2017年1月20日(金)
過去の関連コメント
2017年1月12日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201701/20170112.html
【コメント】
紹介している記事は、「強制執行」という民事執行手続(裁判上の手続き)に関する記事になるのですが、
「強制執行」については2017年1月12日(木)にコメントを書いていますので、参考にしていただければと思います。
2017年1月12日(木)のコメントのおさらいのようになるのですが、記事には、
>現行の民事執行法では、債権者が裁判所に預金の差し押さえを求める場合、
>債務者が口座を持つ金融機関を支店名まで自力で特定する必要がある。
>財産の所在がわからず、裁判で勝っても損害賠償金を受け取れなかったり、
>離婚した元配偶者から養育費を得られないケースが相次いでいる。
と書かれています。
それで、このたび、メガバンク3行が弁護士会を通じた預金口座情報の照会に応じることになった、ということのようです。
このことは、逆から言えば、今までは債権者が弁護士を雇って銀行に預金口座情報の照会を行っても銀行は照会に応じなかった、
ということなのだろうと思います。
現在でも、実は、銀行は弁護士や弁護士会からの照会があっても照会に応じる法的義務はないのではないかと思います。
記事には「協定」という文言が用いられていますが、現在でも銀行と弁護士会とが「弁護士会照会」に関する協定を
締結することで、銀行は任意に(協定に基づき)預金口座情報の照会に応じている、という状態なのだと思います。
この点については記事にも記載がありまして、記事には、
>地方銀行などの中には、守秘義務違反を懸念して債権者への開示に慎重な例もある。
>このため法務省は民事執行法を改正し、裁判所が債務者の口座情報を金融機関に照会できる制度を新設する方針。
と書かれています。
端的に言えば、「『銀行の守秘義務』はどうなるのか?」、という点が論点になるのだろうと思います。
「銀行の守秘義務」は、一言で言えば「口座の約款」に記載されているかと思います。
「口座を持っている預金者だが銀行の守秘義務について知りたい」と窓口で尋ねれば、
守秘義務について規定のある約款を見せてくると思います。
もしくは、約款には守秘義務は規定されていない(約款には守秘義務はあるとも開示するとも書かれていない)かもしれません。
約款に規定がない場合の銀行の対応は、まさに個々の銀行次第なのだろうと思いますが、
銀行が弁護士の照会に応じる法制度は現在のところはない(照会に応じる法的義務は銀行にはない)のだけは確かだと思います。
この点、一般に、人は、家の金庫にお金を貯めたりやたんす預金をしておけば、自分の財産について他者が開示をする、
ということはない、という言い方はできる(少なくとも法理的にはない)と思います。
今日の記事に即して言えば、ここでの「人」は「預金者(債務者)」であり、「他者」は「銀行」です。
債務者は、家の金庫にお金を貯めたりやたんす預金をしておけば、自分の財産について誰かに開示される心配はないわけです。
すなわち、そうしておけば、債務者は債権者に財産を特定される恐れはない、ということになるわけです。
しかし、「強制執行」ということを鑑みた時、それでは確定判決や和解調書には何の意味もないということになってしまうわけです。
そうしますと、実務上考えられる手続きとしては、刑法で言う「捜査令状」に相当する概念の「裁判所からの命令」が
民事でも現実には必要だ、ということになるかと思います。
私の造語になりますが、名付けて「強制執行令状」を裁判所が発行する、という手続きになろうかと思います。
その際、債権者自身が債務者の家宅に乗り込むとなりますと、危険があったり公平性や遵法性に疑義が生じてはなりませんので、
例えば、裁判所から任命された「強制執行人」(これも私の造語ですが)が、
「強制執行令状」を手に債務者の家宅に乗り込んで債務者の財産を差し押さえる、
という制度や手続きが現実には求められるのではないかと思います。
また、裁判所が発行した「強制執行令状」を手に「強制執行人」が金融機関に照会を行った場合は、
金融機関は民事執行法上の法的義務として口座情報等の開示を行わなければならない、ということも現実には求められると思います。
さらに、これは債務者が財産の隠匿を図り財産を他者に預けている場合でも同じ(預かっている者に対する実効性のある手段)です。
このような手法ですと、債務者の財産は金融機関の口座なのかたんす預金なのか隠匿を図り他者に預けているものなのかを問わず、
