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2014年7月9日(水)



2014年7月9日(水)日本経済新聞
三井物、社債250億円 15年債、需要旺盛で増額
(記事)



 


【コメント】
三井物産株式会社のホームページにはまだ社債発行に関するプレスリリースはありませんでした。
代わりにといっては何ですが、本日社債発行を決定した会社のプレスリリースを紹介しコメントします。


2014年7月9日
アサヒグループホールディングス株式会社
無担保社債(特定社債間限定同順位特約付)の発行について
ttp://www.asahigroup-holdings.com/ir/14pdf/140709.pdf


アサヒグループホールディングス株式会社が、第5回無担保社債(特定社債間限定同順位特約付)(5年債)と、
第6回無担保社債(特定社債間限定同順位特約付)(7年債)の2種類の社債を発行するようです。

まず、特定社債間限定同順位特約付という部分について考えてみましょう。
「特定社債間」とはどういう意味でしょうか。
何となく、同一の種類の社債であれば弁済に順位はない、という意味なのだろうとは分かりますが。
特定社債間限定同順位特約付という意味は、同一の種類の社債であれば弁済に順位はない、という意味なのであれば、
わざわざ書かなくても自動的にそのように取り扱われるかと思います。

 



ただ、ここでいう同一の種類の社債(特定社債)とはどれのことになるのだろうかとは思います。

社債・格付情報(2011年3月29日現在)
ttp://www.asahigroup-holdings.com/ir/stock/grading.html

こちらに書いてありますように、アサヒグループホールディングス株式会社では無担保社債とユーロ円建CBの2種類の社債を発行しています。
無担保社債は全て同順位、そして、ユーロ円建CBも全て同順位、となるのは分かるのですが、
無担保社債とユーロ円建CBも全て同順位なのだろうか、とは思います。
どちらかに特段の条件が付いていない限り、おそらく無担保社債とユーロ円建CBは全て同順位となるのだろうとは思いますが。
もちろん、特段の条件を付けると言っても、
「後に発行する社債に対して、後に発行する社債が先に発行した社債に劣後する」旨条件を付けることができるだけです。
後に発行した社債に対して、後に発行した社債が先に発行した社債に優先する、という条件を付けることはできません。
この点については、2014年7月7日(月) に書きました。


2014年7月7日(月)
http://citizen.nobody.jp/html/201407/20140707.html

>同じ種類の債務であるならば、先に発行した負債は後に発行した負債に劣後しない、という、
>言わば先の債権者が優先であるというような必然的法理がある


先に発行した社債の条件を変えることなどできません。
後に発行した社債に対して、後に発行した社債が先に発行した社債に優先する、という条件を付けることも、
確かに直接的には先に発行した社債の条件を変えてはいませんが、
先に発行した負債は後に発行した負債に劣後しないという自然な法理がある以上、
会社全体を見れば、結局のところ先に発行した社債の条件を変えたことになるでしょう。
先に発行した負債は後に発行した負債に劣後しないという自然な法理のことは、
くだけた表現を使えば、早い者勝ち、という意味だ表現してもよいと思います。

 



次に、このたび発行される社債の条件についてみてみましょう。
どちらの社債にも、

>12. 担保 : 本社債には担保ならびに保証は付されておらず、また本社債のために特に留保されている資産はない。
>13. 財務上の特約 : 担保提供制限条項が付されている。

という条件が付いています。
名前の通り、社債は無担保となっています。
財務上の特約として「担保提供制限条項が付されている」と書かれていますが、
無担保であるとはっきり言っている時点で、担保提供制限条項も何もないのではないでしょうか。
無担保の時点で、わざわざこのような条件は書かなくても、社債権者は当然に担保物権は行使できない、というだけだと思います。
ひょっとすると、社債発行時点では無担保だが、後になって社債権者が社債に担保を提供するように会社に要求してくるかもしれないため、
会社としては社債に担保を付けることはしないと社債権者にはっきりと示すため、
この条件を付けることで社債権者に対し事前に予防線を張っているのかもしれません。
ただ、そう考えたとしても、この条件を付けなければ将来担保を提供する義務のようなものが生じ得るということは一切ないと思います。
むしろ、「今後このような場合は事後的に社債に担保が付く」というような条項は考えられるかもしれません。
現時点ではある理由があって社債に担保が付けられない、しかし、今後の経営状況次第では社債に担保を付けることができるようになる、
その時は社債に担保を付けさせていただきます、それまでは社債に担保を提供することを制限させて下さい、それまでは無担保です、
というような内容の”担保提供制限条項”を付けることはできるとは思います。
このたびのプレスリリースに記載されている担保提供制限条項とは、”制限”の意味が逆になるわけですが。
このたびのプレスリリースではとにかく発行から償還までずっと無担保であることを言いたいだけでしょうから、
財務上の特約として「担保提供制限条項が付されている」とわざわざ記載する必要は全くないと思います。

