2018年11月4日(日)



2018年11月3日(土)日本経済新聞
邦銀、外貨調達難に備え 三井住友 住宅ローン担保の社債 米利上げなどに対応
(記事)






【コメント】
三井住友銀行はそこまで考えていないでしょうが、複数の論じるべき論点があり様々なことを考えさせられる記事だと思いました。
記事を読んでまず最初に思いましたのは、
「カバードボンド」(債権担保付き社債)と呼ばれる債券は理論上は存在しない、ということです。
担保を設定して貸し出した住宅ローン(貸出債権)を裏付けとした社債を発行するとのことですが、
その社債と住宅ローンを貸し出す時に設定した担保とは全く関係がありません。
その担保と関係があるのはあくまで住宅ローンだけであり、その担保と社債とは関係がありません。
担保を設定している以上住宅ローンは100%返済されると言える(少なくとも住宅ローンが貸し倒れることは絶対にない)わけですが、
そのことと銀行が発行する社債が必ず償還されることや社債に担保が付いていることとは関係がありません。
記事で言っている「カバードボンド」には、実は担保は付いていないのです。
「社債には債権が裏付けとなっている」とは言いますが、それはあくまで「キャッシュフロー」(償還の原資はその債権の返済だ)
という意味での裏付けであって、「担保」という意味での裏付けではありません。
万が一社債が債務不履行となっても、社債の保有者は銀行の残余資産にも請求できるというわけではないのです。
シニア債や劣後債という弁済の順位がある債務というのは、会社法上は(すなわち、会社の清算手続きにおいては)ないのです。
結局のところ、債務不履行(清算手続き)の場合を考えますと、シニア債や劣後債という債券は実はないのです。
シニアだ劣後だというのは、債務不履行(清算手続き)の際の弁済順位のことを指しているわけですが、
まさにその弁済順位と呼ばれるものそのものが清算時の会社の債務にはないのです。
シニア債や劣後債という債券は実はありませんし、記事で言っているような「カバードボンド」という債券も実はないのです。
ただ、「担保付の社債」というのはあります。
社債では債権者(抵当権者)が複数になるため、貸出金のように債権者(抵当権者)が1人の場合に比べると話が複雑になりますが、
「担保付の社債」というのは(法制度やそのための仕組みを整備すれば)観念はできるわけです。
いずれにせよ、住宅ローンが必ず返済されることと住宅ローンを裏付けにした社債が償還されることとは実は関係はないのです。
発行元の銀行が破綻した場合、カバードボンドの保有者が住宅ローンに設定されている担保を押さえることは法律上はできないのです。

 


次に、三井住友銀行は、貸出先にユーロ通貨で貸し出しを行う計画がありますので、ユーロ通貨を調達しようとしているわけです。
そのために、ユーロ通貨建ての社債を発行する(引き受け手はユーロ圏の投資家)、と記事では言っているわけです。
この点について、記事には次のように書かれています。

>融資の元手となる外貨は海外での預金だけでは十分に確保できないため、市場などを通じて調達する必要がある。
>米欧の中央銀行が利上げや資産圧縮を進めると市中に出回るドルやユーロが足りなくなり、邦銀の外貨調達は難しくなる。

