2015年12月30日(水)


2015年12月29日(火)日本経済新聞 公告
債務引受に係るお知らせ
政府保証第14回及び第15回東日本高速道路債券並びに東日本高速道路株式会社第24回社債の債権者各位
独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構
東日本高速道路株式会社
(記事)

 

 


【コメント】
公告の内容を読んで、あることをふと思いましたので、一言だけコメントします。
東日本高速道路株式会社が社債を発行しているのですが、その社債には、「政府保証が付いている社債」と、
「一般担保と重畳的債務引受が付いている社債」とがあるようです。
一般担保というのは、いわゆる担保のことなのだと思いますが、
東日本高速道路株式会社が保有している土地などに抵当権が設定されている、ということだと思います。
そして、重畳的債務引受というのは、社債の弁済について、連帯して弁済の責任を負う人(ここでは独立行政法人)がいる、
ということだと思います。
それで、公告の内容を少しだけアレンジして、一般化して考えてみましょう。
株式会社甲が銀行から資金を借り入れる(借入金)とします。
銀行は借入金の返済を確実なものとするため、株式会社甲が保有している土地に抵当権を設定しました。
そして、銀行は借入金の返済をさらに確実なものとするため、
重畳的債務引受人乙に重畳的債務引受を行ってもらうことにしました。
そして、銀行は借入金の返済をさらに確実なものとするため、
債務保証人丙に保証債務を行ってもらうことにしました。
銀行にとっては、株式会社甲が借入金を返済できない場合、借入金の返済に関し、
抵当権と重畳的債務引受と保証債務の言わば3つのバックアップが付いている、という状態であるわけです。
この時、銀行にとっては、これら3つのバックアップ(借入金に関する3つの債権債務関係)に、
権利行使に際しての優先順位のようなものはあるでしょうか。
抵当権の設定や重畳的債務引受の契約に際し、特段に優先順位を定めていれば(抵当権の行使の前に債務保証人丙に請求する、等)、
その順位に従った権利行使ということになるのでしょうが、ここでは特段の定めはないとします。
債権債務関係の様子を図に描くと以下のようになります。

「Which obligation of them is the strongest or the most preferred?」
(これらの中でどの債権債務関係が最も強いのか、すなわち、最も優先順位が高いのか?)

 


例えば、株式会社甲が借入金を返済できなかった場合、
銀行には「重畳的債務引受人乙に対し返済を請求する義務」はあるのでしょうか。
つまり、株式会社甲が借入金を返済できなかった場合、
銀行は、重畳的債務引受人乙に対し返済を請求することはせず、いきなり抵当権を行使しても構わないのでしょうか。
例えば、銀行は、抵当権を行使する前に、重畳的債務引受人乙に対し返済を請求することの方が優先されなければならない、
というような法理はあるでしょうか。
それとも、債権者(銀行)は、有している3つの債権債務関係を任意に行使できる、という考え方になるのでしょうか。
例えば、重畳的債務引受人乙は株式会社甲と連帯して弁済の責任を負うとは言っても、
それはあくまで債権者(銀行)からすると、重畳的債務引受人乙へも弁済の請求をすることができる、
という意味に過ぎないのであって、債権者は必ず重畳的債務引受人乙から弁済を受けなければならない、
という意味ではないのではないか、というふうに思います。
より一般化して言えば、債権者が有している3つの債権債務関係(権利)、抵当権の行使と重畳的債務引受と保証債務に、
優先順位は全くない、ということになると思います。
私が書きました設例で言えば、株式会社甲が借入金を返済できなかった場合、
銀行はいきなり抵当権を行使しても構いませんし、もしくは、まず重畳的債務引受人乙へ弁済の請求をしても構いませんし、
もしくは、まず債務保証人丙へ弁済の請求をしても構わない、ということになると思います。
他の言い方をすれば、債権者にとっての原債務(もしくは主たる債務)自体は1つであるものの、
原債務にまつわる上記3つの債権(権利)は全て独立している、という言い方になると思います。
原債務に関し債権者は3つの独立した権利を持っている、という言い方ができるのだと思います。
3つの権利はそれぞれ独立していますから、債権者は3つのバックアップ(弁済を行う代替手段、そのための権利)のうち、
どのバックアップを行使するのも自由だ、ということになるのだと思います。
行使できる権利は3つであり、その行使順位は任意だとなりますと、債務の弁済が次々になされなかった場合、
権利者には合計6通り(=3通り×2通り×1通り)の権利行使順位があることになります。
権利者はこの6通りのうち、どの行使順位を取っても構わないのだと思います。

