2016年9月25日(日)
2016年9月23日(金) に「上場株式の相続」についてコメントしましたが、一言だけ追記をします。
2016年9月23日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201609/20160923.html
日本証券業協会が発表した「平成29年度税制改正に関する要望」には、「上場株式等の相続税評価額等の見直し」
について4つ提言がなされていますが、今日はその中でも、
”相続財産間の不均衡是正のため、上場株式に係る相続時の物納財産としての順位を国債・地方債・不動産と同等とすること”
という提言についてコメントします。
この提言は、「物納」という相続税の納付方法に関する提言です。
「物納」については、2016年9月23日(金)
に3つ解説記事を紹介していますので、「物納」についてはそれらの記事も見て下さい。
「平成29年度税制改正に関する要望」の添付資料である【主要項目説明資料】から、「物納」についての部分を再度紹介します。
「現行の相続税物納制度と要望」
現行の相続税法では、相続税の納付に際して、上場株式を税務当局に納付することができるようです。
ただし、現行の相続税法では、上場株式の物納財産としての順位は第2順位となっているので、
日本証券業協会としては、上場株式の順位を国債や地方債や不動産等と同等の第1順位に上げて欲しい、と要望しているわけです。
日本証券業協会としては、上場株式が相続税の物納財産として利用されるようになれば、
株式投資が活性化されると考えているのでしょう。
日本証券業協会や全国の証券取引所といった広く言えば証券業界としては、
株式投資の活性化につながる施策があるのであれば、その施策の実現に向けて提言を行っていきたいと考えているのでしょう。
ただ、ここで考えなければならないのは、「物納」という「現物をもって税を納付する」ということの是非だと思います。
相続税を納付するに当たっては、「相続税額」を算定しなければならないわけです。
こう書きますと、当たり前ではないかと思われるかもしれませんが、実はこのことが事の本質なのです。
「相続税額」は、どのような手段で表現されているでしょうか。
文字でしょうか、文章でしょうか、それとも、絵か何かでしょうか。
言うまでもありませんが、「相続税額」は「金額」で表されているわけです。
こう書きますと、やはり当たり前ではないかと思われるかもしれませんが、
「相続税額」が「金額」で表されているということは、
「相続税額」をまさに現金という手段を用いて測定したということではないでしょうか。
そうしますと、論理的・必然的に、「相続税」は現金でしか納付できない、ということではないでしょうか。
相続税を国債や地方債や不動産で納付すると言いますが、では「相続税額」を国債や地方債や不動産で測定したでしょうか。
税額の測定に用いた手段と同じ手段を用いて、税は納付しなければならないのではないでしょうか。
そうでなければ、税の測定結果(金額)と実際に納付した資産の価値(評価額)とが異なってしまう恐れがあると思います。
国債も地方債も不動産も金額で表現することがほとんどですから、国債や地方債や不動産で税を納付することもできるのではないか、
と思ってしまうだけであり、そもそもの話をすれば、「相続税額」は現金で測っているわけです。
「相続税額」を現金で表現している時点で、それは「現金で納付しなさい。」という意味なのではないでしょうか。
より実務的な話をすれば、国債も地方債も不動産も現実には極めて換金性が高い資産であると言えるでしょう。
額面金額100円の国債は即座に100円の現金と交換できます。
また、社会的には、不動産の換金可能額は予め極めて明確であると言えます。
ですので、額面金額100円の国債は100円の現金と全く同じであり、
時価(換金可能額)が100円の不動産は100円の現金と全く同じである、と実際上は言えると思います。
したがって、国債や地方債や不動産で税を納付することは現金で税を納付することと結局同じである、と実際上は言えると思います。
ただ、国債も地方債も不動産も金額で表現することがほとんどあるわけですが
それも実は国債も地方債も不動産も現金を用いて測定しているという事実を示しているに他ならないわけです。
つまり、国債と呼ばれるものの価値を現金を用いて表現すれば、「額面金額○○円」になるというだけであり
不動産と呼ばれるものの価値を現金を用いて表現すれば、「時価○○円」になるというだけのことなのです。
本質的に、現金と国債や地方債や不動産は異なるのです。
現金では資産の価値を測れます。
しかし、資産では資産の価値を測れないのです。
現金で国債や不動産の価値は測れます。
しかし、国債や不動産では現金の価値は測れないのです。
「相続税額」というのは、「納付するべき相続税の分量を現金で表現すれば『○○円』になります。」と言っているだけなのです。
もちろん、税というのは全て、「税の分量」は現金で表現されます。
しかし、「税の分量」を現金で表現している以上、税を現金以外の資産で納付することは論理的にできないのです。
結論を言えば、何理論と言えばいいか分かりませんが理論上は、税というのは本質的に現金でしか納付できないのです。
また、以上のことを少しだけ異なる観点から説明をしてみましょう。
江戸時代ではありませんが、「年貢は米俵○○俵だ。」とお上に言われたら、農民は年貢を米俵で納めるしかないわけです。
お米の代わりに、山で取れた貴重な猪で年貢を納める、というわけにはいかないわけです。
なぜなら、お米と猪とで本当に等しい分量の年貢を納めたことになっているのか分からないからです。
それは結局のところ、年貢の納める者の間で不平等が生じるのを避けるためでもあるでしょう。
提言には「相続財産間の不均衡是正のため」などと書かれていますが、
そもそも「物納」を認めているから、相続財産間の不均衡が生じているのです。
相続税法に「物納制度」がないならば、相続財産間に不均衡など生じないのです。
「代わりにこれで納付します。」ということを認めるためには、
本来の納付物と代わりの物との相互交換性が極めて高いことが必要であるわけです。
他の言い方をすれば、「代わりの物は本来の納付物と全く同じだ。」と誰(納付者)の目から見ても言えることが必要なのです。
現金というのは、極めて利便性が高いものであるわけです。
現金が言わば仲介役となることで、資産と資産の価値の橋渡しができるわけです。
例えば、米俵1俵は100円であり、猪1頭は1000円だ、だから、米俵10俵と猪1頭は価値が同じである、といった具合にです。
現金が米俵の価値と猪の価値とを橋渡ししているわけです。
米俵の値踏みと猪の値踏みとが公正であるのなら、誰もが米俵10俵と猪1頭の交換に不平不満はないことでしょう。
ですので、「額面金額100円の国債は現金そのもので表現すれば現金100円と同じだ。」と、誰の目から見ても社会的には言えるので、
納付するべき「相続税額」の一部を、本来の納付手段である現金とは異なる国債が構成していても、実務上は問題はない、
という取り扱いに現行の相続税法ではなっているだけなのです。
A value of an asset is measured by means of cash.
A value of cash can't be
measured by means of another asset.
In case a value of a thing is expressed
by a unit of a currency such as "yen,"
it means that a value of the thing has
been measured by means of cash.
In the context of valuation, cash is always a
basis and an asset is an object.
Cash will never be an object.
資産の価値を現金を用いて測るのです。
現金の価値を別の資産を用いて測ることはできません。
あるものの価値が「円」といった通貨の単位で表現されている場合、それは、その価値を現金を用いて測定した、ということです。
値踏みという文脈においては、現金が常に基礎であり資産が対象物なのです。
現金が対象物になることは決してないのです。