2014年5月28日(水)
【コメント】
繰延税金資産は会計理論上はどのような場面であっても一切計上してはならない(繰延税金資産という考え方自体がおかしい)のですが、
今日は税効果会計を所与のものとしましょう。
また、議論の便宜上、今後十分な益金は計上されるとしましょう。
そもそもの話なのですが、繰延税金資産は何に関して計上するのかと言えば、
「企業会計上の費用と税務会計上の損金との差異」に関して計上するものです。
簡単に言えば、繰延税金資産とは、当期に企業会計上費用計上したが税務会計上は当期にはまだ損金として算入できないという場面において、
その差異(差額)に関して、その費用全額が当期に損金算入されたものと想定し、当期純利益額を調整しようとするものです。
繰延税金資産を計上することによって、その費用全額が当期に損金算入された場合の当期純利益額となるわけです。
本当はその費用は損金算入されていないのですが、「もし損金算入されたとしたらこうだ。」と繰延税金資産は言っているわけです。
繰り返しになりますが、ここで大切なのは、
「繰延税金資産は企業会計上の費用と税務会計上の損金との差異に関して計上する」という点です。
裏を返せば、繰延税金資産は企業会計上の費用と税務会計上の損金との差異ではない事柄(損益等)に関しては計上してはならないわけです。
繰延税金資産に関しては、最近では2014年5月10日(土) に書きました。
2014年5月10日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/201405/20140510.html
この時のコメントでは、繰越欠損金とはそもそも他者から引き継ぐことはできないものである、ということを論証したかと思います。
その点は置いておくとしても、この時のコメントで大切なのは、
「企業会計上の費用と税務会計上の損金との整合性」であるわけです。
時期の違いこそあれ、企業会計上の費用は税務会計上いずれ損金として算入可能である、という整合性があって初めて、
繰延税金資産は計上できるわけです。
このことも逆から言えば、ある企業会計上の費用が税務会計上永久に損金として算入されないならば、
その差異(差額)に関して繰延税金資産は計上できない、ということになるわけです。
これは、企業会計上は何を費用と考え税務会計上は何を損金と考えているか、についての整合性と表現してもよいと思います。
企業会計が考えている費用と税務会計が考えている損金との間に整合性がある場合、繰延税金資産を計上できるわけです。
両者の間に整合性があるとは、両者の間には認識時期の違いしかない、という意味でもあります。
両者の間には認識時期の違いしかない場合、繰延税金資産を計上できるわけです。
>B費用計上し当期は一定額のみ損金算入でき残額は次期以降損金算入可能→一定額を超える部分は一時差異
>Bは、税法の定めを越えた減価償却費(有形固定資産の減損損失など)が当てはまるでしょう。
の場合だけなのです。
この場合以外の場合は、繰延税金資産を計上できないわけです。
なぜなら、この場合以外の場合は、
@→そもそも差異がない。
A→「企業会計上の費用と税務会計上の損金との差異」が永久である
(結局この場合も企業会計が考えている費用と税務会計が考えている損金との間に整合性がない、と表現してもよいと思います。)。
C→根本的に企業会計が考えている費用と税務会計が考えている損金との間に整合性がない
(ですから2014年5月10日(土)
では「差異ですらない」と表現しました。まあ差異と言えば確かに一種の永久差異でしょうが)。
となるからです。
以上のことをさらに踏まえますと、
「繰延税金資産を計上できる場面というのはどの企業にとってもそもそも非常に少ないのではないか。」
という考えに思い至るわけです。
簡単に言えば、「一体どういう理由でそんなに企業会計上の費用と税務会計上の損金との間に一時差異が発生したのだろうか?」
と疑問に思うわけです。
特に2014年5月10日(土)の「C」の場合はそもそも差異ですらないわけで、繰延税資金資産は計上できないわけです。
典型的な例を挙げれば、投資有価証券評価損はこの文脈で言う差異ではありませんから、繰延税資金資産は計上できないわけです。
