2016年6月12日(日)
2016年6月11日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201606/20160611.html
昨日は、株式の譲渡と債権の譲渡との違いについて書きました。
そのコメントの中で、債権の譲渡に関して、
>法人税法上は、貸付債権の譲渡価額は元本金額でなければならないかと思います。
>元本金額以外で貸付債権を譲渡すると、差額は寄付金という取り扱いになると思います。
>貸付債権の譲渡価額そのものは法人税法上変動させられない
と書きました。
これらを読むと、これは一般的な貸付債権のことではなく国債の取り扱いと間違っているのではないか、と思われるかもしれません。
資産の時価についてはこれまでも何回か書きましたが、
国債であれば、国が換金を保証しているため、法人税法上元本金額が時価という取り扱いになるわけです。
例えば、法人税法上は国債を無償譲渡することはできないわけです。
ですので、国債の場合は、法人税法上は、譲渡価額は元本金額でなければならないのだが、
特段国が換金を保証しているわけではない一般的な貸付債権の場合は、
法人税法上は、譲渡価額は元本金額でなければならないというわけではないのではないか、と思われるかもしれません。
実は私自身も、昨日のコメントを書き終わった後、改めてコメント内容を思い返してみて、
国債の取り扱いと同じようなことを書いたなあ、と自分で思いました。
一般の資産の場合は、法人税法上決められた時価があるという考え方は間違っているようにも感じるなと自分でも思いました。
ただ、株式の取り扱いとの比較の中で、自分の中で自然と昨日のコメント内容・結論に行き着いたのも確かであるわけです。
それで、この点について改めて考えていたのですが、1つの結論に辿り着きました。
その結論とは、理論上は「債権は額面金額(元本金額)で譲渡しなければならない。」です。
私は以前、法人税法上元本金額が時価であるという取り扱いを行うためには、その前提として、
国が換金を保証していることが必要だ(その保証があるからその資産を現金と同じと見なせる)、と書きました。
その観点から言えば、一般的な債権の場合は、国が換金を保証しているわけではないのだから、
元本金額が時価であるという考え方は間違いなのではないか、と思われると思います。
この譲渡に関しては、以前、「そもそも『収益を相手方として資産を取得する。』という考え方などあるのか。」と書きました。
例えば、土地を無償取得したという場合、法人税法上は土地の時価が全額受贈益ということになるわけです。
この取引は、仕訳を書くと分かりますように、まさに収益を相手方として資産を取得している、という取引になっているわけです。
つまり、取得という行為がなぜ収益となるのか、という問題があるわけです。
では、債権の場合は、税法上債権は常に額面金額で譲渡しなければならないと考えても問題はないのか、と思われるかもしれません。
債権の場合も、”収益を相手方として資産を取得している”ことになるのではないか、と思われるかもしれません。
しかし、債権の場合は、税法上債権は常に額面金額で譲渡しなければならないと考えても、
収益を相手方として資産を取得していることになりません。
その理由もまた、「実現主義会計」です。
すなわち、現代税法における「実現主義会計」とは、「確定債権の発生を収益と見なす。」という所得の捕捉方法のことです。
債権を取得したということは、その法人に確定債権が発生した、ということです。
ですので、確定債権の金額が、収益となるというだけなのです。
債権の場合は、”収益を相手方として資産を取得している”のではなく、
「確定債権が発生したので収益を認識している」、という流れになるわけです。
これもまた、現代税法では理論上「債権を現金と同じと見なしている」ことから来る帰結です。
現代税法では、理論上、債権の弁済可能性は問題にならない(債権は必ず弁済されることが理論的前提)のです。
また、債権と一言で言っても、貸付債権や売上債権など、債権の発生原因毎に複数の種類の債権が定義されていようかと思います。
しかし、「額面金額の現金を期日に受け取る」という権利内容(額面金額は現金と同じである)に違いはありませんので、
債権の発生原因については債権そのものの取り扱い(債権個別の譲渡等)の上では度外視できるのだと思います。
以上の議論を踏まえ、いくつか設例を挙げ仕訳を書いてみましょう。
設例@「貸し倒れが予想される額面金額100円の債権を10円で取得した。」
(債権) 100円 / (受贈益(益金)) 90円
(現金) 10円
設例A「現金100円を相手方に貸し付けた。その際、10円のみ期日に返済すればよい旨合意した。」
(債権) 10円 / (現金) 100円
(寄付金(損金不算入)) 90円
設例B「現金100円を相手方に貸し付けた。」
(債権) 100円 / (現金) 100円
設例C「取得原価90円の商品を100円で相手方に販売した。その際、現金は200円受け取る旨相手方と合意した。」
(債権) 200円 / (売上高(益金)) 100円
(受取寄付金(益金)) 100円
(売上原価) 90円 (商品) 90円
設例自体はいくらでも思いつきますが、代表的な取引を考えてみました。
書いていて、「貸し倒れは発生しない」という前提に立つと、途端に論旨が明快になるのを感じます。
逆に、”貸し倒れが発生するとしたら?”と考えると、途端に非常に話が複雑になるのを感じます。
やはり、債権の貸し倒れについては、現代会計・現代税法においては、
理論上は説明がそもそも付けられないもの(その概念の存在そのものが理論上の矛盾)なのだと思います。
「設例A」と「設例B」は、”確定債権の発生が収益なのであれば、お金を相手方に貸し付けても貸付金額が収益となるのか?”
