2015年3月13日(金)


2015年3月13日(金)日本経済新聞
TOB、目標に届かず JSR
(記事)



2015年3月12日
JSR株式会社
株式会社医学生物学研究所株式(証券コード4557)に対する公開買付けの結果に関するお知らせ
ttp://www.jsr.co.jp/news/0000595.pdf

 

2015年3月12日
株式会社医学生物学研究所
JSR株式会社による当社株式に対する公開買付けの結果に関するお知らせ
ttp://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1223530

 

過去のプレスリリース等

2015年2月15日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201502/20150215.html

 


【コメント】
記事には、

>JSRは12日、持ち分法適用会社の医学生物学研究所に対して実施していたTOB(株式公開買い付け)で
>目標としていた株式保有比率51%に届かなかったと発表した。
>保有割合は33.18%から46.86%に高まるが「子会社化は見送る」という。

と書かれています。
このたびの株式公開買付では「買付予定数の下限」は設定されていなかったようで、
JSR株式会社は応募があった株式は全て買い付けることになります。
「買付予定数の下限」が設定されていた場合は、応募株式数が下限に達さなかった場合は
公開買付者は株式を全く買い付ける必要はないわけです。
また逆に、「買付予定数の上限」が設定されていた場合は、上限を超える分については株式を買い付ける必要はないわけです。
どちらせによ、株主の立場からすると、「応募をしたのに株式を買い付けてもらえなかった」という場面が生じてしまうわけです。
株式公開買付は、市場株価に非常に大きな影響を与えるのは確かだと思います。
参考までに、このたびの株式公開買付前後の株式会社医学生物学研究所の値動きを見てみましょう。

「株式会社医学生物学研究所のここ3ヶ月間の値動き」


この値動きだけを見ると、市場株価への株式公開買付の影響は極端には大きくないように見えます。
これは、株式公開買付後も上場を維持する方針であることを明確にしていたからだと思います。
ただ、株式公開買付の実施により市場株価が上昇しているのは確かですので、
これで結局1株の売買もなかったという場合を想定してみますと、この市場株価の上昇については説明が付けられないと思います。
つまり、仮に株式公開買付が実施されていなかったならば、その間株式を売買した投資家は別の価格で株式を売買していたはずだ、
という言い方ができるように思うわけです。
成立しない株式公開買付が実施されていた結果、市場株価に変動が生じ、
一方の投資家は得をし他方の投資家は損をした、ということになるわけです。

 



応募があった株式に関しては結局公開買付者がしぶしぶ買い付けたというのなら市場株価の変動にも意味があるでしょう。
なぜなら、現に売り手と買い手の意思により株式の売買が行われたからです。
応募が少なかった理由はただ単に買付価格が低かったからかもしれませんが、
理由はどうあれ応募が少なかったこと自体は問題ではないわけです。
なぜなら、応募しないのは株式を売らないという売り手の意思表示に過ぎないからです。
問題なのは、売り手は買い付けてもらうつもりで株式の譲渡に動いたにも関わらず売買が成されなかった(=公開買付者が買い付けなかった)、
ということだと思います。
つまり、売り手も市場の投資家も、ある数量の株式の売買が行われるということを織り込んで株式の売買に当たっているにも関わらず、
結局株式公開買付が実施されていないことと同じ状況になってしまうことが問題であるのではないかと思うわけです。
株式の売買は実際には1株も行われていないにも関わらず、市場株価だけが無意味に変動した、ということになるわけです。
”買わないかもしれない”という特殊な条件付ではあるものの、買い手は株式を私に売ってくださいと現に意思表示をし、
そして、売り手は私があなたに株式を売りますと現に意思表示をしたわけです。
それで株式の売買が成立したならば、市場株価が変動したことにも意味があるでしょう。
しかし、それで株式の売買が成立しなかったならば、市場株価は変動してはならなかったのではないでしょうか。
株式の売買が成立しても市場株価が1円も変動しないのは問題はない(市場株価による売買なら市場株価は変動しない)と思います。
しかし逆に、市場株価が変動するためには1株以上の株式の売買が必要なのではないでしょうか。
ここで言う”1株以上の株式の売買”とは、市場取引による株式の売買のことではなく、株式公開買付における株式の売買のことですが。
要するに、市場株価が変動するなら変動するでそれなりの理由が欲しいわけです。
少なくとも「成立しない株式公開買付」は理由にならない、と思います。

 


