2017年3月12日(日)



2017年3月11日(土)日本経済新聞
遺言書は相続の切り札
民法の法定相続分に優先
(記事)



 

過去の関連コメント


2017年2月26日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201702/20170226.html

2015年11月18日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/2015/20151118.html

2015年11月21日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/2015/20151121.html

 


【コメント】
今日書きたい論点というのは、まさに記事の見出しの通り「遺言書は、相続において民法の法定相続分に優先する。」
という点についてです。
2017年2月26日(日)のコメントで紹介しました「一般的な相続の流れ」というフローチャートを見ますと、
「死亡届の提出」(被相続人の死亡から7日以内に提出)のすぐ後に、
「遺言書の有無の確認」と「遺言内容の執行(遺言書がある場合)」が記載されています。
そして、「相続放棄、限定承認の手続き」は、「遺言内容の執行」の後になるようです。
このフローチャート(相続の流れ)を見ると、確かに「遺言書は、相続において民法の法定相続分に優先する。」ようです。
私は以前、「遺言書は相続において実務上は考慮されないようだ。」と書きました。
その理由として、「被相続人が遺した遺書の内容が本当に被相続人の最後の意思かどうか分からないからだ。」と書きました。
この点については、2015年11月18日(水)にコメントを書きました。
2015年11月18日(水)に紹介している記事は、兄が遺言書を偽造した恐れがある、という問題点についての内容です。
被相続人が既に死亡している以上、遺言書が偽造される恐れ(その遺言内容で正しいのかどうかは確認できない)という問題点は
本質的に解決できないものであろうと思います。
しかし、2015年11月18日(水)に紹介している記事にありますように、自筆証書遺言ではなく「公正証書遺言」という形を取れば、
遺言書が偽造される恐れは全くなくなるようです。
今日紹介している2017年3月11日(土)付けの日本経済新聞の記事には、
公証役場で作成される遺言書「遺言公正証書」の写真が載っています。
自筆証書遺言を行うのではなく、「遺言公正証書」を公証役場で作成すれば、
それが意見が分かれることのない法律上有効な遺言書となるのだと思います。。
2015年11月18日(水)のコメントでは、被相続人が生前に「遺言公正証書」を公証役場で作成した後、
遺言内容を変更したくなったが高齢で移動の手段がなくなり公証役場に赴けず、不本意にも内容変更が適わなかった場合どうするのか、
という現実に起こり得るような状況を想定し、「遺言公正証書」の記載内容が被相続人の本当の最後の意思とは限らないのではないか、
といった点について書きました。
ただ、「遺言公正証書」を公証役場で作成した後、例えば自筆証書遺言を行った(別途遺言書を自宅で自筆で作成した)としても、
法律的には、「遺言公正証書」の記載内容が優先する(自筆証書遺言の方はたとえ斜線もなく日付が後でも法的には無効と判断する)、
と考えるべきなのであろうと思います。
「遺言公正証書」と「遺言自筆証書」の両方が被相続人本人により作成されていた(ただし遺言内容は両者で異なっている)場合、
相続の際、どちらの遺言内容が優先するのか、というケーススタディをロースクールで行うのも興味深いのではないでしょうか。
ただ、私としましては、有り体に言えば他に判断材料があっても相続時にもめないために「遺言公正証書」を作成するのですから、
斜線がなかろうが日付が後であろうが関係者皆の前で間違いなく本人が認めていようが、
そこは問答無用で「遺言公正証書」の記載内容が優先だ、という解釈をするべきだと思います。
2015年11月18日(水)のコメントでは次のように書きました。

>「公正証書遺言」の内容は一切変更できない(「公正証書遺言」の内容が法律上の本人の最後の意思だ)、
>というふうに決めてしまうという方法もあるかとは思います

「公正証書遺言」の内容は一切変更できないとは、この場合、
遺言自筆証書に「先日公証役場で作成した『遺言公正証書』の記載内容を次のように変更する。云々。」と後日本人が認めても、
その遺言書は無効だ(遺言自筆証書に記載さている内容は法律上は全て無視される)、という意味です。
率直に言えば、法律的には、「公証役場で作成された『遺言公正証書』か否か?」だけで線を引くしかないと思います。

 



今日紹介している記事には、

>ある人が亡くなった際に、その相続財産を受け継ぐ方法には、大きく分けて2通りあります。
>一つは「相続人間の協議(遺産分割協議)による承継」で、もう一つは「遺言による承継」です。
>民法では「後者が前者に優先する」と明記されています。

