2015年11月23日(月)


「取引別 仕訳ガイドブック」 会計処理研究会 編集 (新日本法規出版)
第10章 決算に関する取引
第6節 法人税等に関する取引


「未払消費税等の計上(税抜方式の場合)」

1225ページ

 

1226ページ

 

1227ページ


「未払消費税等の計上(税込方式の場合)」

1228ページ

 

1229ページ

 



【コメント】
昨日は、仮払消費税の認識や消費税の概念や国際間の消費税法の適用について書きました。
今日は、関連する追記ということで、会計処理についてのガイドブックから、消費税についての問答と解説をスキャンして紹介します。
スキャンしたページの記載内容を踏まえ、消費税についてに少しだけ追加でコメントします。
1225ページに、”納付すべき消費税と会計上計算される未払消費税等は、食い違うのが普通です。”
などと書かれています。
これと全く同じ論点について、1226ページには、別の言葉を用いて、
”消費税法の規定に従って計算された納付すべき消費税と会計上の未払消費税等とは一致しません。”
と書かれています。
しかし、これらの記述は大間違いであり、食い違うのは経理上大問題です。
正確に言うと、
「消費税額の計算に際しては、消費税法の規定に従って企業会計上も会計処理(仕訳)を行っていく。」
ということになります。
そうでなければ、いざ消費税を納付するという際、いくら納付すればいいか分からないのではないでしょうか。
納付する消費税額を計算するために、企業会計上、日々会計処理を行っていく(日々仕訳を切っていく)のではないでしょうか。
それらの金額が食い違っているのなら、一体何のために会計帳簿を付けているのか、という話になるわけです。
そもそも、税額計算ということも含め、日々仕訳を切っているわけです。
税務上の会計処理と企業会計上の会計処理が異なることは当然ある(こちらは確かに普通にある)わけですが、
会計処理や税額計算に際してはそれらの差異についても十分に把握していなければならないわけです。
よく、企業会計上の会計処理と税務上の会計処理は異なる、と言いますが、
それはどちら一方だけを理解していれよいという意味ではなく、両方を理解していなければならない、という意味です。
つまり、例えば消費税額であれば、日々把握されていなければならないものだ、ということになるわけです。
要するに、消費税額を日々把握していく結果が、企業会計上の仕訳、ということではないでしょうか。
消費税額の計算や仕訳に関しては、消費税法上の会計処理と企業会計上の会計処理が異なる、などということは起こらないわけです。

 


1226ページには、
”税抜方式を採用している場合には、個々の取引に関して消費税を把握していきます。
そして、その結果が仮払消費税等と仮受消費税等に計上されていきます。”
と書かれています。
まさにこの記述の通りなのですが、1点だけ上記の記述は間違えています。
それは、”税抜方式を採用している場合には”の部分です。
正しくは、「税抜方式を採用している場合でも税込方式を採用している場合でも」、です。
税抜方式と税込方式の違いは、事業上取り扱った消費税をどのように表示するか、の違いに過ぎません。
税抜方式と税込方式とで、事業上取り扱った消費税額に違いが生じようはずがないのです。
それはイコール、税抜方式であろうが税込方式であろうが、消費税額は日々把握していくしかない、ということです。
1228ページには、「未払消費税等の計上(税込方式の場合)」の設例として、
いきなり「納付すべき消費税 2,256,500円」などと書かれていますが、
そもそもこの「納付すべき消費税 2,256,500円」を計算するために、
日々消費税法に従って仕訳を切っている(仕訳を切る必要がある)わけです。
決算日になって何かをすれば、納付すべき消費税が計算される、などということはないわけです。
決算日には確かに「納付すべき消費税 2,256,500円」が計算されていることでしょう。
しかしそれは期首日から期末日まで日々消費税に関する仕訳を切ってきたからこそ、計算されたことなのです。
決算日になっていきなり何かを計算しようと思っても、それは絶対にできないことなのです。
結局、消費税額は取引単位で把握・計算していくしかない、ということです。
英語で言えば、

The amount of a suspense payment of a consumption tax and the amount of a suspense receipt of a consumption tax
are both finalized on each transaction.
(仮払消費税の金額も仮受消費税の金額も、どちらも各取引毎に確定します。)

となります。

 


そして、税込方式の計算方法の1つとして、簡便な消費税額の算出方法があるようです。
2015年10月29日(木)(http://citizen.nobody.jp/html/201510/20151029.html) の記述を再度引用すれば、