私が「外貨の調達」と聞いてすぐに頭に思い浮かびましたのは、「外国為替市場」で外貨を調達することでした。
外貨を調達するための場がまさに「外国為替市場」であろうと思います。
三井住友銀行は、「外国為替市場」でユーロ通貨を調達することも当然できるわけです。
しかし、三井住友銀行は、「外国為替市場」でユーロ通貨を調達することはせずに、
ユーロ通貨建ての社債を発行することでユーロ通貨を調達すると言っているわけです。
その理由は何だろうかと私は考えました。
その理由は、「為替レート」だと私は思いました。
日本円で数十万円や数百万円分「外国為替市場」でユーロ通貨を購入しても、為替レートは変動しないでしょうが、
日本円で2000億円もの金額分「外国為替市場」でユーロ通貨を購入しますと、さすがに為替レートは大きく変動します。
当初は1ユーロ=125円でユーロ通貨を購入できますが、その価格で売ってもよいと考える市場参加者が減少するにつれて、
1ユーロ=130円、1ユーロ=135円、1ユーロ=140円・・・、と際限なく為替レートが円安に振れていきます。
目標の10億ユーロ調達するのに日本円で一体いくら必要か全く見当が付かないわけです。
ところが、ユーロ通貨建ての社債を発行する場合は、為替レートが全く関係がないわけです。
つまり、合計10億ユーロの社債を引き受ける投資家が市場にいるのか否かだけの問題になるわけです。
「外国為替市場」でユーロ通貨を購入する場合も、合計10億ユーロ分のユーロ通貨を売ってくれる投資家が市場にいることが
必要ですが、投資家にとって為替レートの影響がないだけ社債を引き受ける投資家の方が多いといえるわけです。
簡単に言えば、日本円通貨を購入してもよいという投資家はユーロ圏にはあまりいませんが、
ユーロ通貨建ての社債を購入してもよいという投資家はユーロ圏にたくさんいるわけです。
ユーロ圏の投資家の立場に立って考えてみても、日本円通貨の購入よりも社債の購入の方が有利なのです。
ユーロ圏の投資家が日本円通貨を購入しても、日本への旅行くらいにしか使い道がありませんが、
ユーロ圏の投資家が社債を購入することは、資産運用や事実上の貯蓄を意味するわけです。
上記の引用文の「市場」という言葉は、記事ではおそらく「社債市場」という意味合いで用いられているのだと思いますが、
私は「外国為替市場」のこともすぐに頭に浮かびました(記事でも「外国為替市場」の意味も含めているのかもしれませんが)。
外国通貨を調達する第一の手段は、「外国為替市場」で外国通貨を購入することなのです。
ただ、このたびの三井住友銀行の事例に触れて、外国通貨を調達する手段としては
「その外国通貨建ての社債を発行すること」があるということに気付かされました。
グローバルの昨今、現地で使用するために「外国通貨建ての社債を発行する事例」は比較的よく目にするわけですが、
国際情勢が不安定な状況下ですと、通貨の両替自体が困難になる場面がある(つまり、「外国為替市場」自体が機能不全に陥る)、
ということにこのたびの三井住友銀行の事例で私は気付かされたわけです。
特に銀行の場合は、外国通貨を貸し出して外国通貨で返済を受けるというビジネスモデルを考えますと、
言わば銀行自身は外国通貨を所有しない(日本円で外国通貨を購入しない)、という状況を作り出すことが有用だと思いました。
銀行が「外国為替市場」で日本円で外国通貨を購入しますと、その外国通貨は銀行所有の外国通貨になりますが、
銀行が「社債市場」で外国通貨建て社債を発行しますと、調達した外国通貨は概念的には
言わば銀行所有ではない外国通貨(言わば借りているだけの外国通貨)という状態になるな、と思いました。

 



In comparison with an exchange of its mother country's currency for a foreign currency
(i.e. the purchase of a foreign currency by its mother country's currency) in the foreign exchange market,
a company can raise a foreign currency at a specific exhange rate
by means of an issue of a corporate bond denominated in the foreign currency.
In terms of an foreign exchange rate, such issue of a corprate bond can be called
"Direct raising" or "out-of-the-market."
In this method, a company in this article can stand aloof from the risk of a foreign exchange rate.
After raising a foreign currency, the foreign currency inside a company is, as it were,
not a company's own currency but just a rental currency.
When a company exchanges its mother country's currency for a foreign currency in the foreign exchange market,
the foreign currency inside a company is a company's own currency.

母国の通貨とある外国通貨とを外国為替市場で両替すること(すなわち、母国の通貨で外国通貨を購入すること)と比較すれば、
その外国通貨建ての社債を発行することにより、会社は外国通貨を一定の為替レートで調達することができます。
外国為替レートの観点から言えば、そのような社債発行は「直接調達」や「市場外」と呼ぶことができます。
この手法では、記事の企業は外国為替レートのリスクを切り離すことができるのです。
外国通貨を調達した後、会社内にあるその外国通貨は、言わば、会社所有の通貨ではなく、通貨を借りたものに過ぎないのです。
会社が母国の通貨とある外国通貨とを外国為替市場で両替すると、
会社内にあるその外国通貨は会社所有の通貨になってしまうのです。

 

The number of participants in the foreign exchange market itself may be larger than that in the corporate bond market.
But, the volume which participants in the foreign exchange market can spend on (i.e. can invest in) the object
is smaller than that in the corporate bond market.
To put it simply, in practice,
it is easier for a person (i.e. an investor) to purchase a corporate bond than a foreign currency.
For, the corporate bond is substantially cash (i.e. his mother country's currency)
and therefore free from the risk of the foreign exchange rate, whereas the foreign currency is literally a foreign currency
and therefore always exposed to the risk of the foreign exchange rate.

