2013年5月11日(土)



大韓航空、8月に持ち株会社制へ

 大韓航空(KAL)は4月1日、今年8月に持ち株会社制へ移行すると発表した。
持株会社の「韓進(ハンジン)KALホールディングス」と、航空運送業務を手掛ける「大韓航空」(KAL)の2社体制となる予定。
 持ち株会社制へ移行することで、企業価値や株主価値、経営の透明性を高める。持ち株会社の韓進KALHDは
子会社の管理や新規事業投資を手掛け、事業会社の新KALは独立した経営を行うことが可能となり、経営の効率性と安定性を実現する。
 株主への配当は、現状の持分に比例して分割新設法人の株式を割り当てる「人的分割」方式で行われる。
韓進KALHDとKALは、純資産基準で0.1945968:0.8054032の割合で分割される。
 分割新設会社の韓進KALHDは、投資事業部門を統括。
主に子会社の諸事業の管轄と経営指導、整理、育成、ブランディング、商標権などの知的財産権の管理などを行う。
 分割存続会社の新KALは、事業会社として航空運送や航空宇宙、機内食や機内販売、リムジン事業など、航空事業を手掛けていく。
 韓進KALHDの代表取締役には、石泰壽(ソク・テス)現・韓進代表取締役が就任する予定。
現KALは6月末に分割計画書承認のための臨時株主総会を経て、8月1日までに分割を完了する見込み。
(Aviation Wire 2013年4月2日 09:49 JST)
ttp://www.aviationwire.jp/archives/18356

 

 


2013年4月1日
大韓航空
大韓航空 持株会社体制へ
ttp://www.koreanair.com/local/jp/ld/jpn/au/pr/jpn_au_pr_20130401_2.jsp
 

 



【コメント】
このような記事を見かけたのですが。
エイプリル・フールでしょうか。


まず結論を先に言えば、大韓航空は持株会社体制に既になっている、と言っていいと思います。
なぜなら、大韓航空は韓国のコングロマリット・韓進グループの一事業会社だからです。
The HANJIN Groupがコングロマリットの持株会社であり、大韓航空はそのThe HANJIN Groupの100%子会社という位置付けかと思います。
ですから、既に大韓航空は持株会社体制になっているのです。

The HANJIN Group
ttp://www.hanjin.co.kr/English_html/aboutus/hjgroup.jsp

これ以上は、株式を保有する会社と事業を行う会社とに分けようがないと思いますが。
大韓航空が新設分割を行って、今の大韓航空が純粋持株会社、その下に事業会社である新・大韓航空が100%子会社としてぶら下がる
という形(現・大韓航空が中間持株会社、事業会社の新・大韓航空がThe HANJIN Groupから見ると孫会社)にもできなくはないと思いますが、
それでは何のためThe HANJIN Groupが持株会社制を取っているか全く分からない、という状態になるでしょう。
既に持株会社制と取っているわけですから、わざわざ中間持株会社を作る必要はないわけです。

 

 


大韓航空はこれ以上は根本的に持株会社に移行のしようがありません。
だた、無理やり何か持ち株会社制へ移行するようなことを考えてみるとしても、
記事やプレスリリースを読みますと、持株会社への移行は「人的分割」方式で行われる、と書いてあります。
これは全く意味が分かりません。
意味は全く分かりませんが、この人的分割の会計処理について考えてみましょう。
私は韓国の会社法については分かりませんが、ここでは会社法や商法の厳密な定めや会計処理方法からは少し離れ、
あくまでイメージということで大まかに会計処理を考えてみましょう。

「人的分割」とは、会社分割を行う際、分割する事業の対価となる株式を、
分割会社ではなく、分割会社の株主に割り当てる会社分割のことです。
物的分割であれば、新・大韓航空は現・大韓航空の100%子会社となります。
ところが、人的分割となりますと、新・大韓航空は現株主すなわちThe HANJIN Groupの100%子会社になります。
現・大韓航空はThe HANJIN Groupの100%子会社なのですが、
ここで人的分割を行うと、新・大韓航空も結局The HANJIN Groupの100%子会社となるわけです。

 

 


記事やプレスリリースには、

>韓進KALHDとKALは、純資産基準で0.1945968:0.8054032の割合で分割される。

>韓進KALホールディングスと大韓航空は、純資産基準で0.1945968: 0.8054032の割合で分割されることとなります。

と書いてありますが、これは何か株主の持株比率や議決権割合を表すわけではありません。
「人的分割」とは「物的分割+株式の現物配当」のことなのですが、この細かな数字は純資産のうちどれくらいを配当の原資とするか
を表しているだけなのです。
現・大韓航空を物的分割して新・大韓航空を設立(新・大韓航空株式は現・大韓航空が100%保有)した後、
その新・大韓航空株式を現・大韓航空株主すなわちThe HANJIN Groupへ現物配当を行うわけですが、
現・大韓航空の純資産の0.8054032はこの現物配当により社外流出(減少)してしまい、
現・大韓航空に残る純資産は現在の0.1945968だけになってしまう、ということを表しているわけです。
純粋持株会社移行のための会社分割となりますと、全事業を会社分割することになるわけですから、
会社分割後は純粋持株会社の借方は事業子会社株式のみ、貸方は会社分割前と同額の純資産のみ、という形になり、
事業子会社株式を株主へ現物配当するとなると、純資産の全てが配当原資になるわけですから、
理屈では、現・大韓航空と新・大韓航空は、純資産基準で「0:1」の割合で分割されることとなるはずです。
つまり、現・大韓航空は純資産も資産も負債も何もない状態になるはずです。
このたびの大韓航空の人的分割では、事業子会社株式を現物配当するにも関わらず、純資産の0.1945968は会社に残るようです。
これは中間持株会社移行後の会社の資産の0.1945968は事業子会社株式以外の何かで占められている、という意味になります。
持株会社となりますと、総資産の優に9割以上は事業子会社株式のはずです。
20パーセント弱が事業子会社株式以外となりますと、一体何が残っているのだろう(例えば何らかの企業の株式)か、という気がします。
何が当該持株会社に残っているとしても、この場合、傘下には一社も企業はないわけです。
既に持株会社でも中間持株会社でもないわけです。
率直に言えば、持株会社傘下の事業子会社が持株会社移行を目的に人的分割を行うということ自体が完全に意味不明、ということなのですが。

