものだと思います。
「公開買付説明書」は、金融商品取引法上の法定開示書類です。
ただ、同じ法定開示書類でも、公開買付届出書とは異なり、制度上・定義上は全投資家が入手・閲覧できるものではないと思います。
「公開買付説明書」は、制度上・定義上は応募株主のみが公開買付代理人の本店・支店で手にすることができる書類だと思います。
公開買付者にとって、公開買付届出書の提出先は金融庁ですが、
「公開買付説明書」の提出先は公開買付代理人になるのだと思います。
金融商品取引法上、公開買付代理人は応募株主に対し「公開買付説明書」を交付しなければならない関係上、
公開買付者が「公開買付説明書」を作成しなかった場合は、
公開買付者は金融商品取引法の定める公開買付ルールに違反していることになります。
また、「公開買付説明書」を交付できない以上、公開買付代理人も株主から株式の応募を受け付けてはならない、
という考え方になると思います。
説明書の交付なしに応募を受け付けてしまうと、公開買付代理人が金融商品取引法違反になってしまうのではないかと思います。
ただ、今日初めて実際の「公開買付説明書」を読んでみたのですが、公開買付届出書と記載内容はほとんど同じです。
応募や応募の解除の方法(証券会社の窓口での具体的手続き等)について詳しく書かれているのだろうか、と思ったのですが、
率直に言えば、「公開買付説明書」は公開買付届出書と同じと言っていいと思います。
応募や応募の解除の方法(証券会社の窓口での具体的手続き等)について詳しく書かれた説明文(リーフレット)のことを
「公開買付説明書」と読んでいるのだろうかと私は最初思ったのですが、全く違っていました。
「公開買付説明書」は公開買付届出書と同じなのであれば、理論上は「公開買付説明書」は全く不要だと思います。
なぜならば、理論的には、応募株主は公開買付に応募するに際して必ず公開買付届出書を入手・閲覧しているはずだからです。
応募株主は、必ず金融庁から公開買付届出書を入手しているはずだからです。
ただ、現行の金融商品取引法上は、公開買付者は「公開買付説明書」も法定開示書類だと考える必要があります。
ところで、株式会社大林組のウェブサイトには、「電子公告」のページがあります↓。
電子公告
ttp://www.obayashi.co.jp/koukoku/index.html
自社ウェブサイトの電子公告のページに「公開買付開始公告」を掲載しても、金融商品取引法上は問題ないのだろうと思います。
ただ、公開買付届出書は自社ウェブサイトの電子公告のページに掲載しても法定開示義務を果たしたことにはならないと思います。
公開買付届出書は、必ず金融庁(EDINET)に提出しなければならないと思います。
結局のところ、本来「公開買付開始公告」というのは公開買付届出書を入手・閲覧してもらうための手段であるわけです。
その意味おいて、「公開買付開始公告」を自社ウェブサイトの電子公告のページやEDINETで行っても何の意味もないわけです。
「公開買付開始公告」は、本質的に日刊新聞に掲載するべきものだと思いました。
なぜなら、「日刊新聞に掲載する。」ということが、「報道機関を通じて公表する。」ということだからです。
公告と聞きますと、一般には官報が頭に浮かぶわけですが、会社法の文脈とは異なり、金融商品取引法の文脈では、
理論上は「報道機関を通じた公表」が重要であり本質的だ(報道機関が投資家への情報伝達媒体である)と考えますので、
金融商品取引法上の公告は「日刊新聞に掲載する。」という結論になるかと思います。
会社法と金融商品取引法では、理論上の前提が異なるのだと思います。