次に、株式公開買付制度の位置付けの話をしたいと思います。
株式公開買付制度は、
@売り手側の立場に立った株式売買制度であるという見方と、
A買い手側の立場に立った株式売買制度であるという見方
の両方の側面があると思います。
前者の見方は、特に過半数の株式取得の際に顕著であろうと思います。
株式の相対取引の結果、上場企業に突然支配株主が現れるという事態を避ける、というのが、
売り手側の立場から見た株式公開買付制度なのだと思います。
支配株主が現れるのであれば株式を売ってしまおうと考える投資家に、株式売却の機会を与えている、という言い方ができると思います。
支配株主が買い手、市場の投資家が売り手、という意味で、株式公開買付制度は投資家保護に一役買っていると思います。
しかし同時に、株式公開買付制度には後者の見方もあるわけです。
それは特に、「買付予定数」に上限や下限を設定する場合に顕著であろうと思います。
端的に言えば、公開買付者は自分が希望する株式数だけを買えるわけです。
公開買付者は、市場取引に非常に近い形で、非常に柔軟に株式を買い集めることができるわけです。
また、市場取引であれば、株式を買い集めるにしたがって、どんどん市場株価が上昇していくわけですが、
株式公開買付制度であれば株式の買い付け価格は一定に保たれるわけです。
これもまた、株式公開買付制度は買い手に非常に有利な株式売買制度であることの理由だと思います。
総じて言えば、株式公開買付制度は、投資家保護に重きを置いているというより、
どちらかと言えば、買い手に有利な株式取得手法を提供している、と言わねばならないと思います。
株式公開買付の義務付けにより上場企業に突然支配株主が現れるという事態を避けるとは言っても、
市場取引による株式取得であれば株式公開買付の義務付けはないわけです。
売り手と買い手とで事前に申し合わせれば、市場取引により大量の株式を売買することは結局可能であるように思います。
市場株価と同じ価格による買い注文と売り注文を同時に出せば、
他の投資家に邪魔されることなく特定の2人の間だけで株式の譲渡は可能なのではないでしょうか。
もし私の考えが正しいとすれば、結局のところ、市場の投資家にとっては上場企業に突然支配株主が現れることには変わりない、
ということになるわけです(買い集める側に特定の株式譲渡相手がいる場合ですが)。
また、不特定多数の投資家を相手にひたすら市場で株式を買い集めても、
市場株価が上昇するだけで突然支配株主が現れることには結局変わりはないように思います(大量保有報告書により初めて判明するだけ)。
いずれにせよ、株式公開買付制度は、売り手に有利というより買い手に有利な制度だと思います。
もちろん、株式公開買付制度では売り手が公開買付に応募してくれなければ公開買付者は株式を取得できないわけですが、
売り手が株式売却に応じてくれなければ買い手は株式を取得できないのは市場取引でも全く同じであるわけです。
設定された「買付予定数」の上限や下限というのは、売り手の意思の全部もしくは一部を無効化できる、という意味においても、
やはり株式公開買付制度は買い手に有利な制度だと思います。

 


最後に、株式の決済について一言だけ書きます。
このたびの株式公開買付は2015年3月11日(水)をもって終了しました。
公開買付の期間は「2015年2月10日(火)から2015年3月11日(水)まで」であったわけです。
このたびの株式公開買付に応募する株主は、2015年3月11日(水)までに応募する必要があったわけです。
つまり、2015年3月12日(木)になってこのたびの株式公開買付に応募しようと思ってももはや応募できませんし、
逆に、このたびの株式公開買付に一旦は応募したのだが、
2015年3月12日(木)になって応募を取り消そうと思ってももはや応募の取り消しできないわけです。
つまり、応募にせよ応募の取り消しにせよ、株式公開買付の手続きとしては2015年3月11日(水)をもって終了してしまっているわけです。
それで、応募のあった株式の決済についてですが、決済日は2015年3月18日(水)となっています。
一言で言えば、株式の決済日は公開買付期間の終了日からちょうど1週間後、ということになるわけです。
このこと自体は金融商品取引法で認められた決済方法だと思います。
ただ、この1週間の間は何だろうな、と思うわけです。
買い手は当然決済資金は事前に確保済みですし、売り手ももはや応募も応募の取り消しもできない状況下にあるわけです。
他の言い方をすれば、買い手は必ず株式を買わなければなりませんし、売り手は必ず株式を売らなければならない、
という関係に買い手と売り手はあるわけです。
そうであるならば、決済までに間があってはならないのではないだろうか、とふと思ったのです。
例えば、株式公開買付の終了日は2015年3月30日(月)、株式の決済日は2015年4月6日(月)だとしましょう。
3月31日が決算期末日だとします。
買い手と売り手の会計処理はそれぞれどうなるでしょうか。
買い手は株式の代金を支払う義務を負っているわけですが、株式の取得自体はまだなので、確定債務額の計上のしようがないと思います。
また、売り手は株式の代金を受け取る権利を持っているわけですが、株式の譲渡自体はまだなので、
確定債権額の計上のしようがないと思います。
さらに、売り手にとっては、株式の譲渡自体はまだとは言え、もはや株式を自分の意思で自由に取り扱ってよい状態には全くないわけです。
所有権はまだ移転していないが所有権は実際にはないことと同じ(それどころか、これから所有権を失うことが確定している)、という、
どっちつかずの法的な状況にあるわけです。
3月31日が株主総会の基準日という場合、株主総会で議決権を行使できるのは、買い手でしょうか、それとも、売り手でしょうか。
どっちとも言えないわけです。
結論を端的に言えば、公開買付の期間が終了してすぐに決済を行わなければならない、が、
この不都合や矛盾を解決する唯一の手段であり、もっと簡単に言えば、要するにそれが法理上の正解なのだと思います。
このたびの事例で言えば、2015年3月11日(水)に決済を行う、すなわち、終了日に決済を行う、だと思います。
終了日が3月31日である場合を想定してみると分かるように、決済日は終了日の次の日であってもだめなのです。
結論を一言で言えば、「代金の決済は後だ。」(代金の後払い)という考え方は法理上はない、ということだと思います。