2017年3月13日(月)



2017年3月13日(月)日本経済新聞
中小廃業に特定調停 早期清算、日弁連が後押し 取引先への影響抑える
(記事)





2017年2月17日
日本弁護士連合会
「事業者の廃業・清算を支援する手法としての特定調停スキーム利用の手引き」の策定について
ttp://www.nichibenren.or.jp/news/year/2017/141226.html

1. 「事業者の廃業・清算を支援する手法としての特定調停スキーム利用の手引き」の策定について
ttp://www.nichibenren.or.jp/library/ja/updates/data/2017/170217_tokuteichotei_scheme01.pdf

2. 廃業支援型・特定調停利用の手引き(書式1〜12)
ttp://www.nichibenren.or.jp/library/ja/updates/data/2017/170217_tokuteichotei_scheme02.pdf

 


過去の関連コメント

2017年2月26日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201702/20170226.html

 


【コメント】
「特定調停」と呼ばれる、事業再生もしくは事業清算のための手続きがあるようです。
これは、私的な債務の整理ではなく、法制度上の正式な手続き(れっきとした法的整理)であるようです。
この手続きのために「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」(略して「特定調停法」と呼ぶようです)
という法律があるようです(つまり、「特定調停法」が手続きの根拠法となっているわけです)。
紹介している記事を読んだ上で、
日本弁護士連合会が策定した「事業者の廃業・清算を支援する手法としての特定調停スキーム利用の手引き」をざっと読んだのですが、
「いろいろと書かれているが、そんな都合のいい手続きはないと思うのだが。」という印象を持ちました。
記事にも手引きにも、他の清算手続きと比較した場合の特定調停を用いることのメリットが記載されているわけですが、
究極的なことを言えば、理論的には、どの手続きを用いても取引先に対する債務の弁済額は同じになります。
その理由は、「債務の弁済に充てることのできる会社財産の金額(現金)はどの手続きを用いても結局同じ」だからです。
会社法上の清算人であろうが破産法上の破産管財人であろうが特定調停法上の調停委員であろうが、
清算の手続きに際しては、皆が使命感に基づき公正な職権を用いて会社財産の処分の任に当たるわけです。
その「会社財産の処分」の結果は、誰がその任に当たろうとも同じなる・同じにならなければならないわけです。
すると、「債務の弁済に充てることのできる会社財産の金額(現金)はどの手続きを用いても結局同じ」であるわけですから、
煎じ詰めれば、用いる手続きの違いによる優劣・メリットディメリットはない、と言えるわけです。
手引きには、特定調停のメリットとして「実質的に平等な計画も可能」と書かれてあり、次のように書かれています。

>破産手続の場合,形式的な債権者平等が貫徹されており,少額債権者を保護することは不可能です。
>これに対し,特定調停手続の場合には,経済的合理性の観点から全対象債権者の理解を得た上で,
>少額債権者は全額保護するなど,実質的債権者平等の計画を立案することも可能です。

しかし、「『会社財産の処分』の結果」、すなわち、「弁済と分配に充てることのできる現金の総額」は変わらないままなのです。
つまり、パイ(全体)の大きさは同じなまま、そのパイをどう分けるかがここでの債務の弁済では問題となるわけなのですから、
会社の全債務の弁済は不可能なであるにも関わらず、少額債権者(一般商取引債権)だけは全額保護するとなりますと、
当然今度は金融機関(金融債権)の取り分(弁済額)が減る、ということになります。
率直に言えば、パイが同じである以上「金融機関にとってのメリット」はない(より高額の債権回収が見込めたりはしない)わけです。
敢えて言うならば、他の手続きに比較して、特定調停では「手続コストが低廉」というメリットだけはあるのかもしれませんが。

 


ただ、「会社財産の処分」を始めとする、清算の手続きにおいて担当官が遂行すべき事務・執務内容というのは、
どの手続きでも基本的には同じであろうと思います。
ですので、破産管財人報酬(予納金)が他の手続きに比べ特段に高額というのは理屈ではそもそもおかしい話であると思います。
理論的には、会社法上の清算人であろうが破産法上の破産管財人であろうが特定調停法上の調停委員であろうが、
裁判所から任命される清算の手続きを執行する人へ特段の報酬を支払うという考え方はするべきではないと思います。
つまり、清算の手続きは、有り体に言えば公務員(裁判所や法務省などの職員)が一公務として行うというだけ(特段の報酬はない)、
というふうに考えるべきなのではないかと思います。
例えば、法務局の登記官は商業登記簿を公務として管理しているわけです。
商業登記簿の管理も大変と言えば大変だと思いますが、
それでも商業登記簿の管理は会社制度の維持・安定のためには必要不可欠な事務であるわけですから、
登記官は公務として行っているわけです。
考え方はそれと同じであり、清算の手続きに関しても、会社制度の維持・安定のためには必要不可欠な事務であるので、
清算の手続きは担当の公務員が公務として執行するというだけだ、と考えるべきなのだと思います。
債務の弁済に充てるべき会社財産(現金)の金額に影響を及ぼさないためにも、理論上だけではなく実務上も、
清算手続きのための費用は一切かからない(清算手続きの執行は公務員が行えばそれは現実にも全く可能なことでしょう)、
というふうに考えるべきだと思います。
他の言い方をすれば、会社法上の清算人であろうが破産法上の破産管財人であろうが特定調停法上の調停委員であろうが、
清算手続きを執行するのは弁護士や公認会計士や企業経営者ではない(たとえ無報酬であろうがその任に当たることはできない)、
という考え方に理論的にはなるわけです。
概念論としては、「他の誰からも完全に中立な立場にいる人物」として、公務員という存在を理論上議論の前提に置いている、
ということではないかと思います。
一般に、人は公務員になりたいと思うわけです。
その文脈における公務員とは、自然人としての公務員なのでしょう。
しかし、理論上前提として置くべき公務員とは、概念的な公務員(そのような理想的存在を仮定するということです)なのです。

