2016年4月20日(水)


公告を行う根拠法は何だろうか、公告を行う手段とはどうあるべきか、という点について考えさせられる公告がありました。


2015年9月10日
株式会社光通信
株式交換公告に関するお知らせ
ttp://www.hikari.co.jp/news_release/file/20150910.pdf


上記「株式交換公告」の本文は、以下の1文だけです。

>当社は、平成27年6月24日開催の当社取締役会決議等により、平成27年10月1日を効力発生日として、
>株式会社アイフラッグ(本店所在地:東京都港区芝公園二丁目4番1号)を当社の完全子会社とする
>株式交換(以下「本株式交換」といいます。)を行うことを決定いたしましたので、公告いたします。

公告が掲載されているURLは、「ttp://www.hikari.co.jp/news_release/file/20150910.pdf」です。
ではここで質問です。
これは「公告」なのでしょうか。
株式会社光通信のウェブサイトに掲載されているわけですが。
では、次の公告はどうでしょうか。


2015年12月11日
株式会社光通信
剰余金の配当に関する基準日設定公告
ttp://www.hikari.co.jp/news_release/file/20151211.pdf


上記「株式交換公告」の本文は、以下の1文だけです。

>当社は、平成27年12月31日を基準日と定め、同日最終の株主名簿に記載または
>記録された株主または登録株式質権者をもって、剰余金の配当(第29期第3四半期末配当)の
>支払いを受けることができる権利者と定めましたので、公告いたします。

公告が掲載されているURLは、「ttp://www.hikari.co.jp/news_release/file/20151211.pdf」です。
やはりここで質問です。
これは「公告」なのでしょうか。
株式会社光通信のウェブサイトに掲載されているわけですが。

 



どちらの公告も「電子公告」なのではないか、と思われるかもしれません。
では次のお知らせはどうでしょうか。


2016年2月12日
株式会社光通信
自己株式取得に係る事項の決定に関するお知らせ(会社法第165条第2項の規定による定款の定めに基づく自己株式の取得)
ttp://www.hikari.co.jp/ir/press_release/file/20160212_2.pdf


本文は引用しませんが、全1ページの短いPDFファイルですが。
いやこれは公告ではなくただのお知らせ(プレスリリースの一種)だ、と思われるでしょうか。
また、株式会社光通信のウェブサイト上には「電子公告」のページがあります。

電子公告
ttp://www.hikari.co.jp/ir/information/announcement/

一方は公告であり他方はただのお知らせだ、というふうに思ってしまうわけですが、
その理由は、タイトルに「公告」と入っているか「お知らせ」と入っているからだというわけではないわけです。
公告と呼ばれる発表は、会社法に定めがあるから会社がその旨行っているもの、ということかと思います。
法令に定めがないにも関わらず会社が発表しているお知らせは、任意開示ということかと思います。
会社法が根拠か否かで分かれるという点については分かるわけですが、
私が疑問に思っているのは、会社のウェブサイトにPDFファイルを掲載すれば会社法上公告となるのか、という点なのです。

 


この点について会社法の条文を見てみましょう。
主に第939条と第940条が会社法上の公告の概略についての定めとなっています。


会社法 第七編 雑則 第五章 公告 第一節 総則

(会社の公告方法)
第九百三十九条  会社は、公告方法として、次に掲げる方法のいずれかを定款で定めることができる。
一  官報に掲載する方法
二  時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法
三  電子公告 

(電子公告の公告期間等)
第九百四十条  株式会社又は持分会社が電子公告によりこの法律の規定による公告をする場合には、
次の各号に掲げる公告の区分に応じ、当該各号に定める日までの間、継続して電子公告による公告をしなければならない。
一  この法律の規定により特定の日の一定の期間前に公告しなければならない場合における当該公告 当該特定の日
二  第四百四十条第一項の規定による公告 同項の定時株主総会の終結の日後五年を経過する日
三  公告に定める期間内に異議を述べることができる旨の公告 当該期間を経過する日
四  前三号に掲げる公告以外の公告 当該公告の開始後一箇月を経過する日


