2015年8月8日(土)



米住宅2公社、政府へ優先株配当1兆円

 【ニューヨーク=蔭山道子】米連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)は6日までに、
両社で約83億ドル(約1兆円)を優先株の配当として米政府に払うと発表した。
今回分を含め両公社が政府に払った配当は累計で2390億ドルに上り、
金融危機時に受け入れた公的資金(両公社合計で1874億ドル)を3割近くも上回る。
 両公社は2007年以降の米住宅市況の悪化で経営が行き詰まり、08年秋に政府の管理下に入った。
その後の住宅市況の回復で財務が改善。両公社ともに14年前半までに公的資金と同等の配当を支払った。
今後も四半期ごとに利益の大半を優先株配当として払い続ける。
 4〜6月期決算は、政府への優先株配当を差し引いた後の純利益が、
ファニーメイで2億8100万ドル、フレディマックで2億5600万ドル。前年同期の最終赤字から黒字へ転換した。
住宅ローンの信用保証料引き上げによる純金利収入の増加や、
保有する金融派生商品(デリバティブ)の評価益計上が黒字転換を支えた。
(日本経済新聞 2015/8/7 18:50)
ttp://www.nikkei.com/article/DGXLASGM07H1G_X00C15A8FF2000/

 



【コメント】
わざわざ優先株式を発行しなければならなかったということは、資本の欠損が生じていた、ということだと思います。
つまり、優先株式への配当の原資は、優先株式発行当時は全くなかった、ということだと思います。
それなのに、これまでに米住宅2公社は、発行した優先株式の価額以上の配当を優先株主に対し支払ってきたようです。
優先株式へ支払う配当の原資についてですが、私は当然のことながら利益剰余金だと思っていました。
なぜなら、株式への配当だからです。
しかし記事を読む限り、優先株式への配当の原資は利益剰余金ではないようです。
優先株式への配当の支払いが損益計算書の当期純利益に影響を及ぼすということは、
優先株式への配当の原資は特段に識別される勘定科目としては存在しないと言いますか、
敢えて言うなら事業活動で獲得した利益という漠然とした言い方になると思います。
この優先株式への配当の支払いは、税法上は損金算入されるのでしょうか。
株式への配当なのだから損金算入はされないということなら、損益計算書に費用として計上されるのはおかしいのではないでしょうか。
仮に、優先株式への配当の支払いは費用だというのなら、それは株式なのではなく負債の一種ということなのではないでしょうか。
なぜ普通株式への配当の原資は利益剰余金なのに優先株式への配当の原資は利益剰余金ではないのでしょうか。
優先株式への配当の原資は利益剰余金としてしまうと、十分な配当原資がないために、
米住宅2公社は優先株主に配当を支払えない(だから、利益剰余金となる前段階である損益計算書で処理している)、
ということなのだと思いますが、「株式への配当が損益計算書に計上されている」ということ自体がやはり間違いであるわけです。
株式への配当の原資を利益剰余金とするということは、株式への配当の原資を明確化し厳密に識別する、という意味です。
逆に、負債への支払利息を損益計算書に計上するということは、負債への支払利息の原資は特段に識別はしない、という意味です。
優先株式への配当の支払いは税法上損金算入されないから問題ない、という考え方は間違いです。
税法上の課税所得額は同じでも、当期純利益の金額が必然的に変わるわけです。
会社は、当期純利益を計上したからこそ、株式に対して配当を支払えるわけです。
当期純利益計上以前に株式に対して配当を支払うというのは、株式会社の概念に根本的に反することだと言わねばならないでしょう。

 

 


2015年8月8日(土)日本経済新聞
日本電算、ルピー建てで資金調達
(記事)



2015年8月6日
日本電産株式会社
「海外展開支援融資ファシリティ」を活用したインド・ルピー建て調達について
ttp://www.nidec.com/~/media/nidec-com/news/2015/0806-01/150806-01.pdf

 



【コメント】
日本電産株式会社は、株式会社国際協力銀行からインド・ルピー建てで融資を受ける予定とのことです。
正確に言えば、日本電産株式会社のインド法人NIDEC INDIA PRIVATELIMITEDが現地で融資を受ける予定とのことです。
記事によりますと、

>金利は年約10%で、12〜14%程度になる地場系銀行に比べて低くなるという。

と書かれています。
私は記事のこの部分を読んで、
「そんなに多くの利息を支払うくらいなら、全額日本電産株式会社からの資本で資金を賄った方がよいのではないか?」
と思いました。
理由は単純であり、全額日本電産株式会社からの資本で資金を賄えば、利息は一切支払う必要はないからです。
また、資本であれば返済の必要はありませんから、資金の調達源泉としても安定しているわけです。
と同時に、負債を活用した方が負債が一切ない場合に比較して、会社全体としての企業価値は高まる、という理論もあります。
例えば以下のような記事です↓。

 

2015年8月4日(火)日本経済新聞 経済教室
伊藤 友則 一橋大学教授

企業、負債の活用に節度を
資本構成に余裕 必要 「最適調達」、市場環境で変化

ポイント
○企業競争力などで最適な負債比率異なる
○米コダックは最適資本構成を過度に追及
○適正企業も金融危機後には「負債過多」に
(記事)


