2015年1月4日(日)
2015年1月4日(日)日本経済新聞 公告
臨時株主総会招集のための基準日設定公告
株主 株式会社成和 寺田治夫 丸本桂三
(記事)
2014年11月28日
日本ギア工業株式会社
株主による臨時株主総会の招集請求に関するお知らせ
ttp://www.nippon-gear.jp/ir/ir_pdf/20141128_kabunusirinsou.pdf
2014年12月12日
日本ギア工業株式会社
株主による臨時株主総会招集請求に関する当社対応のお知らせ
ttp://www.nippon-gear.jp/ir/ir_pdf/20141212_kabunushiniyoru_rinjisoukaisyousyu_tousyataiou.pdf
2014年12月12日
日本ギア工業株式会社
株主による臨時株主総会招集請求許可申立書の送達に関するお知らせ
ttp://www.nippon-gear.jp/ir/ir_pdf/20141212_kabunushiniyoru_soukaisyousyuukyoka_soutatu.pdf
2014年12月29日
日本ギア工業株式会社
臨時株主総会招集許可決定に関するお知らせ
ttp://www.nippon-gear.jp/ir/ir_pdf/20141229_kabunusikyokakettei.pdf
【コメント】
「臨時株主総会招集のための基準日設定公告」というだけですと、今までに何十回も紹介したことがあるわけですが、
このたびの「臨時株主総会招集のための基準日設定公告」で特徴的なのは、公告を行っているのが「株主」であるという点です。
通常は、株主総会は代表取締役が招集します。
基準日設定公告も代表取締役の名で行います。
会社法の規定では、”株主総会は取締役が招集する。”(第二百九十六条)と定められているのですが、
「株主総会の招集」というのは、会社の重要な業務執行の1つだと思いますので、
法理的には、株主総会を招集するためには代表権が必要なのだと思います。
したがって、現行の株式会社制度においては、法理的には株主総会を招集する(招集できる)のは「代表取締役」だけだと思います。
代表権を持たない取締役には株主総会を招集する権限はない、というのが法理上の答えではないでしょうか。
ただ、今改めて現行の会社法を読みますと、”取締役は株式会社の業務を執行する。”(第三百四十八条)とズバリ書かれてあります。
さらに、”取締役は株式会社を代表する。”(第三百四十九条)とまではっきり書かれています。
現行の会社法の条文を読む限りは、取締役と代表取締役は機能・役割としては同じ様な位置付けになっているような気がします。
第三百四十九条には続けて、”ただし、他に代表取締役その他株式会社を代表する者を定めた場合は、この限りでない。”
と書かれてありますので、
取締役の中から代表取締役を定めた場合は他の取締役は株式会社を代表しない、ということになるようなのですが、
では、取締役の中から代表取締役を定めた場合は、他の取締役は業務を執行するのかしないのかは
条文からははっきりとは分からないように思います。
私の理解では、代表権と業務執行権が同じ権限内容を意味するのではないだろうか、と思うくらいなのです。
要するに、代表者(代表権を持っている人物)が業務を執行する、ということなのではないか、と思うわけです。
代表権は持っているが業務は執行しないというのもおかしいですし、代表権を持っていないのに業務を執行するのもおかしい、と思います。
第三百四十九条に、”代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。”
と定められているわけですが、ここでいう”株式会社の業務に関する裁判外の行為”とは何を指すのかも明確ではない気がします。
要するに、「代表する」とは何か(その内容・範囲は何か)、「業務を執行する」とは何か(その内容・範囲は何か)が、
結局のところ会社法の条文からは明らかではないように思います。
法理的には、最も狭義には、「代表する」と「業務を執行する」は同じ意味だと思います。
この文脈での「業務」は、代表権を持たない取締役は執行できませんし、被雇用者も執行できません。
しかし、会社法の条文を読む限りは、会社法では「業務を執行する」の「業務」を非常に広く捉えており、
日々の営業活動全般や被雇用者と一緒に会社で広く労務を行うことも「業務を執行する」の「業務」に含めているように思います。
例えば、被雇用者は会社を代表することはできませんから、会社法上は「代表する」と「業務を執行する」は違う意味なのだと思います。
要するに、会社法を読む限りは、被雇用者が日々行う業務も会社法でいう業務に含まれるように思います。
会社法の条文には、業務の他に「職務」という言葉もあります。
会社法でいう「業務」と「職務」はどう意味が異なるのかも、よく分からない気がします。
第三百六十二条には、取締役会の権限として、”取締役の職務の執行の監督”と書かれています。