 


ところで、権利者が抵当権を行使しても、債務者の原債務(借入金)は消滅しないと思います。
債権者は抵当権の行使により取得した目的物を債務の弁済に充てることができるだけであって、
抵当権の行使と原債務の消滅とは無関係であると思います。
他の言い方をすると、権利者は抵当権の行使により原債権を放棄するわけではないわけです。
ですので、債権者が抵当権の行使により原債務を全額回収し切れない場合は、
債権者には引き続き債務者に債務の残りの全額を弁済するよう請求する権利があると思います。
(弁済などの理由により)原債務が消滅することは抵当権の消滅を意味しますが、
抵当権の消滅(権利行使)は原債務の消滅を意味しないのだと思います。
ですので、抵当権を行使してもなお債務を全額回収し切れない場合は、債権者は、債務の残りの全額について、
(株式会社甲はもう返済できませんので)重畳的債務引受人乙へも弁済の請求をすることができますし、
債務保証人丙へも弁済の請求をすることができる、ということになると思います。
この意味でもまた、原債務と抵当権とは独立していると言えると思います。
教科書などには、”抵当権には付従性がある”と書かれていますが、”債権には付従性はない”と言えるでしょう。
以上の議論を踏まえますと、結論としましては、権利者(銀行)が持っています3つの権利(債権回収の代替手段)である、
@抵当権の行使、A重畳的債務引受、B保証債務、には、優先順位はない、ということになると思います。

 



最後に一言だけ追記します。
2015年12月13日(日) (http://citizen.nobody.jp/html/201512/20151213.html)のコメントで、

>債務の譲渡は会社間でのみ認められている行為になります。
>したがって、自然人間はもちろんのこと、会社と自然人との間でも債務の譲渡は法律上認められていません。
>債務の譲渡が認められるのは、会社間だけです。
>その理由は、組織再編行為という文脈では、自然人には会社法は適用されないからです。

と書きました。
これは、民法上債務の譲渡は認められていない、ということを踏まえて以上のように書きました。
ただ、今日「重畳的債務引受」について調べていまして、「免責的債務引受」という考え方については忘れていたことに気付きました。
ウィキペディアによりますと、民法には、

>債務引受けの規定はない。もっとも、ドイツ法を参考として、当然に認められるものと解されている。

と書かれていますが、この「免責的債務引受」が民法上認められるのだとすれば、
自然人間でも「債務の譲渡」は認められる、ということになります(免責的債務引受とは債務の(無償)譲渡のことです)。
個人的には、民法には債務引受けの規定はないのだとすれば、免責的債務引受も重畳的債務引受も民法上認められない、
ということになると思います。
ただ、民法の規定にはなくても、当事者間の私的な契約の積み重ねにより、債務引受と同じ効果を発生させることはできると思います。
要するところ、乱暴に言えば、債権者が債務者が変わることに同意をすればよい、ということではないかと思いますが、
免責的債務引受にせよ重畳的債務引受にせよ、債務引受人がその旨債権者に通知をし債権者が同意をすれば、それでよい、
という考え方もあるように思えます。
ただ、民法に債務引受の規定がないということは、民法はそのような行為を禁止している(そのような契約は無効であると言っている)、
という意味であるとも取れます。
簡単に言えば、債権者の利益を守るため、民法は債務引受自体を認めていない、という言い方もできるわけです。
「債権の譲渡」であれば、たとえ債権者が変わっても債務の弁済可能性は変わりません(債務者は同じ人のままだから)。
しかし、「債務の譲渡」となりますと、債務者が変わるわけですから、債務の弁済可能性自体が変わってしまうわけです。
ですので、正しい解釈かどうかは自信がありませんが、民法上の1つの解釈としては、
重畳的債務引受は認められる(債務の弁済可能性は高まるだけだから(低くなることはないから))が、
少なくとも免責的債務引受は認められない、という結論になると思います。