電子公告では、「利害関係者が情報を入手できる状態」が担保されていることが極めて重要であるわけですが、この点については、
”電子公告をしようとする会社は、公告期間中、当該公告の内容である情報が不特定多数の者が提供を受けることができる状態に
置かれているかどうかについて、「調査機関」に対し、調査を行うことを求めなければならない、”
と会社法に定められています(第941条)。
専門の調査機関からの調査を義務付けることにより、電子公告を閲覧できないという状態は起こらないわけですから、
「電子公告でも利害関係者が情報を入手できる状態は担保されている」、と会社法では考えているわけです。
他の言い方をすると、電子公告による情報の到達可能性(英語で言えば、"availability")は、
官報や日刊新聞に公告を掲載する場合と同等である、と会社法は考えているということです。

 


手元にある教科書の電子公告についての説明を引用してみましょう。


電子公告制度
株式会社は、公告の方法として、官報や日刊新聞による従来どおりの公告に代わるものとして、
電子公告制度を採用することができる(939条1項3号)。
電子公告の方法
電子公告制度を採用する会社は、インターネットの自社のホームページに公告を掲載する。
インターネット上で公告をする場合、システムの不調やハッカーなどからの不正な攻撃などにより、
やむなく公告が中断してしまっても、中断期間が通算して本来の公告期間の10分の1以内等の要件を満たせば、
公告期間が遵守されたこととする(940条)。
電子公告制度を採用する場合には、定款に記載することが必要であり(939条、940条)、
公告をするホームページのアドレス(URL)が登記事項とされる(911条3項29号)。


結論だけ言えば、株式会社光通信の電子公告は会社法上有効な電子公告ということになると思います。
そのことは分かるのですが、私が疑問に思うのは、
公告というのは究極的には、「目的とする利害関係者に情報が到達する」ということが一番重要だ、という点なのです。
確かに、会社法上、電子公告を閲覧できないという状態は起こらないわけですから、
目的とする利害関係者はウェブサイトに掲載されている電子公告を閲覧できます。
しかし、目的とする利害関係者は、そもそもウェブサイトに電子公告が掲載されているということ自体を知らないのです。
電子公告のURLは登記されているのではないか、と思われるかもしれません。
確かに、目的とする利害関係者は電子公告が行われるURLは知っています。
しかし、そのことは、利害関係者は「金融商品取引法上の開示書類が閲覧できる場所は財務局である」ということを知っている、
ということと同じなのです。
なぜ公告が必要なのかと言えば、「金融商品取引法上の開示書類が閲覧できる場所は財務局である」ということを知っているだけは、
利害関係者は必要な開示書類を閲覧できないからなのです。
なぜなら、利害関係者は、財務局に提出される全ての開示書類を閲覧するわけではないからです。
利害関係者は、必要な時に財務局まで赴き必要な開示書類のみを閲覧するだけなのです。
つまり、「あなたが閲覧する必要がある開示書類が財務局に提出されていますよ。」と利害関係者に通知をしなければ、
利害関係者は必要な開示書類を閲覧できないわけです。
各種法令は、利害関係者が毎日財務局を訪れ全ての開示書類を閲覧することは前提とはしていないのです。
各種法令は、利害関係者は必要な時に財務局を訪れ必要な開示書類を閲覧することを前提としているのです。
ですので、電子公告をするホームページのアドレス(URL)を登記するだけは全く不十分なのです。
それだけでは、「開示文書を閲覧できる場所は財務局だ。」と言っていることと同じなのですから。
ですので、やはり概念的には、「利害関係者に情報が到達すること」を第一に担保しなければならないわけです。

 


結局、「利害関係者に情報が到達すること」を担保するための手段が、官報や日刊新聞紙ということなのだと思います。
現実はともかく、法理的には、利害関係者は官報を毎日読む(官報が利害関係者の下に毎日届く)、そしてそれにより、
自分に関係のある必要な書類が用意されていることを利害関係者は知る、ということが前提になっている、と言っていいと思います。
株式会社光通信では、「ニュース配信サービス」を行っているようです。