「強制執行人」は債務者の財産を包括的に探索しそして差し押さえることができる、ということになるわけです。
今後、民事執行法が具体的にどのように改正されるのかは分かりませんが、「裁判所からの命令」を1つの軸にして考えてみました。
国税庁(いわゆるマルサ)は脱税容疑者などの家宅に強制的に税務調査を行う場合、「裁判所からの命令」は不要なのだと思いますが、
警察が容疑者などの家宅に強制的に捜査(家宅捜索)を行う場合、「裁判所からの命令」が必要なのだと思います。
「裁判所からの命令」の有無(「裁判所からの命令」の位置付け、「裁判所からの命令」の
required
の程度)については、
法学的見地からも様々な説明付けが可能なのかもしれませんが、
刑事でいう「捜査令状」を1つの叩き台として考えてみますと、民事でも同じ概念の「裁判所からの命令」が観念できると思いました。
たんす預金の存在や債務者が財産を他者に隠し預かってもらう場合のことを考えますと、
裁判所が金融機関に口座情報を照会できる制度を設けるのではなく、
民事上の「強制執行令状」という考え方を導入した方が一番きれいに話を整理できると思いました。
「強制執行令状」があれば、あらゆる人の守秘義務が包括的・強制的に解除される、と考えるわけです。
警察の捜査では容疑者をかばうといいことはないように、
「強制執行令状」があるのに債務者をかばうといいことはない、というふうに民事執行法を定めていけばいいわけです。
「強制執行」では、債務者財産を網羅的に差し押さえることが求められるわけですが、
「捜査令状」の民事版を導入すると、それが可能になると思いました。
マルサの税務調査に「裁判所からの命令」は不要なら、警察の捜査にも「裁判所からの命令」は不要、
という考え方もあると思います(法理学的には、どちらも行政府による強制的な調査である、と整理できるでしょう)が、
「強制執行」では「確定判決」が法律上の
requirement
(そのために必要不可欠なもの)になろうかと思いますので、
私が提唱している新「強制執行」では「裁判所からの命令」が必要、ということになります。
弁護士会だ協定だと言わずに、「強制執行令状」一本で話の全てのかたが付く、と思いました。
それから、2017年1月12日(木)のコメントでは、
>理論的には・法制度の構造としては、「決定」の部分と「執行」の部分とは分離しているべきなのだと思います。
と書きました。
この時は頭の整理を付け切れなかったのですが、今日改めて考えてみますと、コメントを書いていて頭の整理が付きました。
それは、「裁判所は執行には関与しない。」という点です。
裁判所というところは、結局のところ、平たく言えば「指示を出すだけ」のところであるわけです。
判決しかり、命令しかりです。
その後の執行については、裁判所は関与しないのです。
執行を行うのは、裁判所以外の他の誰かなのです。
「家宅捜索」であれば、強制的に捜査を行ってよいかよいかを判断するのは裁判所ですが、
実際に捜査を行うのは警察であるわけです。
それと同様に、「強制執行」に関しても、裁判所は一切関与しないわけです。
裁判所は「強制執行」に関与しない、だから、債務者の財産のありかは債権者が自分で探さなければならないのです。
この財産を差し押さえて下さいという申請があれば、裁判所は差し押さえの命令は下すことができるわけです。
債権者が債務者がどのように弁済を受けていくか(言わば「執行」)については、裁判所は関与しないのです。
それは当事者の問題だ、という言い方ができるのかもしれません。
民事であれ刑事であれ、裁判所は判断だけをする、裁判所というのはそういう位置付けなのだと話を整理できると思いました。
裁判所のことは「司法府」と呼ばれますが、法を司るとはこの場合、「いいですよ。悪いですよ。」と言うだけの場所だ、
と行政府と司法府の位置付けを整理できると思いました。
「裁く」とは、法的に正しいか間違っているかを決めることなのです。
法的に間違っているとなりますと、刑事であれば刑務所に入ったり死刑になったり罰金を払ったりするわけです。
しかし、刑務所を運営しているのも死刑台を設置しているのも罰金を集金するのも裁判所ではないわけです。
それらを行っているのは法務省かどこかでしょう。
少なくとも行政府のどこかであるわけです。
決定後は、裁判所の関与は離れるわけです。
同様に、民事上の判決に関しても、
その決定を受けて当事者達がどのように話を進めて行くのかについては、裁判所は関与しないわけです。
ですので、確定判決を受けても債務者が債務を履行しない場合、
債権者が「債務者の財産がどこにあるのか分からないのですが。」と言っても、
裁判所は「それは知らない。」と答えるわけです。