2015年6月2日(火)


2015年6月2日(火)日本経済新聞
17年めどに本社移転 あおぞら銀
(記事)



2015年6月1日
株式会社あおぞら銀行
本社移転のお知らせ
ttp://www.aozorabank.co.jp/about/newsrelease/2015/pdf/15060101_n.pdf

 



【コメント】
以前、肥後銀行と鹿児島銀行が共同持株会社を設立するという記事を紹介したかと思います。
両行の経営統合では、「対等」の精神に配慮する趣旨で、グループの登記上の本店と営業上の本店を敢えて分ける、
という方針になっている、という点が議論の焦点であったと思います。
その時のコメントにおいて、結論だけを端的に言えば、商法理上は、「会社は支店を開設できない。」と書きました。
その背景には、実は所得税法の趣旨がある、とも書いたかと思います。
基本的には、2015年2月18日(水) のコメントに書いている通りだと思います。

2015年2月18日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201502/20150218.html

2015年2月18日(水) のコメントでは、「商業登記制度の意味」というタイトルで、
なぜ会社は商業登記を行わなければならないのか、について図を描きました。
今日は、あおぞら銀行を題材に、不動産登記について一言だけ書きたいと思います。
不動産登記について、現行の民法の定めを理解するために、まずは教科書の記述を引用したいと思います。


>権利の主体・客体
>権利の客体
>
>1. 不動産・動産
>自然人や法人は、財産をめぐって取引行為をします。
>つまり、権利の客体は財産ですが、民法は権利の客体として「物」について規定しています(85条)。
>物は不動産と動産に分かれます。
>不動産とは、土地およびその定着物をいいます。(86条1項)。
>土地の定着物の典型は、建物です。
>たとえば、建物は土地と分離して不動産取引の対象となります。
>動産とは、不動産以外の物をいいます(86条2項)。
>
>2. 主物・従物
>物のなかには、たとえば、刀とさや、屋敷の母屋と離れというように、
>それぞれは独立している物がいわば主従の関係に立つ場合があります。
>このように、物の所有者が、その物(主物)の常用に供するため、これに付属させた自己の所有物を従物といいます(87条1項)。
>そして、主従関係に立つ物どうしの処理の基準は、「従物は、主物の処分に従う」ことになります(87条2項)。

 


それで、不動産登記に関してなのですが、不動産登記は大きく分けると、「建物の登記」と「土地の登記」に分かれているかと思います。
ここで、プレスリリースを参考に、株式会社あおぞら銀行の本社の移転について考えてみましょう。


「本社移転のお知らせ」
移転先
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プレスリリースには、株式会社あおぞら銀行は「テナントとして」入居する、と書かれていますので、
賃貸借の形を取ることになろうかと思いますが、ここでは、株式会社あおぞら銀行は、
入居する建物「ソフィアタワー」の店舗部分(1階)とオフィス部分(7〜16階)を所有する、と考えてみます。
するとどうなるのかと言えば、株式会社あおぞら銀行は、所有権の保存を目的として、
所有することになった店舗部分(1階)とオフィス部分(7〜16階)に関して不動産登記を行わなければならない、ということになるわけです。
それがどうかしたのか、と思われるかもしれませんが、私の感覚だと、
その登記方法自体に何か所有権の考え方にそぐわないものを感じるわけです。
私が思うに、不動産登記には、実は今で言う「土地の登記」しかないのではないだろうか、と感じています。
つまり、「建物の登記」など本来はないのではないだろうか、と感じているわけです。
建物を登記するとなりますと、土地の所有者と、建物の全部もしくは一部の所有者が異なる、ということを意味するわけです。
土地と建物とは、確かに物理的・概念的に分離していると言えますが、
土地の所有者と建物の所有者が異なるということ自体に、私は直感的に何か違うな、と感じるものがあるわけです。
その理由は、まさに建物は土地の定着物だ、という点にあるように私は感じます。
建物というのは、土地の上にしか建てられないものです。
建物を建てるのに、自分が所有していない土地の上に建物を建てるでしょうか。
概念的には、建物は、自分が所有している土地の上にしか建てられないものではないでしょうか。
もし私のこの感覚が正しいとすると、建物の所有者と土地の所有者は必然的に同一人物ということになるわけです。
そうしますと、「建物の登記」は必然的に不要だ、ということになるわけです。
建物の所有者は必然的に、土地の所有者であると一意に決まるからです。
つまり、法律的・公的に、「この建物の所有者はだれそれです。」と登記・明記する必要は全くないわけです。
建物の所有者を知りたければ、「土地登記簿」を見ればよいだけであるわけです。

