2014年9月24日(水)
【コメント】
こちらのサイトによりますと、ヒューマンスポーツエンタテイメント株式会社と株式会社大朝アドは共に
ヒューマンホールディングス株式会社という持株会社の完全子会社のようです。
持株会社傘下の完全子会社同士の合併、ということになります。
会社概要
ヒューマンホールディングス株式会社 (Human Holdings
Co.,Ltd.)
ttp://www.athuman.com/profile/gaiyo.asp
こちらの「沿革」によりますと、ヒューマンホールディングス株式会社は2002年8月に株式移転により設立された会社のようです。
グループ沿革
ttp://www.athuman.com/profile/enkaku.asp
>2002年8月 ザ・ヒューマン株式会社、ヒューマン・タッチ株式会社は、共同株式移転により、ヒューマンホールディングス株式会社を設立
はっきりとは書かれていませんが、「沿革」の記述から判断するに、
株式移転前は、ザ・ヒューマン株式会社が完全親会社、ヒューマン・タッチ株式会社が完全子会社、という関係にあったようです。
完全親会社と完全子会社2社が株式移転を実施し、共同持株会社を設立した(2社が親子会社から兄弟会社の関係に変わった)、
という事例になります。
図に描くとこうなります。
「株式移転前後」
An already-incorporated stock company is able to acquire stocks.
A
stock company to be incorporated exactly at the same time of acquisition of
stocks in question is not able to acquire them.
既に設立済みの株式会社が株式を取得できるのです。
株式の取得とまさに同時に設立されることとなる株式会社は株式を取得できないのです。
株式移転の問題点、それはまさに、そのような法律行為は行えない、ということなのです。
会社法上の定義を見てみましょう。
会社法
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(中略)
三十二
株式移転 一又は二以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいう。
会社法の第七百七十二条から第七百七十四条に、株式移転計画の作成や株式移転の効力の発生等について書かれていますが、
一番肝心な「株式移転の行い方」については一切定められていません。
会社法上の「株式移転」の定義は、
「一又は二以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいう。」
これだけです。
一体どうやって、株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させるのでしょうか。
「意味は分かるが実際には実施できない」という会社法上の法律行為には、他に一部の会社分割があります。
会社法上定義される会社分割の中で、新設分割は全て実施できません。
そして、会社法上定義される会社分割の中で、人的分割は全て実施できません。
会社法上定義される会社分割の中で実際に実施できるのは、物的分割型の吸収分割だけとなります。
特に人的分割は実施できないという点については、2014年9月11日(木)に少し書きました。
2014年9月11日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201409/20140911.html
結論だけ言えば、人的分割というのはイメージとしては確かに頭に浮かびますし行いたいことの意味は分かるのですが、
「事業の譲渡を行いその対価を支払っている当事者」の間の取引というものをつぶさに見ていくと、
率直に言えば、人的分割では「事業の譲受人は取引とは全く関係がない者に対価を支払っている」ということになるわけです。
ですので、人的分割はあくまで概念的なものに過ぎず、法律行為としては実際には実施できないのです。
理由は全く異なるのですが、新設分割も実施できません。
その理由は以下の通りです。
An already-incorporated stock company is able to acquire some assets and
some debts.
A stock company to be incorporated exactly at the same time of
acquisition of assets and debts in question
is not able to acquire them.
既に設立済みの株式会社が資産や負債を取得できるのです。
資産や負債の取得とまさに同時に設立されることとなる株式会社は資産や負債を取得できないのです。
株式であれ資産であれ負債であれ、「取得」という法律行為を行うためには、株式会社は既に設立されていなければならない、
ということになるわけです。
会社設立は取得と同時ではだめなのです。
設立されている会社のみが法律行為を行えるのです。
会社設立直後にそれらの株式や資産や負債を取得する計画は間違いなく確定していることだ(それらの取得の実施は絶対確実である)、
だから、全く同じことではないか、という意見は分かりますが、
「設立と同時に取得」もしくは「取得と同時に設立」ということ自体が法概念的にあり得ない(法概念的におかしい)、
ということであるわけです。
法手続きとして「同時」ということはないわけです。
1分でも1秒でもいいのでとにかく先に設立してしまわねば、その会社は法律行為自体を行えないわけです。
逆から言えば、会社は設立という法手続きによってその後有効に法律行為を行えるようになるわけです。
他の言い方をすれば、設立されていない会社が法律行為を行えるわけがない、と言えばいいでしょうか。
もしくは、「法律行為の主体」という観点からも説明できると思います。
会社を「設立する」のは「株主」です。
しかし、株式や資産や負債を「取得する」のは「株式会社」でしょう。
設立と取得が同時にできますか?
