過去の関連コメント
2016年4月8日(金)
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2016年4月9日(土)
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2016年4月26日(火)
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2016年5月9日(月)
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【コメント】
昨日、三菱重工業株式会社と株式会社日立製作所との間ので起こっている法的トラブルについてコメントを書きました。
両者間の詳しい取引内容や契約内容については、記事やプレスリリースに記載されている以上のことは分からないわけですが、
会計処理の論点としては、「条件付取得対価」という考え方が論点になってくるのだろうか、と思います。
この「条件付取得対価」では、買い手が追加的に売り手に対価を支払う分にはまだ説明付けが可能なのですが、
買い手が追加的に売り手にマイナスの対価を支払う、すなわち、売り手が取引後に買い手に対価を返還する、
という形になりますと、説明付けが極めて難しくなるように思います。
このたび三菱重工業株式会社と株式会社日立製作所との間ので起こっている法的トラブルは、
まさに買い手が追加的に売り手にマイナスの対価を支払う(売り手が取引後に買い手に対価を返還する)
という状況なのだろうと思います。
似たような関係になりますが、例えば、今日次のような記事がありました↓。
2016年5月10日(火)日本経済新聞
特殊陶、純利益16%減 前期308億円 和解金を特損計上
(記事)
この記事の日本特殊陶業の事例も、”和解金”という表現を用いていますが、
要するところ、売り手が顧客(買い手)に対して受け取った販売代金を返還している、ということかと思います。
米国の公正取引規制当局から、日本特殊陶業不当に高い価格で製品を販売をした、ということで、
顧客に返金を命じられた、ということなのだと思います。
売上代金は100円だったのだが、その販売価格は不当だということで、50円顧客に返還せよ、
であれば売上代金の減少で済むわけですが、
売上代金は100円だったのだが、その販売価格は不当だということで、制裁の意味合いも込めて150円顧客に返還せよ、
であれば、とても売上代金の減少では済まないわけです。
仮に、売上代金を超える金額の返還を命じられているのだとすると、
売上代金を超える部分は”和解金”という表現になるのかもしれません。
この辺り、日本特殊陶業の場合はどうであったのかは分かりませんが。
いずれにせよ、取引後に売り手が買い手にお金を支払うというのは、「その現金の支払いの意味・目的とは何か?」
という点について考えることが、取扱いや会計処理を考える上では非常に重要なのだと思います。
また、買い手が売り手に追加的に対価を支払うことに関しては、取引に際し当初締結した契約に基づいて支払っているに過ぎない、
と考えれば、追加的な対価の支払い金額は目的物の取得原価を構成する、と考えることもできると思います。
しかし、これは特に税務上問題になる点かと思いますが、買い手が売り手から仕入れた目的物を既に他者へ譲渡していた場合は、
追加的な対価の支払い金額は目的物の取得原価を構成する、という取り扱いは難しくなるかと思います。
なぜなら、仕入れた目的物を他者に譲渡した時点で、取得原価は既に売上原価(損金)に振り替えられてしまっているからです。
追加的に対価の支払った時にその金額を追加的な売上原価(損金)とする、という考え方は、
取引の実態(その時には目的物は譲渡していないのに売上原価を計上することになる)を踏まえれば、やはりおかしいと思います。
「条件付取得対価」という考え方は、株式のように長期間保有することが前提の場合はその問題が見えづらくなっているだけであり、
棚卸資産のように短期間のうちに他者へ譲渡することが前提の場合は、追加的な支払額については説明が付けられないと思います。
最後に、「条件付取得対価」に関して、教科書と企業会計基準の記述を紹介します。
以下の記述内容は、基本的には組織再編行為に関連した株式の取得対価についての定めや解説であるわけですが、
1資産の譲渡の場合でも、「対価の金額が増加する」ということに関しては、共通の考え方をしているのではないかと思いますので、
参考になる考え方が記載されているかと思います。
特に、追加で支払った対価は目的物の取得原価を構成するのか、という点に関しては、
会計処理としては極めて共通の考え方をすることになると思います。
参考にしていただければと思います。
「ケースから引く 組織再編の会計実務」 新日本有限責任監査法人 著 (中央経済社)
第V部 実務で気になる論点Q&A
第4章 取得対価の算定
Q24条件付取得対価の取扱い
「スキャン1」
「スキャン2」
「スキャン3」
企業会計基準第21号 「企業結合に関する会計基準」(最終改正平成25 年9 月13 日)
条件付取得対価の会計処理
「第27項」
Concerning a consideration of an acquistion subject to conditions,
it is
very difficult to explain that a seller pays cash to a buyer.
条件付取得対価に関しては、売り手が買い手に現金を支払うことについては説明が非常に難しいのです。
If the concept that a seller pays cash to a buyer after a transaction should
be presupposed,
after all, it almost means that an object is
transferred
notwithstanding the fact that ther don't mutually consent to a
transfer price.
取引後に売り手が買い手へ現金を支払うという考え方を万が一所与のこととするならば、
それは結局のところ、両者は譲渡価格について合意をしていないにも関わらず、目的物を譲渡した、
ということを意味しているのに近いのです。
Ultimately speaking, the amount of a consideration has no concept
"tentative."
A "consideration" fundamentally indicates only cash
itself.
Or, on the modern accounting, a "consideration" needs at least the
amount which is "finalized."
究極的なことを言えば、対価の金額に「暫定」という概念はありません。
「対価」というのは、本来的には現金そのもののみを指すものなのです。
もしくは、現代会計では、「対価」という時には少なくとも「確定した」金額であることが必要です。
条件付対価すなわち暫定対価の金額が確定する前に、買い手が目的物を譲渡してしまったとしたら、どうなるでしょうか。
その場合、買い手が売り手に対して取引後に追加的に支払う正または負の対価は、取得原価を構成しようがないわけです。
そういうわけで、現代会計では、現金取引は言うまでもありませんが、いわゆる「掛取引」は認められているのですが、
対価の金額が条件付となるすなわち対価の金額が暫定的となっている取引というのは、認めるのが難しいのです。
You can only mutually consent to a transafer price itself.
You can't
mutually consent to the fact that you will negotiate with each other about a
transfer price in the future.
On a transaction, an object and its transfer
price is indivisible.
You can't transfer an object notwithstanding the fact
that you have not finalized which object you buy or you sell yet.
Similarly,
you can't transfer an object notwithstanding the fact that you have not
finalized
the amount which you pay or you receive in consideration of an
objectyet.
譲渡価格そのものについて合意をすることしかできません。
譲渡価格については将来お互いに交渉を行うことにするということについて合意をすることはできないのです。
取引に際しては、目的物とその譲渡価格とは一体不可分のものです。
どの目的物を買うかもしくはどの目的物を売るかまだ決めていないのに、目的物を譲渡することはできないわけです。
同様に、目的物の対価として受け取るもしくは支払う金額はまだ決めていないのに、目的物を譲渡することはできないわけです。
An account transaction presupposes not a receivable's being defaulted on.
掛取引は、債務不履行は起きないことを前提にしています。
私が思うに、いわゆる掛取引が発案された理由というのは、
掛取引があると、目的物の販売のタイミングが目的物の仕入れのタイミングとは異なっていても構わなくなるからです。
確かに、現金取引だけでも、商人は棚卸資産を保有できるのですが、
まだ仕入代金を支払っていないにも関わらず商品を仕入れさらには販売することができるというのは、
商人に販売前に商品を仕入れようという気にさせるものです。