しかし、取締役会の構成員は全取締役なのですから、ある意味、自分で自分を監督する、といっていることと同じである気もします。
現行の会社法を読む限りは、「業務」が指す内容も「代表する」が指す内容も取締役と代表取締役の違いもどこか明確ではない気がします。
この点については結論らしい結論はありません。
しかし、対外的に会社に関する事柄を発表したりする時は、代表取締役の名で行うべきであるのだけは確かだと思います。
少し話がわき道にそれたのですが、最初に紹介しました「臨時株主総会招集のための基準日設定公告」に戻ります。
このたびの「臨時株主総会招集のための基準日設定公告」は「株主」が行っているわけです。
この点については、会社法にはどのように定められているでしょうか。
該当部分を引用してみます。
(基本的には条文をそのまま引用しているのですが、冗長な部分は意味が分かりやすいように敢えて省略しています。)
第二編 株式会社 第四章 機関 第一節 株主総会及び種類株主総会 第一款 株主総会
(株主総会の招集)
第二百九十六条
第二項 株主総会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができる。
(株主による招集の請求)
第二百九十七条
第一項 総株主の議決権の百分の以上の議決権を六箇月前から引き続き有する株主は、
取締役に対し、株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができる。
第四項 次に掲げる場合には、第一項の規定による請求をした株主は、裁判所の許可を得て、株主総会を招集することができる。
一
第一項の規定による請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合
大まかに要約すると、会社法の定めでは、株主は株主総会をいつでも招集することができます。
ただ、株主はまず会社に対して(より具体的には代表取締役に対して)株主総会を招集することを請求する形になります。
招集の手続きとしては、会社(より具体的には代表取締役)が株主総会を招集するわけです。
ですから、基本的には、仮に「臨時株主総会招集のための基準日設定公告」を行うとしたら、
代表取締役の名で公告を行う(他にも、株主総会招集通知の発送も代表取締役が行う)ことになるわけです。
しかし、株主が会社に対して株主総会を招集するよう請求しても、請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合は、
請求をした株主自身が、裁判所の許可を得て、株主総会を招集することができる、と会社法には定められているわけです。
このたびの「臨時株主総会招集のための基準日設定公告」も「株主」自身の名で行っていますので、
おそらくは会社が請求の後遅滞なく招集の手続きを行わなかったということなのだろうと推測でき、裁判所の許可を得た上で、
株主は、会社法第二百九十七条第四項の定めに従い、自分達自身により株主総会の招集を行っている、ということだと思います。
プレスリリースを読みますと、日本ギア工業株式会社には2014年11月28日付で、
株主から臨時株主総会の招集請求があった、ということです。
臨時株主総会の招集を請求している株主としては、会社法の定めに則って手続きを進めているということで、
もちろん、そのことは順法上何ら問題ないことだと思います。
ただ、ここでは法理的な話をしますと、たとえ臨時株主総会の招集を請求しているのは株主なのだとしても、
実際に招集の手続きを進めていく(招集通知を作成したり通知を発送するなど)のは、代表取締役であるべきだと思います。
というのは、株主が株主総会の招集の手続きを進めていってよいことにしますと、
株主が自分に都合のいい株主のみを招集し、その一部のメンバーのみで株主総会決議を取ったりする恐れが出てくるからです。
もしくは、株主としては全株主を招集したつもりだったが、事務的な手続きに間違いがあり、招集通知を発送し損ねてしまい、
一部の株主を招集し忘れてしまう、などということも起こり得るでしょう。
そういった手違いが起こらないように、株主総会の招集の手続きは日々実際に会社で業務を行っている代表取締役に一本化するべきなのです。
間違いなく全株主を株主総会に招集するということも代表取締役が負うべき責任、というふうに理解すべきだと思います。
要するに、個々の株主は事務手続きとしては株主総会を招集できない、と考えるべきだと思います。
この考えに沿って法律が定められているとして、
臨時株主総会を開催したい株主は代表取締役に対して臨時株主総会の招集を請求することにします。
では、この時、代表取締役が株主総会の招集の請求に応じなかったとしたら、どのように考えるべきでしょうか。
例えば、代表取締役を解任する(取締役から解任する)という内容の議案が付議されている場合などですと、
代表取締役としては自分が解任されてしまう臨時株主総会は開催したくないと思うわけです。
