2017年2月27日(月)
2017年2月26日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201702/20170226.html
昨日2017年2月26日(日)
は、会社の清算手続き(特に清算手続き中における法人税の確定申告のあり方)について書きました。
法理上の考え方として、一旦法人が清算手続きに入ったならば、たとえまだ申告していない法人所得があろうとも、
清算手続き開始後は法人は確定申告を行う必要はなく、法人が稼得した所得に関しては、
残余財産の分配を通じて株主に対して所得税を課税する、という所得課税方法に移行するようにするべきだ、と書きました。
昨日は一切触れなかった(理詰めで・論理のつながりだけで思考を進めていったためそのことが頭に思い浮かばなかった)のですが、
ひょっとしたらこれは現行の考え方に近いのかもしれませんが、
清算手続き開始後の清算人による会社財産の処分の結果(法人で会社財産処分差損益の認識を行う)まで含めて、
「法人が稼得した所得」ということで、会社財産の処分完了後に法人が確定申告を行う、という考え方も考えられると思います。
昨日は、「法人税を支払う順位(債務の弁済順位)」という観点から、清算手続き開始後は法人が法人税を納付するのはおかしい、
と書いたわけですが、今日はまた1つ別の観点から法理的なおかしさについて書きます。
それは、@「平時における会社財産の売却」とA「清算手続きにおける会社財産の処分」は本質的に異なるものだ、という点です。
このことは、@の取引で発生・認識した損益とAの取引で発生・認識した損益とは通算できない、という考え方につながります。
つまり、仮に清算手続きに関連して法人が確定申告を行うならば、清算手続きの開始と同時に一旦それまでに稼得した所得を申告し、
次に、会社財産の処分で発生・稼得した所得を申告する、という計2つの確定申告を法人は行う、という考え方になります。
その理由は2つあります。
1つ目の理由は、業務執行者・執務者の相違です。
@の取引は「株主に選任された業務執行者」が行いますが、Aの取引は「裁判所に任命された清算人」が行います。
もちろん、「株主に選任された業務執行者」も「裁判所に任命された清算人」も、
最大限高い価格で会社財産を売却・処分するよう最善を尽くします。
英語で言えば、「best
effort」となるでしょうか。
しかし、そもそも会社の業務は株主に任命された業務執行者が行うものです。
株主に任命された業務執行者が業務を行うからこそ、法人なのです。
その意味において、「裁判所に任命された清算人」が会社財産の処分を行うというのは、本来はおかしいわけです。
しかし、清算手続きを進める以上、公平な会社財産の処分と債務の弁済と残余財産の分配を担保するため、
「裁判所に任命された清算人」が最後は執務を行うことになっているわけです。
その意味において、平時の法人と清算手続き中の法人とは法人格こそまだ同じでも実態は全く別の法人だ、
という見方をせねばならないわけです。
法人格から法人を見ると、清算手続き開始前後で所得を通算しても特段問題はないのではないか、と思えるかもしれませんが、
やはり「業務執行者・執務者の相違」は極めて大きい(株主の信任は清算手続き開始後は法人に及ばない)と言えるのです。
株主から法人を見ると、清算手続き開始後は全く別の法人だ(だから所得認識も別だ)、と言えばいいでしょうか。
"Who
moved my directors?"
(私が選任した取締役はどこへ消えた?)、と株主は清算人に言いたくなるかもしれません。
これが、@の取引の結果の確定申告とAの取引の結果の確定申告とは別であるべき(両取引の損益は通算できない)理由です。
2つ目の理由は、法理面・会計理論面というよりも、商取引・商行為の観点から見た理由になります。
清算手続き中、清算人は会社財産の処分を進めていくわけですが、
固定資産(会社設備や本社ビルや土地など)の処分は通常は行いませんのでまだ問題はないのですが、
流動資産の処分は、通常は業務執行者が行っている以上、清算人では商取引を行う上で不利に働くことがあります。
「正常営業循環」という言葉がありますが、会社は通常、同じ取引先に経常的に棚卸資産を販売するわけです。
取引先からすると、仕入先の代表者はいつもの社長さんではなく初めて顔を見る清算人となりますと、大丈夫だろうかと思うわけです。
また、そもそも法人は清算手続きに入っているということで、今後はその会社からは棚卸資産を仕入れたくても仕入れられない、
というふうに取引先からは見えるわけです。
そうすると、今後の安定仕入れのためにも、他の取引先から仕入れようとその取引先は思うわけです。
そのことは、清算人が会社財産の処分を進めていく上で非常に不利なことでしょう。
他の言い方をすれば、業務執行者が通常通り商取引を行っていれば本来の価格で売れたであろう棚卸資産が、
清算人が商取引を行うとなりますと同じ棚卸資産でも全く異なる価格でしか売れない(場合によっては全く売れない)、
ということになってしまうわけです。
率直に言えば、会社が清算手続きに入っているというだけで、商取引上は極めて不利であるわけです。
取引先・買い手から見ると、その会社から買うのはやめておこう、という気になるものでしょう。
他の観点から言えば、業務執行者はその後販売を行うつもりで棚卸資産を仕入れたわけですが、