外国為替市場の参加者の人数自体は社債市場の参加者の人数よりも多いかもしれません。
しかし、外国為替市場の参加者がその目的物に支出できる(すなわち、投じることができる)金額は、
社債市場の参加者がその目的物に支出できる(すなわち、投じることができる)金額よりも少ないのです。
簡単に言えば、実務上は、人は(すなわち、投資家は)外国通貨よりも社債の方が購入しやすいのです。
というのは、その社債は実質的に現金(すなわち、母国の通貨)であり、したがって外国為替レートのリスクはないのに対し、
その外国通貨は文字通り外国の通貨であり、したがって、常に外国為替レートのリスクにさらされているからです。

 


Please let me explain a "covered bond" in this article a little bit.
The collateral is put in pledege not for a "covered bond" but for a "housing loan" only.
That is to say, if a borrower defaults on a "housing loan," a bank (i.e. a lender) can foreclose on him,
but, if an issuer of a "covered bond" defaults on the "covered bond,"
a holder of the "covered bond" can't foreclose on him.

この記事の「カバードボンド」について少しだけ説明させて下さい。
担保物件は、「カバードボンド」ではなく、「住宅ローン」のみのために抵当に入っているのです。
すなわち、借り手が「住宅ローン」の返済を怠った場合は、
銀行(すなわち、貸し手)はその借り手の抵当物件に担保権を行使することができるのですが、
「カバードボンド」の発行者がその「カバードボンド」について債務不履行を起こした場合は、
「カバードボンドの保有者はその借り手の抵当物件に担保権を行使することができないのです。

 

What if the "housing loan" is repaid before the "covered bond" is repaid?
The collateral is taken out of pledge as soon as the "housing loan" is repaid.
The moment the "housing loan" is repaid to the bank, the collateral is no longer a collateral.

「カバードボンド」が償還される前に「住宅ローン」が返済されたとしたらどうなるでしょうか。
「住宅ローン」が返済されるのと同時に、その担保物件は抵当ではなくなるのです。
「住宅ローン」が銀行に返済されるや否や、その担保物件はもはや担保物件ではなくなるのです。

 

At that time, a holder of the "covered bond" will cry out in anger, "Who moved my cover!"
And, he will say, "Please call me your president. I flew all the way here."
And, he will say, "This covered bond is a trick."
And, he will say, "How will you treat me?"
A president of the bank will reply sink or swim, "It's truly an air security.
How about going home by traveling by water?"

その時、「カバードボンド」の保有者は怒りでこう大声で叫ぶでしょう。
「担保物件はどこへ消えた!」と。
そして、「頭取を出せ。飛行機で来たんだが。」とその保有者は言うことでしょう。
そして、「このカバードボンドはペテンだ。」とその保有者は言うことでしょう。
そして、「どうしてくれるんだ。」とその保有者は言うことでしょう。
銀行の頭取は一か八かこう答えることでしょう。
「これがほんとのエアーセキュリティです。帰りは船旅でどうですか?」と。

 

 



「外国為替市場における両替(通貨の購入)による外貨調達」ではなく、
「現地の投資家を引受先とする外貨建ての債券の発行による外貨調達」という事例について考察を行ったわけですが、
「債券」については次のような記事がありました↓。


2018年11月3日(土)日本経済新聞
債券 値動き安定に強み 株波乱時に分散効果
(記事)



元来的には、社債を市場で取引するという考え方はありませんでした。
その理由は、そもそも社債は市場ではほとんど取引されないからです。
投資家は(社債保有者は)、社債を市場で取引しようとは思わないのです。
社債を引き受ける投資家は、満期日を承知した上で社債を引き受けます。
つまり、理論上は、満期日前に社債を売る動機は投資家にはないわけです。
ただ、それ以上に社債が市場で取引されない理由があります。
その理由とは、「社債の本源的価値は一定不変だから。」です。
大まかに言えば、社債を額面金額以上の金額で買う投資家もいなければ、社債を額面金額以下の金額で売る投資家もいないのです。
すなわち、社債の売買に関する買い注文と売り注文が市場に出されるということ自体が起こり得ないわけです。
社債の売買が行われることが自体が理論上はない、だから、社債には上場という概念がないのです。
元来的には、「社債市場」というのは存在しないのです。
債券が市場で取引されない理由は、債券には満期日があるからではなく、債券の本源的価値は一定不変だからなのです。

 


The reason why a bond is not frequently traded in the market is
not that it has its expiry date in it but that its intrinsic value is invariable.

債券が市場で頻繁には取引されない理由は、債券には満期日があるからではなく、債券の本源的価値は一定不変だからです。