2014年2月17日(月)



2014年2月17日(月)日本経済新聞 公告
合併公告
むさし野紙業株式会社
株式会社コスモリサイクルセンター
(記事)





2014年1月22日
国際紙パルプ商事株式会社
連結子会社間の合併に関するお知らせ
ttp://www.kppc.co.jp/news/2014/pdf/20140122.pdf

 



【コメント】
国際紙パルプ商事株式会社が所有しているコスモリサイクルセンター株式の帳簿価額は資本金額と同じ40,000千円であると仮定します。
また、合併に際して増加させる払込資本は資本準備金勘定であるとします。
この事例の場合、合併に関する仕訳は次のようになると思います。


合併期日(効力発生日)である2014年4月1日のむさし野紙業株式会社の仕訳

(コスモリサイクルセンター諸資産) 128,981千円 / (コスモリサイクルセンター諸負債) 48,718千円
                                 (資本準備金) 80,263千円


合併期日(効力発生日)である2014年4月1日の国際紙パルプ商事株式会社の仕訳

(むさし野紙業株式) 40,000千円 / (コスモリサイクルセンター株式) 40,000千円

 

プレスリリースには、

>(3)合併に係る割り当ての内容
>本合併は当社の完全子会社間の合併のため、新株式の発行及び合併対価の交付はありません。

と書いてありますが、これは間違いだと思います。
存続会社が承継する消滅会社の資産の価額よりも負債の価額の方が小さいわけですから、
合併に際し、存続会社は新株式を発行し、消滅会社株主に対し合併の対価(=存続会社株式)を支払います。
”新株式の発行及び合併対価の交付がないこと”は完全子会社間の合併とは何ら関係がないと思います。

 



それから、この点に関する「企業結合に関する会計基準」を読んでいて、間違いではないかと思う箇所がありました。
下にキャプチャーした部分になります。
会計基準の定めそのものは基本的には正しいと思うのですが、脚注が間違っているように思いました。


企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(改正平成20 年12 月26 日)

共通支配下の取引等の会計処理
共通支配下の取引
個別財務諸表上の会計処理
「第41項〜第43項」



(注10)は間違いです。
ここで言う”差額”は、親会社の損益とはせずに、親会社にとって含み損益とする、という考え方になります。
また第43項について追加します。
第43項の考え方で正しい場合もある(会社分割等)のですが、合併の場合は”包括的承継”なので、出資額が継続します。
したがって、合併の場合は、移転された資産及び負債の対価として交付された株式の取得原価は、
当該資産及び負債の適正な帳簿価額に基づいて算定するのではなく、合併前から所有していた消滅会社株式の帳簿価額に基づく、
と考えなければならないと思います。
上で私が書きました仕訳でも、国際紙パルプ商事株式会社は、コスモリサイクルセンター株式の帳簿価額を引き継いでいることになります。
仮に(注10)に従うなら、国際紙パルプ商事株式会社の(間違った)仕訳はこう↓なります。

(むさし野紙業株式) 80,263千円 / (コスモリサイクルセンター株式) 40,000千円
                             (交換損益) 40,263千円

 



ここからが本題なのですが、この事例の場合は完全子会社間の合併ということで、
合併に際しむさし野紙業株式会社が発行する新株式の発行価額は(結果として)問題になりません。
つまり、合併に際し、むさし野紙業株式会社は発行価額80,263千円で1株だけ発行することになります。
合併後、国際紙パルプ商事株式会社が所有するむさし野紙業株式の株式数は合計601株(600株+1株)となります。
もちろん、この場合はむさし野紙業株式会社が発行する新株式の1株当たりの発行価額はいくらでもよいわけですから、
逆に言えば、発行する新株式数もいくらでもよいわけです。
2株でも3株でも5株でも10株でも100株でもいくらでも構いません。
要するに、「株式発行総額が80,263千円」になりさえすれば、発行価額と発行株式数はいくらでもよいのです。
この場合は1株当たりの発行価額に端数が生じても構いません。
ただ、発行株式数に端株が生じてはいけません。
なぜなら、端株を発行することはできないからです。

ただ、以上の議論は、「完全子会社同士の合併」であるからこそ言えることです。
つまり、「存続会社の株主と消滅会社の株主が一人のみでありなおかつ同一人物」(最初から最後まで株主は一人のみ)
であるからこそ言えることです。
存続会社もしくは消滅会社に他に一人でも株主がいる場合は、途端に存続会社が発行する新株式の発行価額が問題になります。
なぜなら、株主間の平等性を担保しなければならないからです。
存続会社が発行する新株式の1株当たりの発行価額は存続会社の簿価に基づかねばなりません。
すると必然的に発行する株式数も決まってくるわけです。
そして、消滅会社株主が複数いる場合ですと、全株主毎に端数が生じない価額で株式を割当て交付しなければなりません。
もちろん、株主に端株を渡すこともできません。

