2014年2月1日(日)


2014年1月31日(土)日本経済新聞
豊商事 プロスペクトのTOBに反対
(記事)


 


【コメント】
2015年1月30日(金)に株式公開買付における公開買付者と対象者との関係について書きました。


2015年1月30日(金)
http://citizen.nobody.jp/html/201501/20150130.html


この時のコメントで、法理的には対象者は実施される公開買付に関して一切意見表明を行ってはならない、と書きました。
株式公開買付は、株主と公開買付者との間の取引なのであって、対象者と公開買付者との間の取引なのではありません。
仮に、公開買付者に対し情報開示を求めたいのなら、株主が公開買付者に対し情報開示を求めるべきであって、
対象者が何らかの行動を起こすべきではないのです。
仮に、株主が情報を公開するよう依頼しても公開買付者が応じないのなら、
株主は公開買付者に株式を売却しなければよい(株式公開買付に応じなければよい)、というだけなのです。
株式の所有者はあくまで株主です。
対象者ではありません。
民法の考え方から言っても、株主は所有物である株式を全面的に支配しているわけです。
株主は株式を全く自由に売却したり保有し続けたりできるわけです。
株式公開買付において、対象者が意見を表明するということは、株主の所有権に注文を付けていることと同じであるわけです。
2015年1月30日(金)のコメントでは、公開買付者が対象者の意思決定(機関)を支配している場合について書きましたが、
公開買付者と対象者との間に資本関係など全くない状況下でも、公開買付者と対象者の取締役とが内密に裏取引を行って、
株主に不利な条件の株式公開買付に関して、対象者が賛同し、株主に対して応募するよう意見を表明する、
ということも考えられるでしょう。

 



この手のプレスリリースには、
「誰某取締役は公開買付者と利害関係がありますので、利益相反を避ける観点から、誰某取締役は当該取締役会決議には参加していません。」
などという文言が記載されていることがよくありますが、
対象者の他の取締役と公開買付者とは利害関係がないとなぜ言えるのでしょうか。
会社同士は資本関係がないから利害関係もないとは全く言えませんし、役職を兼務していないから利害関係はないとも全く言えないはずです。
極端なことを言いますと、ある1人の人物が誰からも独立しているなどということは決してないのではないでしょうか。
結局のところ、「株主が全くの自由意思で応募するか否かを決める」ことにすれば、それで問題は生じないのではないかという気がします。
疑問があるならば、株主が公開買付者に質問をし、公開買付者は株主に対して対質問回答報告書を提出する、という形にすべきなのです。
質問場所や対質問回答報告書の提出場所は金融庁(EDINET)というふうに法律で定めればよいのではないかと思います。
そういったことも含めて、対象者は実施される公開買付に関して一切意見表明を行ってはならないと思います。
株式会社プロスペクトが株式公開買付を開始した2014年12月25日から、
豊商事株式会社が公開買付けへの反対の意見表明を行った2015年1月30日までの、
両社からのプレスリリースと報告書類を紹介します。
どれを読んでも、「公開買付者 vs. 対象者」という図式になっています。
株主は完全に蚊帳の外です。
株式の売却や継続保有は株主の一存で全く自由に決めてよいという点の他に、
株式会社の意思決定を行うのは第一義的にはやはり株主である、という点も重要だと思います。
株主は普段は、取締役に業務執行の委任を行っているに過ぎないわけです。
「株主による株式の売買に会社が意見を表明する」というのは、考えようによっては、
「意思決定が二元化している」、と表現できると思います。
意思決定が二元化している、だから、株主の意思と取締役の意思とが異なるということが起こり得るわけです。
民法の教科書に書いてあると思いますが、契約というのは必ず「1人対1人」で締結しなければなりません。
債権債務関係で言えば、1つの債権債務関係には債権者と債務者は必ず「1人と1人」であるわけです。
その理由は、「1対多」の契約になりますと、利害関係が錯綜したり、権利と義務の整理がつかなくなる恐れがあるからです。
会社で行う業務の執行は当然1つであるわけですから、会社の意思決定の所在も1つでなければならないのかもしれません。
そして究極的には、会社で意思決定を一元化したいならば、意思決定を行う者自身が業務も執行する、という結論に行き着くと思います。
しかし少なくとも、それは現代の上場企業では不可能なことです(株式上場の時点で株主が不特定多数であることが大前提であるため)。
自然人による商行為であれば、そして、全出資者の同意による会社の業務執行であれば、それができると思います。


In whom does a right to make a decision lie?
(意思決定を行う権利は誰にあるのか?)