ニュース配信サービス
ttp://www.hikari.co.jp/ir/mail_news/

>当社では、ニュースリリースやホームページの更新情報などを、ご登録の皆さまに電子メールにてお知らせいたします。
>当サービスのご利用を希望される場合は、下記「サービス登録」から、メールにて送信してください。

簡単に言えば、各種IR情報等の「更新情報」を電子メールでお知らせします、と言っているわけです。
これなど実に分かりやすい例なのではないかと思いますが、
このようなニュース配信サービスを行っているということは、裏を返せば、
「利害関係者はホームページを毎日閲覧するわけではない。」ということを
株式会社光通信は前提にしている、ということでしょう。
利害関係者は電子公告のページ(ttp://www.hikari.co.jp/ir/information/announcement/)だけは毎日閲覧するのだ、
などという考えは、ニュース配信サービスの理念とは完全に矛盾するでしょう。
どの利害関係者も財務局を毎日訪れるわけではないように、
どの利害関係者もある特定のページを毎日閲覧するというわけではないのです。
利害関係者へのお知らせ・公告(情報の確かに到達)という意味では、ウェブサイトに掲載するだけではなく、
別途電子メールによる通知が必要だ、という考えになるわけです。
以上のようなことを考えますと、現在会社法が定義している電子公告は全く公告ではない、と思います。

 



究極的なことを言えば、会社が行うある事柄に関する利害関係者というのは、実ははじめから極めて明確なのではないかと思います。
株式交換であれば、その利害関係者は、完全親会社の株主と完全子会社の株主と両社の会社債権者だけでしょう。
完全親会社の株主と完全子会社の株主と両社の会社債権者以外に、株式交換の利害関係者は1人もいないわけです。
その意味では、「完全親会社の株主」と「完全子会社の株主」と「両社の会社債権者」に対し、
個別に必要な事柄を告げれば(必要な書類や判断材料等を個別に送達するなどすれば)十分であるわけです。
「完全親会社の株主」と「完全子会社の株主」と「両社の会社債権者」が誰なのかは分からない、
などということは決してないわけです。
「公告」は「広告」ではないわけです。
「公告」は、「行方不明者に関する情報提供のお願い」や全国指名手配の「指名手配書」ではないわけです。
利害関係者が明確である中で、すなわち、利害関係者が特定されている中で、
「公告」という不特定多数に対する情報発信を行う必要があるのか、という論点は別にあるようにも思います。
最初期の最も元来的な「公告」というのは、法律・法令を告げるだけのものだったのではないかという気がします。
ただ、まさに図書館で過去の新聞を読むように、「この会社はこのようなことを行った」という記録を残す意味合いで、
後の公衆の参考に資するため、会社の行為について公告を行うようにしているのだとすれば、
現在の公告にも十分意味があるのかもしれません。
この観点から見ますと、公告は利害関係者に通知をするためのものではない、という言い方になるのかもしれませんが。
ただやはり、現在でも、基本的には、公告は利害関係者に通知をするためのもの、というふうに理解するべきだと思います。
会社の法律行為に関して言えば、理論的には、個別に必要な事柄を告げればそれで十分事足りるように思います。
この点については、教科書に興味深い記述があります。

>合併等の場合の債権者保護手続きとして、知れたる債権者に対して個別に催告する代わりに、
>官報公告に加え、日刊新聞や電子公告による公告を行えば、個別の公告は不要である(779条3項等)。

