2016年11月6日(日)



昨日のコメントに一言だけコメントします。

2016年11月5日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201611/20161105.html

昨日のコメントでは、自己株式の取得の限度額に関して、

>以前この点について、私は自己株式の取得に際して計算書類を作成したりはしないのだから、
>そもそも「取得の効力発生日における分配可能額」は誰にも分からないのではないか、といったことを書きました。

と書きました。
この点について、一言だけ補足をします。
現行の会社法の定めでは、自己株式の取得を行うに際しては、自己株式の取得の限度額を(分配可能額)算定するため、
「臨時決算」という文字通りの臨時の決算を行うことになるです。
期中(事業年度の途中の一定の日)に臨時に決算を行い、「臨時計算書類」を作成するわけです。
基本的には、この「臨時決算日」における「臨時計算書類」から算出される分配可能額が、自己株式の取得の限度額となるわけです。
非常に大まかに言えば、「臨時計算書類」の利益剰余金が自己株式の取得の限度額と言っていいわけです。
「臨時計算書類」の利益剰余金の金額には、前期末日からの臨時決算日までの間の損益額も反映されることになるます。
これが会社法上の規定です。
一見すると、この「臨時計算書類」に基づき分配可能額を算出し、自己株式の取得を行っていけば
会社法上の「自己株式取得の財源規制」はクリアできるのではないか、と思われるかもしれません。
しかし、この自己株式の取得の限度額の算出方法にはいくつかの問題があります。

 



まず第一に、この「臨時計算書類」上の分配可能額は、会計上も法律上も確定した金額ではない、という点です。
その理由は法人税です。
法人税の金額は、事業年度の初日から末日までの合計の課税所得額から算定されます。
1年間を通じないと課税所得額そのものが確定しない(事業年度の途中に課税所得額を確定させることは法人税法上できない)のです。
何か法人税法上の正式な臨時決算日を設ける(そしてその上で確定した臨時決算を行う)というのならまだ話は別ですが、
会社法のみに基づき決算の金額を確定させることは他の法制度(特に法人税法)との関連上、実は不可能なことなのです。
次に、この「臨時計算書類」上の分配可能額は所与のこと(確定した正式な金額、財源規制に堪え得る数字)としましょう。
しかしそれでもやはり問題があります。
それは、通常、自己株式の取得は1日では終了しない、という点です。
「臨時決算」を行うことで確定させることができる分配可能額は、あくまで「臨時決算日」時点の分配可能額です。
通常、上場企業は、自己株式の取得を、市場内取引や公開買付によって行います。
公開買付の場合は言うまでもありません(20営業日以上の日数が法令上かかる)が、
市場内取引の場合も、少なくとも数日以上の日数をかけて行っていくわけです。
すなわち、この「臨時決算」では「自己株式の取得の効力発生日」時点の分配可能額を算出していることには全くならないわけです。
なぜなら、「臨時決算日」と「自己株式の取得の効力発生日」は全く異なるからです。
「自己株式の取得の効力発生日」時点の分配可能額を算出しようと思えば、将来の分配可能額を算出しなければなりません。
しかし、言うまでもありませんが、そんなことは誰にもできないのです。
さらに言えば、たとえ1日で自己株式の取得が完了する(例えば、市場外の相対取引や証券取引所での立会外取引の場合)としても、
非常に厳密に法理的な観点から言えば、それでも「自己株式取得の財源規制」としては問題があるように思います。
なぜならば、本日2016年11月6日(日)を臨時決算日と定め、本日、2016年11月6日(日)付けの臨時計算書類を作成したとします。
その2016年11月6日(日)付けの臨時計算書類には、2016年11月6日(日)までの全取引が反映されていると言えるわけです。
そして、その2016年11月6日(日)付けの臨時計算書類から算出される分配可能額が、
2016年11月6日(日)時点における分配可能額(2016年11月6日(日)の24時00分00秒の分配可能額)であるわけです。
では、ここで質問です。
自己株式の取得は一体いつ行うのでしょうか?
2016年11月6日(日)は既に終了していますから、自己株式の取得は翌2016年11月7日(月)以降のある日となるわけですが、
2016年11月6日(日)を臨時決算日と定めたわけですから、自己株式の取得は「2016年11月7日(月)」を計画していたといえるでしょう。
では、その「2016年11月7日(月)」時点における分配可能額はいくらでしょうか。
先ほど作成した臨時計算書類上の分配可能額は、あくまで2016年11月6日(日)時点における分配可能額です。
2016年11月6日(日)時点における分配可能額は、やはり「自己株式の取得の効力発生日」時点の分配可能額ではありません。
「2016年11月7日(月)」の朝一番で立会外取引を行ったり、「2016年11月7日(月)」の午前0時に相対取引を行えば、
分配可能額に変動はないから結果的に問題はない、とも言えますが、自己株式の取得の前に、すなわち、
「2016年11月7日(月)」に何らかの営業活動を行った時点で、既に分配可能額に変動が生じる、と言わねばならないでしょう。
「自己株式の取得の効力発生日」時点の分配可能額を算出することは、法理的には絶対にできない、と言わねばならないでしょう。
「『自己株式の取得の効力発生日』時点の分配可能額」という金額は、概念的にない(観念できない)とすら言えるでしょう。
なぜなら、「その日が終わらないと」臨時計算書類は作成できない(その前日の臨時計算書類を作成することしかできない)からです。
そして、以上の論点に関連して言えば、結局のところ配当に関しても、やはり法理的に厳密に言えば、分配可能額を鑑みれば、
当事業年度の配当を支払い終えなければ「次の事業年度」の営業は一切開始できない、と考えなければならないでしょう。