 

In any scheme, the total amount of cash left in a company
after a liquidation officer realizes the company's assets or converts the company's assets into cash
doesn't vary from one in the other schemes.

どのスキームを用いようとも、清算担当官が会社財産を換金した後に会社に残る現金の総額は、
他のスキームを用いた場合と同じなのです。

 



それから、手引きを読んでいて、「ああそう言えばそうだったな」と思ったことが書いてありまして、
それは、債務の弁済に際しては、現行法上・実務上は優先債権という取り扱い・規定がある、という点です。
現行法上・実務上は、公租公課や労働債権が優先債権と規定されています。
他の言い方をすると、税務当局や労働者には先取特権がある、ということになります。
そして、この公租公課には、法人税が含まれるかと思います。
つまり、既に決算期末日を過ぎているがまだ法人税を納付していない場合(前事業年度の法人税をまだ納付していない場合)と、
当事業年度の開始日から清算の手続きに入る前までの間に稼得した所得に関する法人税をまだ納付していない場合は、
現行法上・実務上は、「未払法人税」は優先債権に分類されるわけです。
しかし、私の考えでは、「未払法人税」は優先債権に分類されません。
私の考えでは、「未払法人税」は優先債権どころか、清算の手続きに入ると同時に法人に対する債権を構成しない、と思います。
税務当局は、清算の手続きに入ったことを原因として、法人に対する債権を失い、
代わりに株主に対する債権が発生する(税務当局には言わば株主に対する求償権が発生する)、と考えるわけです。
ここので求償権は、法人の代替としての株主に対する直接的な求償権という意味ではなく、
あくまで残余財産(これは煎じ詰めれば法人の財産)の分配を受けた結果として発生する間接的な求償権、という意味です。
税務当局としては、法人は清算される以上、未払い法人税の納付という本来の債権を放棄せざるを得ず(本来の債務者はいないため)、
その代わりに、法人の残余財産を受け取った株主に対し求償権が発生する、
というふうに法人の財産と未払法人税を整理できると思います。
仮に、債務超過だったため、株主は法人の残余財産を1円も受け取っていないならば、税務当局にとっては、
結果的には株主に対する求償権は発生しない(結果、概念的には法人に対する債権自体がなかったとの捉え方になる)
株主は法人の残余財産を受け取れなかった=言わば法人は赤字決算だった(課税所得がなかった)(ことと同じと概念的に考える)、
というふうに法人の財産や求償権について整理をしてみてはいかがでしょうか。
「清算貸借対照表」には本来は「純資産の部」(資本金など)はないのですが、それは清算が株主とは全く無関係に行われるからだ、
という見方をしてもいいと思います(清算手続き開始時に作成される計算書類は基本的には財産目録と債務の一覧表だけだと思います)。
財産換価の過程で財産の処分益(益金)が生じることもあるでしょうが、それはもはや法人の所得ではないのです。
その理由は、法人には既に法人の基礎たる資本金がない状態であるからと言ってもいいですし、
法人や株主とは全く関係のない人物が法人の財産を処分した結果であるからと言ってもいいでしょう。
いずれにせよ、財産換価の過程で発生した財産の処分益(益金)は、法人の所得ではなく、法人をパススルーするのです。
清算の手続きの開始と同時に、法人には資本金はない、と考えなければならないわけです。
帳簿価額に比べて現金の金額が増加しても、その増分は債務の弁済に充てるか株主に分配するかしなければならないわけです。
債務の弁済に充てる以上に法人に財産があるのならば、それは株主に残余財産として分配するべきであり、
それはイコール、税務当局には代替的存在としての株主に対する概念上の求償権が発生する(株主は法人の財産を受け取ったから)、
ということであるわけです。
簡単に言えば、法人の財産が株主に移転するように、所得に関する税負担も法人から株主に移転するわけです。
税を納付する義務が法人から株主に移転するとは、税務当局の立場から見ると、株主に対する求償権が発生するということでしょう。
以上の考え方については、2017年2月26日(日)のコメントでも書いていますので、そのコメントも参考にして下さい。
2017年2月26日(日)のコメントに加えて、今日は少し異なる視点から考察を行い、そしてまた別の言葉を用い、
「求償権」という考え方を軸にして、清算の手続き開始後は法人は法人税を納付しないことの理由について説明を行ってみました。
概念的には、清算の手続きの開始と同時に法人からは資本金が消滅するわけです。
概念的には、法人から資本金が消滅した状態で、株主からも法人からも独立した人物が財産換価を執行していくわけです。
「法人(資本金)はもはやない」と考えると、所得が法人をパススルーするイメージがつかめるのではないでしょうか。