教科書の記述には誤植があり、最後の”個別の公告は不要である。”は”個別の催告は不要である。”の間違いです。
会社法上は、”各別の催告は、することを要しない。”となっています。
簡単に言えば、会社法上は、組織変更を行う場合の債権者保護手続き(組織変更に債権者が異議を述べるための手続き)に際し、
官報公告と電子公告を行えば個別催告は不要である、と定められているわけです。
会社法では、”異議を述べなかったときは、当該債権者は、当該組織変更について承認をしたものとみなす。”
などと定められているわけですが、知っていて異議を述べなかったのならよいのですが、
知らなかったので異議を述べたくても述べられなかった、という事態は避けなければならないわけです。
官報公告により債権者は当該組織変更について必ず知り認識をする、ということが法理上の前提としてある
ということかもしれませんが、債権者への情報到達の確実性という点では、
やはり現実には、官報公告よりも個別催告の方がはるかに高いと言わざるを得ないわけです。
より現実的に債権者保護に重点を置くならば、やはり個別催告を会社法上義務付けるべきだと思います。
「官報公告により利害関係者は情報を知る」(公告による通知)という法理上の前提は、現実には成立しない部分があると思います。

 



先日、全国民に対しマイナンバーが発行されましたが、官報公告同様、電子的な方法による通知も法理上の前提とするならば、
全国民に対し国が一生不変の電子メールアドレスを発行する、という考え方もあるように思います。
「国民は官報を読むのだ。」ということを法理上の前提としているように、
「国民は電子メールを使うのだ。」ということを法理上の前提とするわけです。
現在(おそらく有史以来でしょうが)、全国民に名前と住所があるように、
全国民に名前と住所と電子メールアドレスがあることを法理上の前提とするわけです。
こうすれば、郵便物は住所に必ず届くように、電子メールによる通知もその人に必ず届く、ということが担保されるわけです。
国民は郵便受けを毎日見ることが法理上の前提であるように、
国民は電子メールを毎日見ることを法理上の前提とする、という考え方はあると思います。
郵便書留により郵便物は必ず相手に届いたということが確認できるように、
電子メールでも、電子メールを相手は読んだということを確認することは技術的にできると思います。
メールサーバーからメールがパソコンにダウンロードされたことを送り手に通知する、といった方法が考えられると思います。
2016年4月15日(金)(http://citizen.nobody.jp/html/201604/20160415.html)のコメントでは、

>「書面による通知」が一番間違いが起こらない方法なのではないかとは思います

と書いたわけですが、電子メールでも情報セキュリティの「CIA」と呼ばれる3大要素が問題になるわけです。
ただ、情報セキュリティの「CIA」云々と言い出すなら、電子公告にはその問題ないのか、という話になると思うわけです。
電子公告では調査機関の活用により情報セキュリティの「CIA」の問題はないのとすれば、
電子メールでも一定の方法によりその問題は十分クリアできると言えるのだと思います。
株式会社光通信の「ニュース配信サービス」では、
株式会社光通信は、登録者は毎日もしくは非常に頻繁にメールをチェックする、ということが前提になっているわけです。
登録者がメールをチェックしないことまでは、株式会社光通信はカバーし切れないわけです。
それと同じように、電子メールによる通知も法律上有効な通知方法と考えてもよいのだと思います。
現に、株主総会の議決権行使をインターネット上で行えるように(これも煎じ詰めれば電子的なデータによる法律行為でしょう)、
技術的な措置を講じることにより、電子メールも法律上有効な意思伝達手段と考えることもできると思います。
紙媒体による意思伝達が一番確実で一番手軽だとは思いますが、
今日は「電子公告」ということで、電子公告でも法律上有効とするならば、
それに付随する技術分野・関連する情報伝達手段ということで、電子メールについて考えてみました。
特に、電子公告は公告とは言うものの、利害関係者に通知は一切されない(利害関係者はその事実を知らない)わけです。
また、官報公告にしても、個別の通知とはやはり異なるわけです。
そういったことを考えますと、公告よりも電子メールの方が、
利害関係者への個別の通知という点では優れているように思ったわけです。
さらに、EDINETを活用するにしても、EDINETに必要な開示書類が提出された旨、利害関係者に知らせる必要があるわけです。
株式会社光通信の「ニュース配信サービス」が分かりやすい例になると思いますが、
ホームページを見ることは前提にはできないが電子メールを読むことは前提にしても問題はないわけです。
技術的な問題点もあるのかもしれませんが、官報公告や日刊新聞紙掲載の公告よりも、
「目的の人に告げる」という意味では、電子メールの方が優れていると言っていいのではないかと思いました。