という疑問に答えるために書きました(貸方に現金勘定が来るので、貸付は収益ではない、という説明を試みた)。
ただ、お金の貸し付けに関しては、確定債権の発生という見方をするよりも(確かに確定債権の発生は確定債権の発生ですが)、
「お金を貸すことで同じお金を将来返済してもらうという取引」というふうに、通常の取引とは異なる取引として、
取引そのものを別途定義した方が、論理的に明快になるではないかと思います。
いや、論理的に明快になるというより、取引の特殊性を踏まえれば、取引そのものを別途定義しなければならないと思います。
つまり、収益の実現を伴う確定債権の発生ではなく、収益の実現は伴わない確定債権の発生である、というふうに、
お金の貸し付けは、通常の商取引とは異なる、特殊な類型の取引である、と別途定義するべきなのだと思います。
特に、「設例B」の仕訳を見ると分かるように、「債権=現金」という前提に立ちますと、
お金の貸し付けを通常の商取引のように考えてしまいますと、
「設例B」の仕訳そのものが意味をなさないことになってしまうわけです。
ですので、「お金を貸し付けた場合にのみ生じる確定債権」というものを、税法に別途定義しないといけないわけです。
設例B´「現金100円を相手方に貸し付けた。」
(債権) 100円 / (受贈益(益金)) 100円
(寄付金(損金不算入)) (現金) 100円
ですので、「お金を貸し付けた場合にのみ生じる債権」という特殊な債権を税法に定義しないと、
お金の貸し付けを円滑に行えない(税法上「お金の貸し付け」が益金になってしまう)わけです。
お金を借りる場合についても論点は全く同じであり、
「お金を借り入れた場合にのみ生じる債務」という特殊な債務を税法に定義しないと、お金の借り入れを円滑に行えないわけです。
税法に定義しないままだと、借り入れたお金が寄付金とみなされ益金となり、同時に、
確定債務の発生もこの場合損金不算入になります。
損金算入可能な費用に関する確定債務であれば確定債務の発生は損金となりますが、
この場合は、定義上寄付金の支払いに関する確定債務ですので、この確定債務の発生は損金不算入となります。
仕訳で書けば以下のようになってしまいます。
設例B´´「現金100円を相手方から借り入れた。」
(現金) 100円 / (受取寄付金(益金)) 100円
(寄付金(損金不算入)) (債務) 100円
設例B´´´「相手方に貸し付けた現金100円の返済を受けた。」
(現金) 100円 / (受取寄付金(益金)) 100円
(債権償却損失(損金不算入)) (債権) 100円
現代税法において、「債権の決済」は益金ではない、ということについては、仮に明文の規定はないのだとすると、
「債権の決済」は益金ではないことは実現主義会計の大前提、というふうに捉えるべきなのかもしれません。
収益認識のタイミングを、現金の受取時から確定債権の発生時に変更することが実現主義会計なのだから、
「債権の決済」が益金ではないことは実現主義会計の基礎概念から導かれる当然の帰結(自明の真理)なのかもしれません。
「債務の決済」についても論点は全く同じです。
「債務の決済」は、「損金である」でも「損金ではない」わけでもないのです。
実現主義会計そして発生主義会計においては、「債権債務関係の決済」は益金でも損金でもないのです。
他の言い方をすれば、実現主義会計そして発生主義会計においては、
「債権債務関係の発生」と「債権債務関係の決済」は別の取引である、ということになるわけです。
売上債権とは異なり、貸付債権の場合は、「債権債務関係の決済」時の仕訳は「債権債務関係の発生」時の仕訳の逆仕訳になります。
決済時の仕訳に関し、売上債権の決済は決して逆仕訳にならないのに対し、貸付債権の決済は逆仕訳になる、
このことは、確定債権の発生プロセスが、売上債権と貸付債権で完全に異なることを意味しているわけです。
そうであるならば、貸付債権に関しては、売上債権とは異なる定めが必要なはずだと思いました。
「お金を貸し付ける場合」についてコメントと仕訳を書いていて、「債権債務関係の発生」時は、
「お金を貸し付けた場合にのみ生じる債権」という特殊な債権を別途税法に定義しておかないと話がおかしなことになるのに対し、
「債権債務関係の決済」に関しては、特段何も定めなくても決済は行えるな、と思いました。
つまり、「債権債務関係の決済」に関しては、当然に売上債権と貸付債権で同じ取り扱いになるのに対し、
「債権債務関係の発生」に関しては、売上債権については問題はない(問題なく意図通りの確定債権の認識が行える)ものの、
貸付債権については別途特段に定めないと意図通りの確定債権の認識が行えないな、と思ったわけです。
貸付債権の発生は、収益認識に係る債権の発生ではない、という特別な定めが必要なのだと思います。
今日のまとめを書きますと、
@理論上は債権は必ず弁済されるということが前提だ。
A売上債権とは異なり、貸付債権という債権は、実現主義会計を定義しさえすれば自然に導かれる債権というわけではない。
となります。
現代税法においては、理論上は債権は現金と同じなのです。
On the modern tax laws, receivables are equivalent to cash in theory, actually.
現代税法においては、理論上は実は債権は現金と同じなのです。