これではいつまで経っても臨時株主総会を開催できません。
どのように考えたらよいでしょうか。
この点についてどのように法律の規定を定めるべきかと言いますと、
考えられる方策はただ一つ、「株主自身が株主総会を招集する。」だと思います。
たった今、株主総会の招集の手続きは日々実際に会社で業務を行っている代表取締役に一本化するべきだ、と書いたばかりですが、
様々なことを考えてみますと、究極的には「株主自身が株主総会を招集する。」しかないと思います。
ただ、個々の株主がバラバラに株主総会を招集することにしますと、やはり事務手続き上の間違いが生じやすくなりますので、
「株主総会を招集する権限がある株主」を1人だけ全株主の中から選ぶ必要があると思います。
実はこの点に関しては、2014年12月25日(木)
に似たような論点を書いていますので、該当場所を引用してみます。
2014年12月25日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201412/20141225.html
>委任契約を有効に締結するとなりますと、やはり法律上の人と法律上の人との間で締結する必要があるわけです。
>そうしますと、結局のところ、株主達の中から代表者を1人選び、その株主代表者と業務執行者が委任契約を1対1で締結する、
>という形式を取ることが必要になってくるわけです。
>ではどうやってその株主代表者を選ぶのかと言えば、まさに「株主総会」で選ぶわけです。
2014年12月25日(木)
のコメントでは、明治三十二年商法ではどうであったかについて書いたわけですが、
「誰が株主総会を招集するべきか」という点についても、
明治三十二年商法では「株主代表者が株主総会を招集する。」と定められていたのではないかと思います。
株主代表者は、間違いなく全株主を株主総会に招集する責任を、全株主に対して負っていたわけです。
現代の株式会社制度では、株式会社はある意味独立した法律上の人として法概念上捉えられており、
会社の運営主体が会社そのもの(代表取締役)になっている側面が極めて強く、
商取引も納税も株式事務も株式会社内で完結してしまっている(と法制度上考える)部分が極めて多いわけです。
しかし、明治三十二年商法における株式会社制度では、むしろ正反対に、
株式会社で行う商行為は自然人が行うべき商行為の代理に過ぎない、という側面が極めて強かったわけです。
商取引こそ受任者である業務執行者が株主の代理として行うものの、例えば納税は株式会社は一切行わず、
株式会社が獲得した利益はそのまま全て株主に分配され、株主が所得税という形で納税していたわけです。
株式会社というのは当時、純粋に事業の器に過ぎなかったのです。
株式会社の利益は株式を通じてそのまま全額が株主に帰属する関係になるという点からも分かるように、
当時の株式会社制度では、株式事務・株式の管理は株主が行なうことだ、という考えになるわけです。
現代の株式会社制度では会社が支払う配当金と株式とは関係が薄い、などということは決してないのですが、
当時の株式会社制度では、会社の利益と配当金とがイコールである(株式が直接的に株主の利益を表象している)がゆえに、
相対的に株式会社そのものの存在・法的位置付けは希薄であったのは間違いないわけです。
以上の議論を踏まえますと、1つの会社運営のあるべき姿としては、「株主代表者が株主総会を招集する。」という形であると思います。
概念的に言えば、「株主総会は株主が招集する。」が理論上の答えだと思います。
しかし同時に、明治期の株式会社制度と現代の株式会社制度との大きな差異を鑑みますと、現代の株式会社制度では、
株主総会の招集は、株主ではなく、会社(代表取締役)が行なうことにも一定の理があるように思います。
会社が獲得した利益は、配当金を支払う前に、既に会社自身が法人税を負担するという形で、ある意味会社自身の利益としているわけです。
もちろん、会社自身が法人税を負担する場合であっても、明治期のように株主総会は株主が招集する、
ということでも何ら問題はないとは思います。
ただ、法理の話とは異なりますが、概念的な話になりますが、明治期に比べ株式会社が大規模化しそして株主の数が著しく増加してきた、
というようなことなども踏まえ、さらには会社の運営や納税や業務等は会社自身内で完結してしまっている側面もあることを踏まえますと、
株主総会の招集の手続きは、日々実際に会社で業務を行っている者が行った方がよい、という考えも一理あろうかと思いますので、
現代の株式会社制度では、株主総会の招集の手続きは例えば代表取締役に一本化する、というのも1つの妥協点なのではないかと思います。
ただその場合、まさにこのたびの日本ギア工業株式会社のように、株主総会の招集請求に会社が応じないという場面が起こり得ますので、
法制度(法の考え方・法律の定め)としては不恰好になりますが、その場合は裁判所が法律上の強制力を持って株主総会開催の命令を出す、
というような対抗措置を商法制(会社法制)が備える必要があるのだろうと思います。