2018年11月2日(金)


分別の利益

共同保証とは,同一の主たる債務について数人が保証債務を負担するものであり,この場合,
各保証人の保証債務額は保証人の数に応じて分割された額となる。これを共同保証人の分別(ぶんべつ)の利益という。
しかし,主たる債務が不可分な場合および各保証人がそれぞれ全額につき
保証債務を負担することを約した場合(これを保証連帯と呼ぶことがある)には,分別の利益はない。
(コトバンク)
ttps://kotobank.jp/word/%E5%88%86%E5%88%A5%E3%81%AE%E5%88%A9%E7%9B%8A-1410295

 


分別(ぶんべつ)の利益

 保証人が複数いる場合、各保証人は、
主たる債務の額を全保証人の頭数で割った額についてのみ保証債務を負うことが原則とされています。
 たとえば、A(債権者)のB(主たる債務者)に対する100万円の債権のために、CとDの2人が保証人になると、
CとDはそれぞれ、主たる債務の額100万円の2分の1である「50万円」の保証債務を負担すればよいことになります。
このことを「分別の利益」といいます。
(宅建 T-Channel 用語集)
ttp://blog.u-can.jp/t-ch/dictionary/2010/04/post_301.html

 


分別の利益とは

「『分別の利益』の解説のキャプチャー」
(宅建通信講座LETOS 宅建試験のポイント)
ttp://www.takken-success.info/b-60.html

>分別の利益とは、保証人の数に応じて負担額が減少する利益のことです。

>連帯保証人の重要な性質として 「分別の利益がない」 ことが挙げられます。

 

 


【コメント】
記事の紹介はしませんが、ある記事を読んでいて「分別の利益」という言葉が目に止まりました。
「分別の利益」という言葉は今日初めて知りました。
調べてみますと、民法第456条に、保証人が複数人いる場合の「分別の利益」について定めた規定であるとのことです。
まず最初に、インターネット上の解説記事を3つ紹介しました。
また、民法の規定は次のようになっています。

第四百二十七条(分割債権及び分割債務)
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、
各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。

第四百五十六条(数人の保証人がある場合)
数人の保証人がある場合には、それらの保証人が各別の行為により債務を負担したときであっても、
第四百二十七条の規定を適用する。

第四百二十七条と第四百五十六条を併せて解釈しますと、次のようになります。

数人の保証人がある場合には、それらの保証人が各別の行為により債務を負担したときであっても、
別段の意思表示がないときは、各保証人はそれぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。

解説記事と民法の規定を読んで、「分別の利益」というものがどういうものか分かったところなのですが、
まずは「分別の利益」を所与のこととしますと、ある興味深い債権債務関係が新たに生じるなと気付きました。
例えば、紹介している宅建通信講座LETOSの宅建試験のポイントの「『分別の利益』の解説」に即して言いますと、
仮に保証人Cが主たる債務者Aに代わり1000万円全額を債権者Bに返済した場合は、
保証人Cは、民法の第四百二十七条と第四百五十六条の規定に基づき(「分別の利益」が発生するため)、
保証人Dに対して500万円を負担するように請求できる(保証人Cには保証人Dに対する「求償権」が発生する)、
ということになるのだと思います。
一般に「求償権」というのは、保証人から主たる債務者に対する権利(代わりに弁済した分を支払え、と)であるわけですが、
「分別の利益」においては、保証人から別の保証人に対する「求償権」が発生することになるなと思いました。
例えば保証人が3人(甲、乙、丙)いて保証人甲が1人で主たる債務者の債務の全額を弁済した場合は、
保証人甲は保証人乙と保証人丙に対してそれぞれの負担額の支払いを請求できる、
という新たな債権債務関係が「分別の利益」に基づき発生する、ということになるわけです。
この際、保証人甲は主たる債務者に対しても求償権を有することから、
結果、保証人は主たる債務者に対しても求償権を行使できますし、保証人乙と保証人丙に対しても求償権を行使できる、
ということになります(保証人甲は、どちらに対しても代わりに弁済した分を自分に支払えと請求できる)。
ここでのポイントは、数人の保証人がある場合には、「分別の利益」に基づき、
主たる債務者の債務を弁済した保証人は他の保証人に対して各自の負担額を自分に支払うよう請求できる(求償権が発生する)、
という点です。
「分別の利益」においては、保証人から別の保証人に対する「求償権」が発生する、ということになります。
主たる債務者の債務を弁済した保証人は、「分別の利益」に基づき、他の保証人に対し各自の負担額を支払うよう請求できるのです。
現実には(実務上は)、主たる債務者は実際に弁済できなかったのですから、結果、他の保証人に請求することになるわけです。