 



するとこの事例の場合以下のようになります。
コスモリサイクルセンター株式会社の発行済株式総数は600株ですが、株主の数は数十人であり、
各株主の所有株式は完全にバラバラだとします(1株所有株主もいれば3株所有株主もいれば5株所有株主もいれば・・・という状況)。
まず、合併比率を求めなければなりません。
「株主の数や株式の分布状況によらず、消滅会社株式1株当たり存続会社株式を何株割当て交付するのか」、を決めなければ、
存続会社・消滅会社両方の株主にとって平等な割当て交付とはなりません。

存続会社の1株当たりの株主資本額は、80,263千円÷600=50,738.333...円となります。
プレスリリース記載の数値50,738円は、ここで数値を便宜上一旦丸めているわけです。
よって、1株当たりの株主資本額は50,738円を使います。
同様に、消滅会社の1株当たりの株主資本額は100,330円を使います。
すると合併比率は、100,330円÷50,738円=1.97741337853...
つまり、合併比率は「消滅会社株式1株に存続会社株式を1.97741株割当て交付する」となります。
言うまでもないことですが、数値はできる限り最後まで丸めない方がよい(より厳密に正しい数値に近くなる)のです。
しかし、計算の便宜上、一旦途中で丸めているわけです。

 



そしてむさし野紙業株式会社の仕訳は、この合併比率を用いて、消滅会社の全株主毎に(株主一人一人毎に)、
承継した資産と負債の差額(=80,263千円)を処理していかねばなりません。
例えば消滅会社の株主Aさんは、1株のみ所有していたとします。
すると、むさし野紙業株式会社は、Aさんに対し、「むさし野紙業株式1株と現金49,592円」を支払わねばなりません。
なぜなら、端株は渡せないからです。
端株部分は現金での決済になります。
次に、消滅会社の株主Bさんは、2株所有していたとします。
すると、むさし野紙業株式会社は、Bさんに対し、「むさし野紙業株式3株と現金48,446円」を支払わねばなりません。
なぜなら、端株は渡せないからです。
端株部分は現金での決済になります。
次に、消滅会社の株主Cさんは、3株所有していたとします。
すると、むさし野紙業株式会社は、Cさんに対し、「むさし野紙業株式5株と現金47,300円」を支払わねばなりません。
なぜなら、端株は渡せないからです。
端株部分は現金での決済になります。
・・・というふうに、全消滅会社株主分、承継した資産と負債の差額(=80,263千円)の処理を前もって計算しておかねばなりません。
端株部分が株主をまたいで整数となってしまいますから、一度には(前もって計算しておかないと)仕訳は切れないのです。
この処理(前もって全株主分計算すること)は上場会社であれば証券会社が行ってくれる(株式事務は代行してくれる)と思います。
しかし、非上場企業の場合は、存続会社自身が行う必要があります。

 



Aさん、Bさん、Cさんのみについて、この部分のみの仕訳を書くと(貸方の一部のみですが)、

(資本準備金) 456,642円   ・・・50,738円/株×9株
(現金預金)  145,338円   ・・・49,592円+48,446円+47,300円

となります。
合併の対価が「存続会社株式のみの場合」であっても、合併比率や各株主の所有株式数次第では、現金支出額も比較的多額になります。
「完全子会社間の合併」が極めて稀な合併比率を計算してなくてよい唯一のケースというだけです。
一番スタンダードな考え方は以上のようになります。
「完全子会社間の合併」の場合以外は全て、合併比率の計算から始める必要があるわけです。
したがって、「完全子会社間の合併」ではないとしますと、合併期日(効力発生日)である2014年4月1日のむさし野紙業株式会社の仕訳は、

(コスモリサイクルセンター諸資産) 128,981千円 / (コスモリサイクルセンター諸負債) 48,718千円
                                        (資本準備金) 80,263千円−a円
                                        (現金預金) a円

となるわけです。
a円が全株主分の端数相当の金額の合計額になります。

 

今日の議論と本質部分は同じ議論を行ったのが2014年1月1日(水) のコメントになります。
2014年1月1日(水) は株式交換に関してでしたが、一度に仕訳を切ることはできず、
「全株主分、下準備として金額を前もって計算しておかねばならない」、という点では本質部分は全く同じです。

2014年1月1日(水)
http://citizen.nobody.jp/html/201401/20140101.html

2014年1月1日(水) に対する追加のコメントとして2014年1月2日(木)にも同じ趣旨のことを書きましたが、
ここで本質的に重要なのは、「全株主一人一人に対し株式の割当て交付と現金の支払いを行わなくてはならない」という点なのです。
そしてそれら一つ一つをまとめた形で仕訳を切ることになるのです。