2014年9月1日(月)



2014年9月1日(月)日本経済新聞 公告
合併公告
エレマテック株式会社
株式会社トムキ
公開買付開始公告についてのお知らせ
株式会社くらコーポレーション
(記事)


 



【コメント】
エレマテック株式会社と株式会社トムキの合併については、2014年8月24日(日) にコメントしました。


2014年8月24日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/201408/20140824.html


さて、エレマテック株式会社と株式会社トムキの合併は、完全親子会社間の合併です。
正確に言えば、現状ではエレマテック株式会社と株式会社トムキは完全親子会社の関係にはないのですが、
エレマテック株式会社がトムキ株式の全てを一旦取得するということを行いますから、
合併実施時の資本関係で言えば、この合併は完全親子会社間の合併と言えるでしょう。
それで、完全親子会社間の合併の場合についてですが、この合併は完全親会社(存続会社)の方から見れば簡易合併に該当し、
完全子会社(消滅会社)の方から見れば略式合併に該当しますから、
完全親会社(存続会社)と完全子会社(消滅会社)の双方において、株主総会による承認決議は不要となります。
両社の法律行為としてはあくまで「合併」という1つの法律行為を行うに過ぎないわけですが、
それぞれに株主総会決議を不要とする要件がありまして、その要件を指す用語として簡易合併や略式合併という用語があるわけです。
完全親会社(存続会社)は簡易合併に該当する「合併」を行いますし、
完全子会社(消滅会社)は略式合併に該当する「合併」を行う、という見方になるわけです。
完全親会社(存続会社)が略式合併を行うわけではありませんし、完全子会社(消滅会社)が簡易合併を行うわけではないわけです。
両社が行う法律行為はあくまで同一の「合併」という法律行為のみです。
完全親会社(存続会社)と完全子会社(消滅会社)とでは、株主総会の承認決議を不要とする根拠条文が異なる、と言えばいいでしょうか。

 



気になった点が2つあります。
一つは、このたびの合併には株主総会の承認決議は不要であるという定めがある一方、
一定数以上の株主が合併に反対の意見を持っている場合は株主総会の承認決議が必要である、との定めも同時にある、という点です。
完全子会社(消滅会社)の株主が合併に反対するわけがありませんから、
この場合は完全親会社(存続会社)の株主が合併に反対することがあり得る、ということに配慮しての定めなのだろうと思います。
私は実は今まで完全親子会社間の合併では株主総会決議は一切不要であると理解しておりましたが、
どうやらその理解は間違っていたようです。
しかし、自分が間違えてしまっていた言い訳ではありませんが、
簡易合併の定めと反対株主がいる場合は株主総会の承認決議が必要との定めは、法理的には相矛盾すると思います。
反対株主がどんなにいても株主総会の承認決議は不要だからこそ、簡易合併という手続きが法的に認められている、
ということではないでしょうか。
反対株主がいるかもしれないからその意見に配慮したい、もしくは、株主の意思を問いたい、というのなら、
はじめから株主総会を開催した方が早いわけです。
たとえ一定数反対の株主がいようとも、株主総会で承認決議を取ったならば、
それが株主総意の意思という法的位置付けになり、会社機関(株主総会)が合併を承認し、そして会社は合併を実施できる、
という流れがあるわけです。
しかるに、合併実施による株主への影響は軽微であると判断されることから、簡易合併という法手続きが別途認められているわけです。
合併に対して、ひょっとすると反対株主がいるかもしれない、しかしその反対株主への影響は軽微であると考えられる、
だから、株主の意思は全く問わない簡易合併が認められているわけです。
もしここで反対株主がいることを理由に株主総会による承認決議を義務付けるならば、
簡易合併の定め自体の意味が完全に失われてしまうことになるわけです。
株主の意思は一切問わない、だから、簡易合併なのではないでしょうか。

 