 



以上の議論は、「分別の利益」を所与のこととした場合の議論です。
理論的には、「分別の利益」という考え方はおかしいように思いました。
基本的考え方としては、各保証人と保証人とは分離・独立している、という考え方になるわけです。
主たる債務者に数人の保証人がいても全く問題はありません。
債権者は、主たる債務者が債務を履行しなかった際、どちらの保証人に請求をしてもよいという状態になるだけです。
ここで重要なことは、「主たる債務者と保証人甲との間の保証」と「主たる債務者と保証人乙との間の保証」とは全く関係がない、
ということなのです。
保証人甲の保証額(保証債務の範囲)と保証人乙の保証額(保証債務の範囲)とは、全く関係がありません。
保証人甲の保証額(保証債務の範囲)と保証人乙の保証額(保証債務の範囲)とが異なっていることは全くあり得る事なのです。
主たる債務と保証債務は別々の債務ですが、保証人甲の保証債務と保証人乙の保証債務も別々の債務なのです。
各債務の契約当事者もそれぞれ全て異なります。
契約当事者について簡単にまとめれば次のようになります。

○主たる債務⇒契約当事者は債権者と債務者
○保証人甲の保証債務⇒契約当事者は債権者と保証人甲
○保証人乙の保証債務⇒契約当事者は債権者と保証人乙

理論上(民法理の前提)は、保証人甲と保証人乙は全く関係がないもの、と考えるわけです。
より現実や実務に沿った話をすれば、保証人甲と保証人乙とは知り合いでもなければ会ったこともなければ連絡先も知らない、
という状態であることが前提であるわけです。
保証人甲は、債務者に別の保証人乙がいることすら知らないわけです。
別の言い方をすれば、保証人甲は債務者に関する他の保証債務のことを知らないわけです。
俗っぽい言い方をすれば、保証人甲は自分以外に債務者に保証人がいることを知らないわけです。
どの保証人も、主たる債務者に対する保証人の人数を知らない(自分だけかもしれないし他にも大勢いるかもしれない)わけです。
したがって、現実には・実務上は、主たる債務者の債務を保証人間で分割するということが実際にはできないと言えるわけです。
債権者は主たる債務者の保証人の人数を当然に知っていますし(債権者は保証債務の契約当事者ですから当たり前ですが)、
債務者自身も自分に対する保証人の人数を知っていると言えますが、
保証人は主たる債務者の保証人の人数を当然に知らないのです(各保証債務は分離・独立しているから)。
極端なことを言えば、債務者自身が自分に対する保証人の人数を知らないということも理論上はあり得ます。
債務者ですら知らないある人物が債権者に申し出て自分が債務者の債務の保証人になる、ということは理論上はあり得ます。
保証債務はあくまで債権者と保証人との間の契約ですから、保証債務に債務者自身はある意味関係がないのです。
債務者が負う債務と保証人が負う債務すら分離・独立しているのです。
ですので、理論的には、主たる債務を保証人間で分割するという考え方自体がない、と考えなければならないのです。
ただ、「分別の利益」という考え方は「共同保証」という考え方を前提としているようだ、とも思いました。
民法の条文だけを読みますと、「数人の保証人がある場合=共同保証」というふうには解釈できないと私は思いますが、
民法第四百五十六条はあくまで「共同保証」を前提としているとも解釈できると思いました。
そうであるならば、民法第四百五十六条に「数人で共同で保証をする場合」という文言を書き加えて欲しいと思います。
一般的なことを言えば、1つの債権に複数の保証人がつくことはありますが、それは必ずしも「共同保証」とは限りません。
1つの債権に保証債務の範囲が別々の複数の保証人がつく(保証人同士は全く知り合いでも何でもない間柄に過ぎない)、
ということは現実に全くあり得ることですし、また、民法理もそのことを妨げるものではないわけです。
一般には、複数の保証債務はそれぞれ分離・独立しているもの(それぞれは別々の債務というだけ)、という考え方になります。

 