できないのだったら、新設分割はできないでしょう。
そして、全く同じ理由により、株式移転もできないでしょう。
また、会計面からも株式移転の問題点は指摘できると思います。
結局のところ、株式移転(そして新設分割にも全く同様の問題点があります)では、
「会社に資本が払い込まれていない(会社には払込資本がない)」
ということなのだと思います。
擬似的・仮想的・拡張的な現物出資という解釈を行い、
資本金に相当する会社財産は会社に拠出されたものと株式移転(や新設分割)では考えているのだとは思いますが、
本来の話をすれば、払込資本とは全て現金のはずであるわけです。
その理由は出資が現金であれば会社に拠出された財産の価額に絶対に間違いがないからです。
現金は誰がどう見ても現金です。
100円を100円ではないと言う人はこの世にいないわけです。
しかし、現金以外の財産の場合はその価額が問題になるわけです。
100円の現物を拠出したと言うが、その現物の価額が間違いなく100円であるという保証はどこにあるのか、という話になるわけです。
現金に保証はいりません。
しかし、現金以外の現物の場合は、保証がいるでしょう。
したがって、主に債権者保護の観点から、会社への出資(会社へ払い込む資本)は「現金のみ」と決まっているわけです。
株式移転や新設分割を敢えて法律上所与のものと考えたとしても、
会計上はどうしても「会社に資本が払い込まれていない(会社には払込資本がない)」という問題がやはりあるわけです。
やや極端なことを言えば、株式に定まった(確定した)価額はない、と言わねばならないのかもしれません。
特に、債権者の立場から見れば、ですが。
株主の立場からすれば、(戦前であれば)資本金の金額であったり、資本の公正な価額を株式の価額と見なすことはできると思います。
しかし、株式会社における債権者の立場から見ると、会社倒産時は会社財産を債権の弁済に充てねばなりませんから、
「万一の際には貸借対照表の各勘定科目は現金化できる(価額であること)」ことが大切であるわけです。
そこで重要なのは、資産の買い手はいるのか、という観点なのです。
株式の場合はどうでしょうか。
突然株式を買いませんかと言われても、債権者が買う人を探すのは非常に難しいでしょう。
債権者の立場から見ると、株式の価額はゼロに見えるわけです。
株式移転では資本金の増加額が問題になるわけですが、そこで重要なのは、「債権者から見た場合の資本金額」であるわけです。
株主の側がこれくらいの金額でいいだろうと言って株式の価額を決め資本金の金額を増加させるのは、
債権者保護を目的とする資本金制度の根本に反することであるわけです。
債権者の立場から見ると、株式の価額はそもそもゼロではないかという言い方もできますし、また、
ゼロではないとしても会計上株式に定まった(厳密な意味で確定した)価額はない、というようなことも言えるでしょう。
確定した価額はないと言うとやや言い過ぎかもしれませんが、その株式の価額は事業継続を前提とした場合の価額であるわけです。
株式移転の実施時点では株式は確かにその価額だったかもしれません。
しかし、その後完全子会社では事業を引き続き継続していくわけですから、株式の価額は変わっていくわけです。
完全親会社は「株式の価額は変わることを前提に株式を取得した」ということになるわけです。
そうすると、完全親会社の資本金額は本当にそれでよかったのか、という話になるような気がするわけです。
次の期には完全子会社株式は異なる価額になっているわけです。
含み益や含み損を抱えることを前提に資産(ここでは株式)を取得する、ということ自体に違和感を覚えます。
完全親会社では全く事業を行わないだけに、つまり、完全親会社の資産は完全子会社株式だけであるだけに、
保有している株式の価額は今後変動しないという意味で極めて確定しているものでなければならないと感じるわけです。