 


2014年12月25日
株式会社プロスペクト
豊商事株式会社(株式証券コード8747)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ
ttp://www.gro-bels.co.jp/finance_ir/pdf/141225kaituke.pdf

 

2014年12月25日
豊商事株式会社
株式会社プロスペクトによる当社株券に対する公開買付けの開始に関するお知らせ
ttp://www.yutaka-shoji.co.jp/ir/news/files/8ac097c8d16a6d6e45e4b0d2dc32c65f.pdf

 

H26.12.26 11:27
株式会社プロスペクト
公開買付届出書
(EDINETと同じPDFファイル)

 



2015年1月16日
豊商事株式会社
株式会社プロスペクトによる当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(留保)のお知らせ
ttp://www.yutaka-shoji.co.jp/ir/news/files/a72e0fe3e6b2001ec7c93a5f59ab163f.pdf

 

H27.01.16 15:26
豊商事株式会社
意見表明報告書 
(EDINETと同じPDFファイル)


2015年1月19日
株式会社プロスペクト
豊商事株式会社からの公開買付けに関する意見表明(留保)についての当社の対応について
ttp://www.gro-bels.co.jp/finance_ir/pdf/ryuuho150119.pdf

 


2015年1月23日
株式会社プロスペクト
当社による豊商事株式会社株券等に対する公開買付けに係る対質問回答報告書提出のお知らせ
ttp://www.gro-bels.co.jp/finance_ir/pdf/houkoku150123.pdf

 

H27.01.23 15:22
株式会社プロスペクト
対質問回答報告書
(EDINETと同じPDFファイル)


2015年1月30日
豊商事株式会社
株式会社プロスペクトによる当社株券に対する公開買付けへの反対の意見表明のお知らせ
ttp://www.yutaka-shoji.co.jp/ir/news/files/de1ab30d53af70e69cc1cf1e429ff659.pdf

 

H27.01.30 15:10
豊商事株式会社
訂正意見表明報告書 
(EDINETと同じPDFファイル)

 

 


2015年1月14日(水)日本経済新聞 経済教室
山田 辰巳
あずさ監査法人理事 前国際会計基準審議会理事

国際会計基準の展望 上
進む国際化 統一は必須
日本の適用、150社超も 意思疎通・士気向上に効果

ポイント
○IFRSでリース会計などの改定が進行
○米国は独自路線強め適用方針に不透明感
○日本は意見反映に努め長期で基準収束を
(記事)

 

2015年1月15日(木)日本経済新聞 経済教室
西川 郁生
慶應義塾大学教授

国際会計基準の展望 下
『のれん』処理、日本型は妥当
定期償却、原則に沿う 事後の減損処理 課題多く

ポイント
○償却か否かの処理巡り国際議論が再燃
○非償却のIFRSや米国に見通し機運も
○資産の長期計上という例外は適切さ欠く
(記事)

 


2014年12月20日(土)日本経済新聞
KNTCT17億円赤字 のれんの減損損失 今期最終
(記事)



2014年12月25日(木)日本経済新聞
クラレ設備投資 3年で2000億円 機能性樹脂の生産増強
クラレ純利益 50億円下方修正 今期、のれん償却かさむ
(記事)



2015年1月8日(木)日本経済新聞
アークス3〜11月 経常益2%増 経営統合が寄与
(記事)

 



【コメント】
連結上ののれんをどのように会計処理するべきかについて一言だけコメントします。
連結上ののれんをどのように会計処理するべきかについてについては絶対的な答えはないようにも思えます。
その理由は、連結上ののれんそのものをどういうものであると捉えればよいか明確ではないからだと思います。
連結上ののれんをつかみどころのないものとしている原因は、2015年1月15日(木)の「国際会計基準の展望 下」の言葉を借りれば、

