2016年9月20日(火)
2016年9月19日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201609/20160919.html
昨日のコメントでは、株式会社イトーキが実施している公開買付及びその条件の変更の事例を題材に、
「公開買付開始公告についてのお知らせ」を官報もしくは日刊新聞紙に掲載することは、
金融商品取引法上は任意なのではないか(「お知らせ」は法定開示書類ではないのではないか)、と書きました。
それで、昨日は、「公開買付開始公告についてのお知らせ」を官報もしくは日刊新聞紙に掲載する必要はない(法的義務ではない)、
という見解からコメントを書いたわけです。
ただ、昨日は、金融商品取引法には非常に数多くの関連する法令があり、それらの法令には何か定めがあるのかもしれません、
と書いたわけです。
「公開買付開始公告についてのお知らせ」を官報もしくは日刊新聞紙に法的義務として掲載しなければならないのか否かは、
公開買付の法的有効性という観点からも明確にしておかなければならないと思います。
金融商品取引法には、「公開買付開始公告の不実施」という罰則規定(課徴金)があります。
公開買付は成立した(株式の決済・取得もできた)が課徴金を支払うことになった、では企業法務としては問題があるわけです。
それで、まず、「公開買付開始公告の不実施」について少し調べてみました。
証券取引等監視委員会
開示規制違反に係る課徴金制度について
ttp://www.fsa.go.jp/sesc/support/kaiji-ihan/seido.htm
開示書類の虚偽記載等について(5)
東京証券取引所 CLUB CABU News (No.3188)
2013/3/21
ttp://www.fsa.go.jp/sesc/keisai/25/20130321-1.pdf
開示規制違反に係る課徴金の対象となる違反行為として、「公開買付開始公告の不実施」が規定されています。
ここでの論点は、官報もしくは日刊新聞紙に掲載する「公開買付開始公告についてのお知らせ」は、
金融商品取引法に規定される「公開買付開始公告」に含まれるのか否か、だと思います。
それで、私としてももう少し詳細な定めを見ておきたいと思いましたので、今日は、
この論点と最も関連する法令と思われる「公開買付府令」(発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令)
の条文を見てみました。
そうしますと、「公開買付府令」には、「公告の方法」が詳細に定められていました。
法令はグーグルなどで「公開買付府令」というキーワードで検索すると、すぐに見つかると思います。
「公開買付府令」の「第九条の一」から「第九条の六」までに、「公告の方法」について詳細に定められています。
>日刊新聞紙に掲載する方法による公開買付開始公告をする場合には、
>次に掲げる日刊新聞紙の二以上を含む日刊新聞紙に掲載して行わなければならない。
>ただし、全国において時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する場合は一以上とすることができる。
>一 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙
>二 産業及び経済に関する事項を全般的に報道する日刊新聞紙
また、「公開買付府令」の「第九条の二」には次のように定められています。
>(公告をした旨の日刊新聞紙への掲載)
>第九条の二 令第九条の三第三項
の規定により日刊新聞紙に掲載する場合には、公告をした旨、
>電子公告アドレスその他必要な事項を全国において時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載して行わなければならない。
この条文中で言っている「令」とは、「金融商品取引法施行令」のことです。
「金融商品取引法施行令」もグーグルなどで検索すると、すぐに見つかると思います。
「金融商品取引法施行令」の「第九条の三」は「公開買付開始公告等」についての定めです。
「金融商品取引法施行令」の「第九条の三第三項」の条文を引用します。
>第一項の規定により電子公告による公告をする者は、内閣府令で定めるところにより、
>当該公告をした後遅滞なく、当該公告をした旨を、時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載しなければならない。
「公開買付府令」の「第九条の二」と「金融商品取引法施行令」の「第九条の三第三項」は意味合いはほとんど同じです。
この条文で言っている「第一項の規定により」とは、「EDINETを使用する方法により公告を行うこと」を指しています。
ですので、以上の規定を踏まえて、結論を簡単に言いますと、
「EDINETに公開買付開始公告を提出した後は、遅滞なく、
EDINETに公開買付開始公告を行った旨を、日刊新聞紙に掲載しなければならない。」
となります。
その意味では、確かに、EDINETに公開買付開始公告を行った場合は「公開買付開始公告についてのお知らせ」を
日刊新聞紙に掲載する必要はない、という昨日の私の結論は間違っていたことになります。
日刊新聞紙に「公開買付開始公告についてのお知らせ」を掲載することは、金融商品取引法上は任意ではありません。
