2018年10月13日(土)
2018年3月26日(月)日本経済新聞
リーガルの窓
中小の事業承継 「遺留分」見直し円滑化めざす
(記事)
2018年9月8日(土)日本経済新聞
ゼロから解説
家を配偶者に生前贈与 2000万円まで非課税、老後の生活保障に
(記事)
民法の「遺言書は、相続において民法の法定相続分に優先する。」、という点について考察を行った時のコメント↓。
2017年3月12日(日)
http://citizen.nobody.jp/html/2017/20170312.html
「民法の『遺言書は、相続において民法の法定相続分に優先する。』というの規定と
『遺留分』の規定(『遺留分減殺請求権』の規定)とは矛盾している(両者は実は両立し得ない規定となっている)。」、
という点について考察を行った時のコメント↓。
2017年3月18日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/2017/20170318.html
戦後の元来の民法では「夫が死亡した場合は妻(配偶者)が全財産を相続する(子は一切相続できない)。」という規定であった、
という点について考察を行った時のコメント↓。
2018年9月22日(土)
http://citizen.nobody.jp/html/2018/20180922.html
【コメント】
紹介している2018年3月26日(月)付けの日本経済新聞の記事は、中小企業の事業承継と民法上の相続に関する内容です。
特に民法に規定のある「遺留分」が円滑な事業承継の障害になっているとのことで、記事には次のように書かれています。
>例えば会社経営者がの父が生前贈与や遺言などで後継者の長男に自社株式を集中的に引き継ぎたいとする。
>しかし母や長女ら他の法定相続人に原則として最低限の財産の取り分を認める「遺留分」があるため、
>うまく事業承継が進まないことがある。
>経営者が後継者に自社株式を贈与しても、後で遺留分を侵害されたと主張する他の相続人から返還を求められれば、
>株式が複数の相続人に分散してしまう。
確かに、現行民法上は記事にありますような問題が生じるのだと思いますが、理論的にはその問題は生じません。
なぜならば、理論的には生前贈与や遺贈は遺留分や法定相続に影響を与えないからです。
理論的には、生前贈与や遺贈は遺留分や法定相続とは全く別の(分離・独立した)行為なのです。
2017年3月12日(日)のコメントでは、相続財産の計算式について次のように書きました。
>「相続財産=死亡者(被相続人)が死亡時点で所有していた財産−遺言による財産の処分(死後贈与による死亡者財産の減少額)」
>「相続財産=遺産−遺贈」
法定相続人には、被相続人の遺言内容を取り消すような権利は当然ないわけです。
法定相続人(この文脈では特に遺留分を請求したい相続人)に「その遺贈は認めない。」と主張をする権利は理論上はないわけです。
2017年3月18日(土)のコメントでも書きましたように、現行民法の「遺言書は、相続において民法の法定相続分に優先する。」
というの規定と「遺留分」の規定(「遺留分減殺請求権」の規定)とは矛盾している(両者は実は両立し得ない規定となっている)、
というのが実態だと思います。
2017年3月12日(日)と2017年3月18日(土)のコメントを踏まえて、今日は次のような図を描きましたので理解のヒントにして下さい。
今日の文脈に即して言いますと、自社株式や会社の土地建物や工場が「遺贈による贈与」に該当します。
「相続財産=被相続人の死亡時点の所有財産−遺贈による贈与」
注:遺言の内容次第では被贈与者に法定相続人が含まれる場合もあるが、
@遺贈による贈与とA相続財産の相続とは全く別の(分離・独立した)行為であるので、
遺贈による贈与分は遺留分や法定相続に影響を与えない。
法定相続人は、「相続財産」のみを、すなわち、
被相続人の死亡時点の所有財産から遺贈による贈与を差し引いた財産のみを相続できる。
遺留分も、上記の「相続財産」にしか及ばない。
遺留分は、被相続人の死亡時点の所有財産の全てに及ぶというわけではない。
次に、上記の議論とも関連があるのですが、2018年9月8日(土)付けの日本経済新聞の記事について一言だけ書きたいと思います。
この記事を読む際には、極めて関連があるコメントを書いていますので、2018年9月22日(土)のコメントを参考にして下さい。
2018年9月22日(土)のコメントの本質部分は次の通りです。
>○夫が死亡した場合は妻(配偶者)が全財産を相続する(子は一切相続できない)。
>○その際の相続には相続税は一切かからない(配偶者が相続税を支払うことは一切ない)。
>○妻は夫の財産の取得原価を承継する(その後の相続財産の譲渡を想定してのことであろうが、夫の財産=妻の財産と考える)。
紹介している2018年9月8日(土)付けの日本経済新聞の記事を読んでいて、法律用語の解釈を間違えているなと思いました。
記事には、次のように書かれています。
