2013年11月22日(金)



今日は昨日の「現物配当」に関するコメントについて一言だけ追記します。


2013年11月21日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201311/20131121.html


まず、配当財産の時価と帳簿価額が異なる場合は現物配当充当差損益(私の造語ですが)を計上しなければならないという点について、

>当該損益の税法上の定め(益金・損金算入可能かどうか)については分かりませんが。

と書きました。
実はまだ税法上の定めは調べていないのですが、
ここでは理論上は「税法はどのような定めになっていなければならないか」について考えましょう。
理論上は当該損益は「益金算入可能、損金算入可能」でなければなりません。
「時価と帳簿価額の差額」がある場合は「配当財産の価額を時価にしている」と聞きますと、
それは会計上の期末日などに行う単なる評価替えに過ぎない(評価損益を計上するだけ)のではないかと感じられますから、
むしろ益金算入可能や損金算入可能はできない方が税法の趣旨に合うのではないか、と思われるかもしれません。
しかし、これは会計上の期末日などに行う単なる評価替えではなく、「配当支払いによる社外流出とセットの評価替え」なのです。
その日に配当を支払わんがための評価替えなのです。
その配当財産は文字通り評価替えと同時に社外流出します。
繰越利益剰余金を一旦「未払配当金」勘定に振り替えることを考えれば、これは会社にとってこれはまさに負債の決済です。
社外流出が確定した上での評価替えです。
翌期首日に振り替え仕訳を切る評価替えとは本質的に異なるのです。
ですから、理論上は当該損益は「益金算入可能、損金算入可能」でなければならないわけです。

 


他の説明方法としては、当該配当に際し、まずは現物を時価で売却しその売却代金をそのまま現金配当する、と考えてもいいでしょう。
昨日書いた仕訳を「現物を時価で売却しその売却代金をそのまま現金配当する」場合に修正してみますと、以下のような仕訳になります。


@´120円の場合(仕訳甲´)

(現金) 120円       / (K社株式) 100円
                   (K社株式売却益) 20円
(繰越利益剰余金) 120円  (現金) 120円


A´80円の場合(仕訳乙´)


(現金) 80円        / (K社株式) 100円
(K社株式売却損) 20円
(繰越利益剰余金) 80円   (現金) 80円


昨日の仕訳と見比べてみると、現物配当充当差益と株式売却益が、現物配当充当差損と株式売却損が見事に一致していることが分かるでしょう。
株式売却益や株式売却損は、益金算入可能であり損金算入可能です。
したがって、経済実態としては全く同じである現物配当充当差損益も、「益金算入可能、損金算入可能」でなければならないわけです。

 



次に、昨日は理解のヒントとするために、以下の仕訳を書きました。


B配当の効力発生日におけるK社株式の時価がいくらであるにも関わらず(仕訳丙)

(繰越利益剰余金) 100円 / (K社株式) 100円


時価=帳簿価額ではない場合はこの仕訳は間違いであるわけですが、
例えばこの仕訳の場合ですと、現物配当に際して、繰越利益剰余金は100円減少しているわけです。
では、時価=帳簿価額でない場合は、当該現物配当に際して、繰越利益剰余金はいくら減少するのでしょうか。
昨日の仕訳甲や仕訳乙、そして今日の仕訳甲´や仕訳乙´を見れば分かるように、
配当財産の時価が120円の場合は120円、配当財産の時価が80円の場合は80円、繰越利益剰余金は減少するわけです。
要するに、配当の効力発生日におけるK社株式の時価がいくらであるにも関わらず、
配当財産の時価と同じ額だけ繰越利益剰余金は減少するわけです。
これは株主が「どれだけの価値を持っているものを配当して受け取ったのか」を考えれば、ある意味当たり前かもしれませんし、
また、昨日議論しましたように、配当財産の時価と同じ額だけ繰越利益剰余金は減少させることが債権者の利益保護にもつながるわけです。

 



ところが、であるわけです。
実は取引トータルで見ますと、配当財産の時価と同じ額だけ繰越利益剰余金が減少しているわけではないのです。
それは、現物配当充当差益(株式売却益)や現物配当充当差損(株式売却損)の存在です。
現物配当充当差益(株式売却益)を計上すれば繰越利益剰余金は増加し、
現物配当充当差損(株式売却損)を計上すれば繰越利益剰余金は減少するのです。
それぞれどれだけ繰越利益剰余金が増減するのかと言えば、まさに配当財産の時価と帳簿価額の差額の分、増減するわけです。
上で書きましたように、理論上現物配当充当差損益は損金算入・益金算入可能であるはずなのですが(実際の定めは分かりませんが)、
ここでは話の単純化のために税効果は無視します(簡単に損金算入・益金算入はできないと考えましょう)。
すると、昨日の仕訳甲や仕訳乙を見て欲しいのですが、
配当財産の時価が120円の場合は、繰越利益剰余金は取引トータルで、20円増加し120円減少しますから、トータルで100円の減少、
配当財産の時価が80円の場合は80円、繰越利益剰余金は取引トータルで、20円減少し80円減少しますから、トータルで100円の減少、
となるわけです。
つまり、配当の効力発生日におけるK社株式の時価がいくらであるにも関わらず。
繰越利益剰余金は取引トータルで100円減少することになります。
これは結局のところ、取引トータルでは、配当財産の帳簿価額の分、繰越利益剰余金は減少する、ということになるわけですが。
配当財産に含み益や含み損がある場合は債権者の利益保護の観点上望ましくないため、配当財産の価額を時価に評価替えしているわけですが、
皮肉なことに、その配当財産の価額の評価替えが理由で、繰越利益剰余金の減少額は帳簿価額のまま現物配当を行った場合と同じになるわけです。
これでは債権者の利益保護の観点上はあまり意味がない、というふうに私は感じてしまいました。
実際には、税効果の分債権者の利益保護が働く方向に繰越利益剰余金は減少するでしょうし、
現物配当充当差損益を損益計算書に計上することに意味があると思いますし、
さらには、「実際にいくらの価額の配当を株主に支払ったのか(株主はどれだけの価値を持っているものを配当して受け取ったのか)」を、
株主資本の計算上明確にする(取引トータルではなく配当(社外流出)の部分のみの価額を明確化する)ことには
もちろん意味があると思いますので、配当財産の価額を時価に評価替えすることは意味がないとは決して思いませんが。
配当の効力発生日におけるK社株式の時価がいくらであるにも関わらず
繰越利益剰余金の減少額は帳簿価額のまま現物配当を行った場合と同じになってしまうのは、
損益計算上そして株主資本の計算上ある意味致し方ないことなのでしょう。
私は昨日は特に、債権者の利益保護の観点が極めて重要である、という趣旨で書いたわけですが、
債権者の利益保護の観点から言えば、配当財産の価額を時価に評価替えすることは、
帳簿価額のまま現物配当をした場合と繰越利益剰余金の減少額は同じになってしまう、
という点では効果や意味合いは小さいことになってしまうな、
と思いましたので今日はその点について書いてみました。