2016年12月29日(木)


昨日のコメントに一言だけ追記をします。

2016年12月28日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201612/20161228.html

昨日のコメントでは、「公開買付者は所有株式を公開買付に応募できるのか否か?」という点について、理論上の結論として、

>「株式の買い方(応募株式の買付方法)」に着目すれば、「公開買付者は所有株式を公開買付に応募できる。」となる気がします。

と書きました。
この理論上の結論は、特に「代金の決済」という観点から見た場合の結論になります。
公開買付代理人は株式の決済代金を応募株主としての公開買付者に支払うことができる、という点から導き出した結論になります。
自分から自分に目的物の対価を支払うことはできませんが、公開買付の場合は公開買付代理人が「代金の決済」を担っていますので、
公開買付代理人から公開買付者に目的物の対価を支払うという状況が観念できる、と思ったわけです。
この理論上の結論は、先ほども書きましたように、特に「代金の決済」という観点から見ると間違ってはいないと思うのですが、
今日は1つこの理論上の結論の問題点を昨日とは少しだけ異なる観点から書きたいと思います。
その問題点とは、煎じ詰めれば、株式の所有権の移転は結局のところは起こってはいない、という点です。
私は先ほど、公開買付代理人は公開買付者に目的物(応募株式)の対価(決済代金)を支払うことができる、と書きました。
このこと自体は確かに観念できるわけですが、公開買付代理人はこの後(厳密に言えば「同時に」ですが)どうするのかと言えば、
株主名簿の書き換えを行うことになります。
一言で言えば、決済を行った株式の名義人(株主名簿記載の株主)を応募株主から公開買付者へ書き換えるわけです。
実務上の名義書換は、上場企業では株主名簿管理人に何らかの形(所定の書面の提出等)で通知をすることで行うわけですが、
例えば証券会社の窓口で株式を購入した場合は、証券会社が行ってくれる(株主名簿管理人に代わりに通知をする)と思います。
ですので公開買付においても同じような手続きになると思います(つまり、応募株主が実務上名義書換を意識することはない)。
応募株主から見ると、公開買付代理人が株式の名義人の書き換えも行ってくれる、というふうに見えるといっていいでしょう。
実務上の手続きのことはともかく、決済代金が応募株主に支払われることで株式の名義人は応募株主から公開買付者へ変わる、
ということだけは間違いないわけです。

 



すると、ここである問題が生じるわけです。
それは、公開買付者が応募した株式については決済代金の支払い後も名義人が変わらない、という問題点です。
公開買付制度では、買付価格や買付期間といった買付条件に加え、公開買付者の、@公開買付開始前の持株数(所有議決権割合)、
A公開買付により買い付ける予定の株式数(取得予定議決権割合)、B公開買付成立後の持株数(所有議決権割合)、
の3つを公開買付者は予め明確にしなければなりません(実務的には、開始前に提出する公開買付届出書に記載しなければならない)。
ところが、公開買付者が所有株式を公開買付に応募するとなりますと、たとえ公開買付が成立しても、
当初開示していた通りの「B公開買付成立後の持株数(所有議決権割合)」にはならない、ということになるわけです。
例えば、公開買付が成立した場合は公開買付者は51%の議決権を所有することになりますが、この条件を受け入れる株主の方は、
公開買付に応募をして下さい、と言って公開買付者は公開買付を実施するわけですが、この場合、
実際には「B公開買付成立後の持株数(所有議決権割合)」は51%にならないにも関わらず、公開買付は成立してしまうわけです。
これでは、買付条件の開示や公開買付届出書の提出の意味が全くない(株主が判断を間違う)、ということになってしまうわけです。
以上の議論を踏まえますと、昨日とは逆に、「公開買付者は所有株式を公開買付に応募できない。」という結論になると思います。
改めて考えてみますと、旧証券取引法や現行の金融商品取引法には、
「公開買付者は所有株式を公開買付に応募できない。」という旨の明文の規定はないと思います。
その理由は、法は公開買付者が所有株式を公開買付にすることを想定している(法はそのことを容認している)からでもなく、
また、そのようなことをする公開買付者がいることを法は想定していないから(法の不備)でもなく、
先ほど書きました、公開買付者の、@公開買付開始前の持株数(所有議決権割合)、
A公開買付により買い付ける予定の株式数(取得予定議決権割合)、B公開買付成立後の持株数(所有議決権割合)、
の3つを公開買付者は予め明確にしなければならない、という規定から、
当然に「公開買付者は所有株式を公開買付に応募できない。」という結論(法の解釈)になるからなのだと思います。
その旨の明文の禁止規定を置かなくても、
公開買付者が所有株式を公開買付に応募することは開示の義務を踏まえれば行いようがない、という解釈になるわけです。
実務上の法の解釈としては以上のようになるわけです。
公開買付者は所有株式を公開買付に応募できるかもしれませんし、
公開買付代人も公開買付者に決済代金を支払うこともできるかもしれません。
しかし、公開買付者の「B公開買付成立後の持株数(所有議決権割合)」は公開買付届出書の記載内容とは異なっていることから、
結果的に「公開買付者は所有株式を公開買付に応募できない。」ということになるわけです。
簡単に言えば、実際には公開買付は成立していないにも関わらず、
公開買付が成立したと虚偽の公表・開示を行った(そして不成立にも関わらず決済代金を応募株主に支払った)、
という解釈になると思います(その場合の金融商品取引法上の罰則については今日は触れませんが(何も規定はないかもしれません))。
公開買付への応募株式数だけが成立条件(「買付予定数の下限」など)を満たせばよいというわけではなく、
公開買付届出書に記載した公開買付者の「B公開買付成立後の持株数(所有議決権割合)」という条件が満たされなければ、
その公開買付は成立したとは言えない、という解釈になるわけです。
たとえ明文の禁止規定はなくても、他の条文や規定から導かれる制約条件により、
「公開買付者は所有株式を公開買付に応募できない。」という結論になるわけです。
昨日は、「株式の買い方(応募株式の買付方法)」に着目して「公開買付者は所有株式を公開買付に応募できる。」
という理論上の結論を導き出しましたが、今日は、主に条文解釈と開示義務上の制約という観点から、
「公開買付者は所有株式を公開買付に応募できない。」という実務上の結論を導き出しました。