 



また、他の観点からの見方としては、建物を登記するとなりますと、まさにこのたびの株式会社あおぞら銀行の事例のように、
建物の一部だけを登記する、ということが生じる得るわけです。
これは高層ビルやマンションなどではなく、たとえ一軒家であっても、
一部の部屋だけを登記する、というようなことが考えられるわけです。
それは、建物という1つの「物」に対して複数の所有権が発生していることと同じであるわけです。
建物を何を基準に分けたらよいと言うのでしょうか。
階が異なればよいのでしょうか。
部屋(玄関)が異なればよいのでしょうか。
移動はしない固定された壁で区切られていればよいのでしょうか。
ふすまや障子ではだめでしょうか。
カーテンではだめでしょうか。
それとも、1つの部屋の中に、任意に線を引いてもよいのでしょうか。
答えはないのではないでしょうか。
むしろ、建物は分けられないから、土地で分けるのではないでしょうか。
土地が一番明確な区分けの基準だ、ということだと思います。
1つの土地に1つの建物、それだけのことではないでしょうか。
仮に、何かある土地の上の居住空間を分けたければ、土地そのものを分けるしかない、ということになると思います。
つまり、土地に敢えて境目を作り出し、ある単位ごとに土地を人為的に分割して、
それぞれごとに地番を付け、地番ごとに土地登記簿を作る、ということを行うわけです。
この一単位を「一筆」と呼ぶようなのですが、結局、その「一筆」で1つの独立した土地ということになりますから、
複数の「筆」が1つの土地にまたがるというのはあり得ない、ということになります。
つまり、土地の所在地=土地の地番、ということになります。
そして、「従物は、主物の処分に従う」という言葉を紹介しましたが、
土地と建物の関係に即して言えば、主物=土地、従物=建物、というふうに理解すればよいのではないでしょうか。
他人の土地を取得すれば、その上に立っている建物も必然的・付随的に取得することになる、という考え方になるのではないでしょうか。
以上が、私が思う「土地の考え方」であり、「不動産登記(土地登記)の考え方」になります。
この考え方が一番シンプルと言いますか、土地と建物の関係を整理しやすいと思いました。
建物登記という考え方があると、権利関係というと言い過ぎですが、所有者の整理が難しくなるように感じました。
1土地1建物、この考え方が一番問題が生じないと思いました。
以上の私の考え方は、純粋に土地と建物の概念から導き出したものです。
こう整理するべきだ、と。
明治三十一年民法そして明治三十一年不動産登記法ではどのような定めになっていたかは全く確認していません。
明治三十二年商法の逐条解説書を書く際に、ついでに確認しようと思っているところです。
ただ、基本的考え方は、以上私が書いた土地と建物の捉え方が一番シンプルだと思います。
明治三十一年民法そして明治三十一年不動産登記法でも、私の考え方と近い定めになっているのでないだろうか、
もし私が当時の立法担当者だったらこのように定めるけどな、
もし明治三十一年民法そして明治三十一年不動産登記法がそうなっていたら嬉しいな、と思っているところです。

 



The true meaning of real property is only land.

不動産の本当の意味は、土地だけなのです。

 

The original type of real property registration is only land.
It doesn't include the buildings and rooms on the land.

元来、不動産登記を行うのは、土地だけなのです。
その土地の上の建物や部屋は不動産登記には含まれないのです。

 

Ownership has no concept of a "part."

所有権には、「一部」という考え方はありません。