>通常の資産とは違って単独では識別できないこと

です。
通常の資産であれば、その資産の取得価額ははっきりしています。
ある資産を100円で買ったならば、その資産の取得価額は100円なのです。
貸借対照表にもその資産の価額は100円と計上されるわけです。
ところが、連結上ののれんは、株式の取得額と子会社の純資産とから、間接的・複合的に算出されるものであるわけです。
株式の取得額は明確であるわけです。
しかし、子会社の純資産には子会社の資産と負債が貸借対照表上概念的にくっついていますから、
株式を取得したことによる連結貸借対照表への影響に関しては、
子会社の資産と負債の全てが連結貸借対照表に影響を与えると言わねばならないわけです。
そして、連結上ののれんは、親会社の貸借対照表にも子会社の貸借対照表にも計上されていないものです。
連結上ののれんは、連結上の貸借対照表のみに計上されているものであるわけです。
要するに、連結上ののれんは、子会社の全ての資産と負債が関連した結果算出されている価額に過ぎませんから、
その価値の減少の程度というものを全く客観的に認識・計測できないわけです。
連結上ののれんは、有体物としても無体物としても存在しないわけです。
連結財務諸表自体が非常に概念的な計算書類に過ぎない側面があるわけですが、
その中でも特に、連結上ののれんは概念上の価額・勘定科目に過ぎないわけです。
そのようなものが実際にあるわけではない、と言えばいいでしょうか。
連結上ののれんの価額は多数の資産負債を経て間接的に算出されたものに過ぎず、
法律上や経営上のその位置付け自体も全く明確ではないわけです。
ですので、連結上ののれんを償却するといっても、どう償却すればよいか分からないわけです。
20年で規則的に償却すると予め定めるなら、それも1つの方法かもしれません。
もしくは、償却しないというのもまた1つの方法かもしれません(恣意性がないことだけは確かでしょう)。

 



しかし、貸借対照表の貸方は資金の調達源泉を表し借方は資金の運用の結果を表す、という、
貸借対照表の基本原理に従った見方をするならば、連結上ののれんが計上されていることは、
利益剰余金が実際には存在しない計算上のみのもの(勘定科目)に使われている状態だ、ということを意味しますので、
利益剰余金が実際には存在しないものに使われているのは会計的・概念的におかしい、ということになります。
つまり、連結貸借対照表に連結上ののれんが計上されていること自体がおかしい、という考えに行き着くわけです。
そうしますと、連結上ののれんは、発生と同時に全額を償却する、という会計処理が理論上一番正しいように思えます。
もしくは、償却も何も、連結上貸借の差額(今でいう連結上ののれん)はそのまま連結上の費用とする、
という考え方になると思います。
貸借の差額についてのれん(連結調整勘定)という考え方をはじめからしないわけです。
支配獲得時に計上する連結上の費用は、”連結調整差損”、”連結調整差額”、といった名称はどうでしょうか。
いずれにせよ、貸借対照表の基本原理に従った見方をするならば、連結上ののれんは早期の償却が求められるべきであるのは確かでしょう。
また、連結上ののれんは、有体物でもありませんし、無体物でもありません。
連結上ののれんは有体物でも無体物でもありませんので、その価値というものを計りようがないわけです。
価値の減少度合いというのが全く分からない以上、減損テストというような考え方は連結上ののれんには全くそぐわないと思います。
棚卸資産であれば、市場その他にまだ類似の販売価格のようなものがありますから、減損処理の1つの目安になり得ると思います。
また、有形固定資産の場合も、時価や減価償却の未償却残高や稼動による収益見込みなど何らかの目安のようなものはあり得ると思います。
有価証券の場合も、市場株価や資本の簿価や債権そして債券の額面金額から見た回収見込み額など、やはり何らかの目安はあると思います。
しかし、有体物でも無体物でもない連結上ののれんというのは、実際にはこの世に存在しないものであるわけですから、
目安や参考となるものが文字通りこの世に一切ないわけです。
連結上ののれんの価額というのは、20等分という割り算にすら耐えられないものであると思います。
それほどまでに、連結上ののれんというのは、価額がもろくそして実体がないものだ、と言わねばならないと思います。

 

A consolidation adjustment account doesn't have the concept "recover" in it.

連結調整勘定には、「回収する」という概念はありません。

 

Expectations can be changed afterward. Regulations can't after the event.

予想は後で変えられます。しかし、規則は事後的に変えてはならないのです。