次に、反対株主の株式買取請求についてですが、これも上記の論理立てと全く同じ流れでもって、
簡易合併の場合は反対株主の株式買取請求は認めない、というのが法理上の正しい考え方です。
なぜなら、簡易合併では株主の意思は一切問うていないからです。
株主の意思は一切問わないとは、結局のところ、株主には賛成も反対もない(賛否の意思表示をする権利はない、株主の意思は無関係)、
ということではないでしょうか。
簡易合併という法手続きを認めておきながら、なぜそこで反対株主の意見を聞く必要があるのか、ということになるわけです。
簡易合併の定めと反対株主の株式買取請求の定めは、法理的には相矛盾すると思います。

 


そして、これらの点に関連することですが、簡易合併であろうが株主総会で承認決議を取る場合であろうが、
反対株主の株式買取請求という考え方自体がおかしいわけです。
上の方で全く同じ事を書きましたが、
たとえ一定数反対の株主がいようとも、株主総会で承認決議を取ったならば、
それが株主総意の意思という法的位置付けになり、会社機関(株主総会)が合併を承認し、そして会社は合併を実施できる、
という流れがあるわけです。
合併を承認するのは個々の株主ではなく、あくまで株主総会という会社機関であるわけです。
個々の株主はその株主総会で議決権を行使するだけなのです。
もちろん、議決権の行使が株主総会の決議です。
しかし、会社にあるのは個々の株主の意見ではなく、株主総会なのです。
株主総会決議には(会社はもちろん)株主全員が従わねばならない、という基本概念があるわけです。
株主総会が承認した、それはイコール全株主が承認した、という意味です。
したがって、株主総会で承認決議を取ったならば、概念上はもはや「反対株主など一人もいない」という解釈になるわけです。
「反対株主など一人もいない」という法理上の状態を作り出すために株主総会という会社機関がある、と考えてもよいのではないかと思います。
以上のようなことを考えますと、反対株主の株式買取請求という考え方は根本的におかしく、株式会社の制度に矛盾すると言えるでしょう。
役員の選任についても、「株主総会という会社機関が役員を選任するのだ」という、全く同種の議論があったかと思います。
株主総会という会社機関が役員を選任する、だから、その役員の選任に反対の株主は一人もいないのです。
個々の株主の意思の反映は、株主総会で終わっている(個々の株主の意思は会社には届かない)、と言えばいいでしょうか。
もしくは、株主総会という会社機関により、個々の株主と会社とは切り離されている、と表現すればよいでしょうか。
それとも、個々の株主と会社とを切り離すために、株主総会という会社機関がある、という言い方をしてもよいのかもしれません。
いずれにせよ、個々の株主と会社とは商法レベルでは取引をすることはなく、
商法レベルで会社と取引をするのは株主総会のみである、と株式会社では考えなければなりません。
株主平等の原則を担保するためには、会社と取引ができるのは株主総会のみとすることが重要なのです。
株主平等の原則を担保するためには、少なくとも商法レベルでは、個々の株主と会社との取引は全面的に禁止する他ありません。
民法レベルでは個々の株主と会社とは(一般の取引と同じ取引条件であれば)取引を行ってもよいと思いますが。
合併に反対の株主に株式買取請求権が認められるならば、役員の選任に反対の株主にも株式買取請求権が認められねばならないでしょう。
配当金の支払い額決定に反対の株主にも株式買取請求権が認められねばならないでしょう。
定款変更に反対の株主にも株式買取請求権が認められねばならないでしょう。
最後には、ありとあらゆる株主総会決議について、反対の株主には株式買取請求権が認められねばならない、ということになってしまいます。
しかしそれは株式会社の概念や成り立ちに根本的に反することでしょう。
会社や個々の株主は皆、株主総会における決定に従う、これが株式会社の成り立ちであり基本原理であるわけです。
いかなる場合であろうと、反対株主に株式買取請求権などない、これが株式会社の概念に沿った本来の考え方なのです。