清算人はその棚卸資産を仕入れてはいないわけです。
清算人は、自分が仕入れたわけでもない棚卸資産を販売していかねばならないわけです。
清算人が行えるのは販売だけなのです。
業務執行者は自分で棚卸資産を仕入れて売ることができたのに、清算人は棚卸資産を売ることだけしかできないわけです。
これは所得と呼ばれるものを認識する上で、法人の法人格は同じでも、同一の所得(同一の人による損益)とは見なせないわけです。
歴代の業務執行者は皆「株主に選任された」という事実があるから、
たとえ自然人としての業務執行者が交代しようとも法人の業務執行者に同一性はある(したがって法人の所得にも同一性がある)、
という論理立てになるのだと思いますが、清算人は株主には任命されてはいないのです。
ですので、法人の所得にも同一性がない、という論理立てになるわけです。
清算人は、取締役らとは異なり、突然社外からやってきて会社財産の処分だけを手掛けなければならないわけです。
販売する棚卸資産を自分で(自分の意思で)仕入れることができない、というのはとても正常な商取引とは言えないわけです。
自分の意思で棚卸資産を仕入れ自分の意思でその棚卸資産を売る、これが商取引です。
清算人は始めから正常な商取引を行うことはできない(能力や商才がないという意味ではなく自分で仕入れていないという意味で)以上、
清算人による会社財産の処分の結果もまた、正常な所得とは言えないのです。
先ほど、「会社が清算手続きに入っているというだけで、商取引上は極めて不利である」と書きましたが、
営業継続を前提としていない時点で、現代の商慣習を鑑みれば、ある意味正常な商取引を行える状態にあるとは言えませんし、
したがって、営業継続を前提としていない状況下における所得は、正常な所得とは言えないわけです。
少なくとも、その所得は「営業継続を前提としている場合の所得」とは異なるはずです。
これが、@の取引の結果の確定申告とAの取引の結果の確定申告とは別であるべき(両取引の損益は通算できない)2つ目の理由です。
ただ、以上の議論は、今日書きましたコメントを引用すれば、
>仮に清算手続きに関連して法人が確定申告を行うならば、清算手続きの開始と同時に一旦それまでに稼得した所得を申告し、
>次に、会社財産の処分で発生・稼得した所得を申告する、という計2つの確定申告を法人は行う、
ということを前提に書いたわけですが、
ではこの確定申告の方法で問題はないのかと言えば、やはり議論は昨日書きました論点に戻るわけです。
今日の最初にも書きましたが、「法人税を支払う順位(債務の弁済順位)」が問題になるわけです。
清算人による「会社財産の処分で発生・稼得した所得」については法人の所得とは見なさず、
残余財産の分配を通じた株主の所得とする、という課税方法を行うことにするとしましょう。
それでも、「清算手続きの開始と同時に一旦それまでに稼得した所得を申告する」
ということはできるのではないかと思われるかもしれません。
しかし、昨日も書きましたように、「法人税を支払う順位(債務の弁済順位)」が問題になるわけです。
簡単に言えば、確定申告をして法人税を先に払う、ということができないのです。
確かに、確定申告をすれば、税務当局に納付をするべき法人税額が確定します(そして当然に納付する義務が生じます)。
ですので、一見法人税を先に払うということができるように感じるわけです。
しかし、それを言うなら、法人が債権者に債務を弁済することも始めから確定しているわけです。
始めから確定しているから確定債務なのです。
ただ、その弁済期日がまだ到来していないというだけなのです。
清算手続き開始前の所得に関して確定申告をするのだから、法人税だけは先に納付できるはずだ、という考えは間違いです。
それを言うなら、法人の会社債務は清算手続き開始前に確定しているのですから。
また、清算手続き中に新たに認識される会社債務もあります。
例えば、未払の賃金や未払の給与や未払の営業費用(これらは通常は・平時は貸借対照表に認識・計上されません)などです。
清算手続きが開始されると、賃金や給与や営業費用なども含め、全ての現金支出は全面的に禁止されます。
これらが原因で正確な確定申告(法人税額の算定)が行えないということも考えられるでしょう。
ですので、「清算手続きの開始と同時に一旦それまでに稼得した所得を申告する」(法人税を納付する)ことはできないのです。
「清算手続きの開始前に法人が稼得した所得」も含め、清算手続きにおいて、
法人税の納付(もしくは、残余財産の分配を通じた株主への課税)を行っていく他ないのです。
昨日も書きましたが、全債権者の利益が全て満たされて初めて税務当局に帰属する(税務当局に課税可能な)利益が生じるわけです。
このことは、清算手続きにおいてもそのまま当てはまる考え方であるわけです。
法人が確定申告を行うというのは、極めて概念的に言えば、株主の利益を法人が申告をする、ということに近いわけです。
もちろん、法人税を支払うことによって、法人の利益は法人の利益になる(株主の所得と法人の所得は全く別になる)わけですが、
株式会社制度の本質として、法人の利益は株主に帰属していることもまた確かでしょう。
そのことを鑑みますと、法人が清算される、すなわち、法人が消滅する、となりますと、
法人の所得を株主が申告する、というのは実は何らおかしなことではない、と言えるのではないかと思います。