 



それで、先ほど、”現時点ではある理由があって社債に担保が付けられない”、と書きました。
この点についてなのですが、民法上は、社債に担保が付けられないということはないと思います。
債権の履行を確保するための権利(手段)のことを総称して担保物権と呼ぶのですが、
商取引上よくある社債や借入金等に関して優先的にその償還・返済を受ける権利のことを特に「抵当権」と呼びます。
抵当権を設定していれば、優先的に債権を回収することができるわけです。
この抵当権なのですが、抵当権は複数の被担保債権のために、一つの不動産に複数設定することができます。
ここが重要なのですが、一つの不動産に抵当権を複数設定する場合、「各抵当権の順位は登記をした前後による」と定められています。
抵当権は、設定された順番に、一番抵当権(第一順位の抵当権)、二番抵当権(第二順位の抵当権)・・・などと呼ばれます。
抵当権が実行された場合、まず一番抵当権者が被担保債権の範囲まで配当を受け、
残余があれば二番抵当権者が同様に配当を受けることになります。
ですから、法律上は社債に担保を付けようと思えばできるわけです。
では先ほど書きました「社債に担保が付けられない理由」とは何かと言いますと、
目的物に既に担保が設定されているから(一番抵当権が既にいるから)、という理由になります。
確かに、同じ目的物に対して追加的に抵当権を設定することは民法上できます。
つまり、社債権者には二番抵当権者になってもらう形で社債に担保を付けることは民法上はできるわけです。
しかし、その目的物に既に設定されている抵当権は被担保債権の金額とほぼ同じ金額なのです。
つまり、その目的物に追加的に抵当権を設定しても、抵当権を実行したところで二番抵当権者には残余はほとんどないのです。
それでは抵当権を設定した意味はありませんし、経営上社債に担保が付いているとはとても言えないでしょう。
ですから、先ほど、”現時点ではある理由があって社債に担保が付けられない”、と書いたわけです。

 



では、”今後の経営状況次第では社債に担保を付けることができるようになる”とは何のことかと言えば、
一番抵当権が消滅すれば社債に担保を付けることができるようになる、という意味です。
どうすれば一番抵当権は消滅するのかと言えば、債務者が当初の約束通り一番抵当権の被担保債権を弁済すればよいのです。
担保物権には「付従性」という性質があります。
付従性とは、債権が成立してはじめて担保物権も成立し、債権が消滅すれば担保物権も消滅する、という性質です。
債務者が当初の約束通り一番抵当権の被担保債権を弁済すれば、既存の抵当権は消滅し、新たに社債を被担保債権とすることができます。
つまり、社債権者が新たに一番抵当権者になることができるのです。
二番抵当権では結局残余はなかったのですが、一番抵当権となりますと、十分な額の弁済を優先して受けられるようになります。
二番抵当権のままでは民法上の形だけの担保が社債には付いているに過ぎないわけですが、
一番抵当権が付いた被担保債権となりますと、社債は名実共に(経営上も)担保付の社債となるわけです。
それから、抵当権の設定の解説の前に、債務の弁済順位に関して、

>先に発行した負債は後に発行した負債に劣後しないという自然な法理のことは、
>くだけた表現を使えば、早い者勝ち、という意味だ表現してもよいと思います。

と書きましたが、抵当権の設定も、くだけた表現を使えば、早い者勝ち、と言っていいわけです。
債権者は皆平等だから、抵当権の設定についても順位などなく同じ順位だ、などという考え方はしないわけです。
先に設定した抵当権は後に設定した抵当権に劣後しない、というのは自然な考え方ではないでしょうか。
抵当権の設定や債務の弁済に限らず、商取引全般(ひょっとしたら人間社会全て・世の中も)が早い者勝ちという側面はあると思います。
早い者勝ちでないと、すなわち、後になって条件が変更されることはないということでないと、安心して商取引ができないわけです。
「条件については早い者勝ち」というのは自然な考え方だと思います。