「公開買付府令」と「金融商品取引法施行令」には、EDINETに公開買付開始公告を行った場合も、
日刊新聞紙に「公開買付開始公告についてのお知らせ」を掲載するよう定められています。
「公開買付開始公告についてのお知らせ」もまた金融商品取引法上の法定開示書類である、と言わねばならないでしょう。
「『公開買付府令』の『第十条』(公開買付開始公告の掲載事項)」
「公開買付開始公告」には、次の一から七の全ての事項を記載しなければならない。
一部の事項だけを記載しても、「公開買付開始公告」の条件は満たされていない。
日本経済新聞に掲載されている「公開買付開始公告についてのお知らせ」は、
下線@からEの6つの事柄についてしか、掲載していない。
したがって、”お知らせ”は、「公告」の要件を満たしていない。
「公開買付府令」の「第十条」の条文をそのままキャプチャーしたわけなのですが、
公開買付開始公告にはこれら全ての事項を記載しなければならないわけです。
しかし、「公開買付開始公告についてのお知らせ」には、
「公開買付開始公告」として記載すべき事項の極一部しか記載されていないわけです。
したがって、「『公開買付開始公告についてのお知らせ』はやはり公開買付開始公告ではない。」のです。
「公開買付開始公告についてのお知らせ」を日刊新聞紙に掲載することも金融商品取引法上の法的義務ですので、
実務上は、結局のところ「公開買付開始公告についてのお知らせ」は行うべき「公開買付開始公告」の一部である、
という見方をすることはできると思いますが、条文の定義としては、
「公開買付開始公告についてのお知らせ」は「公開買付開始公告」そのものではない(その一部でもない)のもまた確かでしょう。
最後に、今日の議論を踏まえた上で、昨日の私のコメントを少しだけ補強します。
金融商品取引法は”お知らせ”(電子公告を行った旨の掲載)も法的義務としているということは、
「EDINETを毎日閲覧する投資家」と「日刊新聞紙を毎日読む投資家」との間に、公開買付に関する情報到達日に差異が生じることを
金融商品取引法は是認しているということを意味している、と言わねばなりません。
日刊新聞紙に公開買付に関する”お知らせ”を掲載するのならば、
その後のEDINETでの開示日(書類閲覧可能日)を記載するだけにすべきだと思います。
もしくは、EDINETでの開示自体を、「公開買付開始公告についてのお知らせ」の日刊新聞紙掲載と同じ日に行うべきだと思います。
例えば、「公開買付開始公告についてのお知らせ」の日刊新聞紙掲載日の朝9時から、
EDINETで「公開買付届出書」と「公開買付開始公告」を閲覧できるように取り計らうべきなのだと思います。
そうしないと、「EDINETを毎日閲覧する投資家」の方が「日刊新聞紙を毎日読む投資家」よりも
先に公開買付に関する事実を知ることができてしまうことになるわけです。
電子的に情報開示ができるようになったことの弊害とでも言いますか、
EDINETでは書類提出と同時に閲覧が可能なのだと思いますが、
そのせいで逆に相対的に情報入手が遅れる投資家が現れてしまうわけです。
すなわち、「日刊新聞紙を毎日読む投資家」は、「EDINETを毎日閲覧する投資家」に対し、情報入手が必ず1日遅れてしまうわけです。
金融商品取引法は、現在、「EDINETを毎日閲覧する投資家」と「日刊新聞紙を毎日読む投資家」の両方を前提としているために、
そのような情報到達に関するタイムラグが生じてしまうわけです。
「日刊新聞紙を毎日読む投資家」は、日刊新聞紙に「公開買付開始公告についてのお知らせ」が掲載されるまで、
EDINETのサイトは見ないのです。
そういう理論的前提があるわけです(これは理論的前提の話です)。
ですので、金融商品取引法は、「EDINETを毎日閲覧する投資家」か「日刊新聞紙を毎日読む投資家」の、
どちらかのみを理論的前提としなければならないわけです。
「EDINETを毎日閲覧する投資家」のみを理論的前提とする場合、「公開買付開始公告についてのお知らせ」は不要です。
なぜなら、「EDINETを毎日閲覧する投資家」は、公開買付に関する事実をEDINETを見て既に知っているからです。
逆に、「日刊新聞紙を毎日読む投資家」のみを理論的前提とする場合、
EDINETでの関連書類開示を「公開買付開始公告についてのお知らせ」の掲載日まで控えるようにしなければならないのです。
なぜなら、そうしなければ、「EDINETを毎日閲覧する投資家」が公開買付に関する事実を先に知ってしまうからです。
「日刊新聞紙を毎日読む投資家」もEDINETを毎日閲覧するようにすればよいではないか、という考えは理論上は間違いです。
証券市場制度を構築するに当たっては、「投資家はどの手段・どの媒体で第一報を得るのか?」を統一せねばならないのです。
What you call an "Oshirase" in Japanse concerning a commencement of a tender
offer appearing in a daily newspaper
doesn't fulfil a "Public Notice for
Commencing a Tender Offer" prescribed in the Financial Instrument and Exchange
Act.
日刊新聞紙に掲載される、公開買付の開始についての日本語で言ういわゆる「お知らせ」は、
金融商品取引法に規定される「公開買付開始公告」には該当しません。