2017年3月14日(火)
2017年1月25日(水)日本経済新聞
遺産分け 公平性を追求 預貯金の扱いカギに
(記事)
過去の関連コメント
2017年3月12日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201703/20170312.html
【コメント】
2017年3月12日(日)
のコメントに一言だけ追記をします。
「遺贈」を国語辞書で引きますと、「遺贈」とは、
「遺言(ユイゴン)によって相続人以外の人に財産を与えること。」と説明がありました。
「遺贈」の意味はまさにこの通りであると私も思うわけですが、もう少し厳密に言えば、
手続きとしては、実は「遺言によって法定相続人に財産を与えること。」も遺贈という行為に含まれる場合があると思います。
2017年3月12日(日)
には、「遺言によって法定相続人以外の人に財産を与える」場合のみを想定してコメントを書いたわけですが、
遺言内容によっては、遺贈先(遺贈の受取人)に法定相続人が含まれるわけです。
設例として、父は既に亡くなっており、母、長男、次男、三男の一家があり、母が遺言書を残して死亡したとします。
母の遺産は、一家が住んでいる家と土地(時価1000万円とします)、そして現金2000万円だとします。
そして遺言書には、
「生前お世話になった町内会長の甲さんには現金1000万円を与える。
長男には大変世話になったし、次男にも世話になった。三男はまだ幼い。
長男にはこの家と土地を与える。次男には現金400万円を与える。三男には特段与えたい財産はない。
これが母の最後の意思である。残りの財産は兄弟で公平に分けよ。」
と書かれていたとします。
この場合、「遺産の承継」はどのように行われていくのかと言えば、まず第一に「遺言内容の執行」が行われるわけです。
すなわち、遺言書の記載通り、母の遺産から、町内会長の甲さんには現金1000万円を与え、
長男には一家が住んでいる家と土地を与え、次男には現金400万円を与える、ということをまず行うわけです。
以上が「遺言内容の執行」です。
この時点ではまだ、死亡者である母は実は被相続人ではない(敢えて言うなら、遺産を遺したただの「死亡者」)のです。
そして次に、やっと「相続」が行われるわけです。
すなわち、「残りの財産は兄弟で公平に分けよ。」との母(被相続人)の最後の意思に基づき、
長男が200万円相続し、次男が200万円相続し、三男が200万円相続する、ということになるわけです。
死亡者財産(遺産)のうち、相続財産は実は現金600万円の部分だけです。
この時点で、母はただの死亡者から「被相続人」になります。
以上が「相続」です。
課税関係について書きます。
町内会長の甲さんには、「遺贈」により現金1000万円を受け取ったことに関する所得税(受取寄付金)が課税されます。
町内会長の甲さんは法定相続人ではありませんので、相続税は課税されません(所得税が課税されます)。
長男には、時価1000万円の家と土地を受け取ったことと、現金200万円を受け取ったことに関する相続税が課税されます。
「時価1000万円の家と土地を受け取ったこと」に関しては、確かに「遺贈」に基づくものではあるものの、
長男は法定相続にであるため、相続税の課税対象になります。
法定相続人は、たとえ「遺贈」に基づく遺産の受け取りであっても、税法上は所得税ではなく相続税の対象となります。
つまり、遺産の受け取りのうち、「時価1000万円の家と土地を受け取ったこと」(遺贈の部分)に関しては所得税が課税され、
「現金200万円を相続したこと」(相続の部分)に関しては相続税が課税される、という考え方にはなりません。
次男には、現金400万円を受け取ったことと、現金200万円を受け取ったことに関する相続税が課税されます。
「現金400万円を受け取ったこと」に関しては、確かに「遺贈」に基づくものではあるものの、
次男は法定相続にであるため、相続税の課税対象になります。
法定相続人は、たとえ「遺贈」に基づく遺産の受け取りであっても、税法上は所得税ではなく相続税の対象となります。
つまり、遺産の受け取りのうち、「現金400万円を受け取ったこと」(遺贈の部分)に関しては所得税が課税され、
「現金200万円を相続したこと」(相続の部分)に関しては相続税が課税される、という考え方にはなりません。
三男には、現金200万円を受け取ったことに関する相続税が課税されます。
三男には、「遺贈」に基づく遺産の受け取りはなかった(「相続」に基づく遺産の受け取りのみであった)わけです。
「遺産の受け取り」に関しては、「法定相続人であるか否か?」で適用される税法が異なる、という取り扱いになります。
つまり、「遺産の受け取り」に関しては、「その遺産の受け取りは、『遺贈』に基づくものかそれとも『相続』に基づくものか?」
で適用される税法が異なるというわけではないのです。
所得税法と相続税法とで適用される税率(もしくは遺産の評価額)が異なる場合は、
適用される税法が異なることは、当然納税額にも影響を与えます(遺贈だろうが相続だろうがどちらでもよい、とはならない)。
ある遺産の受け取りを、「相続」ではなく「遺贈」に基づくものであることを法定相続人が明確にしたい場合は、
遺言公正証書を税務署に提出しなければならない(そうでないなら「相続」とみなす)、という考え方も立法上考えられます。
つまり、日本における現行の税法では、法定相続人が遺産を受け取った場合はその全てを一括して「相続」とみなしている、