 



「売買は賃貸借を破る」という法格言(法諺)があります。
これはより一般化して言えば、債権の目的となっている物の上に物権が成立した場合、物権は後から成立しても債権に優先する、
という原則を表しています。
これは例えば、ある会社が他の会社からOEM生産を従来から受注しており、今後ともOEM供給を継続していく契約を結んでいるとします。
ところが、その後その工場の土地には抵当権が設定されることになり、残念ながら抵当権が実行されてしまったとします。
つまり、工場の土地の所有権が第三者に移転してしまったとします。
このような場合、新しい所有者は土地を明け渡すことを請求できるわけですが、
この時、OEM生産の発注会社はOEM供給を受ける権利があることを理由に土地の明け渡しを拒否できない、
ということだと思います。
OEM供給を受ける権利は債権でしょう。
しかし、土地の所有権は物権でしょう。
土地の所有権(の移転)は後から成立してもOEM供給を受ける権利に優先する、と言えるでしょう。
私のこの考えが正しいとすると、同じ債権(社債)同士であれば早い者勝ちですし同じ物権(抵当権)同士であれば早い者勝ちなのですが、
債権と物権とでは後から成立しても物権が勝つ(物権が債権に優先する)、ということが言えるのと思います。
「条件については早い者勝ち」という自然な考え方・自然な法理がある一方、
物権については債権とは完全に別格であるという扱いを民法では原則としているようです。
民法の基本原則の一つは所有権絶対の原則と言いますが、所有権は絶対であるというのもまた自然な考え方・自然な法理なのでしょう。

 


最後に、「社債・格付情報」には、

>※吸収分割を行ったアサヒビール株式会社が、平成23年7月1日商号変更を行い、
>純粋持株会社のアサヒグループホールディングス株式会社になったため、第1回からとしております。

と書いてあります。
経営的に考えると、持株会社移行(全事業の新設分割)に伴い、社債も一緒に事業子会社へ譲渡(分割)すると考える方が自然だと思います。
社債にせよ借入金にせよ仕入債務にせよ売上債権にせよ棚卸資産にせよ有形固定資産(工場等)にせよ、
経営上はそれらは直接的に事業に付随しているものですから。
それらは全て、経営的には一体的と言えば一体的だと思います。
純粋持株会社に社債が残っている方がおかしいでしょう。
このことを逆から言えば、なぜアサヒグループホールディングス株式会社は純粋持株会社なのに社債を発行しているのだ、
という話になろうかと思います。
純粋持株会社では事業は行っていないわけですから、資金需要自体がないはずです。
社債を発行するなら、事業子会社が発行すべきでしょう。
と同時に、転換社債のことを考えると、事業子会社が転換社債を発行することはできないでしょう。
なぜなら、持株会社制である以上、事業子会社株式を債権者に割当て交付するわけにはいかないからです。
ひょっとすると、旧アサヒビール株式会社が過去発行した転換社債は事業子会社へは譲渡(分割)していないのかもしれません。
仮に転換社債を譲渡していたとして、転換時どの株式を発行するというのでしょうか。
転換社債の転換に際してアサヒグループホールディングス株式を発行したいなら、
アサヒグループホールディングス株式会社が社債の発行者(債務者)のままでいなければならないでしょう。
仮に転換社債を事業子会社へ譲渡していたとしますと、転換社債の転換の際、
アサヒグループホールディングス株式会社でも事業子会社でも仕訳が切れないことになると思います。
なぜなら、転換社債の転換では、債務者の株式を発行するわけですから。
アサヒグループホールディングス株式会社と事業子会社の各個別貸借対照表を頭に思い浮かべてみると分かると思いますが、
社債の償還(転換)と株式発行とが全くつながらないわけです。
会計的には仕訳の切りようがないとなるでしょうし、法律的には資本の払い込みがないとなるでしょう。
グループ経営とは言いますが、会計的・法律的には会社には単体しかないのかもしれません。