と書かれています。
記事の文脈を踏まえると、そして、民法の趣旨としても、「相続財産を受け継ぐ方法には、大きく分けて2通りある」というよりも、
何と言っても「遺言による承継」がまず第一の承継方法であり、
遺言がなかった場合のみ、致し方なく「相続人間の協議(遺産分割協議)による承継」を行う、といういうふうに思えます。
先ほど紹介しました「フローチャート」(相続の流れ)を見ても、相続人の意思よりも遺言書の内容が絶対的に優先されるようです。
民法上の各相続人の法定相続割合というのは、遺言がなかった場合のみ適用されるものだ、という位置付けに過ぎないようです。
その意味では、概念的には、「相続」という行為の主体は、相続人ではなく被相続人だ、という言い方ができるのかもしれません。
相続税の納税の主体はあくまで相続人ですが(被相続人は相続税を納付しない)、「相続に際しては誰の意思が優先されるのか?」
という意味では、被相続人が主、相続人が従、の関係にあるわけです。
相続人らの意思(wills)よりも被相続人の意思(まさに「last will」、遺言)が相続において優先するとはそういう意味でしょう。
ただ、相続税法上相続税を納付するのは民法上の法定相続人のみであり、
法定相続人以外の人が遺言による財産の承継を受けた場合は、相続税ではなく、所得税と贈与税を納付することになると思います。
遺言による財産の承継は、生前贈与ではなく、遺言だけに、”死後贈与”という位置付けになると思います。
結局のところ、死亡者の所有財産を、民法上の法定相続人が承継することを「相続」、
民法上の法定相続人以外の人が承継することを「遺贈」(少なくともそれは「相続」ではない)、と呼ぶのだと思います。
また、先ほど紹介しました「フローチャート」(相続の流れ)で言えば、
狭義で言えば、「遺言内容の執行」は民法上の「相続」に含まれない(相続税法上も「相続」に含まれない)と思います。
民法上そして相続税法上定義される「相続」とは、「相続放棄、限定承認の手続き」以降の手続きのみを指すと思います。
極端なことを言えば、遺言は実は相続とは全く関係のない概念のものだ、と言っていいわけです。
遺言は、死亡者と関係のある概念のものなのです。
また、民法上は、遺言書は遺言自筆証書でも全く構わないのだと思いますが、
偽造防止や客観性の担保や証書が複数ある場合のために、
遺言書は必ず公証役場で作成された「遺言公正証書」でなければならない(それ以外は無効)、
と法律に定めるのも1つだと思います。

 



それから、今日紹介している記事には言及が一切ありませんが、民法上は「遺留分」と呼ばれる取り扱いが規定されています。
遺留分とは、相続人の生活安定のため、相続財産の一定割合を一定の範囲の相続人に最低限相続することが保障されている部分のこと
であり、例えば被相続人が生前に財産の全てを他人に譲渡する旨の遺言をしていた場合などに利用される制度です。
「遺留分」の規定と「法定相続分」の規定は互いに矛盾しているような気が以前からしていまして、
これは私の理解不足だろうか、とこれまでは思っていました。
しかし、今日、教科書と紹介している記事を読んで1つ理解が深まったのは、「相続財産」の算定方法です。
すなわち、

「相続財産=死亡者(被相続人)が死亡時点で所有していた財産−遺言による財産の処分(死後贈与による死亡者財産の減少額)」

という計算式で、「相続財産」は算定されるのです。
他の書き方をすると、

「相続財産=遺産−遺贈」

という計算式で、「相続財産」は算定されるのです。
この計算式中の「遺産」は英語では、「an inheritance」ではなく、「property left (by the deceased)」です。
つまり、「死亡者(被相続人)が死亡時点で所有していた財産」がイコール相続人が承継できる相続財産ではないのです。
結局、相続よりも遺言内容が優先するとはそういうことでしょう。
今までは「死亡者の遺言による財産の処分」(遺言による死後贈与分)を考慮せずに、「相続財産」の議論をしていたと思います。
つまり、今までは、遺言のことを完全に度外視して「相続財産」の議論をしていたと思います。
実務上は遺言は行われていない(仮に行われていても現実には遺言は無視されて相続が行われる)、
と漠然と思っていましたので、今までは遺言のことはコメントを書く際頭に全くありませんでした。
しかし、今日、「遺言は相続人間の協議(遺産分割協議)に優先する」という考え方と「遺留分」の考え方とをヒントにして、
民法上もそして相続税法上も、
「死亡者(被相続人)が死亡時点で所有していた財産」がイコール相続人が承継できる相続財産ではない、
ということを新たに理解できたように思います。

 

The last will and testament.

遺言状