というだけなのです。
他の言い方をすると、法定相続人の承継遺産を、遺贈部分と相続部分とに分けるという考え方を日本の現行税法はしていない、
ということになります。
しかし、2017年3月12日(日)
のコメントで見ましたように、
「遺言」と呼ばれるものは「相続」とは明確に異なる位置付けにあるもの、という言い方ができます。
つまり、「遺言」は「相続」に優先するとは「遺言」は「相続」とは異なる、という意味でしょう。
要するに、法定相続人か否かで適用する税法を決めるのではなく、遺贈部分か相続部分かで適用する税法を決める、
というやり方も税制上は考えられるわけです。
簡単に言えば、「法定相続人か否か」で線を引くのではなく、「遺贈」か「相続」かで線を引くわけです。
世界のどこかの国に実際にあるかどうかは分かりませんが、
少なくとも遺贈部分か相続部分かは遺言公正証書で明確に線が引けるわけです。
もちろん、細かいことを言うと、遺言公正証書に「遺産は法定相続分に従って分けよ。」などと書かれていると、
それは本来はただ単に「相続」に分類されるべき承継であるにも関わらず、
現実には意味のない遺言公正証書のためにその承継が「遺贈」に分類されてしまう、という一種の弊害があるいは生じかねません。
ですので、結局は、「承継人は法定相続人か否かで適用する税法を決める」というやり方の方に分があるのだとは思います。
しかし、今日紹介している2017年1月25日(水)付けの日本経済新聞では、
「遺産を公平に分けるとはどういう状態を指すのか?」が論点になっているわけです。
記事中のイメージ図Aでは、bさんは生前贈与を5500万円受け取っているのだから、
残りの遺産(現金)をaさんとbさんとの間で単純に法定相続割合通りに分けるのはおかしい、という点が問題になっているわけです。
しかし、今日書きました議論を踏まえますと、「生前贈与」と「相続」は全く異なるものだ、という考え方に行き着くわけです。
2017年3月12日(日)
のコメントで、「遺贈」のことを「死後贈与」と表現しましたが、
結局のところは、死亡者の意思に基づくものという一点において、
「生前贈与」と「死後贈与」は同じ類型の行為と分類すべきなのです。
bさんが故人から生前贈与5500万円を受け取った時、bさんは所得税を納付したでしょうか、それとも、相続税を納付したでしょうか。
「生前贈与」には所得税が課税されるのなら、「死後贈与」(すなわち「遺贈」)にも所得税が課税されるべきではないでしょうか。
故人は死亡の直前(死亡日の前日)にbさんに5500万円生前贈与を行ったとします。
その生前贈与は本当に贈与(すなわち所得税の対象所得)として取り扱ってよいのでしょうか(「相続」ではないのか、と)。
記事の論点とは少しだけ異なりますが、今日書きました私の議論を記事中のイメージ図Aになぞらえて言うならば、
故人の遺産は9500万円だったかもしれないが、遺贈財産は5500万円であり、相続財産は4000万円のみ、と考えるべきなのです。
したがって、相続財産4000万円をaさんとbさんとで公平に分けて相続するべき、という解釈に法理的にはなるわけです。
つまり、aさんの相続財産は2000万円、bさんの相続財産は2000万円、という相続方法になるのです。
一言で言えば、遺贈は相続に含まれないのです。
記事中の心得Dには、”遺産は生前贈与分なども含めて幅広くとらえる”と書かれていますが、
法理的には、「遺産には生前贈与分などは一切含まれない。」(ただし、遺贈は遺産に含まれる。遺贈は当然遺産の中から行う)、
と考えなければならないのです。
他の言い方をすれば、「相続」と呼ばれる行為は、「生前贈与」や「死後贈与」(すなわち「遺贈」)からは独立しているものだ、
という捉え方を法理的にはしてみてはいかがでしょうか。
大まかに言えば、死亡者の全財産から「生前贈与」と「死後贈与」(すなわち「遺贈」)を引き算したものが「相続財産」だ、
と考えるわけです。
2017年3月12日(日)
のコメントで書きました「相続財産」の計算式に、「生前贈与」の要素を加味すると、
以上のような考え方になるのが分かるのではないかと思います(つまり、拡張版の「相続財産の計算式」が考えられるわけです)。
もちろん、現実には、「生前贈与」も「死後贈与」も一切考慮しないとなりますと、遺族間でもめごとが起こらないとも限りません。
その意味では、相続に際しては実質的な公平性を重視するということも現実には大切だったりするのだろうと思います。
そういった実務上の相談や調整や調停に関しては、現実には家庭裁判所にお任せするしかないのだとは思います。
しかし、法理的には、遺言書に「遺産は全部兄に承継させる。以上。」と書かれていれば、
問答無用で弟は1円も遺産をもらえない、というのが法理上の結論になるわけです。
今日は、「生前贈与と死後贈与(遺贈)とは同じ行為に分類されるべき」と考え、適用される税法の相違という観点を織り交ぜながら、
「『遺贈』と『相続』とは根本的に異なる。」という点について、法理的な考え方を書きました。
Bequest precedes inheritance, and bequest excludes inheritance.
That is,
bequest is clearly separated from inheritance.
遺贈は相続より先に行われますし、また、遺贈は相続を除外します。
すなわち、遺贈は相続とは明確に分離しているものなのです。