「分別の利益」について考察を行っていると、民法第四百五十六条はあくまで「共同保証」を前提としているようだ、
というふうに思えてきたわけですが、そうしますと、最初に考察を行いましたように、
「共同保証」では保証人間に「求償権」が発生する、ということになります。
保証における「求償権」を所与のこととしますと、
保証人が自分の負担額を超える金額を弁済した場合、主たる債務者に対する「求償権」は当然に発生しますが、
他の保証人に対する求償権も同時に発生する、と考える方がやはり自然だと思います。
特に「共同保証」では、保証人が主たる債務者の親と親戚というような場面が想定されます。
主たる債務者が債務を履行しなかった場合、「共同保証」という形ではあるものの、
債権者に迷惑をかけてはならない(家の制度を考えれば、子の不祥事は親の不祥事だ、と)と考え、
まずは親が債権者に全額弁済する、ということは現実には全く考えられるわけです。
その際、保証人の1人である親は自由意思で自分の負担額を超える金額を代わりに支払ったのだから、
他の保証人に対する求償権は発生しない、と考えるのは、「共同保証」の考え方にそぐわないように思います。
いずれにせよ、「分別の利益」という考え方は「共同保証」を行う際の考え方だということになります。
また、「共同保証」を行う場合であっても、契約時に各保証人の保証債務の金額を特段に意思表示する(特約を結ぶ)、
ということはできます。
「共同保証」を行う場合は各保証人は必ずそれぞれ等しい割合で保証債務を負わなければならない、
というわけでは全くありません。
「共同保証」を行うというだけなら、実は民法第四百五十六条(数人の保証人がある場合)がなくても、行うことはできます。
むしろ、「共同保証」を行う際は、各保証人の保証債務の範囲を事前に明確に定めるということを実務上行いますので、
民法第四百五十六条(数人の保証人がある場合)の規定は逆に実務上は不要なのではないかと私は思うくらいです。
「共同保証」は行うが各保証人の負担額は不明だ、などという「共同保証」は実務上はまずあり得ないと思います。
仮に、各保証人の負担額は不明確な(各保証人の負担割合について別段の意思表示がない)「共同保証」があるとすれば、
それは保証人全員が主たる債務の全額について保証を行う、という意味に解釈する方がむしろ自然だと私は思います。
「共同保証」においても契約当事者はあくまで債権者と各保証人である、という点から言ってもそうですし、
債務というのは基本的には分割できないものである、という点から言ってもそうです。
保証人同士の関係性は基本的には債権者には関係がない(債務の保証さえしてくればそれでよい、と債権者は考える)わけです。
債権者は「分割された債務の保証」ではなく「単一の(すなわち全額の)債務の保証」を求めると言えます。
「債務の保証」の趣旨に照らせば、債権者の利益を保護することを考えれば(「債務の保証」は債権者のためにあるわけですから)、
「共同保証」においては各保証人の負担割合は主たる債務の全額である、
という考え方が原理原則(原則規定)になると私は思います。

 


ところで、「分別の利益」という考え方(民法第四百五十六条)は一体いつからあるのだろうかと思いました。
私が不勉強でなければ、2003年当時の民法にはこの規定はなかったのではないかと思います。
「分別の利益」という考え方(民法第四百五十六条)は、比較的最近の(ここ10年間前後からの)考え方だと思います。
私は元々法律を専門に学んできたということはないのですが、比較的易しめの本や教科書を読んで学ぶ程度であったわけですが、
それでも長いこと(と言っても15年間ほどですが)法律を学んでいると、
「このような定めは以前はなかった気がするな。」ということに時々気付くようになりました。
そういったことを気付くようになるのもまた法律を学んでよかった点なのだろうと思います。
それから、他の記事を読んでいて、「マンション建替え円滑化法」という法律があることも今日初めて知りました。
法律の正式名称は「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」というようです。


マンション建替え円滑化法の概要(一般社団法人マンション再生協会)
ttp://www.manshon.jp/horei/pdf/enkatsuka/gaiyo.pdf

(ウェブサイト上と同じPDFファイル)



上記の資料によりますと、
当初法は、マンションの建替えの円滑化等に関する法律(平成14年6月19日法律第68号)であり、
「平成14年12月18日」に施行された、とのことです。
しかし、例えば2003年当時、「マンション建替え円滑化法」という法律は施行されていなかったのではないかという気がします。
「マンション建替え円滑化法」という法律は今まで全く聞いたことがないぞ、という程度の認識ではありますが。
「マンション建替え円滑化法」もまた、実際には極めて最近施行されたばかりの法律なのではないかという気がします。
従前は(本当にほんの数年前まで)、区分所有法のみに基づきマンションの建て替えは行われていたのではないかと思います。
「マンション建替組合」を法人とすることができる法律のようですが、本当はいつから施行されているのだろうかと思いました。


改正マンション建替え円滑化法
(東洋経済オンライン)
ttps://toyokeizai.net/articles/-/53861

 


The range of a guaranty or the amount of a guaranty which each guarantor must fulfill
is determined by his own guaranty contract.

各保証人が履行しなければならない保証の範囲すなわち保証の金額は、各々の保証契約によって決まります。