 

 



大韓航空が物的分割により中間持株会社になった時点のことを無理やり考えてみますと、
大韓航空の借方(資産)の勘定科目の価額(負債は全額分割した、つまり負債は0韓国ウォンとする、つまり単体自己資本利率は100%)は、
「事業子会社株式:それ以外の何らかの企業株式その他の資産=0.8054032:0.1945968」
となっているわけです。
これが純資産の0.8054032は株式の現物配当、の意味です。
ではこの残りの20パーセント弱の「何らかの企業株式その他の資産」は一体何が考えられるかと言いますと、
例えば、資本提携相手企業の株式などが考えられるわけです。
大韓航空はチェコの航空会社と資本提携を行っているようです↓

 

大韓航空、チェコ航空と資本提携、第2位の株主に
(レスポンス 2013年4月22日(月) 09時30分)
ttp://response.jp/article/2013/04/22/196483.html


2013年4月13日
大韓航空
大韓航空 チェコ航空の第二の株主に
ttp://www.koreanair.com/local/jp/ld/jpn/au/pr/jpn_au_pr_20130413.jsp

 

 



会社分割の発表は2013年4月1日でありこのチェコ航空株式取得の発表は2013年4月13日ですから、
2013年4月1日発表時点の「0.1945968:0.8054032の割合」には、このチェコ航空株式の価額分は反映されていないことになると思いますが、
仮に大韓航空がコングロマリットThe HANJIN Group(純粋持株会社)の中間持株会社になるというのなら、
チェコ航空株式は事業子会社ではなく中間持株会社の方が保有するというのは自然なことでしょう。
まあ中間持株会社であればこそ、事業会社大韓航空株式はチェコ航空株式同様、中間持株会社が保有するのが一番自然と言えるわけですが。
 

最初に書いた結論に戻りますが、大韓航空は持株会社体制に既になっているため、
大韓航空はこれ以上は持株会社体制に移行のしようがありません。
さらには、「人的分割」を行うとすら書かれていまして、この記事やプレスリリースは何もかもが意味不明という印象です。
全てがネタなのだろうなとは最初から思っていたのですが、
「人的分割=物的分割+株式の現物配当」の流れを自分なりに整理する上ではよい材料になるなと思いましたので、
「もしこれが本当だとしたら」と仮定してコメントを書いてみました。

 

 


最後になりますが、「大韓航空とチェコ航空の資本提携」を見ていて気付いたことがあります。
それは、「上場企業の資本提携・株式の持ち合いと非上場企業の資本提携・株式の持ち合いとでは株式保有の主体が異なる」という点です。
この点については、2013年5月2日(木)にコメントし以下のように書きました。


2013年5月2日(木)
http://citizen.nobody.jp/html/201305/20130502.html


>今後、上場企業同士の株式の持ち合いのことを「物的相互保有」、
>非上場企業同士の株式の持ち合いのことを「人的相互保有」、と呼ぶことにしましょう。
>どちらも私の造語ですが、商法における「人的」・「物的」の意味が分かれば、この造語・命名が本質を突いていることが分かるでしょう。
>非上場企業の場合は、そのようにしか株式の持ち合いを実現できない、という意味です。


非上場企業である大韓航空とチェコ航空が相互に第三者割当増資を行っても、法的にはともかく経営的には両社の絆の強さを表さないため、
「企業自身ではなくその株主が相手方企業株式を取得する」という形の資本提携・株式の持ち合いになるわけです。
大韓航空とチェコ航空を題材に、非上場企業の資本提携・株式の持ち合いの様子を図に描いてみました↓。
記事等には大韓航空自身がチェコ航空株式を取得したと書かれていますが、大韓航空は持株会社制であることをここでは敢えて反映しました。


「株式の人的相互保有の例」


*企業間の資本提携・株式の持ち合いと言っても、大韓航空とチェコ航空同士(企業同士)がお互いの株式を保有しているわけではありません。
  両者の「株主同士」がお互いの株式を保有しているわけです。
  ここでは一方のみによる株式の取得・保有ですが、持ち合う場合と本質は同じです。
  大韓航空とチェコ航空は共に非上場企業ですから、このような資本提携・株式の持ち合いの形になります。
  これが上場企業における株式の持ち合い (物的相互保有)と非上場企業における株式の持ち合い(人的相互保有)の違いです。

  注:物的相互保有、人的相互保有というのは私の造語です。