>夫が遺言や生前の言動などで「持ち戻し免除」の意思表示をしていれば特別受益に含まれず、妻の相続分は減りません。
>ただ多くのケースでは意思表示が明文化されておらず、相続人の間でトラブルの種になるリスクがあります。
>そこで19年7月12日までに施行される改正民法では、婚姻20年以上の夫婦間で贈与した居住用不動産について、
>持ち戻し免除の意思表紙があったと推定することにしました。
>ただし、改正民法で持ち戻し免除が完全に保証されるわけではありません。
>改正民法の持ち戻し免除はあくまで『推定』なので、何らかの反証によって覆ることがある。
>相続トラブルを避けるためには、やはり遺言や手紙で持ち戻し免除の意思表示をしておくべきだ
「推定」という法律用語の解釈を記事では間違えて説明されていると思います。
「推定」という法律用語は、「決める。」という意味です。
「推定」という法律用語は、「そうであると考えられる。」という意味ではなく、「そうであると決める。」という意味です。
「推定」という法律用語は、「論理的に推論することによってあることを決定する。」という意味なのです。
したがって、19年7月12日までに施行される改正民法では、婚姻20年以上の夫婦間で贈与した居住用不動産について、
持ち戻し免除の意思表紙があったという取り扱いを必ず行うことになる、という解釈になります。
法律用語の文脈では、「推定」された内容が何らかの反証によって覆るということは基本的にはありません。
「確たる証拠がないので論理的に推定してそうであると決定する。」というのが法律用語としての「推定」です。
法律用語としての「推定」の、「推」は「推論」の「推」であり、「定」は「決定」の「定」なのです。
「戦後の元来の民法では、被相続人(夫)の遺言内容(遺贈)を相続人(配偶者=妻)は取り消すことができるのか?」
戦後の元来の民法では、被相続人(夫)の財産は配偶者である妻が包括的に相続していたわけですが、
では被相続人(夫)が生前お世話になった人や子などに遺贈を行う旨遺言を残していた場合は、
@配偶者である妻への相続とA遺言内容(遺贈)とどちらが優先されるのだろうか、とふと思ったわけです。
今日も書きましたように、理論的には「遺留分や相続よりも遺贈(遺言内容)が優先される。」という考え方になるわけですが、
戦後の元来の民法の考え方に基づきますと、話が簡単ではないなと思いました。
というのは、被相続人(夫)の財産は配偶者である妻が包括的に相続するということは、
被相続人(夫)の財産は配偶者である妻の財産であるということが前提だと考えられるからです。
他の言い方をすると、被相続人(夫)の財産は配偶者である妻との「共有財産」であるという側面があると考えられるからです。
仮に、被相続人(夫)の財産は配偶者である妻との「共有財産」であるという考え方に重きを置けば、
財産の処分権(共有物の処分行為)を鑑みれば、被相続人(夫)の意思だけでは遺贈は行えない(配偶者である妻の合意が必要だ)、
という結論になるわけです。
一方、仮に、夫の財産を夫婦の共有の財産と見なせるのはあくまで被相続人(夫)の死亡によってであるのだから、
死亡前に遺した被相続人(夫)の意思(遺言)は被相続人(夫)のみの意思だけで執行が可能である(配偶者である妻の合意は不要だ)、
という結論になるわけです。
この問いは、「夫の財産はどこまで夫婦の共有の財産なのか?」という概念的かつ法律的な問いにもつながってくると思います。
個人的には、理論的には被相続人(夫)の意思を鑑みれば、後者の解釈に分があるように思いますが、実生活上のことを鑑みますと、
被相続人(夫)の財産を配偶者である妻が包括的に相続していた理由は夫の死亡後のそして自身の老後の生活保障の側面がある
と言えるわけです(この規定は、妻の余生を考慮して、妻の老後の生活保障という意味合いがあったのではないでしょうか)。
そうしますと、実生活上のことを鑑みますと、前者の解釈に分があるように思います。
実際にはどちらの解釈になるのかは分かりませんが、この点について民法に明文の規定はないような気がします。
An inheritance is
all property which a decedent has owned as at his
death minus property which he is to devise and bequeath to a donee.
相続財産は、被相続人が死亡時点で所有している全ての財産から被贈与者へ遺贈することになっている財産を差し引いた分です。
In the context of law, the word "Suitei" in Japanese (most typically,
"presumption" in English)
means to "determine" something indefinite clearly
by reasoning.
法の文脈においては、日本語の「推定」という言葉(最も典型的には英語では"presumption"になります)は、
論理的に考えることによってある不明確なものをはっきりと「決める」という意味なのです。