投資有価証券評価損が次期以降損金算入できるでしょうか。
例えば有形固定資産減損損失なら次期以降損金算入されていきますが。
記事の表を見ますと、当期純利益額の多くが繰延税金資産となっている企業もあるようですが、それらの企業に対し、
「企業会計上の費用と税務会計上の損金との間に生じた一時差異」の具体的中身を聞いてみたいと思います。
企業会計基準と税法の規定を鑑みれば、そもそもそんなに一時差異の発生原因自体がないはずなのですが。
銀行業であれば、貸倒引当金繰入(貸出金減損損失)を巨額に計上した場合は、税法上当期の損金算入額に限りがあるということですと、
理論上は繰延税金資産を計上することがあり得る(次期以降順次損金算入されていくということでしょうから)とは思いますが。
銀行の貸借対照表は、一般の事業会社でいうところの”有形固定資産”の固まりと言っていいでしょう。
銀行の貸借対照表は流動性配列法には従っていない業界特有の記載方法なのですが、
事の本質をとらえれば、貸出金勘定=有形固定資産勘定、と見なすことができるでしょう。
ただ、貸出金勘定自体は減価償却手続きは行いません。
その点は注意が必要です。
ここで言いたいのは、経営上は「貸出金勘定=有形固定資産勘定」と見なすことができるということの他に、
貸倒引当金繰入(貸出金減損損失)の税法上の超過額が次期以降損金算入されていく様子が、
有形固定資産減損損失が次期以降損金算入されていく様子とそっくりである、ということを言いたいわけです。
それで、記事の内容に戻りますと、一般の事業会社でそこまで企業会計上の費用と税務会計上の損金との間に巨額の一時差異が発生した
となりますと、有形固定資産の減損損失くらいしか思い浮かびません。
ただ、そこまで巨額の有形固定資産減損損失を計上したのなら、繰延税金資産を計上したとしても赤字になるはずなのです。
繰延税金資産の計上には赤字額を減らす効果はあると思いますが、赤字を黒字にする効果はないわけです。
少なくとも、もともと黒字なのだが繰延税金資産の計上により当期純利益がさらに増加するということはないのではないかと思います。
費用を先に計上した上で、調整を図っているわけです。
黒字ということはないでしょう。
ただ、他の事業(他の損益)で十分な利益を計上している場合ですと、最終的な当期純利益はどちらにせよ黒字ということはあるとは思います。
そのような場合は確かに、トータルではもともと黒字なのだが繰延税金資産の計上により当期純利益がさらに増加するということになるわけですが、
他の事業を度外視し、有形固定資産減損損失計上に関してのみの話をすれば、費用計上が先に来るわけですから、
有形固定資産減損損失のみの計上による損失額よりも、有形固定資産減損損失に加え繰延税金資産を計上したことによる損失額の方が小さい、
ということだけは確かでしょう。
その意味において、当期純利益が増加することはない(赤字額が減少するだけだ)、と言いたいわけです。
一般に、繰延税金資産には当期純利益をかさ上げする効果があると言われるわけですが、
正確には、最終赤字額を減少させる効果がある(相対的には結局当期純利益をかさ上げしているわけですが)
と言わないといけないのかもしれません。
それから、記事には、繰延税金資産を当期に積み増した企業があると書いてありますが、
少なくとも「企業会計上の費用と税務会計上の損金との間の一時差異」が後になって増加する(発生する)ということはありません。
「企業会計上の費用と税務会計上の損金との間の一時差異」は企業会計上の費用を計上した時点で確定していると言わねばならないでしょう。
ただ、繰延税金資産の計上要件として将来十分な益金があることが必要ですので、
一時差異自体は増加していないが将来の益金が増加する(損金算入可能額が増加する)見込みとなったので、
結果として、当初よりもさらに多くの繰延税金資産を当期に計上できるようになった、ということはあり得るとは思います。
今後業績の改善が十分に見込めるようになった場合ですと、当期に繰延税金資産を積み増す(場面によっては再計上ということも)
ということは理論上はあり得るでしょう(一時差異自体は増減していませんが)。