2016年4月15日(金)



2016年4月15日(金)日本経済新聞
総会資料 開示前倒し 経産省提言 株主と対話促進
(記事)




経済産業省 研究会
株主総会プロセスの電子化促進等に関する研究会(第6回)‐配布資料
ttp://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/kabunushisoukai_process/006_haifu.html

 



【コメント】
記事には、株主総会の招集手続きの電子化に関する議論の中で、経済産業省は、

>上場企業は総会招集通知や事業報告などを、作成が済み次第ウェブサイト上で開示すべきだとする報告書と提言をまとめた。

と書かれています。
会社法には、第二百九十九条に「株主総会の招集の通知」について定められています。
第一項に、”株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の二週間前までに株主に対してその通知を発しなければならない。”
と定められており、そして第二項には、簡単に言えば、”株主総会の招集の通知は書面でしなければならない。 ”
と定められています。
さらに、第三項には、
”取締役は、前項の書面による通知の発出に代えて、政令で定めるところにより、
株主の承諾を得て、電磁的方法により通知を発することができる。
この場合において、当該取締役は、同項の書面による通知を発したものとみなす。”
と定められています。
第二百九十九条を読みますと、「書面による通知」が大原則となっていると思います。
一定の条件を満たせば、確かに電磁的方法により通知を発することもできるわけですが、
条文の構造としては、電磁的方法により通知を発した場合も書面による通知を発したものとみなす、という位置付けとなっており、
あくまで「書面による通知」が大原則として厳然と存在している中で、
一定の条件を満たす場合に限り電磁的方法による通知も同様の法的有効性を持つものとみなす、と言っているわけです。
ですので、会社法としては、「書面による通知」が大原則であり正規の手続きである、と考えているわけです。
今日紹介した記事を読みますと、経済産業省は、政策として、電磁的方法による通知を推し進めようとしているというより、
電磁的方法による早期開示・事前開示を活性化しようとしているだけなのではないかと思います。
つまり、経済産業省としても、原則的手続き・正規の手続きはあくまで「書面による通知」であるのだが、
投資家が情報を時間をかけて吟味したうえで株主総会に臨めるよう、電磁的方法による早期開示・事前開示を活性化させていきたい、
とこのたびの報告書と提言では訴えているのだと思います。
記事の最後には、

>今後は会社法の改正も視野に法務省と検討を続ける。

と書かれてあります。
これは、法改正により、会社法上も「書面による通知」に加え「電磁的方法による通知」も原則的手続き・正規の手続きである、
という位置付けに変えていきたい、と経済産業省は考えている、ということだと思います。
現行の会社法では、”政令で定めるところにより”や”株主の承諾を得て”という条件が付いているわけですが、
法改正によりこれらの条件を撤廃し、”株主総会の招集の通知は書面または電磁的方法によりしなければならない。 ”
という旨の定めに変えていきたい、と考えているのだと思います。
口頭やモールス符号や以心伝心による通知は無効だが、電磁的方法による通知は正式・有効な通知であると定めよう、
というわけです。
簡単に言えば、これは、1日でも早く株主に招集通知の内容を伝達しよう、という趣旨であろうと思います。

 



「書面による通知」が一番間違いが起こらない方法なのではないかとは思いますが、
時代の流れということかもしれませんが、「電磁的方法による通知」でも実は現実には間違いはほとんど起きない、
というふうに認識されてきているということなのでしょう。
情報セキュリティの分野では、情報セキュリティの「CIA」と呼ばれる3大要素があります。
この「CIA」とは、情報の「機密性」(Confidentiality)、「完全性」(Integrity)、「可用性」(Availability) の3つです。
今日の文脈では、特に「完全性(Integrity)」(情報資産に正確性があり改竄されていないこと。)が問題になるわけですが、
現実には、「CIA」のいずれについてもほとんど問題は起きない、というふうに認識されてきているということなのでしょう。
それで、電磁的方法による通知も信頼性のある通知方法である、というふうに現在では見なされてきているのだと思います。
ただ、「通知」という行為そのものについて考えてみますと、
会社のウェブサイト上に株主総会招集通知を開示するだけでは、やはりそれは「通知」とは呼べないと思います。
「通知」とは相手方に情報が到達して初めて意味を持ちます。
情報を発信しただけでは「通知」ではないのです。
その意味では、「個別に」通知をする、ということが「通知」では非常に重要なのです。
「個別に」通知をするのであれば、「電磁的方法による通知」でも問題は起きないと思います。
しかし、広く投資家全般に開示をしても、本来の相手方には情報が到達していない(開示されていることに相手方は気が付かない)、
という恐れが生じますので、やはりどのような場面であっても、
通知を要する場合は、「個別に」通知をするということ重要であるわけです。
そういったことを考えますと、結局は「書面による通知」が法律の観点からは一番確実な方法なのだと思います。
「電磁的方法による個別の通知」となりますと、現実には「各株主宛の電子メールによる通知」になると思います。
「株主は電子メールを毎日チェックする。」ということを法制度の前提とするならば、
会社法上、「電磁的方法による個別の通知」は認められるべきでしょう。
ただ、細かいことを言えば、パソコンを起動することもあまりないであったりパスワードを忘れたなどという事態も
現実には起こらないわけではありません(本来はそれらは自己責任だと思いますが)ので、
結局、「書面による通知」が一番利便性が高く一番面倒が生じない方法なのだと思います。
経済産業省と法務省がどこまで踏み込んだ法改正を検討しているのかは分かりませんが、
「電磁的方法による通知」に「書面による通知」と全く同等の法的有効性を持たせるのは法理論的には難しいかもしれません。
投資家の投資判断に資するために、参考情報として会社のウェブサイト上にも株主総会招集通知を開示します、
という程度の位置付けが現実には一番問題が起きないのかもしれません。
また、第一義的には株主総会招集通知は基準日の株主のみが閲覧するべきものであるという点、
すなわち、招集を受けるのは基準日の株主のみであるという点、
さらには、「フェア・ディスクロージャー・ルール」の観点から言えば、
株主総会招集通知を会社のウェブサイト上に開示するのは、発送日から十分時間が経ってから、
すなわち、全株主に株主総会招集通知が間違いなく到達したと考えられる日になってから、にするべきだと思います。
株主が株主総会招集通知を閲覧する前に市場の投資家が株主総会招集通知を閲覧する、というのは話としておかしいわけです。
株主に株主総会招集通知が到達する日というのは、
現実には、会社の近隣に住んでいるか遠方に住んでいるかで数日のズレが生じてしまうわけですが、
発送日が同じであれば、株主間に不平等はない、と考えてよいでしょう。
しかし、例えば発送日に会社のウェブサイト上に株主総会招集通知を開示する、では誰に対する通知かという点を鑑みれば、
法理論的にはおかしな点があるということになると思います。

 



To get an object  prepared at a specific place is not notice.
To let a person know that the object is prepared at the place is notice.
To notice is to let a person know a fact up to the place where the person is.

ある目的物をある特定の場所に準備することは通知ではありません。
その目的物はその場所に準備されているということを人に知らせることが通知です。
通知をするとは、その人がいる場所までいって事実を知らせることなのです。

 

The requirement for notice is "individually."
Neither "generally" nor "unspecified" is notice.

通知の必要条件は「個別に」です。
「不特定多数に」や「宛先不明の」では通知になりません。