>業種ごとに売り上げに占める仕入れ額の割合(みなし仕入れ率)を推計し、簡単に納税額をはじく簡易課税制度

という計算方法です。
しかし、理論上はこの完全に間違っています。
この消費税額の計算方法は、売上高から売上原価を計算する、と言っているようなものなのです。
仕入れた商品にいくら利益を上乗せして販売するかは、営業費用や商品原価や他社との競争状況により決まります。
業種業界どころか、自社の過去の売上高や売上原価の数値すら推計の参考にはならないわけです。
税額の計算にみなすという考え方は基本的にはないわけです。
税抜方式と税込方式とで、納付する消費税は同じですし、また、同じでなければなりません。
そのためには、税込方式であっても税抜方式と同じ計算方法によるしかない、ということになるわけです。
それから、1229ページには、
”税込方式を採用している場合には、全ての収益費用を税込金額で計上し、仮受消費税等勘定や仮払消費税等勘定は使いません。”
と書かれています。
しかし、消費税は、企業が負担するものではありません。
つまり、企業の収益費用に消費税は関係がありません。
したがって、理論上は、税抜方式が正しく、全ての収益費用は税抜金額で計上する、が正しい計上・表示方法です。
この点、たばこ税や酒税は、たばこ会社そしてビール会社等は収益費用を税込表示で計上する、が正しい計上・表示方法となります。
その理由は、たばこ税や酒税は実は企業が負担するものだからです。
ものの本には、たばこ税や酒税は消費税同様間接税である、と書かれてありますが、
特に税務当局から見れば、それらの税額は製造者が製品を移出する時点で確定する(消費者は関係ない)、
という特性があるわけですから、たばこ税や酒税は実は直接税である、という解釈が正しかろうと思います。
この点、所得税(法人税)のとはまた異なった意味の”担税力”が製造業者にはある(収益力がある)、との解釈になろうかと思います。
それらの税は確かに商品価格に転嫁されていくわけですが、それは買い手には関係がないわけです。
法人自身が負担する直接税であるならば、当然それらの税額を損益計算書に表示・計上する(収益費用を税込金額で表示・計上する)、
ということになるわけです(直接税の税込表示方式は決して収益額の過大表示ではない)。
所得税でもそうですが、売り手は、自身が負担し納付する税額まで見通した上で、譲渡価額を決めるのではないでしょうか。
その意味では、消費税の税込方式は企業の収益費用を見誤らせるため、全く望ましくない表示・計上方法です。

 


最後に、消費税の法人税法理上の考え方についてですが、消費税は損金ではありません。
消費税を支払った(税務当局に納付した)からその分課税所得額や法人税額の絶対額が減少する、などという考え方は間違いです。
ただし、仮に、仮受消費税を益金とみなすのなら、仮払消費税は損金であり、納付した消費税も損金だ、とみなすことになります。
そのように考えれば、消費税は企業の所得額には中立になります。
ただ、そのように考えるのではなく、
仮受消費税は益金でも損金でもなく、仮払消費税も益金でも損金でもなく、納付した消費税も益金でも損金でもない、
というふうに考えるべきです。
要するに、消費税は企業の所得額に中立だ(影響を与えない)、と考えるだけなのです。
この点、たばこ税や酒税はと言いますと(税込表示の是非の論点)、
確かに、たばこ税や酒税も税務理論上はやはり益金でも損金でもない、と考えるべきでしょう。
その意味では、たばこ税や酒税は税抜表示であるべきだ、との考えに分があると思います。
しかし、たばこ税や酒税は企業自身が負担しているわけです。
消費者の代わりにそれらの税を受け取り税務当局に納付をした、ということとは意味が異なるわけです。
他の言い方をすると、それらの製造業者は、税の代行業者ではなく、事業上必然的に伴う税を負担した、と表現できるわけです。
それらの製造業者にとって、たばこ税や酒税の納付というキャッシュ・アウト(現金支出)の意味・原因は何でしょうか。
それらは預かったお金を納付したのではありません。
企業自身が稼いだお金から納付したのではないでしょうか。
その意味において、たばこ税や酒税は益金や損金ではないものの、収益費用に含めて計上・表示するべきだ、
という考え方に分があるように思います。

 



そして、消費税法の規定に従って計算された納付すべき消費税と会計上の未払消費税等とが一致しない場合の益金と損金の考え方
についてですが、
まず、納付免除の規定により、消費者から受け取った消費税を企業がそもそも納付しなかった場合(いわゆる益税が生じた場合)は、
法人税法上は益金(企業会計上は雑収入)になる、というのは問題ないかと思います。
問題は、消費税法に従って正しく消費税を納付したのだが、その金額が企業会計上の消費税額とは異なるという場合かと思います。
この場合は、1226ページの記載によりますと、その差額は法人税法上益金や損金になる、とのことです。
一見、これは筋が通っていそうですが、少しおかしいと思います。
そもそも、その企業会計上の消費税額というのはどうやって計算したのでしょうか。
消費税法の規定(簡便法ではない方法)に従い、計算したのではないでしょうか。
消費税法の規定に従った消費税額が既にあるのなら、その消費税額を納付するだけなのではないでしょうか。
何も、簡便な計算方法に従った消費税額を納付する必要はないはずです。
消費税法の規定(簡便法ではない方法)に従って消費税額を計算していないと、差額が生じたことにすら気付かないはずです。
つまり、差額を計算するために、簡便法ではない本来の方法で消費税額を計算する必要があるわけです。
これは逆から言えば、簡便な計算方法で消費税額を計算する場面というのがそもそもない、ということです。
煎じ詰めれば、簡便な方法で消費税額を計算する必要性はそもそもなく、
簡便法がなければ差額ということ自体が発生しないわけです。
わざわざ簡便な計算方法を認めている(定めている)から差額ということが生じてしまうわけです。
そして、その影響で、その差額について法人税法にも別途定めが必要になってしまうわけです。
消費税法上簡便な計算方法がなければ、法人税法上も簡便な定めだけで済むのです。
実務上も、「消費税額は消費税法の規定(簡便法ではない方法)に従って計算して下さい。以上。」
の一言で済む話であろうと思います。