 


私はこの記事を読んで、改めて「最適資本構成」の理論について考えてみたのですが、ここでであることをふと思いました。
それは、
「会社の債権者と株主とが同一人物であるとしたら、会社の最適資本構成というのはいくらになるのだろうか?」
という点です。
会社の債権者と株主とが同一人物であるとしたら、会社が倒産することはないわけです。
なぜなら、債権者は、会社が倒産してしまうくらいなら、債権を放棄した方がましだからです。
そうすると、記事中の図「最適資本構成のイメージ」の中にある「破綻懸念コスト」というのは発生しない、
ということになります。
すると、どういうことが言えるのかと言えば、まさに負債比率は高ければ高いほど企業価値は高まる、
ということになるわけです。
文字通り負債比率は100%の時、企業価値は最大化される、ということになります。
このことは決して理論上だけの話ではなく、例えば資本金の金額は1円だけにして、
後は事業で必要となる資金は全額借入金で賄うようすれば現実にも実施可能な資本構成となります。
2015年2月15日(日) のコメント(http://citizen.nobody.jp/html/201502/20150215.html)で、

負債で済むのなら、資本はいらないだろう。(If a company can do with debts, it doesn't need capital.)

と書きました。
2015年2月15日(日) のコメントとは少しだけ切り口が違うかとは思いますが、
最適資本構成という観点から資本と負債の違いについて考えてみると、
例えば会社設立者の立場から見ると、会社に資本はいらない、ということになるわけです。
会社に必要なのは事業で必要となる資金だけであるわけです。
極端に言えば、そこに資本か負債の区別はないわけです。
また、会社設立者の立場からすると、資本ではなく負債という資金提供方法を取れば、
株式でいうところの配当を会社において税法上損金算入できる、ということになるわけです。
貸付人(会社設立者)と借入人(会社)との間で、利息の金額は全く任意に決めてよいことを踏まえれば、
税引前当期純利益(課税所得額)の全額を当期の支払利息と決定すれば、
毎期課税所得額は0円、すなわち、法人税額は0円となるわけです。
そして、株主(会社設立者)は、”配当”を会社において税法上損金算入できるのです。
資本か負債かを選択することによって、なぜこのような矛盾にも近いようなことが生じるのかと言えば、
煎じ詰めれば、その本質的理由は実は「会社(法人)が債務者になれること」そのものにあるように思えます。
会社の資金調達源泉は本来資本だけであったわけです。
それなのに、会社は負債によっても資金を調達できる、すなわち、
会社は債務者になれるということを商法制度上認めてしまったものですから、
”配当”を税法上損金算入できる、ということが結果的に生じてしまっているのだと思います。

 


On the presupposition that a company is able to be an obligor,
a founder would sooner lend money to a company than invest in the stock.


会社は債務者になれるということを所与のこととしますと、
会社設立者は、株式に資金を投じるよりも会社にお金を貸し付けた方がましなのです。

 


On the theory, the reason why what you call a "potential financial difficulty cost"
(to put it more precisely, "cost of financial distress") is caused is that creditors are different from shareholders.
In case a creditor and a shareholder are the same person, cash can't be short.
To put is simply, if the other circumstances are all the same,
a cost which is deductible is much more advantageous to a cost which is nondeductible.
If an interest cost is deductible, it is stupid for a shareholder or a founder to invest his money in the stock.
For a dividend is nondeductible to a company in which he invests his money.
In other words, on the modern stock company system, the presupposition that a company is able to be an obligor means
that a company is able to determine the amount of the tax allowance quite arbitrarily
because an interest cost is a deductible expense.
A company is able to make a loan agreement with its shareholder or its founder.
The amount of an interest on a borrowing can be determined arbitrarily between a borrower and a lender.
A company is able to pay an interest cost to a shareholder with the cost deductible
instead of a dividend to the same shareholder with the cost nondeductible.


理論上は、いわゆる破綻懸念コストが発生する理由は、債権者が株主とは異なる人物だからなのです。
債権者と株主とが同一人物である場合は、資金がショートすることはあり得ません。
簡単に言えば、他の条件が全く同じなら、
税法上損金算入が可能な費用は税法上損金算入が不可能な費用よりもはるかに有利だ、ということです。
支払利息が損金算入可能である場合、株主もしくは会社設立者が自分のお金を株式に投じることは愚かなことです。
というのは、配当金は、自分がお金を投じている会社にとって税法上損金不算入だからです。
他の言い方をすれば、現代の株式会社制度においては、会社は債務者になることができるという言葉の意味は、
会社は損金算入する金額を全く自由に決めることができる、という意味になるのです。
なぜなら、支払利息は損金算入費用だからです。
会社は、株主もしくは会社設立者と金銭消費貸借契約を締結することができます。
借入金に対する利息の金額は、借入人と貸付人との間で任意に決めることができるわけです。
会社は、費用が損金不算入であるまま株主に配当金を支払う替わりに、
同じ株主に費用を損金算入することができる形で支払利息を支払う、ということができるのです。